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反撃開始

あの決闘以来、レオナード皇子との距離は少しずつ遠のいていった。

代わりに、リリスとの距離が近づいているのは明らかだった。


たとえば、こんなやり取り——


「レオナード皇子!次の移動教室、ご一緒してもよろしいですか?」

「リルか。ああ、構わないよ」

「嬉しい!さあ、参りましょう」

「そんなことで喜ぶなんて、リルには可愛いところがあるんだな」

「まあ、可愛いだなんて……でも、可愛さではエレノアさんには敵いませんわ」


わざとらしく、私の名を持ち出すリリス。

その隣で、レオナード皇子はどこか気まずげに目を逸らしていた。


胸の奥が、ひどくチクリと痛む。

……けれど、それは雄司のことを思い出したから。

決して、レオナード皇子に想いを寄せていたわけではない。

そう、自分に言い聞かせる。


——なんて。

すべては予定通り、私の筋書き通りなのだから。


ふふっ……あはははっ!


――あら、失礼。令嬢たるもの、こんな下品な笑いをしてはいけませんわね。

でもどうしても、こみ上げる愉悦を抑えきれなかったのですもの。

だって、まさかここまでバカ正直だったなんて。


私が、あなたの罠に素直に嵌まるとでも思ったの?


智美。自分が主役でなければ気が済まないあなたが、私を賭けた決闘を見逃すはずがない。

そして、あの素直で嫉妬深い幼馴染――彼を利用しないなんて、あり得ませんわ。

今まで散々、男たちを駒のように扱ってきたあなたが。


……けれど。


けれど、レオナード皇子に怪我を負わせるなんてこと、絶対に許しません。

人として、決してしてはならない一線を、あなたは越えたのです。


ならば――然るべき報いを受けていただきますわ。


何といっても、私は“悪役令嬢”。

今までがぬるま湯だっただけのこと。本気を出すには少しばかり手加減しすぎていたようですわ。


やるなら、とことん徹底的に。

そうでなければ、“悪役令嬢”の名が泣きますもの。


軽い準備運動はこれにて終了。

ここからが本番でしてよ――


さあ、見ていなさい、リリス。

私という存在が、どれほどの“脅威”となるか、思い知らせて差し上げますわ。


まずは周囲の掌握から。


あの子がいかに“清らかな光”を装っているか、その仮面を剥がしてみせましょう。

ええ、皇子の視線が逸れた、まさにあの瞬間が合図。


リリスが築いた“善良な令嬢”という虚像。

その土台が、いかに脆く、いかに浅はかなものか……身をもって味わっていただきますわ。


ふふふ……あはははっ!


ようやく舞台は整いました。

さあ、華麗なる逆襲劇の幕開けですわ!


さて、まずはどこから崩してさしあげましょうかしら。

焦らず、けれど手は止めず。周到に、丁寧に、そして確実に。


それこそが、“悪役令嬢”の流儀ですもの。


その日、私は移動教室のあと、あえて人気の少ない中庭を選んだ。

智美……いいえ、リリスが“偶然”を装って通りそうな道。

そこにわざと立ち、行く手を塞ぐようにして。


案の定、すぐに現れた。

あの決闘の後にできた取り巻きを二、三人引き連れて、つまらない笑みを浮かべながら。


「まぁ、エレノアさん。こんなところで何をなさっていて?」

「ちょっとした気分転換ですわ。……それよりリリスさん。その小鳥のような声、昼下がりには少々耳に刺さりますのね」

「まあ……まあまあ。お優しい皮肉。相変わらずエレノアさんはご機嫌斜めのようで」


微笑みを浮かべながらも、その瞳は冷たく笑っていない。

私を、取るに足らぬ存在と見下ろすような視線。


結構ですわ。

だったら、その余裕――粉々に砕いて差し上げましょう。


「ねえ、リリスさん。私、最近ちょっとした噂を耳にしましてよ」

「……また“真実”探しのご趣味?」


にこりと笑うリリス。けれど、その奥には鋭い警戒心がちらりと見えた。


「決闘の最中、あなたが叫んだあの言葉——『エレノアさんがユリオを応援している』って。……あれ、本当ですの?」

「まあ……そう聞こえましたもの」

「“聞こえた”?面白いことを仰いますのね。あの時、私は何も言っていませんでしたわよ?」


「でも、皆の前でそう言えば印象は変わりますもの。まさか、そんな些細なことでお怒り?」

「怒り?いいえ、ただ不思議に思っただけですわ。……あなたがその言葉を叫んだ瞬間、レオナード皇子がこちらを振り返ったのですの。そして次の瞬間には剣を落とし、肩を傷つけられた」


リリスの微笑が、ピクリと揺れる。


「まるで、狙ったような絶妙なタイミング」

「狙う?そんな……偶然に決まっているでしょう?」

「“偶然”がずいぶん都合よく働きましたのね。あの一言で皇子の注意を逸らし、ユリオの一撃が入る。……それとも、偶然を装った“計画”だったのかしら?」


「……っ」

「リリスさん。あなた、私の名を使って、レオナード皇子を傷つけたのではなくて?」


取り巻きたちがざわりと息を呑む。


「わざと“誤解させるような言葉”を選び、皇子の心を揺さぶり、隙を作らせる。そして、可哀想な令嬢が“陰で裏切られていた”という構図を作る……さながら悲劇のヒロイン」

「……エレノアさん。あなた、随分と性格が変わりましたのね」

「いいえ、戻っただけですわ。“悪役令嬢”としての、あるべき姿に」


リリスの笑顔が、静かに消えた。


「本気で、私が皇子に怪我をさせようとしたと?」

「“結果”がそうであった以上、意図の有無など関係ありませんわ。……でも、私にはわかりますの。あなたの声、目線、演技の間合い。すべてが仕組まれた芝居――そうではありませんこと?」


風が吹き抜ける。金の髪が、張り詰めた空気の中でふわりと舞った。


「それでは、ごきげんよう、リリスさん。次はどんな“お芝居”を見せてくださるのかしら。楽しみにしておりますわ」


スカートの裾を優雅に摘まみ、私は静かに背を向ける。


「……この舞台の主役は、私。リリス、あなたには、私の手で“可哀想なヒロイン”に戻っていただきますわ」

芝佐倉です。

『悪女は淑女の嗜みですわ!〜ヒロインが悪女だったので私が悪役令嬢になりました〜』をお楽しみいただけておりますでしょうか?


このたび、うっかり操作ミスで作品を削除してしまいました……。

暑さのせいでしょうか、頭がぼんやりしていたのかもしれません。

それに伴い、せっかくいただいていたご感想もすべて消えてしまい、今はただただ悲しみに暮れております。


それでも、読んでくださる方がいらっしゃる限り、筆を止められません。

また一からではございますが、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

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ブクマしていたのですが消えていたので驚いて、検索し発見できましたので安心しています。 続きが気になっていたので、もう一度ブクマと⭐︎を入れさせていただきます。 操作ミスとはお気の毒でした。原文を保存を…
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