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『戦争の天才』は双剣使いと邂逅する!

 ジェストカン神聖国の首都の郊外の公園に到着した。

 エルベル曰く、待ち合わせ場所はここらしい。

 

「なんか、さっきの街とは違って活気がないわね」

 

 さっきの町とは首都の中心の街だ。

 国家の中枢をつかさどる街であり、誰もかれもが活気に満ち溢れていた。

 しかし、その都心を過ぎるにつれ、どんどん活気がなくなってくる。

 身なりも悪くなり、心なしか、痩せているようにも見える。

 

「貧富の差か.... 」


 エルベルトがそうこぼす。

 

 この国は『グレイル教』の力が強い。

 国民の9割がグレイル教だ。

 ゆえに聖職者の権力が強く、権力者と協力することで私財を増やすことに専念していると聞く。

 この宗教自体に問題はないが、やはりというべきか、人間の方には問題があるのだ。

 そのため、聖職者や権力者が多い都心部は栄えているものの、郊外になると貧しいものが多くなるのだ。


 さて、我々が到着してから体感1時間くらいが経った。

 この世界に時計はまだ一般市民にまでは普及していないので、詳しい時間はわからないが、大体そのくらいだろう。


 そろそろ来てもいい頃だと思うのだが....


 そう思った瞬間だった。

 何か音が聞こえたと同時、辺り一帯に砂ぼこりが舞った。

 私は思わず目をつむる。

 そして次に聞こえたのは金属同士が当たるような「キン」といった高い音。

 砂埃がやみ、目を開けると、そこには鍔迫り合い状態のエメと何者かがいた。 


「不意打ちを躱すとはさすがエルベルトの弟子じゃな」


 そう言って奴は一瞬でエメと距離をとる。

 そして被っていたローブを脱ぎ捨てる。

 するとあらわれたのは、かなりの年をとった老人だった。

 

「久しぶりだな、ステンホルム」


 エルベルトは笑顔でそう言った。

 どうやら、エルベルトが言っていた『とある人』とは彼の事なのだろう。


「ステンホルムってあのアールストレーム・ステンホルム?!」


 エメが声を荒げてそう言った。


「ああ、そうじゃが.... 」


 エメの調子についていけないステンホルムが若干引き気味にそう答える。

 アールストレーム・ステンホルム。

 どこかで聞いたことがある名前だ。

 

「てことは豹爪(パンターナーゲル)のメンバーなのよね!」


「ああ、もう50年くらい前に解散したんじゃがな.... 」


「なんでエルベルトがこの人と知り合いなの?!」


 エメは興奮しながらそう言った。

 

 そうか。

 思い出した。

 エメは確か小さい頃に豹爪(パンターナーゲル)の話をされて冒険者を目指すようになったのだ。

 あこがれのパーティーが目の前にいるからあそこまで興奮しているのか。

 その中でも特にエクトル・アランという人物が好きとも言っていたな。


 記録によれば、ステンホルムは双剣使いで、気性は荒く、敵という敵はすべて切り殺すような人で、ついたあだ名は『狂犬』だ。

 尤も今は落ち着いた老人に見える。


 そんな彼とエルベルトがどうしてお互いを知っているのか疑問に思っているエメにステンホルムが不思議そうに言う。 


「なんだ、エルベルト、言ってないのか?」


「いや.... それは.... 」


 それに対してエルベルトは言葉を濁す。

 しかし、そんなことは気にせずにステンホルムが話し始める。


「こいつも豹爪(パンターナーゲル)のメンバーだったんじゃよ」


 ステンホルムの口からさらりととんでもない言葉が出てきた。


「え?!でもエルベルトなんて名前の人がパーティーにいたなんて聞いたことがないわ」


「そりゃ、王位継承権一位の王子が冒険者をやっていたなんて言えるわけがないじゃろう」


「じゃあなんて名前だったの?!」


「エクトル・アランじゃよ」


 それを聞いた瞬間、エメはこの世の生物とは思えない顔をした。

 なんとも形容しがたい、複雑でありながらも単純で、何を感じているかわからないながらも分かりやすい、そんな顔だ。


「私、ずっとエクトル・アランに教えてもらってたんだ.... 」


 エメにとってエクトル・アランは雲の上のあこがれの存在。

 そんな存在に今まで教えられてたと知れば、その驚きようは計り知れない。


「だから言いたくなかったんだ.... 」


 エルベルトは顔を抑えてうつむく。


「どうしてじゃ?いいじゃないか」


「だって、恥ずかしいだろう。前にあこがれの冒険者はいるのかと質問して、私と返してきた時には返答に困った」


 そう言ってエルベルトは赤面した。

 

 なんとも気まずい雰囲気になった。エメもエルベルトも言葉を発しない。

 しばらく、沈黙が続いたのち、ステンホルムがその沈黙を破った。

 なんと、いきなりエメに襲い掛かったのだ。


 エメはそれを間一髪で回避する。


「戦いで油断は禁物じゃよ」


 そこからは再度激しい白兵戦。

 お互い、剣を振るうごとに、強風が舞い、火花が散る。


 ただ、先ほどとは違い、ステンホルムは剣二本で戦っている。

 双剣使いの本領発揮だ。


 手数が多い分、エメはだんだんと形成不利になってゆく。

 最初のうちはぎりぎりで防げた攻撃も、防げなくなり、その防衛線は崩壊してゆく。

 ステンホルムは何か特別なことをしているわけではない。

 すべてが洗練されていて、無駄がなく、確実に仕留めに来るのだ。


 そしてすぐ、エメは負けた。

 最初の打ち合いが噓かと思うほどにあっけなく決まった。


「筋はいいんじゃが、双剣に慣れていないな」


 そう言って双方が剣を鞘に納める。


「随分おとなしい戦い方じゃないか」


 エルベルトが口をはさむ。


「前はもっと下品で汚く勝つためなら搦め手でも毒でも何でも使う戦い方だったじゃないか」


「流石に年を取ればおとなしくもなるものじゃ。それに相手は年下じゃ。」


「狂犬がまるで忠犬になったみたいだ。前は年齢なんか気にせずに全力で叩き潰すとか言っていたじゃないか」


「それほどに老いの力はすごいのじゃ」


 それを聞いてエルベルトは驚愕していた。

 いったい、冒険者時代の『狂犬』ステンホルムはどんな人間だったのだろうか。


「そう言えば、イレーナには会ったのか?」

  

 ステンホルムが話を変えた。

 イレーナというのは恐らく豹爪(パンターナーゲル)のパーティーメンバーであるイレーナ・レイケルの事だろう。

 イレーナ・レイケルは魔法使いで、神級の魔法を使うことができ、更には様々な魔法を独自で開発した人物だ。

 

「いや、まだ会ってないな。イレーナは今、何をやっているんだ?」


「今は魔法省の長官をやっているそうだ」

  

 魔法大国の魔法省長官。

 それはつまりとてつもない権力者ということになる。

 現在、大陸同盟国はジェストカン神聖国と仲が悪い。

 少し言葉には気をつけた方がいいかもしれない。

 


 

 

 

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