戦闘工兵
今回のマンジューク救援参加するのは形式上ではふたり、実質的には三人の将軍に率いられた八千五百人の兵士のほかに、本営に属する五百人。
ここまでがいわゆる正規兵となるのだが、グワラニーの部隊にはこれよりもさらに多い人員を有する戦力が存在する。
戦闘工兵。
クアムートの戦いに際し、陣地建築をおこなうために王都近郊の鉱山労働者たちを高賃金で雇い入れたときに、グワラニーが元の世界で同類の仕事をおこなっていた組織の名を拝借してそう呼んだのが始まりであり、この世界でその作業を専属でおこなう者が軍組織に現れたのもこの時が初めてとなる。
ついでに言っておけば、元の世界において工兵の仕事とされているもののうち、そのとき彼の部隊がおこなったものは陣地の構築だけだった。
だが、今回のマンジューク防衛戦に同行するに際し、彼らはもうひとつの役割が与えられる。
弓兵。
もちろん通常の弓を引き、的に射抜く技術は相当の経験が必要となるのだが、普段は鉱山労働者として働く彼らにそれをおこなう時間的余裕などない。
だが、その経験を補うものをグワラニーは手に入れていた。
横弓。
同類のものが存在していた別の世界での言い方をすれば、クロスボウである。
これが魔族の国に存在しない経緯については以前も語っているので説明は省くが、魔族の国だけではなくこの世界全体「過去の遺物」化していた弓の研究を続けていたのがノルディア王国だったことはグワラニーにとって幸運だった。
そう。
グワラニーはかの国の金貨を大量にせしめていた。
つまり、代金はそれを使えばいいのだから、実質無料である。
そして、例の小麦騒動。
それに乗じて、グワラニーはノルディアから一万二千もの横弓を手に入れていた。
もちろん本来の形をした大弓も。
「まあ、これで他部隊がまったく協力しなくてもなんとかなる」
二本の鶴嘴を組み合わせた意匠の旗のもとで、本業に関わる激しい訓練の息抜きを兼ねたクロスボウの射撃訓練に嬉々として励む戦闘工兵たちの様子を眺めながらグワラニーが呟く。
「彼らも戦力になりそうですね」
「ああ」
隣に立つ最側近の男の言葉にとりあえず相槌を打ったグワラニーだったが、ただ同意するだけでは言い足りなかったのかもう一度口を開く。
「もっとも、彼らをマンジュークまで連れていく本当の目的はその頃には完了しているわけなのだから、あれは余興のようなものだ。実際のところ、本業のほうが完璧に終わってさえくれれば、私として十分なのだ。ただ、手持ち無沙汰は嫌だ。実際の戦闘でも役立ちたいという彼らのたっての希望だ。とりあえず矢が敵に向かって飛んでいけばいうことはない」
「……勤勉なことだ」