百十一話 100と最終決戦パーティー
リズの発言にしばし唖然とする。
魔人であり、味方とも知れない、指揮経験もないケーファーに西の連邦が部隊を預ける?ありえない話だ。
西の連邦には亜人が多く、個々の兵力が高い代わりに兵の統率力も決して高いとは言えず、平均的な武器の質は東の帝国に劣り、魔法技術では北の王国に劣る。
そんな一癖も二癖もある兵を魔人ケーファーに預けると言う思想がそもそも、理解の範疇を超えている。
いや、それを差し引いたとしても……だ。
「すまない。ケーファーは此方に居て貰わなきゃ困る」
「あら、流石リュート様です。何かするつもりなのですね?」
只でさえ人は足りないのだから、ケーファーに部隊を付け聖殿都市に取られる訳には行かない、という事で素直に言うと、それだけでリズは何かに感づいたようだ。
「……流石に静観できる状況じゃないからな。オレやミナも不死の王に対しては独自に手を打つ。その為には手練が数人欲しい。ケーファー程の代わりはいないし、居たとしても両方欲しい」
「ふふ、相変わらずリュート様は我が儘ですわ。まぁ、この話はお願いでして、強制ではありませんし断って頂いても何の問題もありません。私自身何故、向こうがこの様な話を振ってきたのか疑問に思う程ですわ」
そう言いながらリズは人差指を顎に当て、理由を考えている様だが何も思い当たる事はないようだ。
話自体も本当に伝えて欲しいと頼まれて居た程度の様で、リズがそれ以上何かを言う事はなく、ミナと歓談に入っている。
しかし、目敏いリズはオレ達が『色々知っている』と確信したようで、先程から天使の事や戦争の状況を細かく聞いてくる。
中でも、一番度肝を抜かれたのは、この発言だ。
「それにしても、リュート様は今回の魔王の事を不死の王と呼ぶのですね?」
「……っ!?」
「こふっ!」
オレは一瞬言葉を失い、ミナは口にしていたお茶を小さく吹く。
ケーファーの事を魔王と言わないように気をつけていたのだが、そのせいで現魔王である不死の王までは気が回らなかった。
公爵家の令嬢であるリズがどこまで知っているかはわからないが、魔王の正体については伏せられている可能性が高い……と言うよりは王国の殆どが復活した初代魔王だと知らない可能性が高い。精々が、天軍と直接話しているお偉いさんが知っている程度だろう。
それを直接的にわかりやすく、不死の王なんて発言していたのは迂闊にも程がある。
「まるで、今代の魔王は死なない体を持っているかの様な表現ですすねぇ?リュート様。そう、まるで伝説の初代魔王の様に」
笑顔で語尾にハートマークをつけて言うリズは、まるで獲物を捕まえた猫の様に楽しげに自慢気だった。
「できれば……忘れてくれると助かる」
「構いませんけど他では気をつけてくださいませ。正直に言いますと、私はリュート様が何とかしてくれると思っているので、今の魔王がどんな存在だろうと構わないのです。が、悪戯に広まれば無用な混乱を起こす可能性があります」
「そうね……。ありがとう、リズ。私たちが迂闊だったわ」
ミナも頭に手を当て反省しているが、今回の場合原因は明らかにオレだろう。
「それにしても、相手が不死の王ともなるとリュート様はご自身の魔剣で倒すつもりですね。その為には不死の王と相対せねばなりませんし、手段は検討も付きませんが伝説の英雄シグルドの様に魔王城に少人数で攻めるのでしょうか?でしたら、幾ら何でも4人というのは少なすぎる気がしますが……其の辺はどうなのですか?」
「リズ、まったく忘れる気ないね。まぁ、広めなければ良いんだが……大体その通りだよ。魔王が聖殿都市に攻めてくるなら、横腹を突いて奇襲をかける。それ意外の状況はその時考える。どうにも人数不足は否めないがな……」
「人手、ですか。そういえば、カムイ様が王城に滞在していたハズですが……」
「カムイが!?」
てっきり前線に出ていると思っていたカムイが王城にいると聞き思わず立ち上がる。
彼ほどの強さがあれば、対魔人戦も申し分ないのだが、それ程の男が前線に出ていないのには、やはりと言える理由があった。
「はい。ですが詳しい事はお聞きしていませんが、怪我の療養中だそうでして……戦える状況なのか……」
そういえば、炎の獣と戦った後、行方不明になってたんだった。
どうせ無事だろうと思っていたせいで、すっかり忘れていたが、それなりの手傷を負っていたようで、紛いなりにも人間だったかと妙な関心を覚える。
しかし、怪我なら……直せばいいか。と、気軽に考えて隣にいるミナに視線を向けると彼女も黙ったまま首を小さく縦に振ったので同じ事を考えているのだろう。
まったくもって……なんて不便で便利な能力だ。
「リズ、済まないが、ちょっと王城に行ってくる」
「あら。もう少しゆっくりして行ってくれてもいいのではないですか?」
「ごめんね、リズ。私たちも余り時間がないのよ。戦争が終わったら……ゆっくり話しましょう?」
「何、言ってるんだ。とりあえず王城に行くだけだよ。野宿するのもごめんだし、できれば泊めてもらいたいんだけど、構わないか?」
「あら」
リズは嬉しそうに軽く手を叩き、ミナは少し寂しそうだった表情が一転して驚いたソレに変わる。
「どうせカムイの要件はすぐに終わるし、ケーファーも呼んで公爵の世話になった方がいいだろう?オレも快適なベッドで寝たい」
天使領域に宿なんてない。野宿は慣れているが快適な場所で寝れるのに逃す手段はない。宿を取るにも金がかかるし、リズはミナと一緒に居たいだろう。
公爵は忙しいかもしれないが、それでも歓迎してくれるだろう。
「公爵にあったら頼んでおいてくれ。明日には出るから、今晩だけで良い」
「はい。お父様が難色を示しても意地でも押し通しますわ」
そう言って嬉しそうに片手を振り見送るリズを後ろに公爵家を出る。
カムイもあれでいて戦いに悦を見出すタイプなのだから、参戦できないのは、さぞ悔しい事だろう。今からでは通常の移動手段では聖殿都市には間に合わないし、オレ達の戦いに巻き込む事は十分に可能だ。
待ってろよ。
その腕を振るう場所を用意してやる!
◆
そうして、王城の医務室に付いたはいいが、そこには予想以上の光景が広がっていた。
「王女が、前線に出るのに……俺はこんな所で何をしているんだ……!」
と、むさ苦しい男がベッドを強く叩きながら泣いている。はっきり言って、ちょっと怖い。
ミナなんて呆れた視線を向ける所か、軽く引いているレベルだ。
ついでに、その隣には何故か兄さんもいる……いや、同じ場所で戦ってたのだから、怪我をして一緒になっているのも不自然ではないのか。
「リュート。アレ、本当にいるの?」
「いや、うん。気持ちはわかるが、強いんだよ、アレでも」
周りの医術師や奇人変人の多い治癒術師まで一定の距離を置いている所を見ると、しばらくあの状態だったのだろう。
「で、兄さん。できたら状況説明して欲しいんだけど」
「俺としては、何でお前らが此処にいるか、の方が気になる訳だが……」
「天使の大使」
「はぁ!?」
オレが実家に行ったという話はリズも知っているのだから、兄さんが知っていても何の不思議もない。
それならば、逆に何故、今、王都に居るか。を疑問に思うのは当然だ。
ケルロンでさえも走破できる距離ではない。
だから、一応の事実も教えるが……この理由も随分巫山戯てるな。と口に出してから思う。
「詳しい事は後にしてくれ。とりあえず、カムイがどうしてこうなってるのか知りたいんだが」
そう言いながら、カムイの肩に慰めるように手を置く。
包帯が巻かれているとは言え、上半身はほぼ裸で肩は露出している姿で歯を食いしばり泣いている姿は素直に怖い。
いっそ号泣していた方が、只の迷惑ですむ。
「……レーナ王女が前線に出てな。それなのに、自分はこんな所で何をしているのか、ってな」
「王女が?死にに行くような物だろう!?」
「死にに行くんだよ。最前線に近い場所で直接指揮を取る。実際に指揮を取るのは副官辺の有能な人物だが、王族が姿を見せているのと、そうでないのとでは士気が違う」
……確かに合理的な手だ。
元より、聖殿都市を抜かれると人類側は、かなり不利な状況になる。
それならば、王女の命一つ賭けるだけで勝率が上がるならやらない手はない……と、理屈では思えても納得はできない。
だけど……悔しい事にオレに撃てる手はない。ならば、自分の仕事を全うするしかないだろう。
「カムイ。お前はソレでいいのか?」
「っ!!良いわけがないであろう!だが、この体は未だ思い通りに動かぬ!貴様にわかるか?もし、聖殿都市が負ければ確かに俺の出番だろう!魔王だろうが魔人だろうが切り払ってやる!だが、その時には王女はいないのだ!」
「怪我一つない体して甘えるな。お前みたいな脳天気に生きている奴が、怪我なんてするハズないだろう?」
「リュート殿、貴様っ!!」
明らかに挑発めいたオレの発言にカムイはベッドから起き上がり、素早い動作でオレの胸ぐらを掴む。
その動作は明らかに怪我人には不可能な物であり、カムイの体に何の異常もない事を示す程であり、カムイ自身咄嗟に動いた自分に驚愕していた。
「どこか痛い所はあるか?」
「いや……しかし、これは……?」
「大丈夫そうだな。しかし、開戦は近い。今から聖殿都市に向かったのでは到底間に合うハズもない。どうだ、カムイ。オレ達を手伝わないか?魔王軍との戦いの場を用意してやる」
そう言い差し出すオレの右手を。
まだ、困惑から抜けない状態のカムイが、決意を決め左手で握り返す。
敵となる魔人の情報はケーファーから聞いている。
第一に、魔王であり不死の王。
そして、その側近である植物の魔人も出てくるだろうとケーファーは言っていた。
それに加え、力任せのガルフスという魔人に、どうして向こう側に付いたかはわからないが、緑髪の勇者。
四天王の一人は既に何者かに殺られていて、もう一人は今回の戦いに積極的ではないらしく、参戦の可能性は低い、が警戒は解けない。
向こう側の勢力を考えるに、どうしても、一チーム足りない。
不死の王に対してはオレ一人の力では打開策は無い。ミナの協力がいる。
そして、ケーファーは一人でも十分強いが、ルーシーはそうも行かない。彼女はケーファーのサポート役なのだ。
各個撃破が叶えば望ましいが、不死の王にたどり着く前に力を使い果してしまえば、元も子もない。
できれば、そう……二番目の勇者ケネスの様な使い手が欲しかった。
兄さんであれば、強さは満たしているが近衛騎士という立場上、賭博の様な作戦にいきなり参加はできないだろう。
カムイを誘えたのは僥倖だが、それでもやはり、一抹の不安が残る。
それでも……この戦力でやるしかない。
最近にしては更新が遅くなってしましました。
理由というのも、納得のできる話がかけなかったからで、この話も満足の行く出来ではなかった物の更新を長い間止めたくなかったので、とりあえず書いて投稿したような形ですorz
話の内容的には、同じなのですが、どうにも希に書きにくい話がgggg
そんな中途半端な状態で上げてしまいました。ごめんなさい。そのうち大幅に修正するかもしれないです。
もう少しで、この章も終わり最終章に入ります。
誤字脱字報告感想等宜しくお願いします。