十一話 100の思考と1の帰る場所
ちょっと展開速すぎるかなと思いつつ十一話になります。
気づけば一日二話ペースになってますが、気づかないうちに文章劣化してそうで怖いです…。
そもそも元々が拙いですがorz
「え、部屋空いてないんですか…?」
宿屋のおじちゃんが、悪いねー。と苦笑いする。
「なんでも南の街が魔王に滅ぼされたらしくてねぇ……。行商人や街のお偉いさんが逃げ込んできてるせいで部屋がほとんどないんだ」
これは予想外だ。
こんな小さな町で宿がとれないとは思わなかった。
オレの家までは数時間で着くけど、なるべくなら夜に移動するのは避けたい。
理由は単純に魔物の奇襲を避け辛いからだ。
奴等には昼も夜もあったもんじゃない。
かといって小さな町じゃ他に宿はないだろう。
待てよ……。
「特別室も埋まってるんですか?」
特別室とは主に貴族連中が利用する部屋……ぶっちゃければ金持ち用の部屋だ。
余計な出費は好きじゃないがオレ一人ならともかくミナを野宿させるわけにはいかない。
「えぇ、空いてはいますが……お一人銀貨40枚になりますよ……?」
流石の値段だ。
しかし背に腹は変えれない。
オレは公爵から貰った袋から金貨を一枚取り出し渡す。
店員と隣にいるミナが驚いている。
明日は家に帰れるし、これくらいの出費は許容範囲だろう。
これでも商人だ。金は下手な貴族よりある。
実際にリュートほどの商人は一握りだが、それでも下級貴族よりは彼らの方が稼ぎやすい立場にいた。
盗賊や魔物に襲われる危険や破産するリスクはあるが違法か行商さえすれば商人はかなりの富を生み出す。
「す、すぐにお部屋を御用達いたします!」
店員は顔色を変えて階段を上がっていくのを見届けるとミナがオレの袖を引っ張ってくる。
大丈夫?
とでも言いたげな視線を向けられる。
最初は話かけても聞き流されるだけだったが、数時間馬車で過ごすうちにミナは大分柔らかくなった気がする。
今では一応の意志疎通を図ってくれるようにまでなった。
奴隷の買い手なんて警戒されて当然。もっと難航するかと思ったけど彼女はオレを見る努力をしてくれてる。
本当にありがたい。
この分なら家にも早く馴染んでくれるかなーとか思いつつ、大丈夫だよ。と言い頭に手を置く。
またぷいっとそっぽを向かれるが振り払われる事はなかった。
◆
「こちらでございます」
宿の人に案内された部屋は流石の豪華さであった。
オレとて普段はこんな部屋は利用しない。料金が10倍ほど違うから当たり前だ。
商人とは節約から始まるのだ。
適当に上着をかけ座る。ミナのローブもかけようとしたが首を振られた。
嬉しい事に気に入ってくれたようだ。
黒髪に黒い瞳と黒いスカート。
上は白い見慣れないシャツを着ている。
そしてさっき買った緑のローブ。買ったオレが言うのもなんだが似合っている。
こうしてみると改めて彼女は可愛いと思う。
家に帰った後は彼女の意志で自由にさせるができたら留まって欲しい。
ミナを観察してると向こうもこちらに気づいたらしくジト目で睨まれる。
苦笑を返しておくとコンコンと扉が叩かれた。
「もう出掛けるには夜も遅いかと思いお食事を用意いたしました。よろしければ如何でしょうか?」
おぉ……。
酒場にでも行こうと思ったけどここで食べれるなら好意に甘えよう。流石、貴族御用達の部屋だ。サービスがすごい。
ベッドに座っているミナを見ると彼女も期待した目で見てきてる。昼食を食べてないのだ。シャルの実を三個食べただけではお腹も空くだろう。
ありがたく頂く事にする。
テーブルに並んだ食事に二人で手をつける。
急いで用意してくれたにしては悪くない食事だ。
ミナは器用にナイフとフォークを使い前にある肉を切り分け口に運んでいる。
……いや、器用すぎる。
フォークもナイフも数世代前の勇者がこの世界に伝えたものを貴族が好んで真似たものだ。
一般の民なら串で刺すかフォークだけで食べるのが普通だが、彼女はどう見てもナイフも使いなれている。
どこかでしっかりした教育を受けたのか?
確かハンスは彼女が滅んだ街から誘拐されたって……待て、さっきもそんな話を聞いたな。
「ミナ、食事中にすまない。少しいいか?」
本当なら食べ終わるのを待ったほうがいいだろう。
でも彼女の答えによっては明日からの予定を考え直さなければならない。
ミナは手を止めてオレが喋るのを不思議そうな顔をして待ってる。
「さっき、店主が南の街が滅ぼされた影響で部屋が埋まってるって言ってたんだ。ミナは……そこから来たのか?」
ミナは少し驚いたようだ。まぁ、こんな事をいきなり聞かれたら当たり前だろう。そして……彼女は小さく頷いた。
やっぱりか……時期が合いすぎてる。
「帰りたいか?」
彼女が頷いたら一度、家に寄った後送って行こう。帰る場所があるなら帰るべきだ。
でも彼女は帰りたいと言わなかった。
ふるふると首を横に振る。
「……帰りたくないのか?」
意外だった為、聞き直してしまう。だけど、これは正解だった。
ミナはなんて答えたらいいかわからないようだ。
「……自分の暮らしてた場所に帰りたい?」
ミナはこくこくと頷く。何が言いたいかわかってくれて嬉しいようだ。
「その街には帰らなくてもいいんだね」
こくん
「そこに帰るかい?奴隷の事は気にしなくていい。なんとかする」
少し寂しいけど、元々奴隷として使う気なんてない。構わないだろう。
でも彼女はまた悩む。
「ふむ……帰り方が……わからない?」
少しうつ向いて彼女はまたこくんと頷く。
……なるほど。自分がどこからきたかわからないのか。
「明日、オレの家に帰る。しばらくそこで一緒に暮らさないか?」
本来の目的をここで白状しよう。
別にオレは彼女をどうこうするつもりはない。家に招待した後は彼女自身に決めさせる。
ミナはしばらく迷っていたけどやがて首を傾げる。
いや、可愛いけどどうした。
……遠慮か?
「なに、部屋は沢山ある。元々そのつもりだったんだ。ミナさえ良ければ一緒に暮らそう。無理強いはしないけどな」
少し考えたようだが、やがて彼女は小さく頷いてくれた。
「ありがとう。さて、悪かったよ。食事を再開しよう」
気分を害してないか少し心配だったがミナはまたすぐに美味しそうにお肉を食べ始めた。
この時のオレが知るよりもないが、ミナにとっては一年間ずっと悩み続けた事だから今更であり、さらにオレと一緒にいることで、この世界に来て初めて少なからず安堵していた為、あまり気にならなかったようだ。
自分自身も食事を再開する。
うん、うまいな。
家に帰って落ちついたらミナの故郷の情報を調べるのもいいかもな。
それと彼女、言葉は喋れるようだが文字はあまり得意ではないようだ。
宿の受付で宿泊に関する契約事項を読めてないみたいだったし。
その辺を教えるのもいい。
◆
「ミナ、風呂に入らないか?」
食事が終わりシャルの実を食べているミナに言うと何時間かぶりにすごい睨まれた。
しばらくは敵意のある視線はなかったのに、これはどちらかと言えば殺意が籠っている。
「いや、一緒にじゃねーよ。部屋に備え付けのがあるから、先に入れって事だよ」
商人として普段は丁寧とまではいかずともやわらかい言葉を使っているが思わず地が出た。
にしても流石と言うべきか普通は共同風呂なのにこの部屋には備え付けのお風呂があった。
ミナは備え付けの寝巻きを手に取ると壁際を壁に背を向けスススススと移動する。右足動かないのに器用すぎんぞ。ていうか……。
「覗いたりもしないからゆっくりしてこい」
頭を抱えながら言ってはみたがミナの視線はどう考えてもオレを信用していない。
ミナは視線を一度も外す事なくバタンと脱衣場へのドアを閉じた。
おいおい、そんな態度ばかりとってると涙を流す事になるぜ?オレが。
とりあえずベットに腰を下ろし今日を振り返る。
騒がしい日だった。しかしそれはとても楽しい日だった。
ま、流石に少し疲れたな。
さっきまでミナが腰かけていたベッドに横になる。まだ少し暖かい。
このベッドはミナに使わせるか。ベッドは何個かある。
他の奴が少し離れたとこにあるのは主人と従者用だからだろう。
風呂からあがったらすぐ寝ようと思うが今はミナが入っているからどうしようもない。
とりあえず横になろう。
ベッドには特に力を入れているのか最高に気持ち良い。
◆
ミナがたっぷりと時間をかけ入浴を楽しんだ後、緊張しながら浴槽を出た頃にはリュートはすっかり寝こけていた。
「…………。」
何をしても良い相手を前にしてこれでは警戒していたミナも喜んでいいべきか女として自信を無くすべきか迷う。
ミナはどうしようか迷ったがせめて着替えくらいはしたほうがいいだろうとリュートを揺さぶる。
◆
不意に体を揺すられる感覚に意識が目覚める。
どうやら、疲れて寝ていたらしい。目を開けると黒髪の少女が傍に座っていた。
「ん……、ミナ……?あぁ、いつの間にか寝てたか。ありがとう」
こくこくとミナは頷く。
ミナは警戒してるのか笑ってこそくれないが、その表情はわかりやすい。
んっ!と背を伸ばしてベッドから立つと交代とばかりにミナがベッドに飛び込む。
あぁ、駄目だ。眠い。
仕方がない着替えだけ済ませて寝よう。寝起きというのは一番眠いんだっ。
ここで着替えしまいたいがミナがいる。脱衣場までは頑張るか……。
中に入るとかなり豪華な風呂が見える。
湯も綺麗だ。
客が入る前に水を入れ後は朝までずっと火で沸かして置くのだろう。
起きたら入るのも悪くない。
備え付けの薄着に着替え服はかけておく。
少々不衛生だがいきなり王宮に飛ばされた為、着替えは少ない。明日も着るものもある。
とりあえずその辺は起きたら考えよう。
手袋だけは忘れず着け直し一番近くにあるベッドに体を投げ出す。
オレの意識は速攻で深い眠りに落ちていった……。
◆
リュートがすっかり寝付いた頃、ミナは硬直していた。
ミナは、お風呂は好きだった。久しぶりにゆっくりと一人でお風呂に入り彼女はご機嫌だった。
リュートが脱衣場に入ってからはふかふかのベッドの感触を堪能していた。
ちなみに制服は壁にかけてきたがローブは畳んで枕の上に置いてある。自分の近くに置いておきたかったのだ。
少し眠くなってきたらリュートも脱衣場から出てきた。着替えだけですませたらしい。
そしてリュートは……ミナが寝転がってるベッドに体を投げ出した。
一瞬、女として警戒したが、すぐにリュートの寝息が聞こえてくる。
他のベッドに移ろうかとも考えたが何故か少し離れてるし、このベッドが一番寝心地が良さそう。
よくみたら杖はリュートの寝てる向こう側にある。
動くなら杖か他のベッドまで這っていく事になる。
少し考えた結論として彼女は今日だけは気にしない事にした。
ベッドの上にそのままダイブしてきたリュートに布団をかけて自分も端っこで布団にくるまる。
このベッドだけはとても大きい。二人で寝てもまったく窮屈じゃない。
ミナは少し緊張していたけどふかふかなベッドに疲れた体はよく眠れそうだった。
結局、彼女も数分と経たないうちに自分の意識を手放した。
安心している自分に気がつかないフリをして……。