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『戦争の天才』はリノ・バステルと対談する!

 内戦終結から1週間。

 今日は初めてリノ・バステルと対談する日だ。

 場所は首都ワルシャウの王城で行われる。


 リノ・バステルがどんな人間で、どんな容姿なのか、どんな真意があって内戦を起こしたのか、今明らかになる。

 

 私とエルベルトはすでに席についている。

 今回、リノ・バステルを生かすのか殺すのかはエルベルトに任せてある。

 前にフィストのメンバーと一緒に話したが、生かすのであれば方法は2つ。

 正直に話すか、新聞による虚偽の情報でリノ・バステルを殺したことにするかだ。

 正直に話すのであればそれでいいし、最近新聞の発行が開始されたので、それを使って、リノ・バステルを処刑したと言って実際は生かす、でもいい。

 そこはエルベルトに任せることにした。

 

 そんな事を思っているとドアの向こうから声が聞こえた。

 

「リノ・バステル、只今到着いたしました」


「入れ」


 エルベルトがそう言いう。

 エルベルトの顔つきが変わった。

 どこまでも冷淡で、すべてを見通すような、私も初めて見る目だ。


 ドアが開き、リノ・バステルと思われる人物が出てくる。


 彼は失礼しますとだけ言って席に座った。

 

 リノ・バステル、40代のような見た目で、口ひげを生やし、茶髪で、所々に白髪が生えている。

 凛々しい目をし、その目は真っすぐとこちらを向いている。


「では、まず最初に問いたい。なぜ、内戦を起こした?」


 会議が始まった。

 辺りが重い空気に包まれる。


「僭越ながら申し上げますと、エルベルト陛下は民の普段の生活を重視するあまり、非常時のための貯えをすることがありませんでした。凶作になることの多いこの国ではそれは非常に危険であります。当時の私は愚かにも最悪国が亡ぶと考えていました。そのため、内戦を起こし、基本政策の転換を図ろうと内戦を起こしました」


 リノ・バステルは淡々と答えた。


 次に私が質問する。


「どうしてインフレを起こしたのだ?」


 彼は経済は得意に見える。

 そんな彼がインフレを起こし、金を海外に流出させたのは甚だ疑問である。


「それは、臨時収入を得るためです」


 リノ・バステルはそう答えた。


「まず、国内から金銀銅貨を徴収し、混ぜ物をして、国民に返せば、その混ぜ物をしてういた差額分、国に収益が入ります」


 なるほど。

 前世の江戸時代にも同じことをした将軍がいくらかいたな。

 金含有量を意図的に変化させることによって、臨時で収益を得る。

 確かに賢い。

 だが、インフレを加速させた理由は何なのだろうか。


「だが、金がかなりの量、流出したと聞く。それは大丈夫だったのか?」


「はい。正確に申し上げるなら流出というのは少し違います。確かに支払いで払う金貨は増えましたが、輸出の動きも加速しました。我が国は鉄がたくさん取れますが、産業革命を起こしていないので、使い道があまりありません。それならヴァントリアス帝国に売った方が利益になります。そうして今まで以上に貿易が活発になりました。総じて、金の往来が激しくなりました。おそらく石原陛下は我が国の赤字の情報を見て流出したと思われたのでしょうが、黒字の月もあり、結果的にあまり金の流出があったわけではありません」


 そうだったのか。

 どうやら私は勘違いしていたようだ。

 

「それに、貿易が活発になれば、友好国にもなります。もともと仲が良かったのも相まって、義勇軍で支援してくれるまでに至りました。インフレを起こしたのは貿易を促進し、国交を盛んにすると言った目的もありました」


 事実、3万の義勇軍を得たのだからその作戦は成功と言えるだろう。


 リノ・バステル。

 思っていたよりずっと頭の回る人間かもしれない。

 

 彼は言うなれば『政治の天才』だ。


「私からも一つ質問をいいでしょうか」


 リノ・バステルがそう切り出した。


「構わん」


 エルベルトがそう返す。


「ありがとうございます。では質問させていただきます。どうしてこのような場を設けてくださったのでしょうか。私は内戦を起こした張本人。国王に盾突き、国に戦乱を巻き起こしました。それなのに、牢屋に入れられることもないですし、事情聴取もこのような場所で行っております。なぜなのでしょうか?」


 おそらく、大罪人に対して甘すぎると言いたいのだろう。

 このような形で事情聴取をしようと決めたのは2つ理由がある。

 エルベルトはリノ・バステルを大罪人だとは思っていない。

 なので、ちゃんとした場所で話し合うべきだと思っている。

 

 それに、私は前世の東京裁判を見たが、あれはひどいものだった。

 戦勝国が一方的に決めつけ、我々の言い分は一つも通らなかった。

 それどころか米軍の失態さえ、我々のせいにされた。

 あれは繰り返してはならない。

 どんな敗者であっても言い分はしっかりと聞く必要がある。

 

 その思いもあって、今回はこの形にしたのだ。

 尤も、それはリノ・バステルに伝えても分からないだろうが。


 先ほどの質問にエルベルトは答える。


「君は君なりに国を思った。事実、多くの民を飢えから守った。そのような者を牢屋に入れはしない」


「ですが私は愚かにも、陛下は飢饉に対して何の対策もしていないと勘違いをしてしまっていたのです」


「実際、私は何も対策、していなかったのだが?」


「フェアンベルゼン王国との友好関係を構築し、食糧支援をしていたではありませんか」


「たまたま運が良かっただけだ」


 リノ・バステルはそれに対して、ご謙遜を、と言ったが、実際たまたまだ。

 本当にエルベルトは経済に疎い。

 何も対策なんてとってはいない。

 

 それから少しして、リノ・バステルの処遇の話を切り出した。


「では、リノ・バステルの処遇を言い渡す」


 エルベルトは淡々と真顔で言う。


「全財産の没収と、今後の給料の5割を国に寄付する事とする」


 それを聞いたリノ・バステルはぽかんとした。


「今回の内戦の原因は私にもある。私が経済に疎いがあまり、国を危機に貶め、家臣に心配をさせてしまった。それを踏まえてこの処遇だ。異論はあるか?」


 それに対してリノ・バステルがすかさず質問する。


「私は国を陥れた張本人なのですよ?処刑が基本ではありませんか?」


「君が国を陥れたというのだったら、下手な政策で国を貧しくさせた私も処刑されるべきだな」


「いえ、そう言うわけではなく.... 」


 リノ・バステルは言葉に詰まった。


「今回の内戦は正直、どちらが正しく、どちらが間違っているかなんてのは無いと思っている。私は間違ったことをしたと思ってはいないが、君が間違っているとも思わない。なら、どちらかを排除して意見を通すのではなく、折衷案を出して、国を動かす方がいいとは思わないか?」 


 それを聞いたリノ・バステルは数分間黙った。

 複雑な表情で、何かを考えているようだった。


 そんな沈黙をエルベルトが破る。


「私はこの国を、どんな国にも負けない超大国にしようと思っている。そのためには君の力が必要不可欠だ。協力してはくれないだろうか」


 それを聞いたリノ・バステルはかすかに涙を流した。


「陛下は優しすぎます.... 内戦を起こし、陛下に盾突いた私にそんなお言葉をかけてくださるなんて.... 」


「協力してくれるのか?どうなんだ?」


 その言葉を聞いたリノ・バステルは涙を拭き、覚悟の決まった目でこちらを見る。


「このリノ・バステル。身命を賭して、陛下のために忠義を尽くし、この国を超大国にすることを誓います」


「石原もこれでいいか?」


「ああ、彼はまさしく『政治の天才』ここで殺すのは惜しい」


 こうして、戦後処理の一つ、リノ・バステルの処遇については決まった。

 後は国民にどう説明するかだ。

 

 だが、エルベルトはすでに決めているようだった。


「国民に正直に話す。国家の最高責任者としての責任を果たす」


 どこまでも誠実で真っすぐなエルベルトらしい回答だ。

 

「では早速、準備に取り掛かろう」


 今後この国がどうなっていくのか、非常に見ものである。 


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