『戦争の天才』は最強の魔法使いと邂逅する!
ノティア・カルノレスがこっちに近づいてきている。
危機が刻一刻と迫る中、私に妙案が思い浮かんだ。
「対魔法結界だ!」
そう。
敵は魔法使い。
なら、対魔法結界を張ってしまえば敵は何もできない。
幸い、さっきの戦闘で使った対魔法結界がまだ残っている。
私は早速、フェシリテに対魔法結界を張るように言う。
「無理だ」
イレーナが冷静にそう言った。
「ノティアに対魔法結界は効かない。彼は私がさっきの戦闘でしたのと同じことができる。」
盲点だった。
先ほどの神判襲撃の際、我々は対魔法結界を張っていた。
なので当然敵は魔法が使えなかった。
だが、どういうわけか、イレーナはだけはその中で魔法を使っていた。
あまり考える余裕もなかったので、恐らく体質かスキルによるものだろうと考えていた。
だが、どうやらそうでもないらしい。
「同じ武人として、一騎打ちを申し込む!」
エルベルトがいきなりそう言った。
ノティアは黙ってただ頷いた。
自殺行為だ。
エルベルトは魔力は回復したとはいえ、相手は世界最強と言われる魔法使い。
単独で挑むなど無謀だ。
そんなことは知らないと言いたげに、エルベルトは前に出て剣を構える。
次の瞬間、エルベルトの周りに無数の氷柱が現れる。
その数は100をゆうに超えている。
そして、一気にエルベルトに襲い掛かった。
エルベルトはそれを剣ですべて打ち壊す。
その速度はまさに神速。
エルベルトは一瞬にしてそれをすべて捌き、距離を詰める。
だが、相手は最強。
エルベルトが動いてすぐ、無数の壁をエルベルトの目の前に作る。
その材質は氷、水、土、火と様々だ。
普通、魔法使いは魔法を一種類しか使えない。
要は氷柱を複数作ることは簡単でも、氷柱と火球を一緒に作ることは困難だ。
だが、ノティアはそれを容易にこなす。
それに加えて、彼は一瞬で魔法を発動させる。
通常、手に魔力を込め、それを具現化し、安定させ、発射するという工程が必要なため、3秒~15秒程度はかかる。
これが高威力になればなるほど時間を要する。
だが、彼は一瞬でやってしまうのだ。
故に瞬発力が高い剣士とも互角に戦えるのだろう。
エルベルトは目の前の壁を一振りですべて両断する。
しかし、その直後、エルベルト目の前にまたもや無数の氷柱が現れる。
ノティアは壁を斬られることを予め読んでいたのだろう。
今度のエルベルトは剣を振った直後で態勢が悪い。
ほとんどの氷柱は捌いたものの2本ほどを食らってしまった。
それは腕と腹に刺さり、途中で止まったものの、エルベルトは出血を余儀なくされる。
エルベルトはそれを冷静に抜き取り、剣を構える。
次に、ノティアは杖を上にむける。
そして少しすると、空がなにやら赤くなった。
天候を操作したのだろうか。
いや、それにしては赤になるのはおかしい。
その答えは、少しの時間の後、明確になった。
なんと、答えは隕石だった。
間違いなく、この魔法は神級魔法の『隕石』だ。
その威力は絶大で地面と接触すれば1000米の範囲を焼き尽くす。
エルベルトは急いでジャンプし、そのまま空高く飛んでいく。
改めて、エルベルトの身体能力には脱帽する。
次の瞬間、隕石は消滅した。
厳密に言うと、砂になった。
そう、エルベルトがそこまで細かく斬ったのだ。
まさに異次元の戦闘能力。
しかし、敵はそこまで想定していた。
「究極の爆発」
敵は初めて声を発した。
その声と同時、辺りは一瞬にして爆発に包まれた。
その爆発は異常で、まず、目がつぶれそうなほどの強烈な閃光が辺りを包む。
次に、木々をなぎ倒す、圧倒的な爆風。
目を覆っていた手をどけると、キノコ雲が空を覆っていた。
そして黒い小さい何かが地面に落ちてくる。
間違いない。
これは核爆発だ。
前世の、特に日本人なら忘れるわけがない。
どういう仕組みかは分からないがこれは核爆発だ。
エルベルトはというと、地面に立っていた。
だが、全身血だらけで、衣服も破けている。
回復魔法をかけるが、敵は当然、それを許してはくれない。
再三、エルベルトの周りに、氷柱が現れる。
しかし、今度のエルベルトは違った。
なんと、そのまま前に出たのだ。
『火壁』
エルベルトは氷柱対策として、巨大な火の壁を自身の後ろに作り出す。
それは見事、敵の氷柱をすべて撃墜した。
しかしすぐ、今度は土の無数の弾丸がエルベルトを正面から襲う。
土の弾丸はかなり小さく、九粍弾程度の大きさしかない。
当然、その速度は異常なまでに早い。
エルベルトは剣で往なすが、そのすべてを躱すことは不可能で、至る所に当たる。
最初は掠る程度だったが、次第に腕、足と命中していき、ついには心臓付近に命中してしまう。
そしてそのいくらかは貫通する。
たった一瞬の話だが、私はそれが永遠に感じられた。
忍耐の末、ついにエルベルトは敵の鼻先まで接近できた。
しかし、次の瞬間、エルベルトは不自然に身をよじった。
あと少し、剣を振れば届くそんなの距離でエルベルトは剣を振らなかった。
ただ、その理由は一瞬で理解できた。
なんと、エルベルトの左腕が一瞬で切断されたのだ。
そう、我々が最初に受けた見えない攻撃、あれをされたのだ。
エルベルトはすんでのところで回避し、剣を構え、一瞬で振りぬいた。
しかし、態勢が悪かったせいか、ノティアは後ろに飛ぶことで回避し、鼻先を斬られるものの致命傷を避けた。
ただ、それをエルベルトは読んでいた。
エルベルトは振りぬいた剣を敵に向け、あろうことか剣を投げたのだ。
ノティアもそれは想定外だったようで、急いで土の壁を作り、剣を防ぐ。
しかし、その大きな隙をエルベルトは見逃すはずがなく、再度距離を詰め、土の壁を殴って破壊する。
壊した破片は容赦なくノティアを襲う。
ノティアはそれを防ぐため、顔を腕で覆う。
それが命取りだった。
エルベルトは一気に近づいて、ノティアを思い切り殴った。
ノティアは一気に地面に沈む。
その威力は絶大で、顔面は陥没した。
しかし、それで死ぬほどやわではない。
もう一度、倒れながらも見えない攻撃を繰り出す。
エルベルトは回避しようとするも、いかんせん態勢が悪く、今度は腹を抉られてしまう。
悶絶しながらも、敵を踏み、動けないように拘束する。
『氷柱』
そしてとどめの一撃を放とうとする。
エルベルトの手の先には氷柱が生成される。
しかし、発射される直前、なぜか氷柱が消えた。
もう一度、放とうとするがやはり発射する直前で消えてしまう。
それを機会に、敵は再三見えない攻撃を繰り返す。
エルベルトはそれを食らってしまい、敵を踏んでいた右足を切断されてしまった。
しかし、エルベルトは急いで胸から短刀を取りだし、それを胸に突き刺した。
そして次に、首にも突き刺した。
この時、エルベルトの勝利は確定した。
「見事.... 」
敵はその言葉だけを残して絶命した。
絶命を確認してすぐ、エルベルトは地面に倒れた。
当然だ。
体中に穴が開き、腹は抉られ、左腕を失い、右足も失っている。
生きている方が奇跡だ。
「やったぞ.... 」
エルベルトはそう言って笑った。
この時、私は気づいた。
これこそが最適解だったのだ。
対魔法結界は使えず、敵は最強。
そんな敵に全員で挑んだとしても、フィストもといほかのもの含めて一瞬でやられてしまっただろう。
そして、それをエルベルトがかばって攻撃を食らってしまったら、勝てる見込みはさらに低くなる。
しかし、一騎打ちにすれば、敵はエルベルトのみを攻撃するため、他のメンバーに危害は及ばない。
あの一瞬でエルベルトは最適解をはじき出したのだ。
私たちは急いでエルベルトを治療した。
幸い、斬られた腕も足も落ちていたので、治癒魔法でくっつけることができた。
他の傷もイレーナの魔法によって癒すことができ、一命はとりとめた。
しかし、流した血までは回復しないので、しばらくは絶対安静だ。
エルベルト・クラッソ。
彼の戦闘力は間違いなく世界最強である。




