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『戦争の天才』は敵の拠点に殴り込む!

 奴隷商を射殺した後、我々は一度酒場に戻った。

 ちなみにあの少年は、私たちがこの国に来るときに使った馬車でフェアンベルゼン王国に連れて行った。

 まずは砂嵐対策のヘルメットを作らなくてはならない。

 私は店主に話しかけた。 


「棒を3つと布、あとそこのガラス窓をくれないか?もちろん代金は支払う」


 私の言葉に店主は不思議そうな顔をした。


「あなた方は先ほどの....何に使うんです?」


「ちょっとした日曜大工だよ」


「さっきの騒ぎに関係してるんですか?」


 どうやら我々を怪しんでいるらしい。

 まぁ、エルベルトがあんなにも怒鳴ったんだから当然だ。

 私は正直に店主に事情を説明する。


「奴隷商人どもを潰してくる」


 もしかしたら彼も裏でつながっているかもしれない。

 私は手を胸の近くに置き警戒する。

 

 彼は少し黙った後、わかりましたと言って物を取りに行った。


「話して大丈夫だったのか?」


 エルベルトが私に問いかける。

 確かにかけの要素はある。

 だが、正直に言わなくては協力はえられないだろう。

 

「正直賭けだがしかたない。私は店主を信じるよ」


 少しして、店主が戻ってきた。

 3つの棒と布、そしてもう一人の店員が窓ガラスを持ってきた。


「これで問題ないですか?」

 

 店主が私にそう質問する。


「ああ問題ない」


 私がそういうと店主は運んできた物を机に置いて私たちのほうを見て、懐かしむような顔で話し始めた。


「実は私はもともとスラムにいたんです。友人たちと一緒に毎日が生きるか死ぬかですけど、必死に生きてたんです」


 店主は微笑みながらそう話した。

 だが次の瞬間、店主の顔が変わった。

 それはまさに修羅のような顔だ。


「けど、ある日奴隷商人たちが、友人をさらったんです。そして奴隷商人は私たちを見て言ったんです。『友達を返して欲しかったらお前らが金を払ってその友達を買い戻せ。仕事は用意してやる』と」


 あの少年と同じ手口だ。

 昔からその手口は変わっていないのだろうか。

 

「それで、その仕事とは?」


「色々でしたよ、盗み、殺人、死体処理、あとは気持ち悪い貴族に体を売ったり」


「その友達はどうなったんだ?」


「売られてましたよ。誘拐されてから一ヶ月後にはね。私達は取り返せもしない友達のために、奴らに金を払ってたんです」


 なんとなく分かってはいた。

 だが、胸糞悪い展開だ。

 そしておそらく、彼らもしばらくしたら奴隷として売り払われたのだろう。

 そっちの方が裏の仕事をさせるより稼げる。


 すると店主は握り拳をつくり、震えさせ、テーブルに叩きつける。


「私は奴らが許せない!憎い!殺してやりたい!」


 溢れ出る憎悪と怒りが露わになっている。

 その程度は筆舌に尽くし難い。

 

 すると店主は今度、ぽろぽろと涙をこぼした。


「でも、奴らは強い。私ではどうやっても勝てない。それに勝てたとしても、貴族が黙ってない」


 そう言うと店主は私たちの方を見て、私の手を握った。


「あなた方はおそらく相当腕の立つ人たちだ。だからどうか、どうか奴らを殺してくれ。そのためだったらなんでもする。だからお願いだ....」


 そう言ってさらに私の手を強く握った。


「勿論だ」


 私がそう言うと店主は号泣した。

 人目も気にせず、地面に倒れ込んで泣いた。


「さぁ、早く眼鏡を作ってしまおう」


 エルベルトが私に言った。


「そうだな。早く奴隷達を解放しなくてはな」


 私はさっそく取り掛かる。


 まず、棒3つで骨組みをつくる。

 円を作るイメージで、中心角から60度ずつずらして棒を重ねる。


「ハベルゼン、接着魔法を頼めるか?」


 接着魔法とはその名の通り、物体を接着する魔法だ。

 私の頼みにハベルゼンはわかりましたと言って、接着魔法でその棒を固定した。


 次にその上から布を被せる。

 そして頭から被った時、顔が見えるように穴をナイフであける。


 後はガラスを切断しなくてはならない。


「エルベルト殿、その窓ガラスからこの穴の大きさ分、切り抜けるか?」


 エルベルトは半分理解してなさそうだったが、分かったと言って剣を抜いた。

 

 この世界には魔力がある。

 その魔力は魔法を使う時に必要だが、それを剣に流し込めば、どういう原理か剣の切れ味と強度が格段によくなる。

 

 エルベルトは剣に魔力を流し込み、ガラスを豆腐のように切断した。

 私はその切り出されたガラスを布の穴にはめハベルゼンに再度接着魔法でくっつけてもらう。


 すると、簡易的な潜水服の帽子のようなものが出来上がる。

 私はそれを被り、首元まで伸びている布をを紐で縛る。

 すると中はおおよそ密閉され、砂は入らなくなる。

 これで完成だ。

 

「さぁ、奴隷商人共を潰しにいこうか」


 息苦しいので、帽子は脱いだ。

 私達は店主に再度代金を払って、店を出た。

 目指すアジトはここから東に進んだところのある18番倉庫の地下室だ。

 確か18番倉庫は港の倉庫でかなり広いと聞く。

 国内外の商品が集まる場所で、この国でも有数の港の倉庫だ。


 私達はさっそく向かう事にした。

 向かう道中、私はエルベルトに質問された。


「今更こんなことを言うのはあれなんだが、他国の国王2人がこんな事をしていいものなのか?」


 確かにそう言われればそうだ。

 先程の店主の話では貴族との繋がりもあるらしい。

 と言う事は王族との繋がりもあるかもしれない。

 が、問題はないだろう。


「どうせ後一ヶ月すればこの国は我が国との戦争が始まる。それで我が国が勝ってこの国を属国にでもすれば問題はないだろう」


「なんとも大胆な解決方法だな....」


 エルベルトは少しひいていたが、まぁ、問題はないだろう。


「にしても、どうしてそう勝てると言い切れるんだ?戦は始まらなければ勝敗はわからないものだろう?」


 エルベルトがさらに私に質問してきた。

 

「戦は戦う前から始まるものだ。どんな武器を使い、どんな戦略を立て、どんな戦術で相手とぶつかるか。それで勝敗の9割は決まると言うのが私の持論だ」


「つまり、準備は万全と言うことか?」


「ああ、武器も戦術も戦略も完璧だ」


 私は一ヶ月後の戦争に絶対的な自信がある。

 負ける事は万に一つもない。

 なにせこちらには近代化した武器、兵器、戦略があるのだから。


 それから私はエルベルトに銃についての有用性を説いた。

 エルベルトは生粋の剣士なので疑問を抱いているようだったが、次第に銃の恐ろしさを理解したようだった。


 そうしてしばらく話していると、目的の場所についた。

 夜も遅いため、明かりは少なく、光の灯っている倉庫は少ない。

 だが、18番倉庫には光が灯っていた。

 

 私たちはさっそく18番倉庫の中に入る。

 中は普通の食糧が置いてあるだけで、特段怪しいものはない。

 そんな中、一人商人のような見た目をしている男が食料を運んでいた。

 その男はこちらに気づくと食料を置いてこちらに近づいてくる。


「こんな遅くにどうされました?」

 

 おそらくこの男は奴隷商人だろう。

 言い切ることはできないが、私の勘がそう言っている。


「奴隷を買いたい。案内してくれないか?」


「すみません。おっしゃってる意味が分かりません」


 男は顔色を変えることなくそう言った。

 だが、ここでその言葉を信じてはいけないだろう。

 なので私はフェアンベルゼン王国国王の紋章を彼に見せる。


「私はフェアンベルゼン王国国王、石原孝雄だ。アルノー陛下より、ここにはいい奴隷がたくさんいると聞いてな。寄ってみたんだ」


 元論嘘である。

 そんな話はしてないし、なんならアルノーに宣戦布告されたばかりである。

 

 次にエルベルトが自国の王家の紋章を見せた。


「私はクライスト公国国王アルノー・クラッソだ。わたしもアルノー陛下より紹介されたので寄った次第だ。それと、このことはくれぐれも内密に頼む」


 それを聞いた商人風の男は急に笑顔になった。


「ようこそお越しくださいました!さぁさぁ、どうぞこちらへ」


 そういって一礼すると、私たちを案内した。

 この男は奴隷商人で間違いなさそうだ。

 男は食料の入った箱をいくつか動かした。

 するとそこから地下へと続くであろう扉が出てきた。


 男はその扉を開ける。

 するとそこには予想通り地下へと続く階段があった。


「どうぞ、ついてきてください」


 男は明るくそう言って階段を降りていった。

 どうやら国王が二人も来たことで上機嫌になっているらしい。

 私たちも階段を降りていく。

 階段は薄暗く少し肌寒い。


 1分くらい降りたところで、扉が見えた。

 

「ここになります」


 男がそういって扉を開けると、そこには筋骨隆々の男たちが多数と少数の奴隷、そしてそれを眺めている客であろう人たちがいた。

 おそらくここは接客するための場所なのだろう。

 この先に奴隷たちがたくさんいるはずだ。

 

 私は三人に目配せをした。

 すると三人も小さく頷いた。

 作戦決行だ。

 私は酒場で作った帽子を被る。


「作戦開始!」


 私は合図を出した。


強風(ウィンドウ)


 私のその合図とともにエルベルトとハベルゼンが左右に風魔法を放つ。

 次にエルベルトの従者が砂をだす。

 すると辺りは砂嵐のような状態になって、まともに目を開けていられなくなる。

 私はそのタイミングで拳銃を胸から出して敵に向けて発砲する。

 なるべく強そうな奴から、奴隷から近い奴から順に射殺していく。

 敵は風切り音と発砲時特有の乾いた音を聞いて混乱している。

 そんな中で、私は一人、また一人と撃っていく。


 こうして、その部屋にいた奴隷商人全員を射殺した。

 全部で17人。

 尋問によれば23人らしいので、となればあと敵は6人。


 3人は魔法を使うのをやめ、私も帽子を脱ぐ。

 辺りには死体と砂が散乱し、目を抑えてる奴隷と客がいた。


「安心してほしい、私たちは助けに来たのだ」


 エルベルトが奴隷たちに向かってそういった。

 その声を聞いた奴隷たちはゆっくりと目を開け、おびえながらこちらを見る。

 中には目に砂が入って目を開けられない奴隷もいた。

 そんな奴隷にエルベルトはそっと近寄り、魔法で目を洗い流していた。


「すまない。痛かったよな」


 エルベルトはそういって奴隷たちの目を順に洗っていく。

 その様子はまさに、優しい近所のおじいちゃんといった感じだ。

 気づけばエルベルトの周りに奴隷たちが集まってきている。

 どうやら奴隷たちは心を開いたようだな。

 そうやってエルベルトが目を洗ってやっているとその場にいた客が声をかける。


「私たちの目もはやく洗ってくれないか。そんな奴らよりこっちを優先してくれ」


 その言葉を聞いた瞬間、エルベルトの顔が変わった。

 そして奴隷のほうを見てにっこり笑って優しく話しかける。 


「君たち、少し後ろを向いててくれないか」


 奴隷達は何かを察したように全員後ろを向く。

 エルベルトは先程の客の顔面を1発殴った。


「少し別室で話し合おうか」


 そう言った後、エルベルトは客たち全員を隣の部屋に移した。

 私も客が全員入り終わった後、部屋に入る。

 中には仁王立ちのエルベルトと正座している客がいた。


静音空間(サイレント)


 エルベルトは移動した先の部屋に音魔法の一種である静音空間(サイレント)をかけ、ドームを形成させた。

 これはドーム内の音は外に漏れ出なくなる魔法だ。

 魔法をかけた後、エルベルトは話し始める。


「貴様らはなぜ奴隷を買った?」


 静かな口調だがその一言にはとてつもない怒気がこもっている。


「その....娯楽目的で」


 客の一人が答える。

 エルベルトはさらに質問する。


「具体的には何をするんだ?」


 すると客たちは口々に答え始める。

 労働力として買う者、暴力のはけ口として買う者、夜の相手役として買う者、狩りの獲物として買う者、いろいろだ。


 そうして客たちが話し終えると、エルベルトは一番近くにいた客の胸ぐらをつかみ、おそらく全力であろう力で顔面を真正面から殴った。

 客は地面に倒れこむ。

 客の顔面は崩壊し、歯が抜け落ち、鼻は折れている。 


「あの子らは貴様らの玩具じゃない!」


 エルベルトが怒髪天を衝いた。


「彼らは必死に生きている!それを嘲り笑っていいわけがないだろう!ふざけるのもいい加減にしろ!」

 

 そういってエルベルトは客を順に殴っていった。

 一人、また一人と顔面が崩壊していく。

 こうして客全員に制裁を科したあと、客を縛って部屋を出て、最初の接客室に戻った。

 奴隷たちは私たちのほうを見ている。

 そして一人が私たちに話しかけてきた。


「あの....この先に....もっと奴隷いる....」


 要は助けてほしいとい言うことなのだろう。

 もちろんそのつもりだ。


「ハベルゼン、ここを見ててくれるか。私はこの先にいく」


「なら私もいこう」


 私がそういうとエルベルトもついていくといった。


「ここは危険度が少なく、一人でも大丈夫でしょう。私もお供します」


 エルベルトの従者がそういった。

 ということで私たちはハベルゼンを置いて先に進むことにした。

 さっきの場所を抜けてすぐ、さらに地下へと続く階段があった。

 私たちはその階段を降りる。

 倉庫の階段同様、薄暗く肌寒い。

 そんな中でエルベルトが私に質問してきた。


「先ほどのハベルゼン殿は貴方の護衛じゃないのですか?」


 おそらくハベルゼンと私が離れたのが疑問なのだろう。

 確かに護衛が主人から離れるというのはあり得ない話だからな。


「私は自分の身くらい自分で守るからな。ハベルゼンは護衛というより執事に近い。それよりもエルベルト殿のほうはこんな死地に入っても、護衛が止めたりはしないのか?」


 私のその問いにエルベルトは笑った。


「私の場合は呆れられているのだよ」


「陛下は止めても無駄ですから、諦めました」


 従者はそう言ってため息をついた。

 エルベルトの従者も苦労が絶えんな....


 私がそんな風に苦笑いしていると扉が見えた。

 私たちは扉を開けて中に入る。


 中に入ってすぐ、生臭い匂いと甘いにおいが鼻をついた。

 嫌なにおいだ。

 辺りを見渡すと牢屋がたくさんあり、奴隷が監禁されているのが分かる。


「誰だお前ら?」


 近くにいた一人がこちらに近寄ってくる。

 私はすぐ拳銃で奴を射殺した。

 だが、その発砲音で敵にばれてしまった。

 ほかの敵が続々と集まってきた。


 集まってきたのは5人、おそらく敵はこれで全部だろう。

 私が照準している途中、エルベルトが私の前に出た。


「私に任せてくれないか」


 そういって剣を構えて、敵中に突っ込んだ。

 そして一瞬にして一人の首を斬った。

 その動きには一切の無駄がなかった。

 まさに長年の努力の結晶といえる『技』だ。

 そのまま流れるように敵の斬撃を躱しながら2人、3人と正確に急所を斬っていく。

 一方的だった。

 それは剣と剣がぶつかる戦いというより虐殺に近い。

 こうして4人目を斬り終わった時、最後の一人が剣を捨て投降した。


「助けてくれ、命だけは....」


 そういって奴は地面に伏してエルベルトに懇願する。

 それに対してエルベルトは


「今まで奴隷を何人殺した?何人誘拐した?何人売った?それを答えられたら助けてやる」


 奴は必死になって話し始めた。

 

「殺した人数は32、誘拐したのは56、俺は奴隷の管理担当だから売ってはいない」


「そうか、わかった」


 エルベルトのその言葉を聞いた奴は安堵の表情を浮かべた。


「それじゃあ、ここで死ね」


 エルベルトはそういって奴に剣を向ける。

 奴は顔色を変えて焦った表情でエルベルトを見る。


「さっき助けてくれって言ったじゃないか!」


 それに対してエルベルトは笑った。

 その性格には似つかわしくない高笑いをした。

 5秒ほど笑った後、急に黙り、奴に言った。


「確かに助けるとはいったが、生かすとは言ってない。死は救済だよ」


 そういってエルベルトは奴を斬った。

 

 まさか私の真似をされるとは。


「さぁ、奴隷たちを解放しようか」


 こうして我々は牢をまわり、カギを開け、奴隷たちを解放していった。

 解放していって分かったのだが、どうやらこの組織は子供の奴隷しかいなかったようだ。

 解放している途中、極度に私たちを恐れるものや、明らかに薬を使用された者、後はすでに亡くなっている者もいた。


 今すぐにでも治療してあげたいが、まずはここから出ることが最優先だ。

 精神的に異常のある者や薬でおかしくなっている人は、多少強引にでも連れていくことにした。

 遺体は数がそう多くはなかったので、私たちが運ぶことにした。


 一通り解放も済んで、我々は上へあがった。


 奴隷解放という目的は済んだ。

 だが、後味がいいものでない。

 私たちがもっと早く助けに来れば私が今運んでいる遺体の人も助けられたかもしれない。

 

 だが、そんなことを考えてもしょうがない。

 私がせめてできることはその遺体を丁寧に埋葬することだけだ。


 こうして階段をのぼり、ハベルゼンと合流して、縛られた客も引き連れて私たちは地上へ出た。

 気づけば外はあかるく、朝になっていた。

 周りを見ると朝採れたての魚介が運搬されている。


「それで、この子達はどうするんだ?」


 エルベルトが私に質問してきた。


「親がいる子供は親元に返す。いない子はこの国に残るも我が国に来るも自由にさせる」


 私がそういうと、『元』奴隷たちは困惑した。

 私にはその困惑の理由が分からなかった。


「あの....私たち....どうすればいい?」


 一人の少女が私に聞いてきた。


「どうすればいい.....か.....この中で家に帰えりたい人は手をあげてくれ」


 私のこの問いに手をあげる者はいなかった。

 緊張しているのだろうか。

 それとも何かほかの原因があるのだろうか。

 私が悩んでいるとさっきの少女が話しかけてきた。


「ここにいるのはみんな、もともとスラムか親に捨てられたかの人たちだから、帰る場所がないの.....」


 そうか、そういうことか。

 帰る場所がないのか。

 解放されても帰る場所がない。

 年端もいかない少年少女にはあまりにつらい現実だ。

 

 なら、大人である私が、手を指し伸ばさなければならない。


「なら、フェアンベルゼン王国に来ないか?君たちに無償で衣食住を提供しよう」


 私がそういうと彼らは少し顔を明るくした。

 だが中には疑っている者もいた。

 当然だ。

 あんな仕打ちをされたのだから人間不信になるのは当たり前だ。


「勿論、嫌なら無理についてこなくても構わない」


 私がそういい終わると、さっきの少女が手を挙げた。


「フェアンベルゼン王国に行きたい。私は、私たちを解放してくれたお兄さんたちを信じる!」


 彼女がそういうと、ほかの子たちも続々と手を挙げた。

 ほぼ、満場一致で決まった時、エルベルトが私に質問してきた。


「この子たちをどうやって連れて行くんだ?子供にフェアンベルゼン王国まで歩かせるのはさすがに厳しいだろう?」


 勿論、そこは考えてある。


「船を使う。ここは港だ。我が国は現在国営でかなりの貿易を行っている。おそらく今ここにもその船があるだろうからそれを使う」


 私はそう説明した後、手分けして船を探すことにした。

 といっても我が国の船は外輪船が主なので非常に目立つため、10分程度で見つかった。


 私はフェアンベルゼン王国国王の紋章を船長に見せ、事情を説明して、彼らが船に乗るのを了承してもらった。  

 ちなみに奴隷を購入しようとした客も乗せる。

 彼らはおそらく貴族だろうが、そんなものは関係ない。

 我が国でしっかりと処罰する。


 彼らを乗せて、出発まであと30分の時、エルベルトが私に話しかけてきた。


「今日はありがとう。もう大丈夫そうだから、私は乗ってきた馬車で帰るとするよ」


「私こそ、感謝をしなくてならない。協力してくれてありがとう。エルベルト殿」


「『殿』はやめてくれ、我々はもう親友ではないか。石原」


 そういうとエルベルトはふっと笑った。


「そうだな、エルベルト」


「次に会うのは私が亡命した時だな」


「そうだな」


 私は思わず顔を曇らせてしまった。

 亡命などとは簡単にできるものではない。

 もしかしたらこれが最後になるかもしれない。


「安心してくれ、私は絶対に生きてまた、石原に会う。これは親友とした約束だ。私は親友との約束は絶対に守るんだ。だからそんな顔をしないでくれ」


 そういって私に向けてエルベルトは笑った。

 エルベルトは強い。

 単に武力ではなく、精神的にもだ。

 なら私は親友として、亡命成功を信じよう。


「また会おう。エルベルト」


「勿論だ、石原」


 こうして私たちは別れた。

 私は船に乗った。


 エルベルト・クラッソ

 彼は間違いなく世界最高の国王だ。

 船に乗った後も、私はエルベルトを見ていた。


 そんな私をよそに、船は動き出した。


 こうして砂号作戦は終わった。

 

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