百四話 100と天使の住処
さて、天界への道はできた。しかし、だからと言って簡単に踏み込めるハズもなく、オレ達はとりわけ一番大きな問題に付いて話合っていた。
「それで、ケーファーはどうするの?」
と、先端を切ったのはミナ。
「僕が行くと絶対に問題になると思うけど……」
「けど、ルーシーだけ連れてくとケーファーはどうなった?って話になるし、オレ達、人間だけで行っても怪しいだろう。そもそも、それだとセラフィックゲートを開けるハズがない」
「だよねー……」
ケーファーは元々、ルーシーと駆け落ちしてきたのだ。しかも、その際に展開の最奥まで行ってルーシーを連れ去ってきている。おまけに、ルーシーは展開の神器を幾つか貰ってきていて、それも問題になっていないとは考えにくい。
問題は山よりも高く積み上げられている。
「もうちょっと穏便に、なんとかならなかったの?アンタ達」
「そんな事言ったって、向こうが僕とルーシーを引き離したんだよ。それに、天使は何故か魔人を毛嫌いしてるから、天界に行った瞬間、武器を持った天使達に囲まれて大変だったんだよ?」
「本当に、人騒がせな恋愛ね……」
はぁ。と、目を伏せ魔女が溜息を吐くが、どうにも人の事は言えない気がする。
「しかし、天界に行く事、以外にやれる事はあるか?」
「今まで通り我関せず行商をするくらいしかないんじゃないの?」
「うーん、なんで魔剣が効かなかったか分かれば、倒す方法も分かるかもしれないけど……」
「私の神器に何か良い物あったかなぁ?」
上から、ミナ、ケーファー、ルーシーがそれぞれに答える。
まずは、ミナの意見からだが、正直な話、悪くないと思ってしまう。
そもそも、不死の魔人が居ると聞いて、それに対して自分達が対処できる術を持っていたから向かったに過ぎないが、魔剣の効果がないとなると前提が崩れている。が、だからと言って放って置いていいのか?と聞かれると首を縦に振る事を躊躇ってしまうのも事実だ。
そもそも、オレは魔剣を使わずに不死の王を、どうにかする手段は既に考えてある。実現可能かどうかは、まだわからないが、少なくとも時間稼ぎにはなるだろう。
そして、ケーファー。
こればっかりは、お手上げだ。
現に魔剣は、その効力を失った訳ではなく、あれからも幾つもの魔法を無効化している。
消せる魔力量に制限でもあるのかと思い地面に刺してレーザーカノンを直撃させて見たが、それすらも綺麗に消し去ったのだから、恐らくは関係ないだろう。
調べようにも同じく不死の王を持つオレの体を魔剣ミヅキが傷付ける事はない為に、不死の王本人の協力が必要だが、現実的ではない。
ついでに、ルーシー。
うん、頑張って探しておいてくれ。
常識外の武防具を持っているのだから、ありえない話ではないが、それに期待するのは駄目だろう。
「結局の所、天使の領域へ行くのが一番現実的だな」
最初から出ていた結論だが、改めて言うと他の三人も頷いてくれた。
そうなると、必要なのは何か会った時の対処方法だ。
「ルーシー、もし危なくなったら逃げるとしてセラフィックゲートは、すぐ閉じれるのか?」
「うーん、ちょっと掛かるよぉ。十分追いかけてこれるんじゃないかなぁ?」
「扉さえ閉じれれば、いざとなれば逃げれるんだが……飛ぶ場所を考えて逃げやすい場所にするか?」
「いっそ魔剣で斬っちゃえば?」
ミナの発言に一同は一瞬固まった。
魔剣で斬れば門は消滅し、追いかけてくる事は不可能だろう、が……。
「門を斬っても、又開けるのか?」
「やった事ないからわかんないよぉ。でも、開けなくてもいいんじゃない?襲われるなら、二度目に行く事はないんじゃないかな」
どうにも彼女は故郷にたいする思い入れという物がまったく無いようで、笑っている。
元の世界に帰るのを諦めているミナでさえも、懐かしそうに故郷の話をする時はあるというのに、ルーシーの居るべき場所は完全にケーファーの隣だけらしい。
「よし、なら基本的には話し合いに行く。争いは御法度だ。オレ達の戦いで地上に来てる天使軍と人間に亀裂を生じさせる訳には行かないから攻撃されるような事があれば、一目散にセラフィックゲートを辿り逃げた後に魔剣で消す、いいな?」
最終確認を取り、他の三人の「おー!」と言った小さな掛け声を聞き、オレ達は準備に入った。
とは、言ってもケルロンを連れて行く訳にも行かないので、携帯できる分の食料と装備のチェックだけなので、随分と手軽に済んだが。
ちなみに、馬車とケルロンはアティが責任を持って預かってくれるそうだ、ありがたい。
ルーシーが片手を視線の延長線上に起き、呪文を唱えると、金色に光る、人一人が十分に通れる大きさの門が現れる。
ミナの異世界の門と比べると、此方は完全に光っている穴と言った風で門と呼ぶには頼りないが、恐らく魔法の精度自体はルーシーの方が高いだろうから安心だ。
まずは安全の為にオレがセラフィックゲートを通り抜けようと右手から門に触れると、光の先にあるハズの体は視認する事ができず、当然、向こう側がどんな状況なのかも見えない。
覚悟を決めるしかないよな。
そう自分自身に言い聞かせ、一気に門を潜る。
その先には半ば予想通りとも言える光景が広がっていた。
軽装に身を包んだ天使が数人、門を半円形に囲み、槍やら剣やらを突き付けてきている。しかし、その視線に戦士ともなれば、必ずしも持っている自信はまったく感じられず、心なしか槍先も震えているように見える。
警戒すべき状況なのだが、奇妙な違和感を覚え、オレは敵対の意思がない事を伝える為に両手を軽く上に上げ、前に進む。
天使が相手でも、丸腰の此方を、いきなり攻撃をしてくる事はないだろうと思ったが、違う理由のように思えなくもない。
そうしているうちに、後ろからミナ、ルーシー、ケーファーの順番に次々とパーティーが現れる。
ミナの姿を見た彼らは怪訝そうに槍を構える手に力が入っていたが、ルーシーを見た事で明らかに安堵の表情を浮かべ、中には手に持つ武器の刃を下に向けた者も居たが、ケーファーを見た事で一様に怯えだし、武器を構えたまま後退しだした。
その状況を見て、先程まで抱いていた疑いが確信に変わる。
一応、武器を持って構えてきている以上は、此方を警戒しているのだろうが、彼らは全員、兵士ではない……もしくは実戦経験の浅い新兵だ。
何故、本土の警戒に歴戦の勇士を置かないのは気になる所ではあるが、彼らはオレ達に刃を向けるのが精一杯で実際に攻撃行動を取る事は恐らくは無いだろう。それは、此方としては非常に都合が良い事だ。
両手を下ろし、足を進めるとオレは武器を持ってないにも関わらず、天使達は徐々に後ずさっていく。
「き、貴様、何者だ!何故、我々の同胞が一緒にいる……いや、何故、魔人ケーファーまでもが、又しても、この地を踏みしめている!!」
天使の中の一人、肩口まで金色の髪を靡かせた女性が目を瞑り、二、三度顔を横に振ると恐怖を振り払うように叫んだ。
どう考えても、恐怖に囚われている彼女を少し気の毒に思い、後ろのケーファーを見ると頬を掻きながら苦笑いを返された。どうも、以前は本当に派手に暴れたようだ。
「少し聞きたい事があったな。オレはリュート。人間の商人なんだが、人間と魔界の情勢が分かる人に話を聞かせて貰いたいと思ってお邪魔させて貰った。交戦の意思はない」
「……本当、だろうな?」
「よくわからないが、この場にいるのは戦士と呼ぶには程遠い者ばかりだろう?やる気があるなら、すでに終わっているさ」
自分の優位を確保しようと、なるべく軽い口調でそう言うが、天使の女性は心の底から安堵した様に大きく息を吐き、額から目に掛かっていたフェイスガードを上に持ち上げ、構えていた槍の刃を下に下げる。
「突然、武器を向けた無礼をお許し頂きたい。今、戦闘に長けた者は全員、留守にしていてな、どうしても敏感になってしまう」
「人間界に来た天使の軍勢が原因なのか?」
「あぁ、そうだ。だが、私も詳しい事は知らなくてな……。しかも、魔人ケーファーの出現、正直な話、殺されるかと思った」
天使の女性は、まだ怯えを残した目でケーファーを見るとケーファーは苦笑しながら小さく手を振る。とりあえずは、本当に敵意はないと彼女は判断してくれたようだ。
此方としては都合が良いのだが、本当にそれでいいのか?天使。と、その警戒心の緩さに若干呆れもするが、ここの天使は皆、死を覚悟して慣れない武器を必死に手に取り飛んできたのだろう。
皆、それぞれが安心した様に力が抜けていて、今や武器を構えている者は誰一人としていなく、地面にへたりこんで居る者さえもいる。
どうやら、天使と言っても皆、戦闘に長けている訳でもないらしく、そうなると実はルーシーも天使としては強い方なのだろう。
「それでは客人。すまぬが、人間の相手は始めてでな……無礼があれば許してくれ。代わりと言っては安いが、今の情勢を知っている者の元へ案内しよう」
「あぁ、よろしく頼むよ、天使さん」
差し出された手を握り返し、親愛の握手をする。
しかし、そこで少しだけ困った表情でこう付け加えられた。
「だが……すまん。魔人を私達の住処に入れる訳には……できれば、リュートと、その女性だけに来て頂きたい……」
……うん、まぁ、そりゃそうだよな。
さて、少しばかり流れが早いか。
しかし、ここで横道にそれる話を書くのもどうかなぁと思ってる次第です。
どこかで、不死の王視点の説明回を入れるつもりですが、王都の話も書こうかな。多分、カムイ視点で。
王女の話もちょっと書かないと……気づいたら色々と詰まって来ている気がします。
誤字脱字報告感想等よろしくお願いします




