『戦争の天才』は作戦を立案する!
奴隷を解放してから3日、無事我が国に帰ることができた。
解放された奴隷はとりあえず私の住んでいる城に住まわせることにした。
彼らの健康状態はみるみる回復し、精神異常だった者もいくらかは正常になってきた。
ただ、酒場で会ったあの少年のお友達はすでに売られてしまっていた。
そんな私は今、自室で書類に目を通している。
数日城を開けたので、書類が溜まってしまっていた。
さらにこれから戦争をするということもあり、城内は大忙しだ。
私が書類に追われている中、コンコンコンと、3回ドアをノックされた。
「失礼します」
その声はハベルゼンだった。
ハベルゼンは扉を開け、部屋に入ってきた。
「陛下、そろそろ会議のお時間です」
会議、とは作戦会議だ。
1か月後に行われる戦争に向けて、私とハベルゼン、陸軍大臣、陸軍大将、海軍大臣、外務大臣他領地を治める諸侯達で行われる。
と言っても、作戦のほうは私がほとんど決めているので、作戦の確認と言ったほうが正しい。
「それと陛下、会議に関しまして、一人立ち会わせたい者がいるのですが.... 」
「誰だ? 」
「陸軍士官学校で、戦術、戦略の面において非常に優秀な成績を収めたものでして。青木 雫少尉というものです」
青木 雫か。
やたら日本人らしい名前だ。
この世界ではたまに異世界から転生してくる人がいると聞く。
もしかしたら、それなのかもしれないな。
「優秀な成績とは、具体的には? 」
私はハベルゼンに質問する。
今後の方針を決める重要な会議に出席させるか否かの判断は慎重に行わなくてはならない。
「はい。まず、銃や野砲、曲射砲といった、いわゆる近代兵器の効果的な使用方法について質問した際、陛下の考えている事と、ほぼほぼ同じ回答をしたのです」
「それだけか? 」
「いえ、ほかにも今後どのような兵器が必要かという問いに、陛下がかねてより研究を急がせている『航空機』が必要になると言っていたのです」
この時、私は確信した。
青木少尉は間違いなく転生者だ。
「ハベルゼン。青木少尉を連れてきてくれるか? 」
私の頼みに、ハベルゼンは、はいと言って、いったん部屋を去った。
そして数分後、扉をノックして再び部屋に入った。
「こちらが 青木 雫 少尉です」
こうして紹介されたのは黒髪長髪で黒目、身長は150糎あるかないかといった感じの少女だった。
「小官は青木 雫少尉です!」
彼女はそういって元気よく自己紹介をした。
「単刀直入に聞く。転生者か?」
私は彼女に質問した。
もし彼女が転生者なら、私が知らない前世の知識を得られるかもしれない。
そんな私の問いに、彼女はまた、元気よく返答した。
「はい!地球の日本というところから来ました」
当たりだ。
彼女は転生者だ。
「日本のどこから来た?どうやって来た?いつ頃来た? 」
私はつい気持ちが高ぶってしまった。
久々に同じ日本というところから来た人ということで興奮してしまった。
「ええと、日本の東京からきました。来た理由は車に引かれて、それで死んでしまって....この世界に来たのは3年前です。前世の暦だと、西暦2024年、15歳で死んで転生しました。」
西暦2024年、私が死んだのは西暦1972年。
そこから転生して私は7年経過してるので1979年かと思ったが、どうやら前世とこっちの世界は時間の進み方が違うようだ。
私がいろいろ考えていると、青木少尉が質問してきた。
「陛下も転生者と聞きましたが、前世はどうだったのですか? 」
「私は1889年に日本の福島で生まれて1972年に死んだ。前世は軍人をしていたよ」
すると彼女は驚いた表情をしていた。
私とは転生した年がかなり違うことに驚いているのだろうか。
少しすると、彼女は目を輝かせて私に質問してきた。
「私、ミリオタなんです!だからいろいろ気になるんですけど、陛下は前世、どこに配属されて何をしていたのですか?! 時代的に第二次世界大戦も経験してますよね?どうでした?」
ミリオタというのが何なのかはわからないが、今度はこっちが質問攻めされてしまった。
「私は前世、主には満州にいたかな。そこで関東軍作戦主任参謀なんかもしたよ」
私がそういい終わると、彼女はさっきまでの表情を一変させて私を見た。
その表情はお世辞にもいい表情ではなく、どちらかと言えば敵を見るような感じだ。
「もしかして陛下って、満州事変を起こした、あの石原孝雄ですか?」
彼女は恐る恐るそう聞いた。
それに対する私の答えは決まっている。
「そうだ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女から敵意のようなものを感じた。
それはその場にいたハベルゼンも同じだった。
ハベルゼンはその敵意を危惧して青木少尉の前に割って入ろうとした。
私はそんなハベルゼンを止めた。
私の前世の行いは他者から見れば褒められるものではない。
生前、戦後の教科書を見たことがあったが、私は悪の権化として書かれていた。
少しに沈黙の後彼女が私に質問してきた。
「陛下は戦争は嫌いですか? 」
いきなりだった。
何の意図があるか全くわからない。
「勿論だ。ないほうがいいに決まっている」
私の返答を聞いた彼女の表情が少し穏やかになった。
「陛下は、世界平和のために、満州事変を起こしたんですよね? 」
「そうだ。私は当時、本気で『最終戦争』が起こると思っていた。その一歩として、その最終戦争に勝つための布石として満州事変を起こした。だが、皮肉なことに結果それは関東軍を暴走させるだけだった.... 」
私は当時、最終戦争が起こると確信していた。
最終戦争とは亜米利加と日本が大量破壊兵器を用いた戦争のことだ。
そして最終戦争をした後、世界は恒久的に平和になるという考えだ。
私の答えに対し、彼女の表情は完全に戻っていた。
そしてしばらく沈黙した。
「どうした?」
私は彼女に沈黙の意味を問う。
「実は私スキルを持っているんです。『真偽の感知』といって相手が嘘をついているか、そうじゃないかが分かるんです。それで、さっきの発言には嘘がなかったので」
「だとしても私が満州事変を起こしたことに変わりはないぞ? 」
私のその問いに彼女は複雑そうな顔をした。
「確かにそうです。いくら平和のためとは言え、侵略したのは事実です。でも、当時どんな状況で、どうしてそんなことをしたのか、私にはわかりません。だから、私が責めるのは違うかなって思ったんです。それに、陛下の平和が平和を望んでいたのは本当だったので」
彼女はそう言って下を向いた。
おそらく、まだ納得できてはいないのだろう。
当然だ。
恒久平和のためにとは言っても、私は侵略をしたのだから。
「陛下、そろそろお時間です」
そんな思い空気の中、ハベルゼンが私に言った。
「そうか、では行くとしよう。青木少尉もついてきてくれるか? 」
私がそう言うと、彼女は元気よく、はいと言った。
こうして私たちは3人で会議室にはいった。
ほかの大臣たちは青木少尉のことを不思議そうに見ている。
「彼女は私が今日、特別作戦参謀として任命した者だ。よろしく頼む」
私がそう言うと、大臣たちがざわざわし始めた。
青木少尉もとても驚いていた。
そしてすぐ、青木少尉に小声で話しかけられた。
「どういうことですか?!聞いてませんよ?!」
青木少尉は非常に混乱していた。
「どうもこうもない。貴官は今日から作戦参謀だ」
私がそう言うと、今度はハベルゼンが困惑した。
「陛下!?、そんなでたらめに決めていいのですか? 」
「大丈夫だ、作戦は私の方であらかた決まっている。青木少尉は聞くだけで構わない」
困惑する周りをよそに、作戦会議を始めた。
まず、今回の戦争、敵の兵力はアルノーいわく13万らしいが、諜報部の情報によればそれは総兵力の話で、実際、攻勢に動かせる軍隊は8万程度らしい。
対する我々は3万の銃で武装し近代化された軍隊を丸々使うことができる。
それはなぜか。
各所の防衛を諸侯たちに任せているからである。
現在この国は国軍のほかに諸侯が運用する私兵が存在する。
そして各所の防衛をその私兵に任せることで、3万の国軍はそのすべてを一点に集中させることができるのだ。
そして今回おそらく戦地になるのはメルヒオル・リープクネット公爵が治める領地の中にある、『ヨルク要塞』だろう。
というのも、ヴィクトワール王国と我が国の間には山があり、そのせいで双方をつなぐ道が少なく、ましてや8万の軍勢が通れる大きな道となると一つしかない。
その道の途中にあるのがヨルク要塞なのだ。
なので戦場はヨルク要塞付近で間違いないだろう。
そしてそのヨルク要塞の左右は山に挟まれている。
要は谷にヨルク要塞があるのだ。
ちなみにメルヒオル公爵は私兵1万を私にあずけてくれるそうなので、我が国が迎え撃つ戦力は銃で武装した国軍3万と、剣のみ使える騎士1万の計4万だ。
そして使える武器、兵器だが、まず5年前に開発された『六年式小銃』以前私が試し撃ちしたことのあるあの銃だ。
次に『七年式七五粍野戦砲だ』これは駐退機を用いており、発射速度毎分八発で七式榴弾を使用できる。
最大射程距離は五〇〇〇〇米だ。
ただ、銃の生産を優先したため5門しかない。
後はその一年後に開発された『八式七五粍曲射砲」もある。
同じく七式榴弾を使用し、射程距離は四七〇〇〇米だ。
ただ、こちらも六門しか生産されていない。
最後に『七年式機関銃』もある。
これは毎分五〇〇発を発射でき、見た目は前世のマキシム重機関銃に近い。
ただ、先と同様五門しか製造されていない。
以上が我が国の戦力だ。
私が説明を終えた。
このまま作戦について話してもいいが、せっかくなので青木少尉に話を振ってみよう。
「青木少尉なら、どんな作戦を立てる? 」
私がそう聞くと、彼女はおどろいた。
まぁ、さっき私は聞くだけでいいと言ってしまったしな。
だが、少しすると、彼女は真剣に考え始めた。
そして3分程度考えた後、話し始めた。
「まず、要塞より10キロ手前に塹壕を掘ります。そこに3万の近代化された兵を投入して、迎え撃ちます。そして接近されたら撤退し、1万の騎士や野戦砲、曲射砲も使い要塞で持久戦を展開するのはどうでしょうか。」
なるほど、そうきたか。
悪くはない。
銃の基本戦術と中世の攻城戦を組み合わせた基礎に忠実な戦略だ。
だが、それでは兵を今回の戦だけで使い潰してしまう。
「では、撤退の際、戦術歩兵や戦略歩兵が馬に乗って追撃されたらどうする?最悪、部隊が全滅する危険さえもある」
私のその問いに、彼女はアッときずいた表情をした。
戦術歩兵や戦略歩兵というのはわが国が新しく採用した強さの基準で、20対1で勝てるのが戦術歩兵、50対1でも勝てるのが戦略歩兵だ。
そんな彼らは前世では考えられない強さであり、中には銃弾を見きって躱したり、剣で真っ二つにする者さえいる。
ちなみに我が国は戦術歩兵を6人、戦略歩兵を3人有している。
しばらく待ってみたが、彼女は代案を出すことができなかった。
なら、次は私が作戦を立案しよう。
「まず、要塞から二粁間隔で3つの塹壕による防衛線を展開する。
そして各塹壕には後ろの塹壕につながる撤退用地下道を大量に作る。
さらに撤退の際、魔法による土や岩、火の壁を塹壕の前に展開し時間を稼ぐ。
メルヒオル公爵の私兵は第二防衛線と第三防衛線の間の山に伏兵として配置する。
そして最後、第三防衛線より、敵の距離が100米をきったら銃剣を着剣し、突撃する。
友軍誤射を避けるため突撃が開始したら発砲、砲撃のすべてを禁止する。
そしてその突撃を合図に、後ろから私兵が挟み撃ちを仕掛ける。
なお、野砲、機関銃は第三防衛線に配置する。
これが私の考えた『漸減決戦構想』だ」
私が話し終えると、青木少尉とハベルゼンは目を輝かせていた。
「さすがです!陛下!まさか要塞を使わない防衛作戦を立案するとは..... 」
ハベルゼンが私を褒める。
要塞を使わない理由はいくつかある。
まず、必然的に持久戦になってしまうこと。
援軍が望めない我が国の現状では、持久戦になってしまうと我が国より国力が高い相手のほうが有利になってしまう。
さらに狭い要塞内では、効果的に小銃を使うことはできない。
ましてや城塞内に撤退の際に狙われて、甚大な被害をだしたら元も子もない。
後は攻城用の兵器を敵に持ってこさせることで余計な兵力を使わせることもできる。
以上の理由から、要塞は使用しない。
「さすが『戦争の天才』.... 」
青木少尉は関心していた。
「なんだ、その呼び名を知っていたのか」
私は青木少尉に話しかける。
「はい!前世では優秀な日本軍将校として有名でしたから」
そうなのか。
改めて『戦争の天才』というのは、なんか恥ずかしいものだな。
恥ずかしがるのもほどほどに、私は皆に質問する。
「何かこの作戦について、異論のあるものはいるか? 」
私のその問いに、全員が首を横に振った。
なら問題はない。
作戦は決まった。
後は実践に向けて準備するのみだ。