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世界に蔓延る勇者達  作者: 霧助
四章 不死の王
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百話 100と魔界の戦士


「だから失敗して、こっちが致命打受けるような技は実戦じゃ使うなって言っただろう!」

「肝が小さいな。それでも、俺の子か?決まれば勝てるような状況で百回に一回の失敗を恐れてどうする」

「実際に、二回失敗して全滅してるじゃねーかっ!」

「生きていれば、次の九十九回はまた勝てる。そして、現に俺は生きている」


防衛戦から戻り、たかが数時間も立たないうちに、俺と親父は口喧嘩を嗜んでいた。

何も本気で言い合っている訳ではなく、気性の荒い前衛二人が意見を交わし合えば、よくあるとまでは言わずとも、珍しくはない光景だ。

昔は一方的に言われるままで、オレが正論と思える意見を言っても実力が伴わなくては、親父の力技とも言える理論にねじふされるだけだったのが、口論となっていることを考えると、自分の成長を実感できて感慨深い物がある。

実際に、戦っていて、昔の自分より強い自覚はあっても日々の進歩など体感できるものではない。それ故の不安さもあったが、こうして見ると随分成長できたものだと思える。


いや、そもそも家を出てからの数年よりも、ミナと出会ってからの数ヶ月の方が確実に伸びてはいる。

魔剣、魔法使いとの連携、反則的とも言える不死性、先祖返りの能力の実用化、魔法剣、これらは全てが強力な武器になり、この短期間で身に付いた物だ。

そして、それらの半分以上がミナが居る事で、彼女がくれた物だ。


「まったく、リュートのお父さんって本当にリュートに似ているのね」

「それは違うぞ、お嬢ちゃん。リュートが俺に似ているのだ」


煩そうに眉をしかめてミナが扉を開ける。オレに宛てがわれた客室での口論だったのだが、どうやら声は余裕で外まで漏れていたらしい。

そのミナに親父はどうでもいい反論をしながら、楽しそうに笑う。


「どうでもいいけど、起きたわよ。討伐に協力してくれた戦士の人。目立った怪我はないけど、疲労がすごいからベットからは動かさない方がいいと思う」

「ふむ、そうか。では、此方から行くとするか」

「待て、オレも行く。魔界が今どうなっているのかも気になる」


オレ達と共に戦ってくれた、戦士の男。

名前も素性も知らない彼は、合流後、死んだ仲間の敵を取る事のみを求めたように敵の集団に進んで突貫していった。

その姿は、命をまるで惜しいとも思っていないように見えたが、幸いにも彼の突貫は味方の道を切り開く形になり、結果、彼への援護も十分に行われる事になり体中に傷を作りながらも生還を果たした。

しかし、戦闘の終わりが近づくと、倒れこみ、随分と周りを心配させてくれたが、先に起きた同パーティーの三人の話では二日ほども寝ずに逃げていたようで、それも無理のない話だ。


騎士の家系であるうちには、必要な物しかなく煌びやかさに欠ける事は否めない。

だが、逆に言えば戦いに必要である物には金を惜しまずに注ぎ込んでいる。その一つが、屋敷の中でも三番目に大きな部屋を使った簡易治療施設だ。

十数人程度なら余裕を持って搬送でき、薬や人員も十分に確保された大部屋であり、領土近くの野戦程度で出る被害ならば、半分以上はこの一室で事が足りる程に充実している。恐らく、北の王国内で、ここ以上の施設を持つ場所は、王城以外にはないだろう。


先の戦いでの被害は、そこまで大きくはなく、この部屋は、彼と、もう一人、一番怪我の重い彼のパーティーメンバーが一人いるだけだ。

戦士の男は、大人しくベットに居たが、本来なら寝ていなければならない程に体中に傷を負っているにも関わらず座り込み、窓の外を気が抜けたように見つめていた。


「ハァ……。男って本当に自分の体の事を考えない馬鹿ばっかり。ほら、貴方の怪我は一つ一つは対した事がないけど、それだけ傷だらけなら話は別よ。大人しく寝てろって言われてたじゃないの」


ミナが呆れたように、口を開く。


「あぁ、すいません。なんか……どうしても、あいつらが死んだって思えなくて……。この光景の中から傷だらけのあいつらが必死に歩いて来そうな気がして……」


長年連れ添ったパーティーメンバーの死なんて受け入れられる物じゃない。

彼の気持ちは十分わかるが、残念ながらオレにはどうしようもない。本来であれば、あれ程の集団に襲撃されて、死者が半分以下だった事は、幸運以外の他ならないが、だからと言って割り切れる物じゃない。


一人旅を続けて来て、こういった事に経験の浅いオレはなんて声をかけて良いかわからない。

だが、悔しくも親父は違った。まるで、その男の仲間の死なんてなかったかのように必要な事を割り出す。


「すまんが、余り時間がなくてな。どうか、君が魔界で見た事を聞かせて欲しい」

「はい、構いません。いえ、むしろ……お願いします、俺の持ち帰った情報を役に立ててください」


男は、先程までの呆けた顔を引き締め、それこそ戦場にいる戦士の顔となる。

彼に取ってはそれこそが、仇討ちであり、仲間への鎮魂歌。自分一人では、どうあがいても勝てない相手に、より大きな力へ助力を頼る最善の戦い。


「俺達は普段、聖殿都市をベースに魔界の中を旅しているんです。普段通り森林区にいってました」

「森林区!?」


初っ端から驚き、思わず聴き直した。ミナは、オレを見て不思議そうな顔をしているが、親父は状況がわかったらしく、小さく息を吐いている。


森林区とは、言わば人に許された魔界の最奥である。魔界の半分程へ行くと大きな森が広がっている。その森を越えたという報告は少なく、それ以上に行けば魔人に遭遇する可能性も格段に高くなる為に、どんなに手馴れた冒険者でも、森林区以上には行こうとしない。

勿論、リスクも高い。森林区までは安全というのは、それ以上進めば、生存率が極端に下がるだけで、森の中、数多の魔獣に襲われる可能性が高い状況を安全とは言えない。


それでも、尚、言われるのは森を越えた人間がほとんど戻ってこないからだ。


「はい。でも、今回は森に入る前に、あの魔獣が居たんです。しかし、俺達も腕には多少の自信がありますし、1匹1匹はそう強くもなかったので、散発的な戦闘を繰り返しながらじわじわと後退していったんですが……そこで、魔人が現れたんです」

「魔人は、リストにいる連中か?」


リスト。

それは、魔人の襲撃から生き残った人の証言による特徴のまとめであり、攻略法。魔人を倒したという話は少ない。それ程までに魔人と人の間には大きな能力差がある。

異世界から勇者を呼ぶのは、その能力差を、勇者自信の能力で覆すためだ。魔人は、自己の体を魔力で強化しており、特殊な能力も持つ事が非常に多いが、勇者の能力は魔人のソレに輪をかけて強力であり、例えばカムイの聖殿の盾は彼が防御に徹する限り、魔人相手でも敗れることはないだろう。


「いえ、俺の知ってる限りリストには居ませんでした。見た目はほぼ人型で、魔法の行使が得意なようです。ただ、その能力が……」


オレは魔人と遭遇する事などほとんどないから、リストの中身はよく知らない。故に親父と戦士の話を聞いている事しかできなかったが、彼の言った能力には驚きを隠せなかった。


「長剣使いが居たんです、仲間に。魔人相手にも不意を付けば逃げる時間くらい稼げると思って、全員でソイツの援護をして、魔人を斬る事はできたんです。いえ、わざと斬られたのかもしれません。援護魔法は余裕を持って対処していたのに、剣撃に対しては何もしませんでした。ソイツが腕を斬り飛ばした瞬間に……腕が再生して、長剣使いは魔人の炎に包まれて……」


咄嗟にミナを見る。

ミナも此方を見ていて小さく頷く。


勘違いだったら、良い。

その能力はもしかしたら幻覚の類かもしれないし、腕を高速再生するだけの能力かもしれない。だが、もしも、オレとミナの……いや、ここにいる全員の考えの通りだとしたら、それは危険極まりない。


不死の王。


今、現在のオレの能力であり、最古の魔王の能力。


人間にとっては恐怖の象徴であり、対処する方法は魔剣のみ。しかし、アウルの魔剣は無効化の効果を失っていると言っていた。

つまり、今、不死の王が現れたとならば、対処できるのは魔剣ミヅキだけと言う事になる。


「ソイツらは、聖殿都市に向かうようでした。お願いします。もう、間に合いません。せめて情報だけでも、どうか……」


もう間に合わない。


それは、単純に距離の問題を含んでいた。

恐らく彼は聖殿都市に行き、自分も戦いたいのであろう。

だが、彼が逃げてきたのは、辺境の騎士の家。ここから聖殿都市までは、馬で一週間以上、ケルロンでさえも4日は掛かるだろう。

森林区から、魔獣が聖殿都市に到達する時間はそう長くもない。彼が、ここに来るまでに2日掛かったという点を考えれば、恐らく余裕は1日から2日程度。


「承知した。ここにも、通信の魔導具はあるから、安心しろ。お前の持ち帰った情報はかならずや、聖殿の同胞達の助力となろう、感謝する」


そう良い残し、親父は部屋を後にする。

きっと、本心では自分も戦いに行きたいに違いないが、まず間に合わない。

それに、この街を見捨てる訳にも行かない。精々がアティを指揮官に据えた部隊を間に合わないのを承知で送り出すしかないだろう。


親父に続き部屋を出たオレは、隣にいるミナに話しかける。


「どうする?」

「どうしようも……ないでしょ」


4日。

その距離は絶望的な動かない数値だ。


不死の王と聞いては流石に、黙って座って入れる程、オレも呑気ではない。数千年戦い続け、勝ち続けているのだから、魔王と言っても誰かに討伐される。

そんな思いが根底にあったのだ。


そういえば、新しい魔王が登場したとニーズヘッグ公は言っていた。

もしも、その不死の王の能力が本当に不死であり、強かったなら、伝説の初代魔王と同能力と言う事でケーファーよりも強いと思う魔人も少なくないんじゃないか?そう考えれば、新しい魔王というのは、不死の魔人ではないかと思える。


だが、どうしようもなく時間が足りない。


「リュート」

「ん、ケーファー。居たのか?」


扉を出たすぐ傍ではケーファーが壁に持たれていた。どうやら、話を聞かれたようだが、別段聞かれてマズイ話をしていた訳でもない。


「助けに行くの?」

「正直に言えば、ケーファーには悪いが行きたい。が、どうせ時間が足りない」

「僕の事はいいよ。ううん、ここで戦えば人間の信頼も得れるかもしれない。行こう、リュート」

「行きたいけど、時間がないのよ。ケルロンだって1日で聖殿都市まで行くのは無理よ」


オレの代わりにミナが答える。

しかし、ケーファーは少し意地悪そうに笑い、断言した。


「行けるよ。たった1日で聖殿都市まで。僕らが協力すれば、ね」



祝百話です。


本当によくここまで続いたものです。単に読者様方のおかげです。


予定では120話くらい完結でしたが、伸びそうです。ていうか、まだ5章にすら入っていない……。


ネタバレですが、次の章の名前は「天に住まう者」になると思います。

にしても、最近ちょっと駆け足すぎやしないかな。大丈夫かな。

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