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『戦争の天才』は奴隷商人を尋問する!

 エルベルトとの話も終わり、私たちは席を立った。

 そして会計をするため財布を出した。

 と言っても布でできている貧相なものだ。


「今日は有意義な話ができてよかった。そのお礼に今日は私が支払おう」


 私はエルベルトにそう言った。

 エルベルトは笑いながら『それはありがたい』と言った。


「我が国は経済が破綻しかかっていてね。お言葉に甘えさせてもらうよ」


 いくら経済が破綻しかかっていても国王が酒場の代金も出せないということはないだろう。

 するとこれはジョークか?

 だとすればなんとも触れづらいものだ。


 私は苦笑いしながら財布に手を突っ込んだ。

 その時、後ろから声をかけられた。


「お兄さん、いい財布だね」


 後ろを振り返ると、そこには7歳くらいの少年がいた。

 

「ちょっと見せてよ」


 そう言って少年は笑顔で私の前に手を出す。

 ただ気になったのは、なぜ少年がここにいるのか。

 ここは酒場だ。

 誰かが連れてきたのだろうか。


 若干の疑問がありながらも、わたしは少年に財布を渡した。


 その時だった。

 少年はそのまま財布をもって走り出した。

 私もワンテンポ遅れて少年を追いかけようとした。


 だが、その必要はなかった。

 エルベルトが一瞬にして少年の頭をつかんだのだ。

 その動きには一切無駄がなく、まさに歴戦の猛者のみが行える動きだった。


「なんでこんな事をしたんだい?」


 エルベルトは静かに怒りながら少年に質問する。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 ただ、それに対して少年は泣きながらごめんなさいとただひたすらに謝るだけだった。

 

「なぜやったのかと聞いているのだ!」


 エルベルトは怒号をあげる。

 その声に思わず私も震えてしまった。


 ただ、その怒号を聞いてもなお、少年は泣きながらごめんなさいと繰り返すだけだった。

 何かがおかしい。

 普通の少年がただの金欲しさで盗みを犯すものだろうか?

 この少年は気がそうおおきいわけではなさそうだ。

 なんというかやらされているといった感じだ。

 よく見ると身なりもそういいものではない。

 スラムとまではいかなくても裕福ではないのだろう。


 私は優しい声で少年に話しかける。


「君、何かお金が欲しい理由があるんじゃないのかい?」


 少年ははっとしたような顔をして泣くのをやめた。

 おそらくは裏で何かがあるのだろう。


「その....えっと.... 」


  ここだと場所が悪いのだろうか?

 私は店員に言って個室を一室借りた。


 借りた部屋に移動して私は再度質問した。


「何かお金が欲しい事情があるのかな?」


 すると少年はうんとうなずいた。


「どうしてお金が必要なのかな?」


 私は極力優しい声で話しかける。

 すると少年は涙をすすりながら話し始めた。


「その、友達が奴隷商人に捕まっちゃって....それで、お金が欲しくて」


 奴隷商人か....

 一応、この国では奴隷は禁止されている。

 が、貴族や王族が秘密裏に買うので摘発などは行われず野放しになっている。


 だが、ひとつ気になることがある。

 その捕まってしまった子の親はどうしているのだろうか?

 このこの格好はスラムの恰好とはまた違う。

 貧相ながらも最低限の清潔さがある。


「それで、君のお父さんとお母さんには言ったのかい?」


「僕には、父さんもお母さんもいない.... 」


「そのお友達にもかい?」


「うん。僕たちはスラム街に住んでたから。親がいない子供同士で集まって生活してたんだ」


 そこで奴隷商人がやってきてその友達を拉致した、ということだろう。

 なんとも気分が悪い話だ。

 

「今の仕事もね、奴隷商人にいい仕事があるって言われてやったんだ。お金をたくさん稼いだら、友達を返してくれるって言ったんだ。だからそれで.... 」


 なるほど、だから服もスラムのような服ではないのか。

 

 にしても勝手に人を拉致しておいて何がいい仕事があるだ。

 なんとも腹立たしい。


 その時、私はふと気になった。

 子供が酒場にしかも夜に来ることはおかしい。

 となれば大人と一緒に来ているはずだ。

 となれば、もしかしてあの酒場に奴隷商人の仲間がいるのではないだろうか。

 私は少年に質問してみる。


「今日はその奴隷商の人と今日は一緒に来たのかい?」


「うん。僕が変なこと言わないか見張ってるんだって」


 そういうことか。

 確かに助けを求められたら厄介だ。

 ただ、おそらく今回は少年が目立ちすぎた挙句、別室に連れていかれたから私たちに絡んでくることもなっかったのだろう。

 エルベルトの怒号であれだけ目立ってしまえば、仮にも違法な奴隷商人は糾弾されかねない。


 そのため今回は出てこれなかったのだろう。

 つまりまだ店にいる可能性が高いというわけだ。


 私たちは少年に一緒に来た奴隷商人の特徴を教えてもらった。

 20代くらいの青年で、金髪、目の色は青色だそうだ。

 

「これからどうするんだ?」


 エルベルトが私に質問してきた。


「無論、その奴隷商人の組織ごと潰す」


 こんなに気分の悪いものを見ておいて見過ごすわけにはいかない。 


「なら私も協力させてくれ。腕には自信がある」


 エルベルトがいきなりそう言った。

 いやいや、さすがに一国の国王が行くには危険すぎる場所だ。


「いや、一国の国王が行くにはあまりにも危険すぎる....」


 私がそう言っている途中でエルベルトはかぶせるように


「それは貴方にも言えることだろう?それにごろつきに殺されるほど、私は弱くはない」


 と言った。

 どうしたものかと思いながらエルベルトのを見るとその目には決意と怒りが見える気がした。

 私は本能的に、あきらめさせるのは無理だと確信した。


「死ぬなよ」


 私はエルベルトに警告する。


「勿論だ」


 エルベルトは私をじっと見つめてそう言った。

 

 私たちはまず、部屋を出て教えてもらった特徴の人に接触する。

 私たちが少年を連れてその人に接触すると、その男はすべてを悟ったのかため息をついた。

 そして私に近寄ってきた。


「裏に来い」


 そういって彼は店主に金を渡して店を出た。

 おそらく彼が奴隷商人で間違いないようだ。

 私たちも金を置いて後を追うように店を出た。

 そして近くの裏路地に行くと彼がいた。


「そのガキから全部聞いてんだろ?」


 開口一番彼はそう言った。


「俺らとしては穏便に済ませたい。どうだ?誰にもこのことを話さない、そのガキをこっちによこす。その二つさえ守ってくれるんだったら、25万レイトやろう」


 レイトとはこの国の通貨の単位だ。

 提示された額は25万レイト。

 2万レイトで一般的な家族が生活できるだけの値段だ。

 その12.5倍の額。

 どうやら相当儲かっているらしい。


 ふと少年に目をやると少年は不安げな顔をしている。

 おそらく私たちが自分を売らないか心配しているのだろう。


「なかなかいい条件だ。だが、お断りさせてもらう」


 私は当然断った。

 すると男は露骨に態度を悪くして私に再度提案してきた。


「俺らは武力があるから奴隷を従えてるんだ。つまりは.... わかるだろ?つまらない正義感で死にたくなければ25万レイト持ってとっとと去れ」


 今度は脅してきたか。

 確かに彼らは強いだろう。

 だが、所詮は弱者を虐げるだけの存在。

 強者と常に戦ってるわけではない。

 恐るるに足らんな。


「だったらその武力とやらで私を殺してみたまえ」


「吐いた唾は呑めねぇぞ」


 そう言って奴は抜刀した。

 それに合わせて私も胸のホルダーから自動拳銃を取り出す。

 そしてスライドを引き、やつの腹に目掛けて撃った。


 乾いた音が響いたと同時にやつは地面に倒れ込んで腹を押さえた。


「どうだ?我が国が開発した『試製十年式自動拳銃』は」


 十年とはこの世界で使われている暦『解放歴1210年』からきている。

 ちなみに今が解放歴1210年だ。


 奴は私の質問に応じる事なく、立ち上がり再度剣を構えた。

 なので私も銃を構え、今度は奴の両膝を撃った。

 狙いが難しかったが弾丸は見事命中し奴の両膝は機能不全になった。

 そう、奴はもう立てないのだ。


 私たちは無力化した奴に近寄る。

 そしてそのまま奴を縛った。


「お前、何をした?」


 やつはただただ不思議そうに私に質問した。

 銃が普及してないこの世界では当然の質問だろう。

 だが、私にはその質問に答える義理はない。


「貴様らの拠点とその拠点内にいる仲間の人数を言え」


 私は彼に質問する。

 

「誰が言うかよ。殺すなら早く殺せ」


 彼はそう言ってふっと笑った。

 奴の目を見ると、その目は死ぬ覚悟が決まった目だった。


 ただ、今は殺すつもりはない。


「ハベルゼン、ナイフをくれないか?」


 私はハベルゼンにナイフを要求する。

 ハベルゼンは胸からナイフを取り出した。

 そしてそれを両手で私に渡した。


「ありがとう」


 私はハベルゼンから渡されたナイフの鞘を抜き、そのまま奴の右太腿にゆっくりと刺した。

 なるべく時間をかけてゆっくりとだ。

 奴は断末魔をあげ、体を動かす。

 そのせいで傷は深く、広くなっていく。

 私はナイフを一気に抜き、再度質問する。


「貴様の拠点とその仲間の人数を教えろ」


「断る」


 奴は即答した。

 なかなか肝が据わっている。


「お前らにまともな拷問器具はない。使えるのはナイフだけ。なら、情報を吐く前に死んでやるさ」


 奴はそう言ってふっと笑った。

 確かにナイフを使えばいずれは出血多量で死ぬだろう。

 なら、止血すればいい。


「ハベルゼン、彼に治癒(ヒール)をしてあげてくれ」


 その頼みにハベルゼンはわかりましたと言い、すぐに治癒(ヒール)をした。


「よかったな。これでいくらでも尋問できるぞ」


 私は笑顔で彼にそう言った。

 それに対して奴はただただ呆然とした。


 それから十数回こんなことをしていると、奴が悲鳴以外のことを口にした。


「わかった、なんでも話すから助けてくれ!」


 奴はそう懇願した。


「いいだろう。全部話したら助けてやる」


「俺らのアジトはここから東に進んだところのある18番倉庫の地下室だ。それと仲間は23人。さぁ、これでいいだろ、早く解放してくれ」


 奴は泣きながらそう言った。

 私は一つ追加で質問をする。


「貴様は今まで何人殺した?」


「え、それは.....」


 どうしてすぐ出てこないのだろうか。

 普通の人間なら、野党に襲われたか戦争に駆り出されたかでもしない限り0なはずなんだがな。


 私がそんな風に思っていると、奴は思い出したのか助かりたい一心で必死になって話し始めた。 


「10人だ。奴隷が8の一般人が2!」


「なぜ殺した?」


「奴隷は、弱って使い物にならなくなったのと気晴らしだ!一般人は口封じのため。反省してる。解放してくれたら騎士団に自首しようと思ってる」


 奴が言い終わると同時、私は奴に頭に銃弾を撃ち込んだ。

 死ぬ直前奴はなんでと言わんばかりの間抜けな顔をした。


「助けるとは言ったが殺さないとは言ってない。死は救済だよ」


 どうして生きれると思ったのだろうか。

 10人も人を殺しておいて生きれると思うその考えが分からんな。


「この死体はどうするんだ?」


 エルベルトが聞いてきた。

 

「どうせこれから海に行くんだ。そこで処分する。それより嫌なものを見せたな」


「いや、私も同じ立場なら同じことをしてただろう。それより敵のアジトにはいつ行くんだ?」


「すぐ行く。この間にも奴隷たちが殺されないとも限らないからな」


「作戦はあるのか?」


 作戦か。

 私の前世は関東軍作戦主任参謀。

 作戦立案は私の本業だ。


「3分時間をくれ。作戦を考える」


 敵兵力は23人。

 こっちの兵力は4人。

 敵は全員おそらく剣で武装している。

 こっちは剣を持っているのが、ハベルゼン、エルベルト、そしてエルベルトの従者。

 全員腕は立つ。

 おそらく戦術歩兵や戦略歩兵レベルだろう。

 その戦術歩兵や戦略歩兵というのはわが国が新しく採用した強さの基準で、20対1で勝てるのが戦術歩兵、50対1でも勝てるのが戦略歩兵だ。


 ただ、敵は倉庫の地下室と言っていた。

 もしかしたら狭い室内での戦闘になるかもしれない。

 狭い室内では彼らの力を十二分に発揮するのは厳しいだろう。


 となれば奇襲が得策だ。

 奇襲には間違いなく剣より銃のほうがむいている。

 だがそのまま銃を撃つだけだとよくても5人程度しか倒せない。

 何か目くらましになるものはないだろうか....


 私はひとつ気になったことを皆に質問してみる。


「この中で風の魔法と岩の魔法を使える人はいるか?」


 その質問に対して全員がはいと言った。

 私はさらに質問する。


「その岩の魔法を砂に変えることはできるか?」


 私のその問いにエルベルトの従者が質問した。


「砂に変える、というのは砂を魔法でだす、ということでいいのですか?」


「ああそうだ」


「それならできると思います」


 そういって彼は私の目の前で砂をだした。


「岩魔法に少し工夫をすれば可能ですが....何に使うんです。岩石弾(ストーンバレット)と違って撃ちだすことはできませんよ?」


 通常、岩魔法は岩を自分の目の前で形成し、それを前方に打ち出す。

 だが、それを砂にしてしまえばそれができない。

 そう思っても疑問だろう。


「構わん。それと作戦が決まった」


 私がそういうと3人とも不思議そうな顔をした。

 おそらく、何がしたいのかと疑問視しているのだろう。


 そんな3人に私は今回の作戦を説明した。


 まず敵は倉庫の地下室にいることは確定事項だ。

 つまり室内戦になる。

 今回はそれを利用する。

 

 敵を確認次第ハベルゼンとエルベルトが左右に風魔法を使用し、室内に気流を作り出す。

 そして同時にエルベルトの従者が砂をだす。

 そう、室内に砂嵐を作り出すのだ。

 どんなに屈強な人間も目を鍛えることはできない。

 砂嵐を起こされたら敵は目をつぶるしかないだろう。

 そして敵が目を開けられない隙にできるだけ銃で倒す。


 それが今回の作戦だ。

 なずけて『砂号作戦(さごうさくせん)』だ。


 私が一通り話し終えると、エルベルトが私に質問した。

 

「それでは石原殿の視界も塞がれるのでは?」


 確かに尤もな質問だ。

 私の視界が確保されなくては意味がない。

 ただ当然それの対策も考えてある。


「一度酒場に戻って専用の簡易的な眼鏡を作る。それで問題ないはずだ」


 それを聞いたエルベルトはそうか、と言ってうなずいた。

 私は眼鏡を作るとはいったがその実、前世の潜水服のようなものを作るつもりだ。

 頭全体に布をかぶり、顔の部分はガラスをはめる。

 そうすれば砂は入ってこないはずだ。


 作戦は決まった。

 時間が無い以上すぐに実行しよう。

 

 私は3人に呼び掛ける。


「それでは諸君!戦を始めようか!」

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