『戦争の天才』は陣地を構築する!
作戦会議から3か月が経過した。
捷撃作戦の要と言える突出部での包囲。
攻勢が終わるまで増援もないなか耐え忍ばなければならない。
そのために強力な陣地を構築しなければならない。
この国は山が多い。
なら、その山をくりぬき、そこに陣地を構築すれば敵は非常に攻めにくい。
こうして、前線より少し離れた山中に陣地を構築することにした。
それに際して、前世の硫黄島の戦いを参考にする。
私は現場へ赴き、直接指揮を執った。
周りからは猛反発されたが、無理を言って指揮を執らせてもらった。
まず、民衆に協力を呼び掛けた。
後方なら危険は少ない。
現在は、民衆に報酬を支払うことはできないが、勝ったら必ず全員に報酬を支払うとした。
また、兵士も極力参加させ、魔法も最大限活用し、総動員で陣地構築を行った。
まず、数少ない銃はすべてここに集結させ、効果的に使うため、銃や弓と言った遠距離武器主体の陣地を構築する。
山の斜面に人が隠れられるだけの穴をあけ、そこから銃口が出るくらいの隙間を作り、草木でカモフラージュする。
だが、あえてダミーの大砲、銃手を作り、そこに攻撃を集中させる。
そういったものを山の斜面の至る所に作り、どこから敵が攻めても対処できるようにするとともに敵に消耗を強いる。
また、対魔法結界をはり、魔法による攻撃を阻止する。
そうすれば山が魔法で崩されることもないだろう。
だが、それにも限界がある。
なので、内部に侵入されることを想定して様々なトラップを仕掛けることにした。
まず、内部の至る所に爆薬を仕掛け、敵が来たら爆破するようにした。
後は、落とし穴を作って、その下に木で作った棘を置く。
そうすると敵は足を負傷し、しばらくの間戦闘不可能になる。
また、エルベルト軍の領地は鉱山が主だ。
つまり、鉄を加工する技術、場所どちらも敵より勝っている。
これを利用しない手はない。
私はあるものを作らせた。
有刺鉄線だ。
室内の至る所に設置し、敵の侵攻を遅滞させる。
この世界に有刺鉄線は無い。
恐らく何も知らずに突撃すれば、敵は大けがじゃすまないだろう。
また、夜襲、ゲリラ戦も積極的に行い、精神的にも疲弊させる。
以上がここでの防衛計画だ。
「石原陛下、何をされているのですか?!」
私は後ろから声をかけられた。
振り返るとそこにいたのは驚いた顔をしたエフィム大将がいた。
「見たらわかるだろう?穴を掘っているんだよ」
「アンちゃん!ちょっと手伝ってくれ」
私は現場監督に呼ばれた。
どうやら現場監督はエフィム大将がいることに気づいていないらしい。
普通は挨拶をするものだが....
「わかりました。今行きます」
私はその場をあとにしようとすると、エフィム大将が私の腕をつかんだ。
「なぜこのような事をしているのですか?!現場指揮をすると言ってここに来たのですよね?」
「勿論だ。しっかり一日の初めに指示は出しているだろう?」
「ではなぜ、今あなたは穴を掘っているのですか?!」
「人は一人でも多い方がいいだろう?それに私は現場主義者だ。一作業者になってみるとわかることも意外とあるものだ」
私がそう言うと、エフィム大将は困惑した。
「おい、アンちゃんまだか?」
私がなかなか来ないので、現場が私をまた呼びに来た。
「エ、エフィム大将!」
現場監督も今度は気づいたみたいだ。
現場監督は慌てて礼をした。
「お前もやるんだよ」
そう言って、私の頭を強引に下げさせた。
「うちの新人が失礼いたしました」
現場監督はそう言ってエフィム大将に謝った。
それを聞いたエフィム大将は困惑している。
少し困惑した後、『今後も陣地構築に励むように』とだけ言って去っていった。
こうして、私は日々、地下陣地構築に勤しんでいる。
‐‐‐
私の名前はエルベルト・クラッソ。
現在、攻勢部隊の訓練教官をしている。
攻勢部隊は戦略歩兵、戦術歩兵の身で構成された超のつく精鋭部隊だ。
防御陣地の構築が終わり次第、石原は戻ってくるそうなので、その前に訓練を完了させなければならない。
さて、今回の攻勢計画だが、まず、敵のど真ん中に突っ込み、敵を殲滅させ、フェアンベルゼン王国との街道を確保。
その後、迅速にフェアンベルゼン王国が義勇軍として街道防衛用の兵員を配置してくれるそうだ。
この攻勢が失敗すれば、包囲された部隊も救出できず、我々も全滅の危険がある。
なんとしても成功させなければならない。
「陛下。お手合わせ願いたい」
私にそう言ってきたのはこの国の騎士団で今最も勢いのある若手、クルセスだ。
力、速度ともにバランスが良く、戦略歩兵となっている。
「いいだろう」
私たちは向き合って剣を構える。
クルセスの構えは堂に入っていて、隙が少ない。
試合開始の鐘が鳴った。
開始一番、私は一気に接近し一撃を食らわせる。
クルセスはそれを軽くあしらう。
そこからは激しい打ち合いだ。
お互いが一進一退の攻防をするものの、決定打には至らない。
私は一度後ろに下がって距離をとった。
「氷連撃」
私は魔法を放った。
無数の氷の矢がクルセスを襲う。
氷魔法は中級魔法だ。
しかし、私のそれは通常の何倍もの氷の矢を放つことができる。
その威力は上級に引けを取らない。
剣士でそれをいなすのは至難の業だ。
が、クルセスはそれをいともたやすくいなしていく。
なら、私も少し本気を出そう。
私は剣先を彼に向けて構える。
そして一気に加速して彼を刺す。
彼はそれをぎりぎりで弾いて反撃の体制をとる。
「氷連撃」
私はもう一度、近距離で魔法を放つ。
近距離で連射された分先ほどよりも彼に余裕がない。
私はその期を逃すまいと、剣を振る。
それでも、彼は私の剣を受けた。
だが、態勢が悪い。
氷の矢は軽いので多少態勢が悪くても何とかなるが、私の剣はそうはいかない。
私は全力で剣を振りぬき、彼の防御を崩した。
彼は紙一重で私の剣を躱したが、更に態勢は悪く、今にも倒れそうだ。
私はもう一度全力で剣を振り、彼の喉元に剣を当てた。
「勝負ありだ」
決まった。
私は彼に手を差し伸べる。
彼はその手を取り、立ち上がった。
「ありがとうございました」
彼はそう言って礼をした。
「こちらこそ、いい練習になった」
「御冗談を。あれはまるで弟子が師匠に稽古をつけてもらってるようでした。まだまだ本気ではないのでしょう?」
「そんなことはない。かなり本気だったよ」
実際、2回も氷連撃をいなされるとは思ってなかった。
「その、大変おこがましいのを承知でお願いするんですけど.... 私と本気で戦ってはくれませんか?」
「どうしてだ?」
「エルベルト陛下の全力を相手してみたいという、身勝手な理由です」
同じ剣士だから分かる。
自分が負けた相手の全力はどの程度のものなのか。
それを知れば、それを超えることが目標になる。
だからこその頼みなのだろう。
いい機会かもしれない。
せっかくだから全力で相手して見せよう。
「いいだろう」
私はそう言って、もう一度剣を構えた。
彼も向き合って剣を構えた。
その目はさっきよりも気合が入っているように見える。
いい目だ。
試合開始の鐘が鳴った。
「私の思い通りの世界」
次の瞬間、彼は私のそばにひざまずいていた。
魔法を放った瞬間、彼は瞬間移動したのだ。
私はそんな彼に剣を向ける。
勝負ありだ。
彼はきょとんとしていて、何が起こったのかも理解できていなかった。
「私が作った魔法だ。半径500メートル以内に圧倒的な魔力を放出させることで、私の意のままにその範囲内の万物を思い通りにする」
私が説明してもなお、彼はフリーズしたままだった。
「エルベルト陛下は剣士なのですよね?」
「そうだ」
「なのに魔法で私は倒されたのですか?」
「剣士は魔法を極めることはない。それ故、魔力は魔法使いに比べてかなり少ない。魔力が多ければさっきの魔法もくらうことはない」
私の思い通りの世界はわたしが放出した魔力より多い魔力量を持っているものであればその影響を受けることはない。
なので熟練の魔法使いには効果がない。
が、剣士ならば、たとえ熟練であろうとも魔力量さえ少なければなすすべなく負ける。
これこそが私の思い通りの世界、対剣士用の魔法だ。
「私、魔法も極めます」
クルセスは立ち上がってそう言った。
「魔法も極めれば最強の剣士になれることは私が保証しよう」
「早速、魔法使いの人に習いに行ってきます!」
そう言ってクルセスは足早に去っていった。
彼は圧倒的な力を前にしてもくじけることなく、それを乗り越えようとしている。
間違いない、彼はいずれ最強の剣士になる。




