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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
終章 傾国の魔女
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百十三話 100と霧の谷


「魔剣召喚!皆、伏せて!!」


ミナがそう叫ぶとオレ達から少し離れた周囲の地面に多数の魔剣が上から降り注ぎ、そのまま突き刺さる。

しかし、身を屈めて待つが一向に敵の攻撃らしき魔法は届かずに、緊張した時間だけが流れてゆく。


「来ない……?」

「相手が攻撃して来ているのは霧の外側です。此処はまだ霧の谷の中央部。光や雷でもない限り魔法が届くには少し時間が……って、来ます!」


その次の瞬間に、炎の魔法が降り注ぎ辺り一面を焼いていく。

幸いにも霧の谷は濃霧に包まれただけの平地であり、炎に囲まれる様な事はなく、周囲に突き刺さる魔剣が触れる魔法を無効化してくれるが距離が離れている以上、オレに反撃の術はない。


「ミナ、魔力の位置を探知して反撃できないか?」

「無理。この状態だと直線的な攻撃は自分の魔剣に消されちゃうし、山なりに攻撃するのは当てる自信がない。ケーファーは?」

「魔力の探知とかあんまり得意じゃないんだよね」


つまりは、霧の谷を抜けて近接戦に持ち込むしかないらしい。

敵の魔法攻撃も、どうやら正確に此方の位置を把握している訳ではないらしく、相当に散らばっている為に、すぐに直撃を貰う事はないだろうが、延々と攻撃を続けていればいつかは当たるだろうし。

かと言って接近すれば、敵の魔法攻撃の精度は上がるだろうし、悩ましい所だ。


「魔法剣、使っちゃう?」

「神威も炎龍もいまいち適した状況じゃないと思うけど……」

「新しいの作ればいいじゃない。ていうか、何個か考えてあるし、一個使うよ?」


事も無げに魔女はそう言った。

普通、新しい魔法と言うのはそうそう出来る物じゃないんだが、彼女の常識は違うらしい。


「発動したら走って、此処を抜けるわよ。対魔法に対しては、ほぼ無敵の魔法剣だから敵の魔法は気にしなくて大丈夫。抜けたら……どうしよ?」

「オレとケーファーが前に出るから、ミナが範囲殲滅、ルーシーは手が足りなさそうな所をサポートしてくれ。天使さんは無理しないようにな」

「わ、わかった」

「リュート殿、俺は……?」

「……忘れてた。好きに動けばいいんじゃないか?」

「そんな適当な!!」







ミナから貰った新しい魔法剣を発動したまま霧の中を走り続ける。

と言ってもオレの手に握られているのは魔剣の黒い柄だけであり、その刃は存在しない。いや、正確には存在しない訳ではないのが、斬るという目的を果たせる形ではない。


「もうすぐ霧の谷を抜けます。敵には最低でも一人魔人が居るので気をつけてください!」


天使の言う通り、確かに辺の霧は薄くなっていて、振り返れば一番後ろにいるミナの顔もよく見える程の視界は確保できている。


「リュート、一度、魔法剣を解除する。その魔法剣を使ってる時はリュートも私も攻撃できない」

「そこだけは不便だな……。しかし、随分と助かった」


そうして、霧の谷の視界は更に開けて、オレの手にある黒い塚に銀に輝く刃が戻ってくるのと同時に朧ろ気ながら敵の姿を捉える事ができる。

その総数は30程度であり、ミナやケーファーが居るなら数はそんなに問題にならない。


「あの弾幕を抜けてきたか!」


無傷で魔法の嵐を抜けてきたのが、そんなに予想外だったのか敵は焦ってそんな言葉を口にする。

ソイツは列の戦闘に位置していて好都合にも狙いやすい場所に陣取っている。

魔物は勿論の事、魔獣でさえ人語を喋る種など滅多にいないのだから、その言葉を発した奴こそが、一番注意すべき魔人が自ら場所を明かしてくれた様なものだ。


「ミナ!」

「わかってる」


援護を……と言おうとしたのだが、魔人に向かって走り出した直後、オレが言葉を発するのと同時に、すでに氷の槍が隣を高速で通り過ぎて行った。

多少は予想していたが、魔人が連れているのは白黒まだらの怪物の集団であり、犬型と人型……にしては、やや大きい個体が多くを占めている。

魔法攻撃を打ってきたのは、恐らくは犬型だろう。どういう訳かは知らないが、あの白黒の敵はソレと同型の魔獣に能力が似通っている傾向にあり、犬型はウェアウルフ、人型はオーガと同じ様な能力を持っていると考えていい。

……耐久力だけは、やたら滅多に高いがな。


氷の槍が魔人の近くに居た二匹の人型を容赦なく串刺しにし、一時的にオレと魔人の一騎打ちの状態を作ってくれる。


「此処に居たのが不運だったな、魔人!」

「人如きが、勝てると思っているのか!!」


魔獣の群れに任せて下がれば、確実に有利な状況に持ち込めただろうに、魔人はその自信からか、逆に前に出て、その手から伸びた爪らしき物体で斬りかかってくる。

ほぼ人型ながらも、どこか細っそりとした体躯の魔人は身長こそ非常に高いが、それでも人類の範疇だ。

強いて言うならば肌の色だけが、赤褐色地みているが、その手から伸びる異常な刃物に近い爪以外は不健康そうな人間そのものだ。

しかし、その力はケーファーやミナと同じ様に魔力で強化されていて、常人とは比べ物にならない。


ひと呼吸を置いて、魔剣を振る。

先祖返りの能力を使ってないとはいえ、ほぼ全力で振った剣はあっさりと魔人に受け止められ、跳ね飛ばされた。

ここまで力の差があると、王宮剣術の効果は薄く、対魔獣戦の力任せの技に頼らなければ行けないが、流石に魔人ともなると一筋縄では行かないようだ。


「中々やるな、人間よ。だが、不死の王より直々に天界との境界線の防衛を任された程の魔人である俺には遠く及ばぬ」

「辺境に飛ばされただけの魔人がよく言うな。強い奴ってのは、魔王城の警備か、聖殿都市の戦いに駆り出されている物じゃないのか?」

「余程死にたいと見える!!」


激昂した魔人は力任せに剣に似せた爪を力任せに振りかざし、それを受けるオレは一撃ごとに剣が跳ね飛ばされるが、その程度は魔獣戦でもよくある事で、この魔人の力量はともかく技量の不足は否めない。


しかし、純粋な力の前に突破口を開けないのも事実で、どうにも攻め倦ねている。と、不意に涼しい風にが顔を撫で、それが魔剣ミヅキから注がれている事に気づく。


魔法剣神威。


発動のトリガーが居合構えの為に、このまま斬り合っていても効果はないが、敵の殲滅に忙しい中、ミナが攻め倦ねているオレを見て用意してくれた一手だろう。

ありがとう、と心の中でお礼を言い、丁度大上段に構え剣を振り下ろそうとしている敵の剣線を体を捻り避け、剣を腰に当て神威発動の条件を満たし、そのまま右足を軸に体を一回転させ剣を振り切る。


「魔法剣神威!」


魔人も咄嗟に爪を交差させ防御するが、風の刃はソレすらも削りきり、本体を吹き飛ばす……が、どうやら、その衝撃で風の刃が左右に割れてしまった様で斬撃としての機能は果たせなかったのは流石は魔人というべきか。


「ぐ、うおおおおぉ!?貴様、人間がぁ!!」


半ばから折れた爪はどうやら、直ぐには再生できない様で魔人は武器を奪われた状態で、その場で腕をデタラメに振り回しイラついている。

追撃を仕掛けたい気もするが、吹っ飛ばしてしまったせいで、敵の魔獣に守られた状態になってしまった為に、此方も一旦下がった方が良いだろう。


大きく後退し、ケーファーが後衛陣の壁をやっていた位置まで戻り、敵方を見ると数は大凡半分まで減っていた。

当然、此方の損害は0であり、この勝負は既に見えたと言えるだろう。


しかし、それにも関わらず魔人の士気は未だ衰えておらず、勝てると思い込んでいる様だ。


「ふ、ははは……よく考えたら人間をまともに相手にするのも馬鹿らしい。30からなる魔獣軍の攻撃を受けて生きていられるハズもない脆弱な種族だ。そこで、死ね」


どうやら、白黒の魔獣は魔人の言う事を聞くようで、奴の言葉に呼応する様に犬型がファイアボールを打つ体制に入り、口から炎が吹き出し始める。


ていうか、此奴は魔獣軍が半壊している事にも気づいていないのか?

接近戦に強い巨人型を優先的に倒していたようで、犬型はまだ多く残ってると言え、ウェアウルフのファイアボールは連射が効かず、一斉に放てば壁となる巨人型の残りが少ない以上、比較的簡単に範囲殲滅できるだろう。

やはり、辺境に居るだけあって、魔人の中でも余り優秀ではない魔人の様だ。


「リュート。さっきと同じ様に魔法剣。その間に私は溜める」

「了解。ファイアボールを撃った後に展開する。皆、余り距離を開けずにかたまれ!」


数個のファイアボール程度では到底全滅はしないが、手傷を負うのも馬鹿らしいので、ここはきちんと無効化させて貰おう。


「放て、変異種共!!」

「魔法剣、霧之」


ミナが以前、霧の谷に来た時に思いついたという魔法剣。

名前に谷が付いていないのは語感の問題だとは、ミナ談。

その効果は単純に魔剣の刃を霧状にして散布するだけという神威や炎龍召喚に比べたら単純極まりない物で気軽に扱える。


そんな単純な物だが……魔剣は魔剣であり、その特性は何ら損なわれていない。


ウェアウルフの放った複数個の火球は霧に触れた瞬間に、その温度を失い霧散する。


「くくく、ははは!人間風情があっ!」


既に魔人は予想外の事態にその正気を保っているようには見えない。


広範囲に霧を散布し、その中では敵味方問わず魔法の効力を発揮できない対魔法に置いては無敵とも言える魔法剣。

それが、ミナのくれた新しい力だった。

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