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ガウェイン・フォン・クラリス

ここは食堂。

あれ以来、学園中が「使い魔」の話題で持ちきりだった。


「エレノアさん、ドラゴンを召喚したって本当ですの?」

「ええ、青い鱗を持つ水属性のドラゴンよ」  

「まぁ!やっぱりエレノアさんは水魔法と風魔法の使い手ですものね。ぴったりですわ!」


お友達――という名の取り巻きたちが、まるで自分の手柄のように誇らしげに語る。


「それに、暴走したリリスさんのペガサスを止めたとか?」

「ええ、本当に勇敢なお姿でしたわ!」

「そんな、大したことではありませんわ」と微笑みながら、エレノアは悪役令嬢らしく、さりげなくマウントを取る。


「まったく、ご自分の使い魔くらい、きちんと手懐けていただかないと困りますわね。レオナード様にご迷惑がかかってはなりませんもの」


そう――ここで優雅に、そして狡猾に、レオナード皇子の前で“悪役令嬢”としての存在感をアピールすれば、彼の心を揺らせるはずだった。


ところが。


「あのときのエレノアは頼もしかった。さすが、俺の婚約者だな」


――まさかの、称賛の言葉。

「やっぱりエレノアさんこそ、レオナード皇子の婚約者に相応しい方よね」

「ほんと、お似合いですわ!」


食堂に響く賞賛の声。流れは完全にエレノアのものとなった。


……こんなはずではなかった。


またしても「予定のルート」を外れてしまったことに、リリスは密かに歯噛みする。


本来であれば、エレノアの使い魔は《バイコーン》であるはずだったのだ。


――バイコーン。二本の角を持つ馬で、ユニコーンの亜種とされる存在。

純潔を司るユニコーンに対し、バイコーンは“不純”を象徴する。


だからこそ、バイコーンが召喚された時点で、レオナード皇子はエレノアの貞操に疑念を抱き、問い詰めるはずだった。そして動揺したエレノアの感情に反応し、バイコーンが暴走。その混乱を、リリスのペガサスが華麗に制止する――。


その一連の流れを経て、リリスはヴァイルに称賛され、彼に近づくきっかけを得るはずだった。


……なのに。


なぜ、よりにもよってドラゴンなのよ――!?


リリスは心の中で叫ぶ。狂い始めた「攻略計画」に、焦りの色が濃くなっていく。


でも次に登場するのは、王国騎士団の若き精鋭――ガウェイン・フォン・クラリス様。

皇子に忠誠を誓うその剣は、常に正義のために振るわれる。

彼を味方につければ、レオナード皇子に近づく手がかりとなるうえ、エレノアの立場を揺るがす絶好の機会。

何より、害をなす悪役令嬢を、あのガウェイン様が見過ごすはずがない。


ここは。

「きゃっ!」

カシャーン!


エレノアのすぐ隣で、リリスが派手に転び、床に食器が散らばる。


「い、痛〜い……」

「……何をしていらっしゃるの、リリスさん?」


落ち着いた声で問うエレノアに、リリスは涙目で睨み返す。

「何を、って……あなたが私を転ばせたんじゃない!」


と訴えるリリス。しかし、それはおかしい。エレノアは今、取り巻きたちに囲まれていたはずで、リリスに手を出せるような位置にはいなかった。


「何をおっしゃっているの。エレノアさんがそんなことなさるはずないでしょう?」

「そうよ、エレノア様は潔白よ!」


取り巻きたちが口々に擁護する声に、食堂内がざわつき始める。


「どうした、何の騒ぎだ?」


そこへ騎士の格好をした男が現れた。隣にはレオナード皇子の姿もある。


「ガウェイン様!この方、エレノアさんがわざと私を転ばせたんです!」


リリスは床から身を起こしながら、エレノアを指さして訴える。……この人が、リリスが話していた〈ガウェイン・フォン・クラリス〉という騎士か。


「それは本当か?」


ガウェインが静かな声で問う。エレノアの方に視線を向けるが、彼女はどこまでも冷静だった。正義感の強いガウェインは、イジメを見過ごすような人間ではない。


「お騒がせしてしまい、申し訳ありません。でも、私は何もしておりませんわ。この方が勝手に転んだだけのこと。……今の状況を見れば、聡明なガウェイン様ならお分かりいただけるかと」


エレノアは静かに微笑みながら、そう言い切った。


「聡明とは……過分な評価だな。だが、エレノア君の言う通り、これは明白な事実だ。勝手に転んだ君の責任だろう。こんな場で騒ぎ立てるのは感心しない。今後は気をつけることだ。――以上、皆、席に戻れ」


ガウェインの一言で、ざわついていた生徒たちは静まり返り、それぞれの席へと戻っていった。再び、食堂には食器の音と控えめな話し声が戻る。


私は静かに立ち上がり、リリスの前へと歩み寄る。


「リリスさん。このような騒動を引き起こして、いったい何がお望みかしら?私を悪者に仕立てたいというのなら、喜んでお受けいたします。ただし――周囲を巻き込むのは、筋違いですわ。皆様にご迷惑をおかけしたこと、きちんと謝罪なさいませ」


沈黙のあと、リリスは俯いたまま、かすれるような声で言った。


「……騒いで、申し訳ございません」


(許さない。絶対に――許さないわ。エレノア、いいえ……由里子!)

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