魔術師長と孫娘
当初の三百人強という数字から考えれば、大幅に増員され一万人を超える剣士を持つグワラニーの部隊であるが、今も変わらず戦術の中心にあるもの。
それはもちろん部隊の規模からは不釣り合いな数と、圧倒的な力を示す魔術師団である。
一応、この世界の軍編成の基準では、魔術師で剣士の一割を持つことが適当とされている。
そういう点では基準内に収まる程度になってきたともいえなくてもないのだが、戦いにおいては、魔族、人間ともにまず魔術師を狙い撃ちにするような戦術をとっていることもあり、魔術師不足は深刻化していた。
もう少しだけハッキリといえば、この時期になると剣士の数の一割、それだけの人数の魔術師を抱えている軍などほぼ存在しなかったのだ。
そして、その数以上に深刻なのが質である。
その能力を示すのにわかりやすい数値となる転移能力でいえば、かつては軍同行の魔術師の最低基準とされた一度の十人の剣士を転移させられる者でさえ全体の三分の二ほどしか揃えられない。
軍に同行する魔術師のレベルはそれほど低下しており、五十人以上の転移を可能としている教官クラスといわれる者など前線で見かけるのは稀となっていた。
そのような状況下でグワラニーの部隊に同行してマンジュークに向かうことになっている千二百人の魔術師は、その大部分がその貴重な教官クラス。
さらに百人の兵士を一気転移させられる導師クラスの魔術師も十七人を揃えている。
そのうち三人の高弟は二百人から三百人の転移は可能とされる。
そして、その頂点に立つのがこの魔術師たちの師でもある魔術師長アンガス・コルペリーア。
自身の力を正確に語ったことはないものの、多くの証言から最低でも五百人、おそらく千人は転移できるとされている魔族の国における第一人者である。
だが、この魔術師団には隠された事実がある。
それは魔術師長の孫娘でこの部隊の副魔術師長を務めるデルフィンに関するもの。
もちろん戦場において披露した治癒魔法によってその実力は示しているものの、三十歳、人間換算でいえば十歳ほどの少女がその地位に就いているのは、魔術師長の孫だからというのが、この部隊の内外を問わず多くの者の意見である。
だが、彼女の真の力を知る数人の者はその言葉に相槌を打ちながら、心の中でこう呟いていた。
……ハズレだ。
そう。
その地位はその実力にふさわしいもの。
いや。
それ以上のものといえる。
彼女の本当の実力。
その一端を示したのが、公式には彼女の祖父である魔術師長によるものとされているクアムートの戦いにおいてノルディアの三部隊を一瞬で半壊させた強力な攻撃魔法である。
そして、これから起こる戦いに置いて彼女の真の実力が具体的な形として現れることになる。