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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
五章 天に住まう者
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百六話 100と天使長


人間の世界には伝わっていない天使と魔人の誕生秘話。

魔人については、ある程度の予測はついていた。魔王が現れるまで、魔人や魔獣は一切姿を見せていなかったのだから、魔王が関係してると想像する事はできる。

天使までもが、魔王あっての存在だというのはオレも多少驚いたが、それ以上にミナが驚いていたようで、天使長に詰問する。


「それなら、貴方達『天使』は魔人と同じ存在だというの?」

「……私共は、長い年月の末に、魔人に対する憎しみは大分薄れています。が、天使軍の皆には、その発言はお控えください。彼らは今でも強い憎しみに囚われ戦っているのです」

「そうね、ごめんなさい。今のは私が軽率だったわ。ちょっと、驚いて……ね」

「いえ、お気になさらず。言っての通り、私達天使の約半数は既に魔人に対する憎しみは薄れてきていて殆どありません。中には、貴方達の知っての通り魔人と恋仲に落ちる個体もいる程です」


そう言って天使長は苦笑いをする。

その言葉は明らかにルーシーの事を指しているが、半ば諦めているのか咎めるような物ではなく、どこか哀愁を感じさせる物だった。

どうにも、天使長の言う事や、他の天使の反応を見ると、天使が魔の者に対して好戦的だというのは、全ての天使だけではなく、未だ憎しみが抜けない者達らしい。

となると、今回人間の援軍に来たのは、その好戦的な天使達なのだろうが、そうなると他の疑問が一つ思い浮かぶ。


「何故、今回に限って援軍を?オレの知っている限りでは天使が人間と魔王の争いに介入した事はないハズだが」

「それは、此方としても誤算なのです。私達はいつも、裏で魔人と戦っていましたが、表立って戦う事はありませんでしたし、これからもないハズでした。端的に言えば、人間からどう見られるのが怖かったのです。が、今回のは平たく言えば暴走です」

「暴走……?」


不死の王戦の前にルーシーが体調を崩した事を思い出す。

天使軍の暴走だと言うならば、あれに似たような事が天使全体に起こっていたのだろうか?


「これは憶測でしかないのですが……恐らく不死の王に対する憎しみは普通の魔人よりも強く体に刻まれていたのでしょう。それに耐え切れずに、周りの静止を振り切って出撃したのが、天使軍の半数程。その半数を守る為に残りの天使軍が全て出払っています。御陰で突如出現したセラフィックゲートに彼女達の様な戦闘に向いていない者達は送り出す事になってしまいましたが……。争う意思の無い方で何よりでした」

「それは、オレ達としてもありがたかったな。人間も天使も魔人も、どう動いているかさっぱりわからなかったせいで、何をするべきか迷ってな」

「貴方達は、不死の王に勝てると思っていますか?」


それまで、温和な笑みを浮かべながら話していた、天使長だが、その時だけは、いささか真剣な表情で声を低く聞いてきた。

恐らく不死の王の恐ろしさを本当に理解しているのはアウルだけだろう。しかし、彼らも、それに次いで知っているのではないのだろうか?

確かに人間側は不死の王の事を伝説と化した御伽噺の様な言い伝えでしか知らない。だが、だからこそ言うべきだとオレは思う。


天使の長に対し強く、成し遂げて見せると意思を込めて。


「勝ちますよ。出なければ人間の歴史は終わってしまいますから」

「……そうですか。いや、安心しました。実を言いますと天使も一枚岩と言う訳には行っていなくてですね。どうでしょう?私達に協力しては頂けませんか?」

「見返り次第、と言いたい所だが、ちょっと待て。なんだ一枚岩じゃないって」


組織って物は団結力が非常に重要な物となる。

勿論、大きくなれば大きく成程、それが難しいのは当然分かってはいるが、天軍の規模はお世辞にも大きいとは言えない。

個々の力を、ルーシーを基準にして考えると軍としては優秀だが、決して統制の取れない人数ではないハズだ。


「天軍の他にも軍って言えるような、組織がいるのか?」


その問に対して、天使長は額に手を当てて目線を上げながら大げさに笑った後に、とんでもない事を言い出した。


「いえ、そもそも天軍が制御不能なんです」

「……は?」

「いやいや、天軍が制御できていたら、幾ら同胞の為でも天使の領域の守りを空っぽにするだなんて有り得ませんよ。実は天軍は独立して勝手に動いてるんです。私達は天使領域の発展と平穏を守る為に事決めをし、彼らは気ままに魔人を狩る。そんな感じです」

「いやいやいやいやいや、軍が国の意向を無視して動くとか聞いた事ないぞ!?」

「そんな事言われても、そもそも私達、憎しみが薄れた穏健派と、未だに強い憎しみを持つ過激派では、根本的な考えが違うんですよ。ついでに、言うと戦闘力も違います。肉体的には同じハズなんですけど、感情ってそんなに重要なんですかね?」

「知るか!」


話を細部まで聞くと一応は連携して動いているらしいが、それぞれの指揮系統は全く別であるらしい。

基本的には協力しつつ、だからと言って利害が合わなければ命令を聞く必要必要はなく、好きに魔人を狩りにでかける……なんていう連中だ。

軍と言うよりは傭兵のソレに近い。


「そんな訳で私達にも協力者が必要なんですよ。リュートさん、強いんじゃないですか?ケーファーも居ますし。不死の王を倒すのは天使と人間の共通の利益になりますし、力を貸してくださいよ」


何が腹立たしいって、この薄ら笑いを浮かべた男の言い分は言い方こそ適当なのだが、内容はまったくもって妥当なのだ。

ツッコミ所は多くあるが、現状で取れる手段の中で現実的な物を提示してきている。


「はぁ……。とりあえず、条件だ。悪いが、こっちは魔王を倒す手段が無い。それに、まずは魔王の城までの道を切り開くのも一苦労。天軍が人間に対して協力を呼びかけたとしたら、オレ達個人への協力なんて望めない。その辺りを踏まえて話を進めて欲しい」


魔王に対しての対抗策は一応考えてはいるが、できれば取りたくない方法だ。そして、魔剣でどうにかできる可能性もまだあるが、その辺りは不確定要素が強すぎる為に敢えて伏せて伝えない。


「はい。それでは、まず早く話が終わる魔王城への道から話させて貰いますね。天使の領域と魔人領は一部が繋がっています。そこを使えば、丸一日程歩けば魔王城です。以上」


此奴、またサラっととんでもない事を言いやがった。

人間界の最南端である聖殿都市から馬車を飛ばしても半月程かかるのに、それをたった1日歩けば着くだと?

しかし、それを言う前に、天使長は話を続ける。


「そして、魔王を倒す方法ですが……直接倒すのは私達は不可能だと思っています。天軍は封印を掛けるつもりらしいですが、不死の王は老いもしませんし、ある程度以上の怪我を負えば万全な状態まで一気に回復します。封印は驚異の先延ばしにしかならないので、できれば取りたくありません」

「待って。不死の王は老化もしないの?」


今まで黙っていたミナが突如、口を挟むが天使長は気にした様子もなく、その質問に答えてくれる。


「はい。実際に数千年前の不死の王との戦いは10年以上続いたらしいですが、彼が年を取った様子は一切なかったそうです。流石に、その時に生きていた天使は、今は居ないので文献の情報になりますけどね。しかし、数千の時を越えて復活したのですから、間違いないでしょう」

「……そうね。ありがと。それと、私、魔法にはちょっと自信あるんだけど、数百年単位の封印で後世の人間には悪いけど、準備を整えて貰って倒すのは駄目なの?」

「それも考えましたが、不死の王は少なくとも今いる天使の誰よりも魔法に精通しています。正直に言いますと封印自体が現実的ではないと考えているのです」


そういえば不死の王は数百年前、大魔法使いアリスとも戦ったのだ。

それも彼女だけではなく、前衛のシグルドとアウル。補助のファリスに回復役のカンナギというバランスの取れたパーティーとだ。

魔法使いとしても高いレベルでなければ、初代勇者パーティーを追い詰める事はできないだろう。


「なら、どうやって魔王を倒すと?」

「倒すのではなく、無効化します。少なくとも、戦いたくないと思わせる事さえできれば、悠久とも思える時間を平穏に暮らしてくれるでしょう」

「具体的な方法はあるんだろうな?」

「あはは、痛みですよ。痛み。完膚無きまでに殺せば、そのうち不死の王も嫌になるでしょう」

「ッ!?」


天使の中には魔人に対する憎しみが薄れた者も多い。が、どうやら、憎しみが薄れたというだけで必要さえあれば、手段は問わないようだ。

オレもミナも、天使長のその発言には思わず息を飲んだ。

確かに不死の王が発動するまでの、痛みは耐え難いものがある。

理論的には可能だろうが、それまでに何度、魔人を殺せば良いのかなんて検討もつかない。


その言い知れぬ不安を拭う様に、軸をズラして反論をする。


「それはオレ達が実力で勝ってる前提だろう?相手は初代勇者パーティーがなんとか倒した程の最強の魔王だぞ?」

「そうは言ってもですね。ほとんどの作戦は実力を上回ってないと使えないですよ?それに、初代初代って言いますけど、そんな数千年前の出来事が本当に最強なんですかね?私としては、そこから疑問なのですが」


希望的観測にも聞こえるが、天使長の言う事にも一理ある。

偶然にも最初の戦争で現れた魔王と勇者が本当に最強だったのか?と考えた事はなくもないが、調べる必要も意味も手段もなかった……ハズだった。


しかし、何にせよ痛みで、あの魔王が潰せるとも正直に言えば思えない。が、まず相対しなければ、何もできないのも事実。

それなら、この提案は受けてもいいだろう。


いざとなれば、ミナの幸せだけは守れる。


「わかりました、天使長。助力をお願いします。不死の王を……倒しましょう」


そう言うと彼は無言で手を差し伸べてきて、オレは強く、その手を握った。

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