【漫才】キョンシーとしてのセカンドライフを選んだ日本人女子大生
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にピョンピョンとね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「こないだは『キョンシーになる』って約束してくれて感謝するよ、蒲生さん!我が日本キョンシー総会としても、やっぱり新規会員は欲しいからさ。ゼミ友として改めて御礼を言わせて貰うよ。」
ツッコミ「喜んで貰えたのは有り難いけど、私がキョンシーになるのはずっと先の話だよ。何しろ後期高齢者になって足腰立たなくなってから、アンチエイジング目的でなる訳だから。」
ボケ「そうは言うけど、人生なんて意外とあっという間だよ。」
ツッコミ「そんな脅かさないでよ。」
ボケ「南宋の朱熹って儒学者も、『少年老い易く学成り難し』って言ってたよね。いつまでも若いと思っていたら、気付けば棺桶の中なんだよ。」
ツッコミ「いやいや!その棺桶の中から蘇ったのが、貴女達キョンシーなんじゃないの。」
ボケ「まあ私も週に一回は棺桶の中で寝るけど、やっぱりリラックス出来るよね〜。」
ツッコミ「そんな岩盤浴みたいなノリで入る物じゃないでしょ!」
ボケ「岩盤浴とは違うよ!だって棺桶ならスマホを持ち込めるもん。」
ツッコミ「棺桶は健康ランドの休憩室じゃないんだよ!」
ボケ「いずれキョンシーになる蒲生さんへ友達としてアドバイスするけど、慣れないうちは耳抜きをしてから棺桶に入った方が良いかもね。」
ツッコミ「酸素カプセルじゃないんだから!何なの、その友情のアドバイス?」
ボケ「何しろゼミ友の蒲生さんには、留学生活で何かとお世話になっているからね。だから私も、蒲生さんのキョンシー生活がより快適になるよう手助けしようと思ったんだ。」
ツッコミ「よし、それじゃ色々聞かせて貰おうじゃないの!私がキョンシーとして第二の人生をスタートさせるにあたって、気をつけるべきポイントを!」
ボケ「ちょっと待って、蒲生さん。さっき『第二の人生』って言ったけど、キョンシーは死んでるからね。」
ツッコミ「ちょっと、いきなり話の腰を折らないでよ!」
ボケ「いやいや、これって大事な事なんだよ。何しろキョンシーってのは蘇った死体だから。」
ツッコミ「そりゃそうだけど…」
ボケ「何しろ古参のキョンシーには、そこにアイデンティティをお持ちの方も少なくないからね。蒲生さんだって、『最近の若いキョンシーは分かってないなぁ…』って笑われたくないでしょ?」
ツッコミ「えっ!もしかして、これがキョンシーとして気をつけるべきポイントだったの?」
ボケ「そうだよ、蒲生さん。私も日本に来たばかりの頃は、元町の御隠居様に釘を刺されたんだ。『ワシ達の前では構わんが、横浜在住のキョンシーの中には御気になさる方もいらっしゃるからのう。』ってね。」
ツッコミ「成る程、キョンシーのコミュニティでも地域差ってのはあるんだね。」
ボケ「そうだね、蒲生さん。横浜や神戸や長崎みたいな中華街とか、大阪市の島之内みたいな中華系の人達がお住まいの地域とかは、やっぱりキョンシー人口も多い感じだよ。」
ツッコミ「貴女が懇意にしている日本在住のキョンシーも、その辺りにお住まいだよね。元町の御隠居様とか、島之内の姐さんとか。だけど日本人の私がキョンシーになったら、マイノリティになるんじゃない?」
ボケ「それなら大丈夫だよ。元町の御隠居様も島之内の姐さんも蒲生さんがキョンシーになるのは大歓迎だし、それに日本人のキョンシーは蒲生さんが初めてじゃないからね。」
ツッコミ「えっ、日本人のキョンシー?ちょっと詳しく聞かせてくれない?」
ボケ「日本キョンシー総会の会員にも何人かいらっしゃるけど、私の顔見知りだと広島在住の司馬大治郎さんだね。奥さんと一緒に町中華を営んでいるよ。」
ツッコミ「その経歴を聞く限りだと普通の人にしか思えないけど…その司馬大治郎さんって方は既婚者なの?」
ボケ「そりゃそうだよ、蒲生さん!何しろ大治郎さんは、今の奥さんと添い遂げるためにキョンシーになったんだから。」
ツッコミ「えっ、結婚するためにキョンシーに?!」
ボケ「そもそも奥さんがキョンシーだからね。『御気持ちは有り難いですが、貴方は人間で私はキョンシーで寿命の差もありますし…』と言われたので、それならとキョンシーになったんだよ。」
ツッコミ「そりゃまた随分と思い切った事をしたもんだね…」
ボケ「思い切ったって言うけど、そんな単純な話じゃないんだよ。何しろ長男なのに婿養子になったんだからね。」
ツッコミ「えっ、司馬って奥さんの方の苗字だったの?」
ボケ「だって奥さん、上海出身の漢人女性だからね。司馬明珠っていう色白の美人さんなんだよ。」
ツッコミ「いやいや!色白って言うけど、キョンシーはみんな肌の色が青白いと思うよ。」
ボケ「まあ、苗字を奥さんに合わせたのは大治郎さんの旧姓に原因があったんだよね。何しろ『桃井』っていうキョンシー的には微妙な苗字だったから…」
ツッコミ「そんな事言ったら全国の桃井さんが悲しむよ!どうして桃井さんじゃいけないの?」
ボケ「私達キョンシーは、桃の木の剣だと物理ダメージが入っちゃうからね。ちょっと桃は苦手なんだよ。」
ツッコミ「確かに道教の道士は桃の木の剣で狂暴キョンシーと戦ってたけど…キョンシーって『桃』って字の入った苗字も駄目なの?それじゃ環状線の桃谷駅なんかどうするのよ?」
ボケ「停車中はぐっと息を止めて、発車するのをひたすら待つばかりだよ。」
ツッコミ「とっくに息の根止まってるじゃないの、キョンシーなんだから!」
ボケ「だから岡山の実家の桃農家も、大治郎さんの弟さんが継いでいるみたいだよ。」
ツッコミ「貴女達キョンシーって、本当に桃が駄目なんだね。キョンシーになるにあたり、他に何か気を付けた方が良い事ってあるかな?」
ボケ「道教の銭剣を連想してしまうから、大量の小銭が苦手なキョンシーもいるみたいだよ。さっきの司馬さん夫妻みたいに商売をされているキョンシーは、比較的大丈夫だけど。」
ツッコミ「それも道教由来なんだ。」
ボケ「だから大抵のキョンシーは、スマホでキャッシュレス決済をしているね。」
ツッコミ「ギャップが凄過ぎるよ!清代の官服や明代の儒者の服を着たキョンシーが、スマホでキャッシュレス決済って!」
ボケ「島之内の姐さんなんかは『キャッシュレスの方がポイント還元もお得やし、ええ時代になったもんや。』って言ってるよ。」
ツッコミ「その島之内の姐さんって、本当に清朝末期の女侠だったんだよね?こないだお会いした時もコテコテの関西弁を流暢に使いこなしていたから、声だけなら完全に大阪のオバちゃんだったよ。」
ボケ「私も会う度に飴玉を貰うんだよね。『黒飴でかめへんか?』って具合に暖帽の中から取り出して。」
ツッコミ「大阪のオバちゃんのハンドバッグだよ、それじゃ!」
ボケ「私もスマホとモバイルバッテリーは暖帽の中に収納しているけどね。」
ツッコミ「と言う事は、その暖帽を収納スペースとして活用するのもキョンシーライフの必須条件って事だね。」
ボケ「まあね、蒲生さん。何しろ暖帽も込みでキョンシーの民族衣装だから。」
ツッコミ「元々は満州族の民族衣装だと思うよ。だけど民族衣装だとお金が掛かりそうだね。」
ボケ「確かに御隠居様みたいなオーダーメイドだと値が張るけど、私みたいな既製品なら安く抑えられるよ。拳法の表演服なら二万円弱で誂えられるし。」
ツッコミ「成る程、それなら安く済みそうだね。」
ボケ「私のお古で良かったら更に安く済ませられるけど…」
ツッコミ「こらこら!友達相手に商売をしなさんな!大体、私がキョンシーになるのは何十年も先じゃないの?」
ボケ「良い素材を使っていたら、何十年もの長きに渡って使えるんだよ。」
ツッコミ「いやいや、『何十年もの長きに渡って』って…さっきは『人生なんてあっという間』って言ってたじゃない!」
ボケ「キョンシーは不老不死だから時間感覚も変わるんだよ。蒲生さんもなれば分かるって!」
ツッコミ「それじゃ私がキョンシーになってからも、末永いお付き合いをよろしく頼んだよ。」
ボケ「心得たよ、蒲生さん!私達二人、刎頸の友といきたい所だね。」
ツッコミ「いやいや、身体の頑丈なキョンシーが首を切られる訳がないでしょ?」
二人「どうもありがとう御座いました!」