百十九話 三番目と巨力の魔人
最初に、この話は118話とほぼ同時に投稿しています。
話数順にみたい方は118話を先に読まれた方が良いかと思います。
しかし、長くなってしまった上に118話は聖殿都市での戦いを描いた物になり、リュートたちの戦いとは関係が薄いので、この話から読んでも問題はないと思います。
「誰かを殺したいと思ったのは、久しぶりだ。その点に関しては礼を言おう」
俺の前に立つ巨大な魔人ガルフスがそう言いながらニタリと笑う。
あぁ、そうだ。幾ら敵とは言え、消沈している姿は見るに耐えない。やはり、武人と言うのはこうあるべきだ。
そんな自分の理想の為だけにリュート殿とミナ殿を二人で不死の王の元へ送り出したのは申し訳ない気もするが、そもそも、あの二人なら俺がいなくても、どうにかするだろう。
そう考え、目の前の魔人に集中する事にする。
「ガルフス殿は強いのであろうな?俺は強き者と戦えるのを嬉しく思う」
「自分で確かめてみな!」
本格的な戦闘が始まる。
先ほどの様な試しの一撃ではなく、本気の連撃。
ガルフス殿の一撃はとんでもなく、重いのに、それを連打してくるのが驚異……だが!
自身の能力、聖殿の盾ならばそれを防げる!
左手を前に突き出し、ガルフス殿の重い連撃を全て防ぐ。
が、それすらも気にする様子のない嵐の様な連打は、俺に反撃の糸口を中々掴ませてくれない。
聖殿の盾の最大の欠点は、刀を扱う時に重要である左手を前に突き出さなければいけない事だ。
人間が相手であれば体術で突破口を作り、刀を持つと言うのが有効であったり、避けれる攻撃は避けて反撃に移る事も多いが、ガルフス殿の当たれば即死級の連打の前には中々隙がない。
「オラオラオラァ!!壁の中に篭ってるだけじゃぁ、俺には勝てねぇぞ、人間!!」
「フンッ!確かに……その通りだな!!」
僅かな……本当に僅かな隙を見つけ、刀を両手に持ち、ガルフス殿の脇腹を切り抜ける。
言ってはなんだが、ガルフス殿は攻撃に意識が行き過ぎていて防御が甘い。この一撃で決めたとは思わぬが、これなら勝てる……!
そう思ったが、確かに切り裂いたと思ったはずの刃は予想外に小さな金属音と、それを引っ掻いた様な嫌な音をさせるだけに留まった。
「なっ!!……硬っ!?」
「ほう。このガルフス様に傷を付けるとは、やるな、人間」
傷?
傷と言っていい物なのか?あんな引っかき傷が!
確かに刃を滑らせた肌には僅かに血が出る程の傷があったが、それだけだ。
あの程度の傷を幾億付ければ魔人を倒せると言うのだろうか?
「くくく、気にするな、人間。そもそも俺を傷付けれる方が……希なんだよ!!」
ガルフス殿は最初の覇気無しとは思えぬ程に強く拳を打ち付けてくる。
当然、それは左腕で受け止めるが、そうなると僅かな隙を幾ら見つけようとも、掠り傷を付ける事くらいしかできない。
「くっ、聖殿の盾!!」
「はっはっはっは!お互いに決め手がねぇな!人間!」
ガルフス殿が暴風雨の様に繰り出す人の胴体程ある腕による連撃も俺には通用しないが、それはガルフス殿が策を用いず真正面から聖殿の盾を殴ってるいるからに過ぎない。
どうやら、この巨漢は俺以上に真正面から突っ走る性格らしい。
だからこそ、攻撃のタイミングもリズムも覚えやすく……隙も突きやすい!
脇腹は駄目となると、擦れ違い腕を斬り流れるように刃を返し、背を斬り上げるが先程よりも効果が薄い。
最初から二連撃するつもりで斬ったのだから、初撃の力も弱く当然と言えば当然だ。
しかし、ならば、どこを斬れば斬れる?敵の弱い所を探せ……。生物である以上、弱点はあるハズだ!!
そこで、ふと違和感を感じる。
俺はいつから、こんなに頭を使って戦うようになった?
そうだ、以前の俺であれば、斬れぬなら、更に鋭く、強く、早く斬るだけだっただけの事だ。
いや、しかし、聖殿の盾を駆使しガルフス殿の攻撃を防いでる今、それは不可能だ。
ガルフス殿の攻撃は数人の熟練した侍の剣撃に勝るとも劣らない。
……ならば、俺は昔、どうして居たと言うのだ?
熟練した敵を前にした事等、数え切れぬ程があると言うのに聖殿の盾無しで、どう斬り抜けていた?
単純だ。全ての刃を避け、渾身の一撃を全ての敵に入れれば良い。
なんだ、単純な事じゃないか。
「ガルフス殿」
「あ?今更命乞いは……聞かねぇぞ、っと!!」
そう言いながらガルフス殿は右手を大きく振り回し正殿の盾を殴るが、当然、効果はない。
これは、俺がこの世界に来た時に授けられた万能の盾。正面からの攻撃は全て防ぐ俺には過ぎた能力だ。
そして、ガルフス殿は今まで俺が戦った人の中で一番強かっただろうか?
確かに、俺は前の世界でガルフス殿より強い人間と戦った事はなかった様に思える、だが……。
大勢の観客に囲まれた中、華やかな舞台で、俺に黒と銀の剣を向けた灰髪の青年を思い出す。
彼は今、俺の先で不死の王と戦っているだろう。
どんな技も流され、力では叶わず、聖殿の盾すら通じないとわかった時、俺はどうしたんだ?
思い出せるのは鞘に刀を収め己の全てを賭した一撃で迎え撃った事だけだが、それで十分だった。
「すまぬ、ガルフス殿。俺はどうやら、本気で戦っていなかったようだ」
「ほう……?」
ガルフス殿の片眉が釣り上がる。
真剣勝負において手加減をしてた等と同じ様な言葉を投げ掛けられれば当然とも言えるだろう。
手加減していたつもりはないが、こればかりは俺が完全に悪い。
「そして、これからが俺の本気だ」
僅かな隙を捉え、脇に抜けるが、無駄な斬撃は入れない。
ガルフス殿が、気のせいかわくわくした様な顔で此方を見ているのを考えると、彼も戦いの中に己が生を見出してきた武人なのだろう。
ガルフス殿の巨大な腕が振り上げられ眼前に迫る……が、危なげなく肩を引き半歩下がり避ける。
「お?」
「どうにも聖殿の盾は俺には過ぎた能力らしい。この世界に来て気づかぬ内に弱くなっていた様だ」
「く、はっはっは!あんだけ、すげー盾を自分で捨てるか!!いいねぇ、俺たちの戦いに防御なぞ不要!お前の事は気に入ったぞ。今一度、名を名乗れ!」
「カムイ、参る!」
「来いよ、カムイィ!」
これからが本番とばかりにガルフス殿の腕が先程までより明らかに力強く振り下ろされる。
先程までなら間違いなく聖殿の盾で受けた一撃を体を回転させる事により下がらずに横に避け、その勢いで右手一本で腕を斬り上げる。
「お?ふ、くっはっはっは!!面白ぇ。俺に手傷を負わせたのはケーファーの野郎以来だ!」
斬り付けた腕は先程までとは比べ物にならぬ程に深く傷付き、血が流れる。
単に盾など気にせず体の赴くまま流れるままに斬った結果だ。
「互いに決め手はできたな。ガルフス殿」
「今度は盾がなくなったけどな」
そう言いながら、彼の魔人は楽しそうに拳を叩きつけてくる。
その変わらぬ戦いこそ彼の自身の現れなのかもしれず、ならばそれを真正面からたたっ斬るまで。
頬を掠める程のギリギリの距離を避ける。一歩間違ったら即死する様な、この距離感が心地よく感じてしまう。
刀を鞘には収めず、腰に当て擬似的な居合の構えを取る。対してガルフス殿は変わらず大振りだ。
それに、合わせ横を抜け、脇に刃を走らせると今度は確かな手応えが返ってくる、が、その事実が油断を生み、返す拳に気づかず肩から顔面を殴られる。
何、この程度なら……慣れたモノだ!!
「っち、動きに慣れてきたのはお互い……」
此方を振り向いたガルフスの声はそこで止まる。
俺は既に大上段に振りかぶっており渾身の一撃を入れる準備が出来ていた。
戦う前ならいざ知らず相手の隙を待つ等と言う行為を戦場で行う気はない。
縦一文字に刀を振り下ろし、その瞬間、ガルフス殿の命を絶った事を確信したが、人ならば縦に割れてもおかしくない一撃でも、即座に命を奪うには値しなかったらしい。
「最後に明暗を分けたのは……今まで、どれだけのダメージを受けてきたか、か。油断しちまったな。普段痛いなんて余り思わねぇせいで油断しちまった」
「……すまぬ。俺の未熟故苦しませてしまった」
ガルフス殿はゆっくりを後ろに倒れる。
既に助かる術はないだろう。
「何、最後に強き魔人として生きれたんだ。感謝してるくらいだぜ、カムイ」
「……俺も貴殿に感謝しよう。貴殿の御陰で俺は真の強さを取り戻せた」
「……ハ。あばよ」
そう言うとガルフス殿は血に濡れた体のまま動かなくなった。
同情は、無用。俺は敵を斬っただけで、彼は負けただけだ。俺達の勝負にそんな無粋な物はあってはならない。
「ありがとう」
だから、一言、感謝の言葉を告げ、先の扉へと進む。
リュート殿とミナ殿の勝利を信じて。
120話から、遂に不死の王VSリュート&ミナの戦いになります。
@4話~6話程度で最終話を書き、その後に2話程度のエピローグを書いたあとに、色々時系列とか無視した話を少し書こうかなーと言うのが今後の展開です。
少し早いですが、此処まで読んでいただき本当にありがとうございます。