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『戦争の天才』は最強を暗殺する!

 あれから数日。

 私たちは暗殺のための準備を整えた。

 

 暗殺方法は....


 さて、今回暗殺に参加するのは私とエルベルトだ。

 ただ、健介を釣るためにエメの名を借りている。

 

 私たちはあらかじめ、健介に手紙を送った。

 内容はこうだ。


 健介殿


 以前よりフィストのエメをパーティーに引き入れたいとのお話でしたが、そのことについてお話がございます。

 恐らく、健介殿にとっては吉報になる事と思います。

 ぜひ、話し合いをさせていただきたく思います。


 そしてこの後、話し合いのための場所の住所が書かれた紙を同封して健介に送った。


 そしたら二つ返事で承諾された。


 その話し合いの日時が今日である。

 指定した場所は山奥の小屋。

 

 私たちはすでに小屋の中に入って、待機している。

 後は健介が来るのを待つだけだ。


「なぁ、石原。この作戦の成功率はどのくらいだ?」


「正直わからないな。相手は魔法も剣も効かない。どの範囲までの攻撃が有効なのか分らない現状では何とも言えん」


 この作戦の成功率は計測不可能だ。

 彼は根本的に我々とは体のつくりが違う。

 スキルが何なのかも解明できていない現状では何とも言えない。


 それから少しして、健介がやってきた。

 彼は勢いよく扉を開けて開口一番にこう言った。


「どうもお二人さん。それで話ってなに?」


 彼は浮かれていた。

 そして扉の後ろには女を複数人連れている。

 前まで見なかった顔もある。

 恐らく、この間よりもさらに増えたのだろう。


「まぁ、席に座ってくれ」


 私はとりあえず席に座るように促す。

 

「いい話は最後にするものだ。まずは、少し質問してもいいかな?」


「えー、早く話してよ」


「まぁ、その『朗報』にもつながる話だから、ね」


「ならしょうがないなー。早くしてよ」


 私は乗り気ではない彼を無理やり説得した。


「まず、どうして君はリノ・バステル軍の方で参戦したんだ?エメが目的なら我々の陣営で参加したほうが得だろう?」


「それはね、リノ・バステルに頼まれたからだよ。ぜひ兵隊になってくれって。勝った暁には金と地位をあげるって言われてさ」


「もしエメと接敵したらどうするんだ?殺すつもりだったのか?」


「まさか。捕虜にした後こっそり逃がすつもりだったよ。そうすれば僕への好感度爆上がり間違いないしでしょ?」


 要は彼は金で動いているだけか。

 健介らしいと言えばらしいが....


 せっかくだ。

 もう少し踏み込んだ質問をしてみよう。


「君は地球からの転生者なのか?」


 健介はおそらく転生者。

 だが、本人から聞くまではわからない。


「そうだよ。僕は前世、トラックに引かれて死んだんだ。それからこの世界の神様に出会ってチートを授けてもらったんだ」


 やはりそうだったか。

 しかしそれより神様に会ったという言葉の方が気になる。


「前世はさえなかったからなぁ。そんなかわいそうな僕を見て、神様が俺TUEEEEEEな『チート』スキルを.... 」


「そんな事より神様がいるのか?」


 私は一人が足りしていた健介の言葉をさえぎって質問する。


「ん?君は会っていないのか?『石原 孝雄』なんていう名前だから、てっきり転生者かと思ったけど」


「その通りだ。私は転生者だ。だが神になんて会ってない」


 それを聞いた健介は不思議そうな顔をした。

 この世界に神がいることも衝撃だが、どうして私が会っていないのかも不明だ。


 彼の口ぶりから察するに、転生者はみんな会っている、といった感じだ。

 これが終わったら少し、調べてみるか。


「最後に一つ。前に私たちの目の前にドラゴンを出現させ、エメを誘拐したのは貴様か?」


 エルベルトがそう質問した。


「さぁ、わからないな。でも、この世界弱肉強食。強い奴が正義で、弱い奴は悪。そんな中で僕は『チート』を手にした最強。僕がこの世界の正義だ。もしそうだとしても、君たち雑魚だからどうすることもできない。そうだろう?」


 健介はまるで私たちをあざ笑うかのようにそう言った。

 そしてそれを聞いたエルベルトは健介の方をじっと見いていた。


「あ、僕から質問なんだけどさ、どうして君たちがエメちゃんの引き渡しに協力してくれたわけ?僕はてっきり反対するものだと思っていたよ」


「状況が変わっただけだ。今は戦時、君と敵対するのは非常にまずい。パーティーメンバー一人を売って戦争に勝てるなら安いもんだろう」


「なるほどねぇ。確かに懸命だ。『強者』を前に『弱者』が取れる選択肢の中で一番懸命だと思うよ」


 彼は我々を侮っている。

 自分を絶対的な強者だと信じて疑わず、力がすべてだと思い、力があれば何でも手に入ると思っている。

 恐らく、そういう環境にいたからだろう。

 冒険者は強さがすべて。

 弱ければ死ぬし、強ければ成りあがる。

 単純な力比べの世界だ。


 だが、戦争は違う。

 今は戦時下。

 弱者が下克上をすることもあるし、奇襲、だまし討ち、裏切りなんて言うのも日常茶飯事。

 奴は戦争を甘く見すぎた。

 強ければいいのが戦争じゃない。

 

「ではそろそろエメを呼んできますね」


 そう言って私は小屋を出た。

 

 外に出てすぐ、健介が侍らせていた女達がいた。

 彼女らは楽しそうに談笑している。

 私は彼女らに話しかけた。


「今からエメを呼ぶついでに少し健介さんにサプライズしたいのですが、皆さん付き合ってくれませんか?」


 私がそう言うと、彼女らは二つ返事で承諾してくれた。

 そして私は彼女らを引き付けてできるだけ山小屋から少し離れた場所に言った。



‐‐‐


 

 あれから数十分。

 まだ石原は帰ってきていない。

 それを気にしたエルベルトが立ち上がる。


「石原が来ないな。少し様子を見てきてもいいかな?」


「いいよ、けど早くしてね」


「ただ待ってても暇だろうし、待たせているお詫びもかねて特別な魔法を体験しみるかい?」


「どんな魔法?」


「匂いを閉じ込める魔法。今花のにおいを出すから嗅いでみてね」


 そうして、エルベルトは魔法を使う。


「すごい!本当に花の香りがする」


 健介の周りにはやわらかい花の匂いが漂っていた。


「せっかくだから、この部屋全体に花の香を充満させようか」


 エルベルトはそう言って扉の目の前に立ち、鼻の香りを充満させる。

 そしてその後すぐ、エルベルトは小屋を出た。


 それから歩いて石原と合流した。



‐‐‐



 エルベルトと合流した。

 それからしばらく待機した。


「ねぇ、どうなってるの?」


 彼女たちは不安そうに我々を見つめる。


 我々はそれを無視して、体感一時間くらい待機した後山小屋に戻った。


「エルベルト、やってくれ」


「わかった。『竜巻(トルネード)』」


 次の瞬間、小屋に竜巻が直撃した。

 エルベルトの魔法で竜巻を起こしたのだ。

 そして小屋を破壊して、辺りには木片や石片が散乱する。

 私たちはその中に入って、あるものを探す。

 

 少しして、エルベルトが見つけたと言った。

 私たちが探していたもの。

 それは健介だ。


 エルベルトの方を見ると、瀕死の健介がいた。

 奴は痙攣していて、血色も悪い。


「なに.... をした.... 」


 健介は瀕死になりながらも必死に質問する。


「毒を使った」


「まさか.... 僕は毒にも耐性がある.... 」


 やはりそうだったか。

 彼は明言していなかったが、剣も魔法も効かないと言っていたので、もしかしたらとは思っていた。


「その毒という範囲に一酸化炭素は含まれていないだろう?」


「え....?」


 その言葉を聞いた瞬間、健介がきょとんとする。


「基本的な毒であれば、確かに耐性があるのだろう。だが、一酸化炭素なら話は別だ。呼吸をする生物ならば、その毒牙からは逃れられない」


 基本的な毒なら耐性をつけることは前世でも可能だ。

 しかし、一酸化炭素というのは体が勝手にヘモグロビンと結びつく以上、耐性のつけようがない。

 それにあのように重症になってしまっては助かるすべもない。

 高濃度の酸素を投与すれば助かる可能性もあるが、この世界にそんな技術はない。


 奴は終わりだ。


「エルベルトが出て行ったとき、花のにおいを魔法で出しただろう?その時に一緒に一酸化炭素も出していたんだ。空気中に0.1%でも一酸化炭素があれば人間は死ぬんだから恐ろしいものだ」


 私は冥途の土産として、今回の事を健介にする。


「製鉄する際に必要不可欠な一酸化炭素、今回はそれを使用したんだ。匂いとは化学物質。エルベルトのにおいを閉じこめる魔法魔法を使えば空気中にある化学物質を保管する事ができるんだよ」


「そんな、馬鹿な.... 」


「君は弱者を甘く見すぎだ。これは戦争、卑怯も何もない世界だ。自分が絶対的強者だと信じて疑わず、それ以外はすべて弱者だと思っていただろう?それが君の敗因だ」


 それから健介はしゃべらなくなった。

 私は銃剣を取り出して、健介の足を少し斬る。

 すると彼は傷ついた。

 

 スキルが発動していないということは死んだのだろう。

 死ぬとスキルは発動しないのか。


「ねぇ、私たちはどうなるのよ!」


 健介が侍らせていた女の一人が声をあげた。


「君たちの命を取ったりはしない。本国に帰るなり、リノ・バステルにつくなり隙にすればいい」


「そうじゃない!私たちせっかく我慢してあの男に付き合っていたのに。それでいい生活ができていたのに、どうしてくれるのよ!」


 それから、他の女たちも声をあげた。


「そうよ!あのキモイ男に体まで売ったのに、どうしてくれるのよ!」

「いい暮らしができてたのにどうしてくれるのよ!」


 なるほど、健介が健介なら、その付き人も付き人か。

 勿論、私は彼女らにどうとすることはない。

 勝手にしてくれ。


 そう思って去ろうとしたとき、エルベルトが声をあげた。


「黙れ!貴様らそれでも冒険者か。パーティーメンバーが死んだのに悲しむどころか自分の心配ばかり!冒険者ならば自分で何とかしろ!健介の仇を取るというのであれば相手してやる。だが、仲間を自分がいい生活をするための道具としてしか見てないような奴に付き合う道理はない!」


 そう激高して、我々はその場を去った。

 そのあと私は伝書鳩を飛ばした。


 健介。

 その最後はあっけなかった。


「なぁ石原。戦争というのはどうなってしまうんだ」


 戻る道中、急にエルベルトがそう言った。


「最近の戦争は形が変わってきた。個人の戦いではなく集団の戦いになってきた。正々堂々何て言葉は消え、だましあい、不意討ち、奇襲、奇策が大半を占めるようになった。兵器や武器の発達で死者も増えた。これから戦争はどうなっていくんだろうな」


 それは前世も同じだ。

 科学の進歩により、戦争は凄惨なものになった。

 勝った時の利益より戦時中の被害の方が確実に大きくなっていった。


「恐らく、凄惨なものになるだろうな。今よりももっと。だからこそ、戦争は根絶させなければならない」


「そうだな。ところで、さっきの伝書鳩にいったいどんな内容の手紙をはこばせたんだ?」


「健介の死亡。そして包囲部隊の救出作戦の開始だ」


「それはつまり.... 」


「全面的な反転攻勢の開始だ」

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