表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/48

『戦争の天才』は勇者と出会う!

「その子たちを解放してもらおうか」


 勇者の一人がそう言って剣を抜く。

 それを受けて、エメとステンホルムが剣を抜く。

 エルベルトは今魔力のほとんどを使い果たして、戦闘はできない。

 事態は一触即発の危機だ。


 勇者。

 ジェストカン神聖国が召喚した異世界人で、一般市民の救済のために活動している。

 が、その実国家のための体のいい、好感度集めのための4人であり、国家都合で動くこともしばしば。

 戦闘能力も高いそうで、戦時には戦力に組み込むそうだ。

 言うなれば、国家が意図的に作り出した英雄だ。


イレーナが剣を構える3人の間に立った。


「待ってくれ、私は魔法省長官イレーナ・レイケルだ。今我々は訳あってこうしてるんだ。詳しく話している暇はない。知りたいならついてきてくれ」


 そう言ってイレーナは前に進んだ。

 勇者たちも自国の高官には迂闊に刃を向けられない。

 困惑しながらも我々を通してくれた。


 それからしばらくして、市街地を抜けて、森の中にある小屋についた。

 その小屋は外観こそ汚れているものの、中は手入れが行き届いていてきれいだった。

 とりあえず、丁寧に子供たちを床に置くと、そのまま布団をかぶせてあげた。

 

 それから、今回の事について勇者に話した。

 

 それを聞いた勇者達はただただ絶句した。

  

「エルベルト、これを飲め」


 イレーナはそう言って小瓶を一つエルベルトに渡した。

 エルベルトはそれを開けて一気に飲み干した。


「なんなんだこれは?」


 エルベルトはイレーナに聞く。


 待て待て、エルベルト。

 なにかもわからず飲んだのか?


「魔力を回復させるポーションだ」 


 イレーナは平然とそう言った。

 だが、他全員が一気にイレーナを見る。


「魔力が回復するのか?!」


 エルベルトが聞き返す。

 

 当然だ。

 この世界では魔力を意図的に回復させることはできない。 

 基本的に時間経過を待つしかないのだ。

 エルベルトは例外的に魔力を回復させる魔法を使えるが、それでも魔法を発動するための魔力が無ければいけない。

 だがこれは0を1にできる。

 革新的というほかないポーションだ。


「それで、この子供たちはどうするんだ」


 エルベルトがそう言った。


「流石にこの数を隠しての出国は厳しいぞ」


「じゃあ、この国に残すか?」


「だが、私がいきなり大量の子供を連れていたら、襲撃のタイミングと重なって国から怪しまれるだろう」


 どうしようか。


「あの。俺たちが保護しましょうか?」


 そう言ったのは勇者の一人だった。


「自己紹介が遅れました。俺は勇者の亮って言います。隣の剣士は心菜で、後ろの魔法使い二人は波留と零次って言います。それでなんですけど、俺らのつてで、孤児院にあずけることならできます」


「本当か!」


「はい。奴隷商に引き渡されそうなところを救出した。って言えば大人数が来ても怪しまれないでしょうし」


「ありがとう。せめてこの子達が不自由なく暮らせるよう金銭的な援助はしよう」


 私がそう言うと、勇者たちは喜んだ。

 彼らは恐らく、いい人なんだろう。


 これを機に、私は彼らに一つ質問する。


「この国についてどう思う」


 私は真顔で聞いた。

 勇者たちは少し俯いた。

 そしてたらっとイレーナを見た。


「私は別にこの国に興味はないし、愛着もない。気にせず言ってくれ」


「じゃあ、言わせてもらいますけど、正直あんまり.... 」


「どこがそう思った」


「皆いい人なんですけど、国の偉い人たちが金と権力に執着してる気がしてなりません。そのせいで他の一般市民が貧しい気がします」


「私もそう思うな」


 そう言ったのは勇者パーティーもう一人の剣士。

 名前は心菜。


「他の村に行くと、みんなあったかく出迎えてくれるんだけど、なんかみんな元気がないんだよね。私たちにはいいものを食べさせてくれるけど、前に隠れて見てみたら、私たちとは全然違う。すごく質素な食事だった」


「そうか。正直に言おう。私はフェアンベルゼン王国国王の石原孝雄だ」


 それを聞いて勇者たちは驚いた。


「現在、フェアンベルゼン王国とジェストカン神聖国は仲が悪い。近々戦争することになるかもしれない。だが、無理やり徴兵された兵士を、私は撃ち殺したく無い。そこで、どうか一般市民たちに反戦を訴えてはくれないか?そしてもし、我が軍が来たら、その場で投降してほしい。投降した人たちの身の安全は絶対に保証しよう。それと、食糧も配給しよう」


 それを聞いて勇者たちは戸惑った。


「でも、私たちは国から援助を受けてるから、迂闊には裏切れない」


「じゃあ、魔法省が支援しよう」


 そう言ってイレーナが立ち上がった。


「正直あのジジイ共は嫌いだった。私が若い頃はこの国はもっと豊かだったのに、あのジジイ共が悪くした。だから、潰す。その手伝いだったら私もしよう」


「じゃあ、やります。俺たち勇者は市民を守ることが使命ですから」


「ありがとう。この国をさらに豊かにすると誓おう」


 こうして話はまとまった。

 それから少し打ち合わせの後、私は外に出た。

 星がきれいで、虫が鳴いている。

 

静音空間(サイレント)


 いきなり私の周りに魔法がかかった。

 ふと後ろを振り返ると、そこにいたのはイレーナだった。


「正直に話せ、自国が有利になって嬉しいか?」


 その顔は冷淡で真顔ともまた違う顔をしている。


「政をする立場としては嬉しいな」


「市民を助けるためと勇者には都合のいいことを言ってはいるが、要は敵国の排除だろう?そのために国家を裏切れと言って」


「そうだな。事実だけを言えばそうなる」


「人道的な活動と、政治的な活動。君にとってはどっちの方が重要なんだ?」


「どっちもだ。それとこの国の魔法省としてはどうするんだ。勇者をかばうなら、無事では済まないだろう?」


「国家に対して宣戦布告を行う」


「勝てるのか?」


「独力では不可能だろうな。だからこその大陸同盟だ」


「協力しろと?」


「そうだ。魔法省が持つ先進的な魔法知識。そして島国である我々が沿岸に橋頭保を確保しておけば貴様らは断れないだろう?」


「そうだな。断る理由がない。だが、勇者をかばうだけなら、何も宣戦布告までしなくてもいいのは?」


 それを聞くとイレーナはほうを赤らめた。

 急にもじもじとしながら話し始めた。


「他の幹部の反国家感情が強いのが一つ。それと.... エルベルトと共闘したい.... 」


「国家の命運をそんな理由で決めるのか?!」


「いや、これは理由の一つだ。ほんと」


 なんとも突拍子もない回答に驚いてしまった。

 今までの緊迫感のある雰囲気は一瞬で消えさった。

 気が付けば魔法は解除されいる。


 まさか、これを聞かれないために魔法を使ったわけじゃないよな....


「大変だ!2人とも!」


 エルベルトがそう言って手招きをする。

 私たちは急いで小屋の中に入った。


「さっき、倒した人数を確認していたら、一人足りないことに気づいた」


 なんだと、敵は戦略歩兵級の強さ。

 一人逃しただけでもだいぶまずい。


「誰かはわかるか?」


「いや、敵の多くは顔を隠していたからな。よく確認する時間もなかったし.... 」


「とりあえず、明日私が調べてみよう」


「頼む.... ついでになんだが.... 」


 私がそう言っている最中だった。






 小屋が吹き飛んだ。







 さっきまであった壁が、屋根がすべて一瞬でなくなった。

 そして目の前で剣を抜き、何かと鍔迫り合いをしているエルベルト。

 私には何も見えないが、確かに何かと戦っている。

 気づけばエメとステンホルムは剣を構えイレーナは杖を構えている。

 私も急いで銃を取り出す。

 少し遅れて勇者たちも武器を構えた。

 幸い、床は壊されていないので、後ろの子供たちは無事だった。


 それから、一、二分その場で構えていると、奥の方からゆっくりと人が歩いてきた。

 腰はやや曲がっており、杖を突いて歩いている。

 

 その姿を見て、イレーナの顔色が変わった。


「ノティア・カルノレス.... 」


 イレーナがそうこぼす。

 ノティア・カルノレスは私でも聞いたことがある。

 世界最強の魔法使いであり、使える魔法は1000にものぼると言われている。

 イレーナが研究者に対してノティアは完全に戦闘特化の魔法使い。

 

「ノティア・カルノレスは神判のメンバーなのか?」


「ああ、神判最強の戦闘員だ。間違いなく.... 」


 どうする。

 万事休すだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ