とある戦争の記憶
王城の地下には数多の魔人戦争の内容を記録した書物が保管してある空間がある。
その中には、明確に人類の歴史が滅びを迎えるかもしれなかった戦争が幾つか記録されており、国に認められた一部の人しか立ち入りを許されない区域だ。
その中でも、不死の王と呼ばれる存在が関わった戦争が二度あり、どちらも非常に危うい戦争であったと言えよう。
此処には、二度目の不死の王との戦争で活躍した勇者達の記録を記しておこう。
勇者カムイ
魔王城にて敵魔人を足止め、撃破し、見事、不死の王への道を切り開く。
戦争以来、その特殊能力を使用する事は希であり、どの様な能力を持っていたのか記録には残っていないが、彼の攻撃力は筆舌し難く、特に一対一の勝負では負け知らずだっと言う。
戦争終結後は王女と婚姻関係になったものの、彼女の弟との政略戦に負け、王になる事はなかったが、その武力は重用され、新たに侍部隊を立ち上げ、王国に多大な貢献をした。
再び起きた魔人戦争では、勇者の師として名が残っている。
勇者ケネス
聖殿都市へと攻め込んできた未知の魔人を、その部隊を率いて撃破した英雄として、後世に名を残す。
彼の用いていた銃という武器は彼の生涯を掛けて帝国での量産が可能となった。今も残る勇者ケネスの扱ってきた古銃に比べると性能は格段に落ちるものの対魔獣戦に置いて、少ない訓練でも一定の戦果を残す事ができる代物である。
勇者ケネスと言えば聖殿都市防衛戦が有名だが、彼の持ち込んだ知識は世界の工業に多大な貢献をもたらした事も記述しておこう。
魔人ケーファー
当初は魔人という立場から、その名前が表に出ることは無かったが連邦の天魔の里の存在が明らかになり和平を望む魔人と天使の存在が明るみに出てから、ニーズヘッグ家から、その名前が明かされた。
不死の王討伐隊に参加しながらも、聖殿都市に大いな危険が迫っていると知り、僅か一部隊のみで、魔人軍を撃破したと言う。
それまでにも、後述の勇者と天使と共に行動し王国の平和に尽力をした情報もある。
公式の記録には残っていないが戦争終結後、天魔の里で天使と共にひっそりと暮らし、彼らのリーダー的な立場とし里の発展に尽くしたらしい。
その後、紅い翼を持ち、歴代でも群を抜いて強力な魔力を持つ天魔の娘を授かったとの記録もあるが、詳細は不明。
天使
魔人ケーファーと行動を共にしていた天使。だが、その資料は余りにも少なく、詳細は不明。
だが、魔人ケーファーの歴史を調べると何時も彼女が魔人ケーファーの隣に居たと知る事だけは容易い。
王女レーナ
初陣である聖殿都市戦で窮地に陥っていたケネスの部隊を救出する事で徐々にその才覚を明らかにした戦場での勝利の女神。
彼女の参加した戦に負けはなく、その加護を存分に受けたのは夫であるカムイだった。
先走りがちなカムイを何時も補佐し、彼を勝利に導いたと言う。
当時は王となるカムイの王妃になると思われていたが、カムイが余りにも国政に疎く猪突猛進な性格をしていた為に、弟に譲る事となった。
勇者ミヅキ
不死の王と直接戦った勇者の一人。
一人で国を滅ぼす程の力を持っていた事から傾国の魔女と呼ばれたが、心優しく美しい女性だったと言われる。
不死の王戦以外にも様々な場所で、その才覚を発揮したと見られるが、あくまで小規模かつ個人的な活動になる為に公式な記録には残っていない。
勇者リュートと恋仲にあり、彼の犠牲によって平和を取り戻したものの、塞ぎ込み、その後、行方不明となる。
これは、現在に語り継がれる悲恋として余りにも有名である。
勇者リュート
何故か召喚された商人。彼が召喚された理由に付いては様々な説があるが、どれも憶測に過ぎなく現在までに、この世界の人間が召喚された事は彼一人を除いてない。
勇者としての能力も無かったと言われている。
放浪している勇者ミヅキと出会い、彼女から魔剣を授けられる事で真の勇者となった彼は魔獣軍を操る魔人を撃破した後に王女レーナを救い、聖殿都市にて不死の王と初めて対峙する事となる。
その後、魔人ケーファーと天使達と協力し勇者ミヅキと共に魔王城へと攻め込み魔剣にて不死の王を追い込むが、不死の王が放った異界の魔法に巻き込まれ死亡した。
彼の行動は人類ではなく愛する勇者ミヅキを守る為と一般的には言われているが、それは彼のみぞ知る所だろう。
不死の王が復活した時に過去最多の勇者を召喚し、その質にも恵まれたのは幸運としか言い様がない。
さて、此処から記すのは御伽噺にも似た物であり、記録と言うには余りにも浅はかである。
それでも、勇者リュートと勇者ミヅキが共に歴史の一片に、再び、その姿を現したという資料や証言は余りにも多い。
不死の王により異界に引き込まれた勇者リュートは、存命しており必死に戦い続けていた。そして、彼を諦めきれなかった勇者ミヅキは遂に異界への扉を開き彼と再会する。
勇者ミヅキによって再び魔剣を手にしたリュートは不死の王の能力を無効化し、見事打倒する事により、この世界へと帰還していたと言う大衆の願望にしか思えない説を裏付ける証拠が余りにも多すぎるのだ。
民衆の娯楽である歌劇にも、此方の説を信じる人が多いが、この全てを鵜呑みにするとすれば、勇者リュートは以降100年にも及ぶ歴史に登場している。
しかし、その全てを嘘とすると矛盾が生じてしまうのも事実だ。
本来なら王国に保管される由緒ある書に、この様な事は書くべきではないだろう。しかし、敢えて文字に残させてもらいたい。
何故なら、私も勇者リュートの生存を願う一人なのだから。彼の過酷な運命に祝福がありますよう祈ろう。
◆
これから先の未来、書かれる事になる戦争の歴史書を本人達が見れば色々と手直ししたい所があるだろう。
現に勇者リュートは戦争終結後、過酷どころか、甘くダラけた、どうしようもない生活を送っていた。
「ん~、りゅーとぉー……」
同じベッドで熔ける様な声を出し、両腕をリュートに絡ませるのは、傾国の魔女と呼ばれる美しくはあるが実に凶悪な少女だ。
ちなみに、二人共服は着ており未だに爛れた関係にはなっていない。理由としては「それってリュートに好きにされるって事でしょう?なんか、嫌」と、少女が譲らないからだ。
少女としては、初期からリュートに奪われがちだった主導権が、完全に持ってかれているのを、どうにかしたい所らしい。
リュートは、彼女が目的もなく名前を呼んだだけだと言う事を理解しており、返事をする代わりに枕代わりにされている右腕を回し、頭を撫でると、少女は満足そうに顔を摺り寄せる。
しかし、幸せそうな彼女とは裏腹にリュートは言い様もない不安に襲われているのだ。今までの悩みと比べたら余りにも軽い、その悩みは非常に単純な物だ。
一ヶ月も何もしてないんだけど、このままでいいだろうか……。