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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
終章 傾国の魔女
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百二十三話 100と終わりなき戦い

どれくらいの時間が経っただろう?大雑把に一週間から一ヶ月程度だと思うが、時間を示す物がない世界では戦い続けるオレ達にそれを知る術はない。

それでも、この世界に残されたオレと不死の王は飽きもせずに戦い続ける。


「リンドボルグッ!!」

「出ろ、土くれの塔」


雷系最上級の魔法を放つが不死の王は、すぐ隣に土で出来た自らの身長より高い塔を出現させると、雷は引き寄せられるように、それに落ちる。

初めて見た時は驚いたが、この攻防も既に何十回と繰り返した物だ。それどころか、互いに殆どの手を見せ合ってしまい、その対処法も確立していて、死ぬ回数は少なくなってきている。

それでも、尚、武器を振るのを辞めないのは、単に大事な魔女の為であり、オレの心を折る為だろう。


「戦えば戦う程に興味深い。あの世界に戻る前に存分に貴様を研究するのも面白そうだ……いや、あの世界に戻った方が器具が多く捗るか。何にせよ、貴様の心をへし折るのが先か」

「後99年は無理だな。それからなら、好きにしろ、よっと!!」


無詠唱で神威を発動、横と縦に振り十字に放つが、不死の王の周囲にも竜巻が生成され、その風に流されて斬撃は空を斬る。仕返しと言わんばかりに、炎の槍が飛来し、それを宙に跳んで避けた所を狙い済ましたように、見慣れた光の奔流が文字通りの光速で打ち出され、その瞬間、空中を蹴り無理矢理避ける。


「その魔法は出来れば使わないで欲しいんだけどなぁ」

「あの魔女の使っていた物を参考にしたんだが、不評のようだな。しかし、あの威力はどういう事だ?どう足掻いても木の枝程度のレーザーしか出来ん」

「あの子は色々と規格外だからな」


不死の王が放ったレーザーカノンは原理こそ同じだが、ミナのソレと比べると威力と範囲が大きく劣る。その為に、空中に魔力で足場を作り、それを蹴り避けるという芸当も可能となる。

もしも、ミナの本気のレーザーカノンを撃たれれば、多少の回避行動など、その範囲に食われてしまうだろう。

流石に、その魔力量までは不死の王と言えど真似できず、それに助けられている部分も多い。


そして、オレは不死の王に未だに通じる数少ない手を発動させる。


「魔法剣」


剣の周りを水が満たし、それを不死の王目掛け水平に構える。


「水月!!」


剣先から、『圧縮』された水が射出され、それは神威よりも早く空気を貫き不死の王の片腕を吹き飛ばす。魔法剣は魔法を無効化しながら攻撃する為に、ミナを相手にした時の様に、氷魔法で巻き込む事も出来ず、だからと言って避ける事も出来ない不死の王は成すすべがないらしい……と、言ってもすぐに再生するが。

『圧縮』という概念は未だによくわからないが、それでもミナが扱っていた魔法を真似た魔法剣は思った以上の効果を発揮していた。


「一応、痛みに対する嫌悪感くらいはあるんだがね」

「なら百年ほど大人しくしてて貰えないか?」

「冗談を。しかし、やられっぱなしと言うのも気に食わないな。貴様に教えてやる意味もないが……仕方ない」


そう言いながら不死の王は左手から炎を放射する。避けてもいいが、先ほどの言動が気になる。安全策をして、魔剣で防御するが、放射されている炎は無効化した先から生み出される。

そして、その炎の中から雷の槍が突如出現し、魔剣を……砕いた。


「なッ!?」


雷の槍はそのまま貫通し、オレの肩口に当たる。不幸にもダメージが軽かったせいで不死の王は発動せず痺れが残り腕が若干動かしにくい。

しかし、そんな事を気にしている暇はなく、急ぎ魔剣を送還し再度召喚する。


これが現実の剣であったら使い物にならなくなっている所だ。


「ククク。どうだ?ご自慢の剣がぶち折られた感想は」

「すぐに再生するから問題はないさ。ソレにしても……何をした?」

「ふむ。頭なら、魔女の娘の方が大分良いみたいだな。今の現象を見ても気づかぬか」


そう言って不死の王は深く溜息を吐く。


……うるせー、どうせ馬鹿だよ。剣振るうしか脳ねーよ。


と、ふと懐かしい声が聞こえた。






「人の恋人を馬鹿呼ばわりしないで貰える?」






金の眩い光を放つ門を背にして少女が立っている。


「セラフィック、ゲート……?」


それは天使の少女がよく使っていた転移魔法。だけど、転移先は自身の一部がある場所に限定されている。


流れるような黒髪に一風変わった制服と呼んでいた服を身に纏った少女。二度と会えない覚悟を決め一方的に突き放した国さえも滅ぼす力を持った、だけどオレに取っては愛しい魔女。


だが、彼女が、此処に体の一部を置いておいたなんて話は聞いていない。だから最初は、遂にトチ狂って幻覚を生み出したかと思ったが、不死の王も驚き目を見開いている。


「少なくとも俺の感覚では、この世界と、あの世界の繋がりは絶たれたように思っていたんだがな。どうやって来たのか教えて貰っても構わないか?」

「別にそんなのどうだっていいでしょ?私、忙しいの。すぐに、そこの馬鹿を連れて帰るつもりだから」


馬鹿扱いするなって言っておいて自分で馬鹿って言った。


「いや、ミナ……?なのか?」

「そーよ。アンタに置いてかれたミナ=ミヅキよ。てか、何その髪。なんで黒?」

「……ごめんなさい」


明らかに「怒っています」と態度で示している彼女にとりあえず謝っておく。いや、でも、謝るだけなら門を斬った時に謝ったハズだ。……別に許して貰っちゃいけいけど。


「でも、なんで……?」

「リュートも不死の王と同じ事聞くのね……。まぁ、いいわよ。教えてあげる。正直に言って、この世界が何処にあるのかなんてわからない。ついでに、疑問に思ってる事を潰しておくと、私、別に、此処に自分の一部なんて置いて無いからね?」

「それなら、此処にこれるハズないんじゃ……?」

「うん、本来ならこれない。でも、たった一つ条件を満たせば私は何処にでも行けるの」


魔女は呆れた様に溜息を吐いて、オレの左手を指す。正確には、左手に持っている物を。


「魔剣。前にも言ったと思うけど、それ、私の一部だから」


ずっと昔、それこそ一年も前に言った彼女の言葉を思い出す。


―――――リュートに……私をあげる……!

―――――最古の勇者が使ってた剣とほぼ同じ原理で作られた剣だもの。その剣は私自身よ。……大事にしてね、私を。


「な、な、な……。えっと、つまり……?」

「うん。セラフィックゲートを覚えた今、リュートがいる場所だったら、何処にでもいけるの、私」

「ストーカーだ!?」

「恋人相手になんて事言うのよ……」


親父、母さん、オレ、一生魔女から逃げる事はできないみたいです。


「はぁ。いや、折角来てくれた所、悪いがコイツがいる以上、戻る訳には行かない。ミナ、帰れるのか?」

「うん。向こうにも魔剣置いてきたから、いつでも帰れる。や、便利ね。本当に一度行った場所に魔剣を置いてきたら、簡単に移動出来るのよ、これ。後、不死の王をどうにかする方法も考えてきたから、ちゃんと一緒に帰るわよ」

「は?……え?」


なんか矢継ぎ早にとんでもない事を言っている魔女の言葉が理解できない。言葉としては正しいんだが、頭の処理速度が追いつかない。


「ククク。面白い。その魔力量こそ圧巻だが、それだけでは俺に勝てないと前の戦いで身に染みたハズだが?」

「そうね。ていうか、此処に来る方法はケーファー達に会って、すぐに思いついたのよ。実験も簡単だったしセラフィックゲートも魔力の消費量こそ多しけど、技術的にはそこまで難しい魔法じゃない。それでも、一ヶ月も経ったのは、アンタを倒さなきゃ行けないからなのよ、不死の王」

「ほう?」


不死の王はオレと対峙した時は明らかに鋭く敵対者を見る視線をするが、ミナを相手にする時は未だに何処か楽しそうな巫山戯た余裕を崩さない。

奴にとって、ミナはまだ自身の敵に足る存在ではないのだろう。


「で、どうするんだ?本当に倒せるんだろうな?」

「多分。流石に絶対なんて言えないけど、なんとかなるんじゃない?」

「……信じるぞ」

「うん。信じて?ちょっと、時間掛かるから、時間稼ぎお願いね」


あ、はい。

何時ものお仕事ですね。


そう言い残しミナは目を閉じ詠唱に入る。

彼女が長い詠唱をするのは、最初にレーザーカノンを使った時以来か。


彼女は胸元に大事な何かを抱きしめる様に、その魔法を作って行く。彼女の両手に包まれているのは、漆黒の球……って。


「え、や、レーザーカノン?」

「うるさいー。気が散るー。時間稼ぎー」


さぞ面倒くさそうに目を閉じたままそう言われては、不死の王と対峙せざるを得ない。正直、不死の王がミナの邪魔をするつもりがあるかどうかも、怪しいが。


「て訳で、もう少しだけオレに付き合って貰うぞ、不死の王」

「ふむ。オレを倒せる魔法とやらにも興味がある。余り拍子抜けしないと良いんだがな」


そうして、オレと不死の王は互の剣を構える。


今度こそ、これが最後の戦いに成る様に祈りながら。



超展開にならない様に色々と伏線は張って来たつもりですが、如何でしたでしょうか?

次話が終章の最後の話になりそうです。そして、エピローグに続きます。

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