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『戦争の天才』は私掠船を撃退する!

 神判最後のメンバーをエルベルトが撃退してから数日。

 エルベルトは体中に穴が開き、腹は抉られ、左腕を失い、右足も失っていた状態から見事復活し、今はすっかり健康になった。

 さて、今我々はジェストカン神聖国を旅立つところだ。

 ジェストカン神聖国は国家最強戦力『神判』をいきなり殲滅されたことに激怒し、国家をあげて捜査しているらしい。

 そしてその捜査の主任者に選ばれたのがイレーナだった。

 魔法省長官ということもあり、魔法による捜査を国は期待したそうだ。

 しかし、痕跡は残していないうえ、神判は全滅したため、敵の特徴は一切わからず、証拠になりそうなものはイレーナの手によって消されている。

 そのため捜査は難航し、敵は大陸同盟が送った刺客なのか、それとも実力を証明したかった冒険者の気まぐれか、神の御意向だったのか、よくわかっていないようだ。

 普通に考えれば冒険者の線は無いように思えるが、イレーナの妨害と手がかりが圧倒的に不足していることもあり、それも有力候補の1つらしい。



「出港しまーす」


 その声が艦内に響き渡って少しした後、船が動き出した。

 この船はフェアンベルゼン王国行きだ。

 航海は10時間程度の予定だ。

 現在、フェアンベルゼン王国とジェストカン神聖国の中は険悪だが、国交が完全に断絶したわけではなく、週に1隻程度は行き来がある。

 

 甲板で海を眺めていると、エルベルトが近づいてきた。

 

「石原、私はもう前線を離れようと思う」


 いきなりだった。

 

「どうした急に」


 突拍子もない言葉に、私は心底驚いた。

 エルベルトはこの間の戦争で一人で戦線を突破した男。

 何があったのだろうか 


「この間、ノティアと戦って思い知ったんだ。私はもう、だいぶ衰えた。あの程度に瀕死になるようでは、恐らくこの後の戦争では皆の足を引っ張ってしまうだろう」


「まさか、ひとりで戦線を突破してしまう人間のどこが足手まといなんだ。たとえ肉体が衰えても、魔法は一線級だ。ノティアとの一戦はただ分が悪かっただけだ」


「最近は魔法石の量産化によって対魔法結界が頻繫に使われるようになった。そうすればもう私の魔法は意味がない。それに最近は戦争は個人の強さよりも武器や兵器の性能、兵士の数が重視されるようになってきた。私一人いたところでたいして変わらないだろう」


 エルベルトの言うことは尤もだった。

 しかし、それでもエルベルトの強さは規格外だと思う。

 

 が、エルベルトがここまで言っているのだ。

 私から強く言うのはお門違いかもしれない。

 エルベルトは今までずっと戦ってきた。

 残りの余生くらいは休みたいのかもしれない。

 真意が何かはわからないが、無理強いはよくないな。


「わかった。これからは後輩を育成するのか?」


「そうだな。我が国にいるクルセスという見込みのある男を育てようと思う。それと、エメも」


 クルセス。

 聞いたことがない男だ。

 

「実は今、その2人を全く違うアプローチで育成しているんだ。クルセスには騎士の剣術を徹底的に教え込んでいる。いわば正統派の剣士。対するエメは冒険者として、対人以外にも魔物との戦い方なんかも教えている。要は全ての戦いができる、生粋の冒険者。堅実に積み上げた剣士か、柔軟な対応の冒険者か、どっちが最後に強くなるか楽しみなんだ」


 そう言うエルベルトは嬉しそうだった。

 まるで、期末考査の結果を誇らしげに発表する子供のような顔だ。

 エルベルトは、新しい楽しみを見つけたようだ。

 

 それから私たちは2人の育成方法について語り合った。


 

「なに話してるの?」


 エメが来た。

 後ろにはフェシリテもマルテもいる。


「ああ、エメのこれからの訓練内容を考えていたんだ」


「なに?!どんなことをするの?!」


 エメの目はキラキラしていた。

 

「ああ、それはな.... 」


 エルベルトがそう言いかけた時だった。


「海賊だ!」


 エルベルトの声を遮って、甲板員が乗客にそう告げる。


 私たちは急いで、外を見る。

 すると帆船が3隻横についていた。

 

「乗客の皆さんは、船内に避難してください!」


 甲板員による安全誘導が始まった。

 

 そんな中、エルベルトはニヤついた。

 

「エメ、臨時の訓練だ。あの船1隻を沈めてみろ」


 案の定、エルベルトはとんでもない事を言い出した。


「わかったわ!」


 エメはためらうことなく、それを了承する。

 敵船は今もこちらに近づいてきている。


「潔く食料や金品をこちらに渡せ。そうすれば命は助けてやる」


 敵船から拡声魔術でこちらに呼びかけがあった。


 エメは船のヘリギリギリに立ち、剣を構えた。

 そして、剣を一振り。


 次の瞬間、敵船は鈍い断裂音とともに横に真っ二つになった。

 それを確認したエメは、どうだと言わんばかりにこっちを向く。


「どう?あのノティアが使っていた見えない攻撃、完全に覚えたわ!なずけて『姿なき刃(インビジブルエッジ)!』」


 まさか、あの攻撃を数日で覚えるとは。

 驚愕の一言に尽きる。


 敵船団は一隻が沈んだのを見て、こちらに砲撃をしてきた。

 しかし敵とはまだ距離があるうえ、敵は旧式の大砲。

 砲弾はすべて海に吸い込まれていく。


「どれ、私も行こうかな」


 そう言ってエルベルトは敵船に向かって跳躍した。

 その力は異常で、船が傾いたかと思うと、一瞬で見えなくなった。

 

「あれで、衰えたのか.... 」

 

 少しして、敵の船が爆発した。

 真ん中から真っ二つになった。

 

 エルベルトは未だに帰ってきていない。

 普通なら心配するが、エルベルトなら問題はないだろう。


 案の定、エルベルト浮遊して帰ってきた。

 それを確認して、エメが最後の一隻に『姿なき刃(インビジブルエッジ)』を叩きこんだ。

 

 一瞬にして、敵船団は壊滅した。


「石原、これを見てみろ」


 エルベルトそう言って私に一枚の紙を見せてきた。


 上に、復仇免状と書かれた紙だった。

 そして下にはジェストカン神聖国やイザベル・シードと書かれている。

 そう、この紙はジェストカン神聖国が大陸同盟の船に対して海賊行為を認める書類だった。


「ジェストカン神聖国も陰湿なことをするな」


 エルベルトがそうこぼす。


「本国に戻ったらすぐ、会議を開こう。ジェストカン神聖国に対しての対応を考えなければならないな」


 ジェストカン神聖国との関係悪化から3年。

 事態は悪化の一途をたどっている事を改めて実感する。 


 


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