『戦争の天才』は戦後計画を話す!
国境部での快進撃から3週間。
我々は快進撃を続け、ついに敵首都手前まで進軍することができた。
と言っても、敵がただただ撤退する一方なので我々はただ行軍するだけだった。
恐らく、敵後方の海上からの支援ルートを遮断したのが大きいだろう。
義勇軍が3万いたとしても物資が無くては行動できない。
戦車への有効な対策がないうちに部隊を動かしても無駄に消耗するだけである、と考えているのだろう。
さて、そんな中、敵から一つの通達が来た。
それは首都ワルシャウの『無防備都市宣言』だ。
ハーグ陸戦条約もないこの世界でそんな宣言をされたのは意外だったが、恐らく、両者首都を灰にしたくない事に気づいての事だろう。
どちらが勝つにせよ、戦後首都が灰になっては復興に時間がかかりすぎる。
我々はその宣言を受諾し、両者、首都では交戦をしないことにした。
ただ、敵はその手前、首都の目の前にあるヴァリス要塞にかなりの兵を裂いているという情報が入った。
ヴァリス要塞はクライスト公国最大の要塞。
間違いなく、ここで進軍を食い止める気だろう。
ヴァリス要塞を落とせば首都が落ちたも同義。
首都の陥落は敵からしたらこの上ない大打撃になるだろう。
末端の兵士はすでに敗戦ムードだと聞く。
ヴァリス要塞の陥落は、この戦争の終結に直結すると言っても過言ではないだろう。
すでに作戦会議は済んである。
さぁ、要塞を落とすとしよう。
‐‐‐
戦車部隊はすべて準備完了した。
兵力は歩兵3万、戦車30両。
この戦争で最大の攻勢になるだろう。
対する敵も3万の兵力で迎え撃つとの事だ。
今まではあまり活躍を聞かなかった義勇軍をかなりの数出してきた。
恐らく、敵もここで決戦を仕掛ける気だ。
この戦いがこの戦争の天王山だろう。
攻勢は翌日。
今夜はまだ待機だ。
私は今テントの中で書類仕事をしている。
この戦争が終わった後の戦後処理についてだ。
勿論、まだ勝敗が決まったわけではないが、この戦争は勝つ。
この先の仕事をしても問題はないだろう。
「石原!遊びに来たわよ!」
「こらエメ!石原さんは仕事中ですよ!」
「石原!私も来たぞ!」
「もう、エルベルトさんまで.... 」
「僕も.... 来たよ.... 」
そう言って勢いよくエメとエルベルトが入ってきて、それを咎めるようにフェシリテとマルテも入ってきた。
ここに3人がいる、ということは今回の攻勢に参加するということだ。
今回は大規模な戦闘になる。
彼らには死んでほしくない。
「そんなに暗い顔しないでよ。私は死なないわ!」
エメが元気いっぱいにそう言った。
どうやら顔にあらわれていたらしい。
「エメは私が鍛えたんだ。安心するといい」
エルベルトも自信に満ちた顔でそう言った。
「そうよ、機関銃の1挺や2挺でやられるほど弱くはないわ!」
普通の人間は小銃1挺で死ぬのだがな。
いったいエルベルトはどういう訓練をしたのだろうか。
「それで石原、少しいいか?」
エルベルトが深刻な顔で言った。
「この戦争に勝ったら、リノ・バステルはどうするんだ?」
「通例でいけば公衆の面前で処刑だろうな」
「やはり殺さなくては、民は納得しないだろうか」
「そうだな。大切な家族を殺されたものも多い。そんな彼らに示しがつかないだろう」
そう言うと、エルベルトは苦い顔をした。
「リノ・バステルを生かしたいのか?」
私は単刀直入に聞いた。
エルベルトは少しの沈黙の後、答えた。
「ああ、今回の戦争、どちらが正しいのか私にはわからない。負けるつもりは毛頭ないが処刑が正しいとも思えないのだ」
「戦争とは正義のぶつかり合い。相手に同情したら勝てる戦も勝てなくなるぞ」
「同情した程度で負けるほど、我が軍は脆弱なのか?それに石原も、何も思ってないわけではないだろう?」
私はエルベルトに完璧に言い返された。
正直、私も思うところはあった。
最初、リノ・バステルは私腹を肥やすために税を取っているものだと思っていた。
が、そうではなかった。
民を守るために、あえて厳しくしていたのだ。
平時は苦しくても、いざという時に生き残ることができる。
その一方でエルベルトは税を取り立てない代わりに飢饉が来たらリノ・バステルより被害が出ていただろう。
現実主義のリノ・バステル、理想主義のエルベルト・クラッソ。
どちらも正しく、間違ってはいない。
それに、リノ・バステルの政治の手腕は見事なものだ。
国を豊かにし、いざとなったら他国から3万の義勇軍を派遣させるだけの外交上手。
政治力は私の何倍もあるだろう。
正直、殺すのが惜しいのは私も同意だ。
「リノ・バステルを生かす手が一つだけある。国民を納得させた上でだ」
「じゃあ、それでいこう」
「一つだけ問題がある」
「なんだ?」
「国民を騙すことになる」
「それで結果的に皆を救えるのなら、私は喜んで悪役になろう」
「いいんだな」
「勿論だ」
「なら、計画を言おう」
こうして私はエルベルトにその手はずを説明した。




