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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
終章 傾国の魔女
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百十五話 開戦

魔王城に侵入したリュート、ミナ、カムイの三人は散発的な戦闘を、こなしながら奥へ奥へと進んでいく。

内部のルートはわかっていなかったので、感を頼りに進んだに過ぎなく、何度か行き止まりにあい道を戻る事もあった物の城内の構造自体は、そう難しい物でもなく、気づけば巨大な扉の前に居た。


「リュート、この中から大きな気配が一つ。……でも、その奥にも一つ魔力の塊があって、多分そっちが魔王。中に居る奴は魔人だけど、かなり強い」

「ここに来るまでは、護衛とも言えない様な魔獣ばかりだったしな。最後に頼りになる仲間を置いておいたって事か」


奥に魔王が居ると分かれば目の前に障害があろうと立ち止まる訳には行かない。

リュートは、気にせず大扉を押して開き、ミナとカムイが、警戒しながら後ろに続く。


「よう。まさか、こんな所に人間が来るとはな」


部屋の中に居たのは、ガルフスと呼ばれる魔人。

人型に近い形状であるが、その体は巨大で筋肉質であり、それにも関わらず更にアンバランスとも言える太い腕は人間の胴体程のサイズがある。


その魔人は、リュート達に背を向け更に奥へと続く扉の前に座り込んでいた。


言動からしても、どうやらリュート達を待っていた訳でもないらしいが、その態度は奥へと続く部屋に入ろうか迷っていた様に見える。


「……何、やってるんだ?アンタ」


その不自然とも言える態度にリュートは魔剣を右手に召喚しながらも、そう尋ねると、魔人ガルフスは面倒くさそうに立ち上がり、此方を向きながら答えた。


「ちょっと人生に、ついて考えていてな」

「……は?」


魔人の答えに思わず、そんな無礼とも言える一言が漏れるが、どうやらガルフスにとっては冗談ではないらしい。


「俺は今まで強い奴と戦うのが好きで好きで仕方なかった。でもな、どう足掻いても勝てない相手ってのに、会っちまった。その時、まだ動けるのに、俺は動かなかった。怖かったんだよ。おかしいと思わねぇか?強い奴と戦うのが好きなら、戦って死ねばいいんだよ、無様に。それなのに、俺は怖くてソイツとは戦いたくないんだ。つまり、今まで俺が好きだと思ってたのは実は、勝てる勝負をするのが好きだったんじゃねーか?って事だ」


ガルフスは大きく溜息を吐きながら最後に呟く。


「そんな情けない魔人だとは思わなかったんだがな」


ガルフスが、魔王の部屋の前に居たのは単純に自分自身のプライドを取り戻すために不死の王に最後の勝負を挑もうと勇んで来たが、その直前でやはり動けなかった為だ。

それでも引くことはできずに、だけれど進むこともできずに途方に暮れていただけの話だ。


リュートもミナも、ソレを理解出来ていなかったが目の前の魔人からは殺気がまったく感じられない。


「お前の話はわからないが……その奥の部屋に用があるんだ。できたら通して貰えないか?」

「人間がアイツに勝てる訳はねーと思うんだがな。好きに通りな」


そう言いながらガルフスは扉の前を離れ部屋の中央に歩き出す。

その一歩一歩が闘志無き今でも力強く地を揺らし、その巨体は恐怖心すら煽られるが、本当に戦う気はないらしく、中央で座り込むのを見てリュートは安堵する。


不死の王を相手にするのに、此処で強力な魔人とは戦いたくなかった。


が、それをぶち壊す勇者が、この場には一人居た。


「お前、本当にソレでいいのか?」

「あ?」


ガルフスを避ける様に大きく右に迂回しながら奥の扉へと向かうリュートとソレに追従するミナとは別に真っ直ぐ部屋の中央に向かう黒い髪の勇者。

カムイは、ガルフスの前まで行くと鞘に収まった刀を左手で抜き、その刃を魔人へと向ける。


「死にたいのか?人間。不死の王相手に勝てないからと言って、人間風情にまで負ける理由はねーぞ」

「やれるなら殺ってみろ、腑抜け。貴様程度に、俺が負けるか」

「テメ……!」


ガルフスはゆっくりと立ち上がり、自分よりも遥かに小さいカムイを見下ろすがカムイも一歩足りとも惹かない。


「何、やってんだ、あの馬鹿……!」

「ま、アイツらしいんじゃないの」


予想外の自体にリュートは慌てるが、ミナは溜息を吐きつつも、何時もの事だと諦めている様だ。

消沈していたガルフスも普段は見下している人間に、こうまで分かりやすい挑発をされれば黙っていられるハズもなく、拳を上に振り上げる。


「今ならまだ見逃してやる。大人しく不死の王に殺されてこい」

「自分では殺せぬから他者に頼むか?本当に負け犬根性が身に付いてしまったようだな」

「大人しく行けば幾許か長生き出来た物を」


その言葉を合図にガルフスが巨大な腕を振り下ろし、カムイは左手を掲げる。


聖殿の盾。


圧倒的な破壊力を持ったガルフスの拳はカムイが、そう呼ぶ能力により完全に受け止められた。

不死の王相手ですら、かち合った腕は吹っ飛ばし、ケーファー相手にも直撃すれば吹っ飛ばしたガルフスにとって、それは初めての経験であり、驚愕に目を見開く。


「どうした、負け犬。俺にも勝てぬと勝負を投げ出すか?お前が培って来た強さとは、その程度の誇りしかないのか!」


立身出世、最強の名を欲しがり、元の世界では戦乱の世を刀一本で駆けてきたカムイに取って、恵まれた強さと戦いを好む心を持つ者が、圧倒的な他者の存在により、その拳を下ろす事は我慢ならない事であった。

その真っ直ぐすぎる性格は、魔人すら例外とは認めず、強者の誇りを強要する。

それが誠に心折れた者であれば、カムイとて捨て置くだろうが、ガルフスは自らの誇りを守る為に、恐怖の対象の目の前まで来た豪傑なのだ。


「……くくく、面白い。人、風情が俺の拳を受けるか。どうやら、俺は思ったより強くなかったらしい……が、どう合っても貴様だけは殺したくなった」

「奇遇だな。俺もお前の様な強き魔人と戦う事ができるの事は嬉しく思うぞ」


リュート以上の戦闘狂であり、先の事を見据える目も持たないカムイがガルフスと会えば戦い以外の運命はあり得なかったのかもしれない。

だが、それでも、今何より優先しなければ行けない事が何かは解っているようでリュートに向かい叫ぶ。


「リュート殿!この魔人は俺が受け持つ!不死の王は頼んだぞ!!」

「おま、勝手に敵増やして何言ってるんだ!」

「ははは!だが、折角ここまで来たのだ。俺にも何か手柄を立てさせてくれてもいいではないか。不死の王はリュート殿とミナ殿が居れば十分であろう?」

「そういう事にしておいてあげる。行こう、リュート」

「死ぬなよ、考え無し!!」


激励とも悪口とも判断がつかない言葉を叫び、リュートとミナは更に奥の扉へと消えていく。

奥の気配が一つならば、不死の王の元へリュートとミナを届けると言うカムイに取って大前提とも言える目的は達成しているので、この自己満足の我が儘を通すのを許して欲しいと、誰に向けるでもなく心の中で許しを請う。


「どうか、名前を聞かせては貰えぬか?」

「ガルフス。魔人ガルフスだ、人間。地獄への土産に名だけでも貰っておけ」

「ガルフス殿。貴殿の名前は俺が後世まで語り継ごう。安心して逝くが良い」


互いに互いの都合の良い結末に対しての口上を述べ、ガルフスとカムイはそれぞれ、構える。


「カムイ、参る!!」






リュート達が魔王城へと侵入した頃、聖殿都市での戦闘は極めて順調に進んでいた。


「アレックス、残弾80%。そろそろ押され始めてる所も出てきてるけど、そこは天軍の人がフォローに入ってくれて押し返してる。まだまだ銃器隊は前面に押し出せそうだよ」

「そうか、ご苦労。戦況の変化は見えるか?」

「ずっと魔物の群れで遠視の意味はないかなぁ」


馬に乗った二番目の勇者、アレックスに別の勇者が語りかける。

彼の能力は千里眼であり、彼自身の戦闘能力は持っている銃火器を考えても決して高いとは言えないが、アレックスの部隊に置いて、遠方の状況を知る事ができる彼は重宝されていた。


アレックスと、もう二人の勇者は約100の銃騎隊を率いて、その機動力を活かし不利になった場所へと展開、戦況を押し返し、銃器隊を下がらせ前衛部隊を前に出すまでの時間稼ぎの役割が主だった任務だったが、今の所出番はなく、千里眼の報告を聞いているだけになっている。

それも、そのハズで、地上からの銃に寄る飽和射撃に、物見櫓からの魔法に寄る範囲攻撃に加え、天軍に寄る爆撃にも近い攻撃が加えられれば如何に耐久力の高い白黒の魔獣モドキとは言え簡単には突破できない。


紛れもなく、歴代の対魔戦闘を見ても、ここまで圧倒的な遠距離火力を揃えた戦闘はなかっただろう。


しかし、これまでの戦争であれば、一方的に蹂躙しても可笑しくない様な弾幕の中、それを覆す魔人が戦場に出てきていた。

それに最初に気づいたのは勿論、千里眼の勇者である。


相手は、ヨミ。


不死の王の復活を何千年前もの間、魔界の奥地で待ち続けた最古の魔人である。


「アレックス、マズイ!右方に魔獣……いや、魔人かもしれない!緑色の植物みたいな奴が大量に湧いてきて、銃火器隊の処理能力を超える物量で迫って来てる!!」

「なんだと!?」


アレックスが驚いたのも無理はなく、今回の銃兵は以前の王女救出任務と違い、聖殿戦争と言う人類の存亡を賭けた戦いである為に、連れてきた戦力も当然、比較にならない。

それどころか、実働可能な部隊の約9割をアレックスは任されていたのだ。

幾ら帝国が工業国とは言え、たった一つの見本を渡せば今まで存在すらしなかった銃を作れるハズもなく、これ程の大部隊を揃えるのは苦労したものだ。

それ程までに苦労した大部隊を展開したにも関わらず、徐々に押されたのではなく、唐突に処理能力以上の敵が現れたのは、似合わかには信じれない出来事だ。


だが、だからと言って、ここで手をこまねいている訳にもいかず、アレックスは銃騎隊に指示を出す。


「右方へ展開するぞ!目標は緑の魔人を最優先に殲滅をする!」


その声を合図に銃騎隊は、蔓の魔人の元へと駆け出していった。

ちょっと投稿に間が空いてしまいました……。

少し油断すると、あっという間に時間が立っている気がします。が、とりあえず、目標の年内には終わりそうですね。


今回、数字が付いて無いのは、三人称視点になっているからです。

次の話はケーファーかなぁ。ケーファーにも二話使いそう。


恐らく、ケーファー→リュート→カムイ→アレックス→ミナ です。


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