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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
それから先のちょっとしたお話
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もう一つの歴史

「おかえり、ミナ。凱旋はどうだったんだ?」

「はい。途中で多少のトラブルがありましたが、問題なく終わったかと。アルフレッド様」

「……は?」

「……え?」


どうにも見覚えのある屋敷の前で、どうにも見覚えのある金髪を前に、もう一人のミナが片膝を付き敬語で話し出す。

その様子を見た、ミナとオレの反応は間抜けなものだった。


「えっと、紹介します。私の元所有者のアルフr」

「リュート!リュートではないか!魔界で行方不明になったと聞いて心配していたのだぞ!!」


ミナの言葉を遮り大げさに両手を開き此方に向かって来たのは、リズの婚約者であるアルフレッド=アギス。

オレの苦手な人物だ。


「えっと、知り合い?」

「リュートとリズが友達。私もだけど」

「リズ様と?……嘘」


アルフレッドがオレの両手を掴みぶんぶんと振り、屋敷の中へと連れ込もうとしているのを傍観したミナ二人が事情を説明している。


ちなみに、魔女の方は、真っ赤なポンチョを目深に被り、その顔は口元しか見えていない。


「リズも心配していたぞ。そうだな……少し寛いで行くと良い。俺、自らがリズを呼んでこよう。ミナ、客人の相手を頼んだぞ」

「あ、はい。わかりました」


ミナが軽くお辞儀をすると、アルフレッドは片手をあげ、そのまま屋敷から遠ざかる。

アルフレッド相手に丁寧な態度をとるミナは見ていて違和感がすごい。隣にいる魔女も、苦虫を噛み潰した様な顔をしている。


「さて、客間……じゃなくて、私の部屋でいっかな?何もないけど」


髪の短いミナは、そのまま屋敷へと入っていく。

そのまま、案内されたのは、アルフレッドの屋敷の中でも奥に位置する使用人たちの部屋の一つ。調度品こそ少ないが落ち着いた雰囲気であり、木造のテーブルと椅子が部屋の真ん中においてあり、そのスペースのほとんどを占領している。

他に目立つものは、細々とした小物が入っている棚が一つと、ベッドくらいだ。


「私は……コーヒーでいいわよね?リュートさんは?」

「コー……ヒー……?」

「知らないか。リュートさんには紅茶を入れますね。適当にベッドに腰掛けてください」


手際よく動く、その姿はオレの知っている魔女のものではなく、よく似ている別人だという事を認識させられてしまう。


「さて、と。それで、聞いていい?なんで、私が、もう一人、此処にいるのか」

「最初に言っておくけど、詳しくは私もわからない。これは実験のつもりだったの」


そう前置いてミナはオレと出会った時からの事を話し出す。

それは、魔女はオレが驚くほど細部までよく覚えていて、魔剣士も真剣にその話を聞き頷く。どうやら、異なる歴史の中にも彼女なりに思うところがあるらしい。


「そして、別の世界を知った私は魔力を次元の外側に伸ばして、この世界を見つけたの。でも、驚いたわよ。まさか、平行世界だなんて」

「……そう、よね。私達の世界があって、この世界がある。なら、他の世界があっても不思議じゃ……ううん、他の世界から来た勇者だっているんだから、当然ある。なんで、気づかなかったんだろう」


ちなみに、オレは二人が何を話しているのか、まったくわかってない。


「それで、今度は、こっちが聞いていい?なんで、アルフレッドなんかに仕えてるの?」

「なんかって……一応、私の恩人……。まぁ、変わり者だし良いんだけどさ。まず、何処で別れたのかは知らないけど、私は奴隷市でリュートさんと出会わず、そのままオークションにかけられたわ。正直、ちょっと絶望してた……けど、偶然、私を勇者だと知ってたアルフレッド様が、オークションに来てた」

「アルフレッドが奴隷市?そんな趣味はないと思ったんだが」

「アルフレッド様が奴隷市に来たのは、それが初めてよ。王都に巣食う闇をなんとかしたい。けど、今、どうにか出来る事ではない。だけど、何もせずにはいられないって、視察に来てたみたい。本当に幸運だったわ。お陰で人並みの暮らしが出来た」


恐らくは、オレとミナの世界のアルフレッドも、同じ時期に奴隷市にいったのだろう。だが、そこにミナは居なかった。既にオレが連れ去っていた。

ケルロンとの戦いが、無傷であったか、重傷であったか。その違いが、世界の命運を変えた。


その後の歴史は、まったく別のものだった。

当初、魔王と思われていた黒き翼の魔人は西の連邦の境界線あたりでの目撃を最後に姿を消したらしい。変わって、魔王と呼ばれたのが、十万の魔獣軍を操る魔王イライザ。

聖殿都市を抜け、王国で魔獣を従え暴れまわっていたイライザは、同じく魔獣を操る能力を持った66番目の勇者との死闘に勝利し、その勢力を揺ぎ無いものとした。

如何な強力な能力を持つ勇者とはいえ、その圧倒的な物量を突破する事は適わず、聖殿都市、王都、そして、連邦と帝国、それぞれの国境から兵を送り、四方を囲み押さえ込むのが、やっとだった。


「そして、魔界にあったのよ。魔人の能力を断ち切る剣が。私とカムイ、ロザリー、エクレアの四人を中心とした精鋭部隊は遂に魔王イライザに一太刀浴びせる事に成功したわ。後は簡単。イライザに操られていた魔獣たちは仲間割れを始めて、各国の軍が包囲殲滅。イライザ自体は、そんなに強い魔人じゃなかったしね」

「魔王イライザ……私たちの世界には居なかったわね。そんな魔人。西の国境で姿を消したのはケーファーかな?どうしてるんだろう、ちょっと心配」

「魔王を仲間にしたって、王道っていうかなんていうか……。それにしても、不死の王、ね。まだ眠ってるのかと思うとゾッとしないわ」

「不死の王を蘇らせた勇者も居たハズだけど、どうしたのかしら?それに、魔人ガルフスは?」

「あ、それはカムイが倒したって」

「……この世界でもカムイに倒されてるのか」


妙な共通点だ。

恐らくはそれぞれに理由があり、歴史が変わっているのだろうが、どこで、どう変わっているのか、さっぱりわからない。


「ねぇ、あの……さ」


話が行き詰まり少しの空白が出来た時に、ミナ……魔剣士が、オレを上目遣いで見る。魔女は、こんな愛らしい仕草は滅多にしない為、非常に貴重なシーンだ。


「二人は、やっぱり……付き合ってるの?」


その言葉にオレと魔女が顔を見合わせる。

さて、どう答えたものか……と悩む暇もなく、魔女は即答した。


「うん、彼氏。羨ましい?私、彼氏いた事なかったもんね」


ふふん。

と、調子付くミナ。ソレをなんともいえない視線で見るのも、またミナ。


「……くれない?この人」

「へ、え?ば、あげるわけないじゃないっ!」

「だよねぇ……」


その返しは魔女にも予想外だったらしく、慌てて否定し、誤魔化す様に飲み物に手をつける。


「……てか、私、そんな軽いつもりなかったんだけど。何、一目惚れ?私とリュートって結ばれる運命?」

「違うわよ。確かに、ちょっと格好いいなって思うけど……ていうか、アンタも思ってるんだろうけど」

「なっ!?」


別の自分に本心を暴露され、頬を赤く染め言葉に詰まる魔女。

心の中で思わずナイスだ!と叫び、テーブルの下で拳を握り締める。


「私が認めた人なら安心だし、何より……初対面じゃないのよ、私とリュートさん。て、言っても……別のリュートさんと、だけど」

「っ、やっぱり、リュートは近しい世界同士、交換するように召還されてたのね。知ってるの?この世界のリュートが、どうなったのか」

「……結局、私はリュートさんに助けて貰ってるのよ。魔人の能力を断ち切る剣を持っていたのは、魔人グランヘルト。通称、剣の魔人」

「グランヘルトは、こっちでも有名だ。ただ、最後の魔王戦争には加わってなく、まだ生きてると思うが。魔界の奥地の西側にある塔に住んでいたハズ」

「そう。その塔で、グランヘルトと私は戦った。そして、辛くも勝利したけど、あの塔はグランヘルトの能力によって出来た塔だったの。つまり、グランヘルトが死んですぐに崩壊が始まった。なんとか、必死に逃げようとしてたんだけど、魔獣に囲まれちゃってさ。大怪我を覚悟で一か八か、走り抜けようとした時に助けてくれたのが、貴方だった」


出会っていた。

例え、歴史が変わろうと、彼女が剣士になろうと、オレとミナは。

まるで、それこそが運命だと言わんばかりに。


「それで、リュートは……この世界のリュートはどうしたの」


魔女が、テーブルに手をつき、必死に食い下がる。

それに対して魔剣士は冷静に、冷たく一言だけ言い放った。


「死んだわ」


魔女の手がギュッと握られる。


此処はオレに任せて、逃げろ!


それが、オレの最後の台詞だったらしい。なんとも、格好つけたものだ。


「リュートさん、ありがとうございます。貴方はいつでも、どこでも私を救ってくれたみたいです。でも、そのせいで、この世界の貴方は……」


その続きが魔剣士の口から語られる事はなかった。


その後、すぐに、リズとアルフレッドが帰ってきて、二人には、オレは暫く旅に出て、もう王都に帰らないかもしれない。と伝え、別れを惜しんだ後に、元の世界に帰る事にした。

別の世界。自分ではない自分。それでも、死んでいるというのは妙な気分だ。


目の前に開く金色の門。


これを潜り、元の世界に帰ったら親しい人や世話になった人にだけでも、無事を知らせたい。そう強く思う異世界旅行だった。


魔女の手を握り、金色の門を通ろう……とした、所で、彼女はハッと何かに気づき足を止め手を強く握り、南の方角の遥か遠くに視線を投げる。


「待って。この世界の分岐がリュートが召還される直前だとしたら、リュートが召還された時点で、歴史が大きく変わってるとは思えない!だったら、リュートが死ぬハズなんて……ない!!」

「……あ」






瓦礫の山の中、一際大きい塔だった物の破片が、不自然に持ち上がる。

凡そ人間とは思えない怪力に下から持ち上げられた瓦礫は、そのまま下に居た人間ごとひっくり帰る。


「光だー!腹減った!死ぬかと思った!」


普段の彼とは思えないくらいのハイテンションだが、数日間、塔の下敷きになり必死に脱出した結果の成功なのだから、それも仕方ないだろう。

事実、彼の死ぬかと思ったという台詞は間違いで、何度も死んでは蘇生していたのだ。


彼は王城にてケルベロスに負わされた怪我が、召還直後に治ったことから、その能力が初代魔王と同じではないかと危険視され、安全が確認されるまで、軟禁状態にあった。

それ以来、勇者として出遅れた彼は、独自に行動しており、偶々訪れた塔にて、女の子を助けたのだ。


「あの女の子、無事だといいけど。あぁ、それよりも本気で腹減った……」


死なない体というのは、なんて便利な事か。青年リュートは、それを噛み締める。


この世界のリュートとミナが再び出会うのは、もう少し先のお話。

という訳で、もうひとつの魔王戦争の歴史です。

元は、リュートが別世界から召還されたなら、世界は分岐していて、違う歴史を辿っていたけれど、そっちの世界のミナも、不幸でないように考えた話でした。


リュートとの再会云々は後付けですがw


パソコンが壊れてしまったので、久しぶりに携帯で打ったけど、疲れた……。


次は数年後、ミナが身体的には不死であるリュートの年齢に追いつき、魔女としても更に磨きが掛かった時の話を書こうかと思います。

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