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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
それから先のちょっとしたお話
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百二十五話 彼が繋がった世界

「リュート、準備は良い?」


旅に出るには余りにも軽装過ぎる格好でミナがそう言う。


「なんか不安しかないんだけど」

「大丈夫よ。すぐに戻ってこれるんだから」


オレの意見は無視とばかりにミナは空間に門を出現させる。彼女曰く、これが異世界に繋がっているらしい。

今回は極近い座標に異世界があったので、そこにとりあえずお試しで繋げてみたようだ。


まぁ、オレが文句を言った所で聞いてくれるハズもない。


「とりあえず、行くか……」

「うんうん。それじゃ、ゲートオープン!」


そうして、オレの初の異世界旅行は始まった。


視界が光に包まれ、体が一瞬だけ軽くなり、そのまま地に足を付ける。幸いにも違和感はなく、少なくとも前の世界と似通った性質は持ってるらしい。


「って、これ王都じゃないか?」

「……うん、王都ね」


一応、旅立つ前に人が多い所に行けるように調整してみる。とは言っていたが、目の前に広がるのは、我が王国の首都だ。異世界に来たんじゃなかったのか。


「失敗?」

「そんなハズはないと思うんだけど。ていうか、何か騒がしくない?」

「そう言われて見ると……何かあったのか?」

「行ってみましょ」


ミナはそう言うと迷う事なく正門に歩いていく。

……オレ、死んだ事になってるハズなのに王都に考えなしに入っていいのだろうか。まぁ、いいか。


王都に入って見ると、確かに騒がしかった。というか、お祭り騒ぎだ。

ミナも興味深そうに周りと見渡している。


「何のお祭りだと思う?」

「この時期に祭りはなかったと思うが……」

「何だ、兄ちゃん、旅人かい?」


王都に出入りする商人として、こういった祭りには聡い自信があったが、今回はまったく思いもよらなかった。が、酒場の前でジョッキを片手に昼間から酔っているおっちゃんが、教えてくれた。


「魔王イライザが討伐されたんだよ!お陰で連日お祭り騒ぎさ。兄ちゃんもゆっくりしていきな!」


そう言いながらおっちゃんは、片手に持った酒を飲み干すと、もう一杯!といいながら酒場の中へと入っていく。

聞き覚えのない名前を耳にしてオレとミナは顔を合わせる。少なくとも、知っている魔人の名前ですらない。


「どういう事だ?」

「……さぁ?」


ミナも首を傾る。

一ヶ月も引きこもっているうちに新しい魔王が出て討伐された?んな、馬鹿な。

よくもわらないまま、とりあえず王都を歩く。その足は無意識のうちにニーズヘッグ公爵の屋敷へと向かっていた。

しかし、その前にオレとミナの足は止まり信じられないものを見る事になる。


「魔剣姫だ!勇者、魔剣姫ミヅキが来たぞ!」


自分の名前を呼ばれビクッとしたミナ。だが、人々の関心は遥か先を向いていた。その視線の先にあるのは、大勢の人を引き連れ白馬にまたがった黒髪の少女。

その髪は短く切り揃えられ、背中には一本の黒い剣を背負っている。スレンダーな体形に人々を優しく見る目。


様々な差異はあれど、オレが彼女を見間違えるハズがない。


「ミナ……?」

「嘘、私?」


大勢の人を引き連れ戦闘で白馬に乗る彼女は、髪を短く切り揃え、ミナよりも幾分かしっかりとした体付きをしていたが、紛れも無くミナ本人だ。

向こうも此方に気づいたらしく、驚いて目を見開いている。そして、彼女は白馬走らせ前へ出ると、背中の黒い剣を引き抜き構える。


「リュート、下がってて。私がやる」

「なんで戦う流れになってるんだよ!?」

「知らないけど、相手はやる気でしょ」


ミナの両手に黒い魔剣が召還され、走り出す。両者の持つ剣は造形はまったく同じで、魔女のミナが二本、魔剣士のミナが一本持っている。

魔女が前に出るのを交戦意思と見たのか、魔剣士であるミナも剣を構え、片足立ちのまま魔女を迎え撃つ。

先手は魔女が取るが、あっさりと黒い剣で弾き返される。だが、彼女の利点は二刀である事で、更に連撃を入れるが、魔剣士はくるりと体を回転させ、弾く。

魔女の方が手数は多く、魔剣士は防戦一方であるにも関わらず、魔女は押され下がり、魔剣士は淡々と剣を弾き前進する。

その不利を感じ取れない程、魔女は鈍くない。隙を突かれ大振りの横薙ぎを繰り出されるが、大きく跳び空中で回転し、魔剣を投げ捨てると共に、数個の炎球を繰り出す。

しかし、それこそが魔剣士にとっての好機であり、必勝パターンだった。彼女が降る炎を無造作に斬り捨てると、炎球は最初から無かったかのように霧散し、消滅する。


そして、地面に着く前に魔女に追いつき、風を纏った剣を叩きつける。


「ミナ!!」


慌てて吹き飛ばされたミナを受け止めるが、不死の王は発動しない。どうやら大したダメージではないみたいだが、不死の王が発動すれば怪我そのものがなくなる為に難しい所だ。


「痛っ……ごめん、リュート。相性が悪すぎる。それと、大体分かったわ。ここは異世界で、アレは本物の私」

「無茶すんな。意味はわからないけど、とりあえず彼女を止めるぞ」


ミナに代わりリュートが前に立つと魔剣士は更に驚いて動揺するが、その片足立ちの構えを解く気はないようだ。


それにしても妙な構えだ。片足立ちで剣を構え、そのまま独楽の様に回って戦うスタイルは王国では見たことが無い。

そして、話す間もなく、襲いかかって……って、片足立ち?話さない?


それに気づいて頭の中で彼女が何でそんな戦い方をしているのか、理解できた。というか、今まで忘れていた事実を思い出した。

なるほど、あの娘は本物のミナで、あのスタイルは必要に迫られてという訳か。なら、話は簡単だ。


「すまないが、少し触れさせて貰えないか?」

「!?…………っ!!」

「ば、アンタ、何言ってるの!?」


あれ、おかしい。

相手の為を思っていったのに、魔剣士ミナは困惑の表情から怒りになり、魔女からは罵倒された。心なしか両者とも顔が赤い。


「え、いや、そんなつもりじゃ……と、うわ!?」

「……ッ!!…………!!ッ!!」


問答無用とばかりに斬りかかって来やがった!

やっぱり、彼女もミナの様でどこか似ている。とか思っている場合じゃない。


魔剣士は体付きを見ても一目瞭然で、魔女よりも肉がついている。いや、女性的な意味ではなく。

明らかに近接戦闘に特化した体をしている。更に魔法による身体強化も施しているようで、そこらの冒険者や騎士より余程レベルが高いのは、魔女との戦闘を見ていてもわかる。

正直に言って魔剣相手では不死の王の効果も怪しいし、久しぶりに危険な相手だ。……少し前のオレだったら。


ミナから魔力を貰いオレの髪が黒く染まる。

不死の王との戦いで、いつの間にか身に着けていた能力、同調(シンクロ)。魔剣の能力者の力を魔剣の継承者に移すそれは、無効化、魔法剣に続く魔剣の3つ目の能力。

ミナの力を借り魔力強化を施す事により、先祖返りの能力は何のリスクもなく扱える様になる二重の身体強化。


斬りかかる魔剣士の剣を弾くが、その勢いすら利用し回転し横薙ぎに払う。それは、魔獣相手ですら薙ぎ払う必殺の威力を持った一撃だが、それすら簡単に受け止めれる強化状態は反則的だ。


「……ッ!?」


魔剣士の顔が痛みに歪む。強い一撃を受け止められ、自身の手に全ての衝撃が返ってきたのだろう。流石に魔剣を落とすまではいかずとも、片手は明らかに力が入っていない。

その手首を掴み引き寄せ、彼女の肌が露出している部分……最初に目に入ったのは頬だった。そこにオレの右手を当てる。

勢い余って転ぶ魔剣士を抱きとめる形になり、そのまま抱きしめると、魔剣士がとっさに回した腕にも力が入った。


「大丈夫か?喋れるか?ミナ」

「え、あの……貴方は……?って、え……声が……?」


自分の状態に驚愕する魔剣士。やはり、魔剣士であるミナは、オレが最初に会った時のミナと同じように足と喉に怪我を負っていたみたいだ。


「足も治ってるハズだけど、急には動けないと思う。だから、って痛ッ!?」


頭部に痛みを感じ振り返る。

予想通り魔女だ。しかも、笑顔の。すっごい笑顔の。


「リュート。何、他の女を抱きしめてるのかな?浮気?浮気なの?」

「いや、そうじゃな、ていうか、彼女もミナじゃ」

「私は私で、その子は、その子。ていうか、貴女もいつまで抱きついてるの!」

「へ?え、わ、わわわ、ごめんなさい!」


魔剣士ミナは自分の状態を認識出来ていなかった様で、それに気づき慌てて立ち上がる。その際に、両足が動く事に驚き、地面を踏んで確かめている。


「……ミナ、どういう事だ?これ」

「詳しくはわからないわ。予想だけど、彼女は私とリュートが出会わなかった世界の私みたいね。そういえば、リュート、前に『ケルベロスを一人で足止めして、そのまま召還された。その時に血溜まりがあったせいで、死んだと思われていた』って言ってなかったっけ?」

「あぁ、実際にはオレに怪我なんてなかったから、無関係だと思っていたが……」

「多分……多分よ?リュートは本当は別の世界、いえ、この世界から召還されたんじゃないかな?それで、この世界に召還されたリュートもいて、彼はケルベロスに大怪我を負わされてた。そのせいで、私と出会う事が無かったんじゃないかな、って……思う」


そう彼女は自信なさそうに説明する。


何故、オレが同じ世界に召還されたのか。それは考えてもしかたないと思っていたが、ずっと気になっていた事でもある。


「となると、全ての異世界は元は同じで分岐した世界なの?この世界と……私が居た世界ですら……?」


ミナは深刻そうに呟くが、その内容はオレには理解出来ない。


「この世界は似過ぎている。リュートが召還された所までは、まったく同じ。なら分岐点は……リュートがケルベロスに怪我を負わされてから……?」



何処かにリュートがケルベロスに怪我を負わされたっていう誰かの台詞も書いた覚えがあるのに、さっぱり見つかりません。何処いった。

そもそも、気のせいである可能性すら否定できない……。


という訳でお久しぶりです。

一話で纏める予定でしたが、思いのほか長くなったので前後編になってしまいました。


ミナの察しが良すぎるのは、状況説明の難しさが、作者の手に余る事になってしまった結果ですorz

一応、はじめから考えていた理由ではあるんですが、どうも本編で出す隙間がなく、ここに書かせて貰いました。


宣伝になりますが

『魔法少女Forte.V.S』ひっそり連載中です。

まだまだ話数も少ないですが、よろしければ此方も読んでみてください。

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