『戦争の天才』は進軍を開始する!
初戦での勝利から2日後に、我々は敵首都に向けて、進軍を開始した。
まず、目指すべきは『アルザス要塞』
と言っても、敵首都までの道のりで攻略しなければいけない要塞というのは一つしかない。
過去、フェアンヴェルゼン王国はヴィクトワール王国の諸侯が治める国だった。
要は公国だ。
その際条約として、『互いの領地を結ぶ主要道路には1つしか要塞を建設しないこと』と定められたのだ。
ちなみにこの国が使っている暦である解放歴は、その時の諸侯が独立して、フェアンベルゼン王国を建国した時が1年目となっている。
ヴィクトワール王国から解放されたので解放歴だ。
話がそれてしまったが、「アルザス要塞」は敵首都を守る唯一の要塞であり、当然守りも硬い。
情報によると、敵の騎士が3万2千、傭兵が2万3千だそうだ。
計6万5千の軍勢。
対するこちらは3万の国軍のみ。
本来、攻勢する際は敵防衛戦力の3倍が必要とされる。
つまり本来は19万5千の兵力が必要になる。
しかも敵が要塞に籠っているとなると、長期戦は避けられない。
だが、食糧生産能力や人的資源といった面の国力で劣っている我が国は長期戦を避け、短期決戦をするのが望ましい。
ちなみに、超威力の魔法で要塞を吹き飛ばすこともできない。
なぜかといえば、要塞には対魔法結界が張られているからだ。
結界は特殊な紙に特殊なインクを使用して書かれた『スクロール』というものを使用することで対象の範囲の魔術を完全に無効化できる力がある。
スクロールは魔力石をのせることでその結界が作動する。
スクロールは魔法を無力化させるだけでなく、無重力にさせるものや、強大な魔法を放つものなど多種多様だ。
だが魔力石は高価ゆえ、多用できるようなものではなく、要所要所でしか使われない。
再度話は逸れてしまうが、極秘ではあるものの我が国はその魔力石の人口精製に成功している。
現在、量産を急いでいるところだ。
以上のことから従来の戦術、戦略では要塞攻略はかなり厳しい。
ではどうするのか。
答えは直接戦闘を避け、敵を降伏させるのだ。
まず、我々は攻城塔や破城槌といった従来の攻城兵器を一切持ってきていない。
その代わり、『八式七五粍曲射砲』を5門とそれに使用する弾薬、七式榴弾を550発持ってきた。
後は兵士たちが使用する銃「六年式小銃」が3万丁と、弾薬150万発だ。
これを使って敵要塞を攻略する。
そのそも、敵のほぼ半数は傭兵だ。
傭兵は金で雇われた集団で、国家に対する忠誠心があるわけではない。
なら、こちらから敵が提示した額以上の金額を積めば敵はあっさり裏切る。
運良く我々は産業革命の利益で金をたくさん持っているので、2万3千の兵士を買収するだけの金はある。
ちなみにすでに買収は済んでいて、敵の傭兵団の幹部たちには話を着けている。
情報漏洩の危険からそれ以外の下っ端はまだ買収されたことを知らないが、封建主義的な傭兵団なら、上が裏切れと命じたなら、下も疑わず裏切る事だろう。
勿論我々が到着する少し前に、末端にも知らせてもらう。
それならもし裏切る事がばれても、内部の混乱を招くだけで、まともな対処はできず、敵は時すでに遅しというわけだ。
そしてもう一つ、曲射砲を使用する。
と言っても、要塞の中には傭兵がいるので、要塞の建物に向けての砲撃はできない。
要塞の城壁に向けて発射するのだ。
おそらく数発撃てば壁の一部は壊れるだろう。
そしてその状態で傭兵が裏切れば、敵は交戦せずとも降伏するという作戦だ。
「陛下、間もなくアルザス要塞につきます」
エルベルトがそう言った。
しばらくして、でかい建物が見えてきた。
巨大な石造りの建物の周りは壁で囲まれている。
建物全体を覆うように対魔法結界が張られている。
間違いない、あれがアルザス要塞だ。
先ほど、敵首都までに要塞は一つしかないといったが、それは要するにこの要塞は首都防衛の要であり、それほど強固ということだ。
それはこの建物全体が巨大であることからも感じ取ることができる
少し歩くと、敵の偵察が、我々を発見したとの意で金を鳴らした。
我々は要塞より15000米地点に陣地を構える。
曲射砲を並べ、測距をして、照準をつける。
敵はこの距離だと何もできない。
準備はが整ったので、私はエルベルトに『拡声』をかけてもらう。
まずは敵の要塞防衛の指揮官と話がしたい。
「要塞防衛の指揮官と話がしたい。命は保証する。話し合っている最中は攻撃をしないと誓おう。もし疑うのなら、私がそちらに出向くでも構わない」
私がそう言うと、敵の兵士たちは混乱した。
当然だ。
これから戦が始まろうとしてるのに、話し合いがしたいと言って、更には指揮官が自ら危険を冒してまで話し合いたいと言っているのだから。
少し待つと返事が返ってきた。
「わかった。貴殿の要件をのもう。ただ、護衛を着けても構わないか? 」
「勿論だ。こちらからは攻撃しないので何人つけてもらっても構わない」
交渉成立だ。
少しして、敵の指揮官が要塞の門を開けて、出てきた。
見た目は40代ぐらいで、体つきはたくましく、歴戦の猛者であることがうかがえる。
護衛は4人で、魔法兵が1人の騎士が3人だ。
「お待たせしたな。私はクルト・シュテックだ。話し合いをしようか」
クルトはそういって席に座った。
「私は石原 孝雄だ。よろしく」
私がそう言うと、クルトはひどく驚いた。
「まさか、フェアンベルゼン王国の国王か?!」
前線指揮官が国王で、しかもその国王が先ほどの発言をしたことに驚いているのだろう。
だが、そんなことはさておき、私はさっそく本題に入る。
「この戦、我々が勝つ。私には完璧な作戦がある」
先日、ヨルク要塞で8万の兵士が全滅した事も、おそらくクルトは知っているだろう。
となればこの発言も信憑性が増す。
「なら、その作戦でた我々と戦えばいいじゃないか」
クルトは少し怒りながら私にそう言った。
「いや、その作戦は凄惨そのもので、私も極力実行したくない」
勿論これは嘘だ。
もし、直接戦闘するとなると、曲射砲で要塞を破壊した後、要塞に侵入し傭兵とともに室内戦になる。
そうすると銃の長所を生かしずらくなり、かなりの戦力を消耗する戦いになることだろう。
ただ、それだけで、凄惨とまではいかない。
「それで、我々に何もせずに降伏しろと? 」
クルトは握りこぶしを作り、震わせながら机の上に置いている。
自分たちが侮辱されたと思って怒っているのだろう。
なら、実際に我々の力を見せつければいい。
「では、今から一瞬で城壁を崩して見せよう。それなら理解してもらえるかな? 」
「この城壁は結界で守られているうえに他に比べて厚みもある。それなのに貴殿らの軍は、攻城兵器の一つもない。そんなことできるわけがないだろう」
「では、いまから人を一人たりとも城壁に近づけることなく、破壊して見せよう」
「やれるものならやってみろ」
許可が降りた。
我々はさっそく行動に移す。
まず、砲撃地点の敵の兵士たちはどいてもらった。
我々は城壁に一歩も近づかないので、敵も了承してくれた。
そして曲射砲に弾を装填する。
狙いは城壁の上部、最も脆いところだ。
準備完了が完了した。
「撃て!」
私の合図とともに、一斉に榴弾が発射された。
発射の爆音のすぐあとに、榴弾の炸裂音が辺りに響いた。
そして榴弾が炸裂したと同時に熱風が私たちを直撃する。
初弾は全弾命中し、城壁上部は粉砕した。
「次弾装填! 」
兵士たちは20秒程度で装填を終えた。
次は先ほどよりも下を狙う。
上からのどんどん城壁を壊していくのだ。
狙いも定まったところで、私は号令をかける。
「撃て! 」
その声と同時に再度城壁が崩れ落ちた。
ふとクルトを見てみると、彼はただ、口を開けて、茫然としていた、
それからあと2回ほど斉射すると、城壁の一部は完全に破壊され、容易に侵入ができるようになった。
私はさらに、指令を出す。
「傭兵! 」
私のその声を合図に、傭兵たちは騎士たちに剣を向ける。
騎士は剣を抜いた瞬間傭兵に斬られてしまうため剣を抜くに抜けない。
私は再度クルトに提案する。
「どうだろうか。降伏してはくれないか? 」
城壁は崩壊し意味をなさず、傭兵たちは裏切った。
そんな状態で、クルトがだせる答えは一つ。
「わかった。降伏しよう」
それを言った瞬間、兵士たちが歓喜の声をあげた。
我々の勝ちだ。
直接戦闘をせず、死者を出さずに勝てた。
戦略的にこれほど素晴らしいことはない。
こうして、アルザス要塞攻略戦は幕を閉じた。
残すは、敵首都攻略戦だ。
アルザス要塞攻略戦の翌日、我々は敵首都攻略に向けて出発した。