特殊能力で好きな人の未来を見る
ぱちっ。私は目を覚ます。毎朝、起きて朝1番にすることといったら何だろうか。私は、決まって好きな人の今日1日の未来を見る。
「今日も絶好調ね! 悠くんは!」
私は、1日の間に自分以外の誰か1人を選び、その人の24時間の未来を見ることができる。いわゆる未来予知ってやつね。
だから今日も、私は大好きな浅丘 悠君の未来を見させてもらう。
悠くんは、私のクラスメイト。高校3年生の私、井上紅羽は、彼のことを高校1年生の頃から好きだ。
シュッとした輪郭に高くて細くてすっきりした鼻。そして、角度によってクールで落ち着いた一重にも可愛くて愛らしい二重にも見える奥二重。
濃すぎず薄すぎないその顔によく似合っているナチュラルな黒髪ショートの髪型。悠くんは学校中のアイドル的存在でとてもモテる。
そんな悠くんの1日を未来予知しているなんて、他の人に知られたら、他の人は私に嫉妬するだろう。
悠くんがどんな1日を送り、家に帰って何をしているか、どんな行動をとっているのかが分かるのだから。
なんて、ストーカーみたいでちょっと気持ち悪いかな。いやいや何も疾しいことには使わない。
私だって、好きな人が部活や勉強で活躍する未来を見るのを楽しみにしていたりしているだけ。もし、悠くんに大変な未来が訪れるというなら、それを阻止するために奮闘する。
「さすが、悠くん! 今日も完璧な1日!」
今朝は、悠くんがソフトテニスの部活で、同じクラスメイトの伊藤に試合で余裕で勝つ未来を見たり、数学Aのテストで満点を取っている未来を見た。
あとは、家に帰って、ゲームをしているところとか。妹と一緒にリビングでテレビを見ているところとか。
何度も繰り返すけど、嫌らしい趣味にこの未来が見える能力を使うことは無いわよ? 好きな彼が着替えているシーンやお風呂に入っているシーンとかはちょっと見ちゃったりするけれど。
こんな能力をそんなことに使用して、バチが当たったら嫌だもの。せいぜい、女の子に告白されている未来を見ているくらい。そんな時はいつも、悠くんは振っているんだけどね。
でも、毎朝、悠くんの未来を見るのは、四六時中一緒にいるみたいな気分になれる。
「ん〜。朝から幸せ」
私はベットでその夢を見てむくっと起き上がり、顔を洗いに行く。
悠くんが朝目を覚まし、朝食を食べ、登校し、授業を受け、ソフトテニス部の部活で練習をして、家に帰り、課題をこなし、ゲームをしたり、妹と一緒にテレビを観る。
そんな未来を何気なく見ているだけ。それだけで私は幸せだった。片想いをしているときが1番幸せってやつね。
私は、この人の未来が見える能力があることで、好きな人の側にいれるみたいで満足してた。……それだけだった。はずなのに。