『戦争の天才』はイザベル・シードと対談する!
私掠船を撃退してから数時間。
船はフェアンベルゼン王国に到着した。
岸の方を見ると、馬車が止まっていた。
王家の紋章が入っていることから恐らくハベルゼンが送ったものだろう。
船を降りると、すぐにハベルゼンが出てきた。
ハベルゼンは私の目の前で膝をつき、胸に手を当てた。
「陛下、お帰りなさいませ」
しかし、気になることがある。
今まではこんなことは一度もなかった。
この外出は秘密になっている。
国家の王が護衛もつけず、敵国に行くなんて言うのは大問題だ。
だが、王家の馬車で出迎えてしまえば、それが露呈する。
それが分からないハベルゼンではないはずだ。
「何かあったのか?」
「流石は陛下。つい先日、イザベル・シード女王陛下から会談を申し込まれまして」
なるほど、そう言うことだったか。
「よし、会談をしよう。私もついさっき、奴らの船に襲われたとこだ」
「大丈夫だったのですか?!」
ハベルゼンは一瞬で立ち上がったかと思うと、声を荒げてそう言った。
「ああ、むしろ私掠船の方がかわいそうだったよ」
その言葉に、ハベルゼンは首を傾げた。
‐‐‐
私がフェアンベルゼン王国に帰ってから2か月が経過した。
今日は待ちに待った会談の日だ。
私は書類の最終確認をしている。
この書類は今回の会談で使う重要なものだ。
私が丹念に確認をしている最中、誰かがドアをノックした。
「失礼します」
その声は女性の声だ。
その声色はまだ少し幼さを残している。
扉から出てきたのは、金髪で赤い目をした、メイドだった。
「今日から陛下に仕えることになったゲルデ・クライシェです。よろしくお願いいたします」
そう言って彼女は一礼した。
私はあらかじめ、彼女の事をハベルゼンから聞いていた。
ハベルゼンがヴィクトワール王国に言った際に見つけた少女で、自殺しようとしていたところを助けたらしい。
その理由は、『戦争で父も母も弟も家も失ったから』だそうだ。
ヴィクトワール王国の首都攻略戦の際に放った砲弾の一発が目標の城から逸れ家に直撃したらしい。
たまたま買い物にいっていたゲルデだけ助かったらしい。
その話を聞いて、負い目を感じたハベルゼンは家と職場を与えたそうだ。
普通、家族を殺した人間のもとでは働きたくないように思えるが、彼女いわく、
「張本人である石原孝雄がどんな人間かを見てみたい」
という理由で、私の専属メイドを希望したそうだ。
彼女を見ていると、なんとも言えない気持ちになる。
彼女は黙々と掃除をしている。
「すみませんでした」
私はこの言葉しか出てこなかった。
その言葉を聞き、彼女は私を見た。
その顔は形容できないほどに複雑だ。
誰かが扉をノックした。
「陛下、お時間です」
ハベルゼンが扉を開けた。
「ああ、今行く」
そう言うと、ハベルゼンは何かを察した。
「では、会談室でお待ちしております」
ハベルゼンが去った後、私は彼女の目を見た。
「君に対する罪滅ぼしをしたい。何をすればいい?」
「特にありません.... 」
彼女は真顔でそう言った。
「そうか、では会議に行ってくる.... 」
私は部屋を出た。
どうやらイザベル・シードは既に会談室にいるそうだ。
私は会談室の扉を勢い良く開けた。
「では、会談を始めようか」
私は席に着いた。
イザベルは少し不機嫌そうだ。
当然だ。
わざわざ、フェアンベルゼン王国に出向いたのに出迎えるときに私はいないし、会議室で待たされたのだから。
「単刀直入に聞きたい。何を話しに来たんだ?」
私は面倒くさい回り道は嫌いだ。
「不可侵条約を結びませんか?」
イザベルから出てきたのは意外な言葉だった。
私は正直ジェストカン神聖国は戦争を望んでいるものだと思っていた。
いや、もしかしたら神判という最強戦力を失ったからかもしれない。
不可侵条約は望んでもみなかった話だ。
だが、一つ言いたいことがある。
「貴国は、海賊行為を行っているが、条約を結べばそれを止めてくれるのか?」
「どういうことでしょう?」
「少し前から我が国の船だけが海賊に襲われているんだ。それで、船内からこれが見つかった」
私はこの間エルベルトがとってきた復仇免状をイザベルに見せた。
「なんでしょう、これは?私はこんなものを書いてはいませんよ?」
そうか、あくまでしらを切るか。
「では、最近我が国の子供がよく貴国に誘拐されるんだ」
私はそう言って誘拐された子供達の資料を見せる。
「それはそれは.... 我が国の方でも捜査いたしましょう」
「いや、その心配はない。実は先日救出されたんだ。入ってくれ」
私がそう言うと、ハベルゼンは一人の子供を部屋に入れた。
「次にこの資料を見てくれ」
そう言って私はイザベルに資料を渡した。
その資料は神判を襲撃した時に発見した、少年兵育成に関する資料。
「どうだ?貴国にあった少年兵育成の資料にあった人物と全く同じなんだ」
そう、さっきの子供は神判を襲撃した際に助けた子供だ。
イザベルは2つの資料と、目の前に立っている少年とを見比べる。
間違いなくこの資料2つはこの少年をさしていると気づいただろう。
この時初めて、イザベルの顔が変わった。
イザベルの顔はいら立ちから焦りになっていく。
「この資料をどこで?」
「私もよくわからないんだ。ただ、噂だが、どこかの冒険者が『神判』という組織を壊滅させた際に見つけたらしい」
それを聞いたイザベルはまた、怒りの顔になった。
「貴国も大変だろう。国家最強戦力を失って」
「神判への襲撃は貴方がやったのですか?」
「まさか。冒険者から話を聞くまでは存在すら知らなかったよ。それで、不可侵条約の件だが。誘拐した子供の解放と海賊行為の停止をしてくれるのであれば締結しようと思う」
「では、こちらからも条件があります。神判を襲撃した際の被害額を弁償していただきたい」
「なぜ?あれは冒険者がやったことだ」
「ですが、その冒険者と結託している時点で同罪です。それにこのまま罪滅ぼしを行わなければ神罰が下りますよ。それに貴国だって我が国と戦争するのは得策ではないでしょう?戦争で魔法は非常に有効。そんな魔法が圧倒的に発展している我が国とやりあったら.... この先は言わなくてもわかりますよね?」
イザベルはやたらと高圧的に、しかし笑顔でゆっくりとそう言った。
「別に冒険者から子供を引き取っただけで結託はしていない。それに前も行ったが私はストイール教の信者ではない。最後に、我が国は貴国を脅威だとは思っていない」
「では、交渉決裂ですね」
そう言ってイザベルは立ち上がって部屋を去ろうとした。
その際振り返って、
「神罰が下らんことを」
そう言った。
前にも聞いたことがある。
「そう言って前回は下らなかったな。貴様のとこの神に仕事をするように祈った方がいいんじゃないか?」
私は彼女にも聞こえるように大きな声でそう言った。 イザベルは聞こえないふりをして去っていった。
さて、こうしてフェアンベルゼン王国とジェストカン神聖国の不和は決定的になった




