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『戦争の天才』は敵本土に上陸する!

 俺らはダンレー軍港付近に到着した。

 敵は矢を構え、こちらを迎え撃つつもりでいるらしい。

 

「全艦、砲撃準備!」


 俺の指示で、横に並んだ聯合艦隊は一斉に、その主砲を軍港にむける。

 その様子はまさに圧巻である。


「撃て!」


 次の瞬間、一斉に放たれた無数の砲弾は、無慈悲にも敵旅団を攻撃する。

 たった一回の攻撃で、敵の防衛陣は崩壊した。

 そこから更に次々と砲撃をくわえていく。


 もはや敵は士気を失い、敵前逃亡する者さえ出てきた。

 当然だ。

 こちらの攻撃は届くのに、あちら側の攻撃は届かない。

 アウトレンジ戦法をされては、敵にできることは何もない。


 こうして無慈悲な攻撃を前に、敵旅団は壊滅した。




‐‐‐




 私の名前は石原孝雄。

 つい先ほど、高野より神罰作戦が成功したとの連絡が入った。

 すでに陸軍は輸送船によって自国を出発した。

 また、秘匿兵器『翠嶺』『雪華』も出撃した。

 『翠嶺』『雪華』は硬式飛行船であり、35糎連装砲を3門搭載し、爆弾3tを搭載可能、更に気嚢部分は装甲で覆われていて対魔法結界も張られているという恐るべき兵器だ。

 間違いなく、この世界の中で、頭一つ抜けて最強の兵器だろう。 


 今回のこの戦争で重要になるのは『進撃速度』だ。

 ジェストカン神聖国はどうやら、ヴァントリアス帝国から、数多くのレンドリースを受ける約束をしたそうだ。

 銃、弾薬、火砲、船舶、食糧、その他物資。

 今はまだそう多く供与されたわけではないが、日を増すごとにその数は多くなるだろう。

 そのため、最短で敵を降伏させることが重要なのだ。

 そのため、一式戦車の後継となる二式戦車を今回、実戦で初めて使用することにした。

 二式戦車は全方位旋回砲塔を備え、防御力も格段に向上している。

「陛下見えてきました!」


 ハベルゼンがそう言った。

 窓の外を見ると。そこには石造りの岸や、造船所のような施設が並んだ、港が見えた。

 尤も、砲撃でその多くが破壊され、砂浜は穴だらけだ。

 近くには聯合艦隊が警戒に当たっているのも分かる。


 我々は早速、岸に上陸をする。

 敵は既に撤退したようで、安全に上陸することができた。

 兵力は戦車178台、機動歩兵7万、戦術歩兵20人戦略歩兵7人からなる第一師団だ。

 今回の陣形は、正面に戦車を配置し、そのすぐ後ろには戦略歩兵、戦術歩兵を待機させ、一番後ろに機動歩兵を置く、と言った配置だ。

 陣形は矢のような形をとり、敵戦線を突破次第、機動歩兵による突破した場所の両側の防衛を行う。

 要は前世の電撃戦だ。


 今回、第一に目指すのは敵の副首都「ガナス」だ。

 前線部隊への物資輸送の中心であり、ここを抑えれば敵は補給路を確保できなくなり撤退を余儀なくされるだろう。


 部隊の編成が終わった。

 私は全軍に進行開始の指示を出した。

 第一師団は、進軍を開始した。





 開始してすぐ、先遣隊より敵を発見したとの報告を得た。

 敵の数は2000。

 銃で武装し、塹壕を掘っていて、魔法使いもいるとの事だ。 


「構わん。このまま前進する」


 私は進路を変えずに、このまま進軍するように指示する。



 ほどなくして、敵が見えてきた。

 かなりの長さの塹壕が掘られており、多数の者が小銃や機関銃を構えている。


 我々はそのまま、臆することなく前進する。

 少しして、敵の小銃の攻撃範囲に入った。

 弾のいくらかは命中するものの、戦車の鋼鉄の肉体には傷は一つもつかない。


 そのまま、塹壕を乗り越え、塹壕に沿って、敵歩兵を掃討する。

 そんな中、一台の戦車が撃破された。

 近くには一人の男が立っている。


 恐らくは戦術歩兵だろう。

 戦術歩兵なら戦車を撃破してもおかしくはない。


「こちらも戦略歩兵を向かわせ、奴を撃破せよ」


 私は無線で指示を出す。


 その瞬間、彼はばらばらになった。

 ほんの一瞬。

 

 彼は死んだ。


「どう?石原!すごいでしょ!」


 無線から聞こえてきたのはエメの声だった。

 そうか、彼を倒したのはエメだったか。

 恐らく、さっきの攻撃は姿なき刃(インビジブルエッジ)だろう。



 それからは、特段問題もなく、敵を掃討することができた。

 と言っても、無駄な殺戮は好まないので、降伏を促し、多くを捕虜とした。

 下手に撤退させるより、捕虜とした方が敵の戦力を削ぐことができる。



 それからは、特に接敵することもなく、ガナス付近まで進軍できた。

 その間6日である。


 そして、私のもとに驚くべき報告が来た。

 それは偵察によると、ガナスにいる敵戦力は0との情報だ。

 

 敵は副首都を放棄したのだ。

 すでに部隊は全て撤収済みであり、それどころか食料と言った物資は放火によってほとんど残っていないそうだ。


 今回の我々の進撃速度は異常だ。

 当然、普通に考えれば、それに補給が追いつくはずはない。

 となれば敵は「フェアンベルゼン王国はガナスを占拠した際に強奪できる食糧をあてにしている」と考えるはずだ。

 

 しかし、今回、我々には補給に関して秘策がある。

 それは、馬や自動車を使い、すべてを機動で気に行うということだ。

 また、24時間交代で馬車や自動車を走らせることで、この電撃戦に際しても補給を可能にしているのだ。

 

 敵の都市の食糧をあてにするのは前時代の戦争だ。

 事実、前世のナポレオンはそのせいでモスクワへの侵攻に失敗している。


 我々は堂々と、正面から、敵の副首都ガナスに入った。

 町は壮大で美しく、優雅である。

 まさに、副首都にふさわしい外観だ。



 街に入ると、中では店の目の前で行列を作っている民衆がいた。

 異様である。

 普通、敵国の軍隊が来たら逃げるものだ。

 勇敢なものは立ち向かうかもしれない。

 しかし、彼らはただ、店の前でおとなしく並んでいる。

 こちらを見てはいるが、すぐに目をそらし、前を見る。

 まるで我々など眼中にないかのようだ。

 それがこの都市の抵抗ということなのだろうか。


 私が民衆を見ていると、ひとりの老人がこちらに近づいてきた。


「あんたら、フェアンベルゼン王国の騎士団じゃろう?」


 近づいてくる老人に対して、私の身を案じて一人の兵士が銃を突きつける。


「構わん。この老人に敵意があるとは思えん」


「この街はもう終わりだ。相手にするだけ無駄じゃよ」


「どういうことだ?」


「ここにはもうジェストカン神聖国の騎士様はいない。みんな撤退したよ。要は見捨てたんじゃ」


「じゃあ、あの民衆はなんなんだ?」


「あれは、食糧の配給を待っているんじゃよ。今この街には食料がなんいんじゃ。騎士様がみんな持って行ってしまった。持ちきれない分はほとんど燃やしたんじゃ。それで、残った数少ない食料を配給制にして配っているんじゃ。尤も、その食料もそろそろ尽きそうなんじゃがね」


 なるほど、そう言うことか。


「フェシリテ大佐を呼んでくれ」


 私は部下にそう指示する。

 どうしてフェシリテなのか。

 それは私がフェシリテを輜重兵に任命したからだ。

 その中でも、前線の総監督を任せている。


 決して身内を贔屓しているわけではない。

 前回、試に兵站を管理してもらったところ、フェシリテは恐ろしいほどの才能を開花させ、見事な采配で物資を管理した。

 もともと兵站という概念が薄かったこの世界で、兵站を十分に理解し、完璧に管理する能力を持っている人材は貴重なのだ。

 実際、冒険者の時もパーティー金銭や武器、その他諸々の管理が見事だった。


「石原さんどうしましたか?」


 フェシリテが来た。

 私は単刀直入に要件を言う。


「ここの人たちを助けたい。今ある物資を彼らに分けたらどうなる?」


「正直、厳しいですね。電撃戦は補給が命ですから。補給路はこれからも伸びるでしょうし、正直、現実的ではないですね」


 やはりか。

 電撃戦は速さが命。

 そのため、物資もそう多くを積んでいるわけではない。

 これから進軍して、補給路が伸びることも考えると、とても食料を渡せるような状況じゃない。


「では、この都市への補給が安定するまで、進軍を停止すると言ったら可能か?」


「それは可能だと思いますが.... いいんですか?電撃戦は速度が命じゃ.... 」


「構わん。この都市にはそれだけの、戦略的に重要な価値がある」


「わかりました。すぐに配給を開始します。それと一つ提案してもいいですか?」


「なんだ?」


「ヴィクトワール王国の軍隊を動員して、後方支援を要請するのはどうですか?」


「なるほど」


「ヴィクトワール王国には支援できる食料が大量にあります。それにこの都市に輸送するだけでしたら機械化されている部隊をしようする必要はありません。後方支援のみなら、他国を刺激することもないでしょう」


 非の打ち所がない案だ。


「わかった。それでいこう。ハベルゼン。ヴィクトワール王国への要請を頼む。フェシリテは彼らに物資の配給を急いでくれ。大至急だ」


「わかりました」

「かしこまりました」


 私がそう指示してから少し、誰かがこちらに近づいてきた。

 彼は白旗をあげている。


 彼はまず、自己紹介をした。


「私は、この都市の知事をやっております、デクスター・デインと申します」


 私はこの時、違和感を覚えた。

 確か、この都市の知事はフィリップ・アルドリットだったはずだ。

 それに彼の身なりは民衆よりはいいものだが、せいぜい秘書官の格好だ。


「君はいつから知事になったんだ?」


「実はつい先日でして.... というのも、前の知事含めた重役が皆この街を去りまして。それで、事の成り行きで私が知事に.... 」


 そう言うと彼はえへへと笑った。

 敵が目の前にいるのに、どうして笑えるのだろうか。


「端的言えば、私含めたここにいる住民は皆、見捨てられたのです。食料もないですしね.... 」


 彼が笑えるのは、一切をあきらめたからなのだろうか。


「それで、傲慢にもお願いがございます」


 そう言うと、彼の顔つきが変わった。


「私の首も、この都市に残された金品も、すべてあなたたちに差し上げます。だからどうか、この民たちには手を出さないでいただきたいのです。彼らはこの国から見放され、絶望のどん底にいます。ですが、それではあまりにも報われない。高い税は払っているのに、いざとなったら国から見放されるのはあまりにも酷です。そして最後は占領軍に虐殺されて終わりともなれば、あまりに報われません。どうかお願いです」


 そう言って彼は深々と頭を下げた。

 そして、彼の部下が金銀財宝を持ってきた。

 その量はかなりであり、小さな城が立つほどである。


 そして、デクスターは剣を私に差し出した。

 そして膝をつき、「どうぞ」とだけ言った。


「どうして君はそこまでしてた身を守る?」


「知事だからです」


「事の成り行きで『なってしまった』知事でもか?」


「過程は関係ありません。ただ、私が知事であるという事実があるだけです」


 私は剣を取り、彼に構える。


「君は何か勘違いをしているな。私はたった今、この都市を占拠した。つまり、ここにいる人も、ものも、すべては私の物なのだ。何をするのも私の自由だ」


「どうか、お願いします.... 民だけでも。本当に、彼らは悪くないんです。どうか、報われてほしいんです」


「確かに、報われてほしいな。それは私も同感だ」


「じゃあ!」


「だが.... 」


 私がそこまで言うと、一瞬明るくなった彼の顔はまた暗くなった。


「君はどうなんだ?」


 デクスターは不思議そうな顔をした。


「君の上司から裏切られ、国から裏切られ、挙句の果てには敵国に殺されたとなれば、君が報われないだろう。君が憐れんでいる民と何にも変わらないだろう」


「ですが、私は知事です」


「言ったはずだ。この都市の人も物も、すべて私の物だ。私の物になった以上、民を飢えさせることも、無駄な死者を出すこともしない」


 私の言葉を聞いて、デクスターは泣き出した。


「食料を支援する事を約束する。今、炊き出しの準備をしているところだ。しばらくは軍が駐留するので、経済活動もいくらかあるだろう。今までご苦労だった」


「どうして.... そこまで.... 」


 デクスターは涙をすすりながらそう言った。

 

「民が報われないのは私が許さない。そして、被害者である君が、その正義感のために無駄に命を落としてむくわれなのも許さない。ただそれだけだ。これからはフェアンベルゼン王国領ガナスの知事として働いてもらいたい。どうだ?」


「ええ.... このデクスター.... この生涯を貴殿に尽くすことを誓います」


 尤も、そのほかにも理由はある。

 というのも、この食料が不足した状況において、民衆が暴動を起こさないのは、間違いなく彼の手腕によるものあろう。

 迅速に配給制にしたのも素晴らしい判断だ。


 彼はそう言った才能がある。

 ここで殺すには惜しい。


 ふと、私は部下の一人に伝言を頼む。


「例の『菊』計画をいつでも発動できるよう準備してくれ」


 菊計画。

 発動しないことを祈る。

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