生徒会
「私が、生徒会に……?」
「そうだ。そろそろ生徒会選挙の時期だろう?そこで、君を推薦したいと思っている」
放課後、レオナード皇子に話があると呼び止められたときは、まさかこんな話だとは夢にも思わなかった。
それは、生徒会への誘い――この学園において、生徒会は憧れの象徴だ。選ばれし者だけがその一員となれる、特別な存在。
学業、芸術、運動……いずれかの分野において群を抜く者にしか、その資格は与えられない。
「君は数学に秀でているだろう?会計の役職に、ぜひ君を推したいんだ」
「それでしたら、レオナード皇子の方がお得意なのではなくて?」
「俺はもう、生徒会長に推薦されている」
「まあ、そうでしたの!それなら安心ですわ。皇子なら、きっと立派に生徒会長をお務めになられるでしょう」
さすがは皇子。学業にも芸術にも秀でた方だもの、それくらい当然なのかもしれない。
「そこで副会長の推薦だが……俺が決めていいと言われていてな、誰を──」
「はーいっ!私、副会長に立候補しまーす!」
突然声を張り上げて会話に割り込んできたのは、リリスだった。
「お前は……」
レオナード皇子は苦笑いを浮かべ、明らかに困った様子だ。
最近、リリスは何かと皇子に付きまとっている。その執着ぶりは、目に余るものがある。
「ちょっと、リリスさん。今は皇子のお話の途中ですわ。立候補は勝手にできるものではありません」
そうたしなめると、リリスはムッとした顔で私を睨み返す。
「エレノアさんに話しているわけじゃありませんから!」
──明らかに、以前より態度が刺々しくなった。私に対してだけ、特に。
……ああ、やっぱり、前世からそうだったのかもしれない。
なにかと私に張り合い、私の後ろを歩くのが我慢ならない。手柄は横取り、褒め言葉は自分のもの。
男の視線が少しでも私に向けば、すぐさま擦り寄って奪っていく。
私と親しげに話していた男性社員がいた?——その日のうちに、私の悪評を捏造して吹き込む。
「裏で誰かに媚びているらしい」「あの人、既婚者にも近づいてるって噂よ」……そんなくだらない嘘を、いけしゃあしゃあと。
そして私に恋人ができれば、決まって奪いにくる。
可憐なふりをして近づき、女の武器とやらで籠絡する。
いいえ、それも一度や二度じゃない。
何度、私が泣いたと思っているの……?
極めつけは、雄司だった。
彼となら、ようやく穏やかになれると思ったのに。
温かくて、優しくて、未来を信じられたのに。
なのに——彼まで、智美に奪われた。
馬鹿よね。信じた私が。
でも、もう違うのよ。
今の私は、ただの“いい子”じゃない。
“悪役令嬢”という名の仮面をかぶり、どす黒い感情を飾って生きる者。
だから遠慮はいらない。
慈悲も、情けも、捨ててきたわ。
私を地獄に引きずり込んだその手で、今度はあなたが墜ちていきなさい。
ひとつひとつ、丹念に、冷たく。
微笑みながら復讐させていただくわ、智美さん。
「そうですわね……委員長のシャーロットさんはいかがかしら?責任感があり、皆をまとめるリーダーシップもお持ちですもの。副会長にはぴったりだと思いますわ」
「なるほど」
レオナード皇子が頷いたその瞬間——
「ちょっと!私が立候補すると言っているのが聞こえていませんの!?」
尚も食い下がるリリス。
「あら、リリスさん。ご自分の行いを本当に理解していらっしゃらないの?掃除当番をサボり、宿題はシャーロットさんに押しつけ……他にも、色々と耳にしておりますのよ。私が知らないとでも?そんな方に副会長など務まるはずがありませんわ!」
私はピシャリと扇子で机を叩いた。
「そ、そんな……違います!掃除当番は、ただゴミが重かったので他の殿方にお願いしただけで……宿題も、分からないところをシャーロットさんに教えていただいただけなんです!」
「そうか……」
レオナード皇子はただ一言、そう呟いた。
——そして、結果は明白だった。
生徒会長にはレオナード皇子、副会長はシャーロットさん。そして私は、会計という要職を任されることに。
ふふ、リリスさん? ええ、当然ながら、彼女を推薦する者など一人としておりませんでしたわ。
ホホホ……。