『戦争の天才』はドラゴンと対峙する!
さて、健介の件だが、私に妙案が思い浮かんだ。
それは徹底的に否定するということだ。
おそらく、健介が私たちの正体に気づいたのはスキルのおかげだろう。
私も以前『鑑定』スキルを持っている少女に本名がバレたことがあった。
なら、徹底的にしらを切り通せば彼は他の人に証明できないはずだ。
本当に、『鑑定』スキルを持っていると言っても、それを証明することができなければ信じてはもらえないし、証明する方法も無い。
よって、我々はしらを切り通す事にした。
「見えてきたよ!」
エメがはしゃぎながらそう言った。
少し先に巨大な森林が見える。
王都から半日ほどで来れる、そう遠く無い森だ。
さて、今我々は馬車で薬草採取に来ている。
ただ、今回はエルベルトがいない。
出発直前になって、腹を壊したらしく、今回は置いて来た。
今回の薬草最終の依頼は簡単で危険度もかなり低い。
なのでエルベルトがいなくても問題ないと判断した。
森が見えてきたと言っても、まだ着くまでに少し時間がある。
そう言えば、昨日、ハベルゼンから久々に手紙が来ていたので、読んでみることにするか。
陛下お久しぶりです。
冒険者家業は順調でしょうか。
さて、早速ですが現在の我々の進捗を報告いたします。
まず、『水槽計画』が完了し、現在、量産を開始いたしました。
また、堀越局長のご助力会って、ついに試作飛行機第一号、『キ1』が完成しました。
飛行も無事成功し、現在実用化に向けて、更なる改良をしています。
後、青木少尉が軍服を完成させ、現在、量産をして、国内の兵士全員に配っているところです。
他にも、ヴィクトワール王国の鉄道の敷設、新聞の開始、トランプの配布も順調であり、随時行っていきます。
以上が内容だった。
どうやら、特に問題なく進んでいるらしい。
私がフェアンベルゼン王国に戻ってきた時が楽しみだ。
馬車が止まった。
顔を上げると目の前には森林が広がっている。
どうやらついたようだ。
私たちは馬車を降り、森に入った。
今回乗ってきた馬車は、借りてきたものだ。
冒険者ギルドはそう言ったものも貸し出してくれる。
少し高いが、薬草をたくさん採取すれば元は取れるということなので借りてきた。
森に入って少し歩くと、薬草が見えてきた。
今回採るのは『ポーション』と呼ばれる回復薬を作るために必要なもので、たくさん取れるが薬草一つの価格は安い。
こうして、薬草採取が始まった。
特に危険なモンスターは出ないので、雑談しながら、ただひたすらに採取する。
「エルベルトが来なくて残念ね」
薬草を採りながらエメが言った。
「おそらく昨日食べた魚に当たったのでしょうね」
フェシリテがそう言った。
もしかしたら、生焼けの部分があったのかもしれない。
「そういや、エメはどうして冒険者になったんだ?」
私は突拍子もなく、エメに聞いた。
思い返せば冒険者になった理由をマルテにしか聞いていなかった。
「私は、あこがれの人がいて」
「誰だ?」
「エクトル・アランっていう人なんだけどね」
エクトル・アラン。
本で読んだことがある。
史上最強の剣士であり、『豹爪』というパーティーに所属していたそうだ。
そのパーティーは冒険者最速で、神級パーティーになったと聞く。
勿論、仲間もすごかったのだが、その中でもエクトルはけた違いだったそうだ。
ただ、20代後半で冒険者を辞め、そのあとの消息は不明。
しかも、この話は今から50年も前なので、今は生きているかどうかすら怪しい。
「私は小さいころからエクトルの話をされて育ったのよ!」
エメは目を輝かせていた。
「しかも魔法も使えるからすごいわよね!」
その話は初めて聞いたな。
「神級魔法まで使えたらしいわよ!」
この世界の最上位の魔法。
それを剣士が使えるのはすごいな。
「さぁ、そろそろご飯にしましょうか」
フェシリテがそう言って鞄から弁当を取り出した。
気づけば、太陽は真上に上っている。
昼食をとるにはいい時間だろう。
私たちは早速、弁当を開けた。
その時だった。
急にどこからか、甲高い音が聞こえた。
生物が威嚇するような音だ。
耳が痛い。
まるでひび割れるような音が続く。
あまりの音に、全員が耳をふさいだ。
少しして、音がやんだ。
「なんだったんだ一体」
「わかりません。ただ、気を付けた方がいいですね」
「そうだな」
そう言って私たちは武器を手に取り、陣形を組む。
周囲を警戒しても、何の気配もない。
不気味なほどに静かだ。
まるで嵐の前の静けさとでもいうべきだろうか。
いや、その例えは今は不謹慎か。
こうしてしばらく周囲を警戒していたが、結局何も現れなかった。
「なんだったんでしょう?」
「わからない。が、念のため早く帰った方がいいな」
冒険者は命あっての物種。
今帰ったら赤字だが、命には代えられない。
こうして、我々は帰りの支度をした。
「あれなに?!」
支度をはじめてすぐ、マルテがそう言ってどこかを指さした。
その方向は森の奥.... ではなく空だった。
急いでその方向を見ると何やら小さい何かがこっちへ近づいてきた。
それはだんだんと大きくなり、全貌が明らかになってくる。
大きな翼に、長い首、巨大な胴体、そしてその全身が赤い。
時間がたつたびにその体は大きくなっていき、今では人の体の何倍も大きい。
「あれってまさか.... 」
フェシリテが迫真の顔で空を見つめる。
間違いない。
あれはレッドドラゴンだ。
最強格のドラゴンで、図鑑には超級パーティーが苦戦をする強さと書かれていた。
「陣形を固めろ!」
私は急いで皆に指示を出す。
なぜレッドドラゴンがここにいる?
普通はもっと山奥にいるはずだ。
こんな初級や中級冒険者が来る森に来たことなどないはずだ。
レッドドラゴンはそのまま私たちの目の前で、着地した。
じっとこちらを見ている。
そして、咆哮をあげた。
咆哮が終わったと同時、奴は前足で私たちを薙ぎ払った。
各々、武器を構えるも、圧倒的な力を前に、私たちは簡単に吹き飛ばされる。
「大丈夫か?」
「ええ、まだいけるわ」
「問題ありません」
「大丈夫」
全員、まだいけるようだった。
陣形を構えなおし、再度奴と対峙する。
まず、エメと私が左右から奴に突っ込む。
「火弾」
「氷弾」
そしてその間にフェシリテとマルテが魔法を放つ。
が、効果があるようには見えない。
次に私とエメがで剣を奴の足に突き立てる。
が、私たちがどれだけ魔力を込めても、どれだけ力を入れても、奴の鱗には傷一つつかない。
なので、私は素早く銃に持ち替えて、弾丸を発射した。
近距離で撃ったその一撃は見事奴に当たったが、それも跳弾してしまった。
レッドドラゴンは一度、口を閉じて、こちらをじっと見た。
何かまずい。
私がそう感じた時にはもう手遅れだった。
奴は口を開け、なんと衝撃波を出した。
一瞬にして私たちは飛ばされた。
とてつもない勢いでとばされ、全員木に激突した。
100米は飛ばされたのではないだろうか。
体中が痛い。
少し触ってみると肋骨数本折れていた。
正直、このまま戦っても勝てる気がしない、逃げるのが得策だ。
だが、全員で逃げたところで、すぐに追いつかれてしまうだろう。
相手は空を飛べるだけでなく、こっちは満身創痍だ。
どうする....
そんな中私は一つ妙案を思いついた。
「私に一つこの状況を打開する策がある」
「いったい、どうするんですか?」
「魔法を使う。が、この魔法は周りに人がいるとできないんだ」
「そんなの.... 聞いたことない.... 」
マルテが懐疑的にこちらを見る。
「国王しか見れない禁書庫で見かけた魔法だ。強すぎるが故、広く知られていないらしい」
皆、戸惑っている。
「早くしろ!さもなければみんな死ぬぞ!」
迷う皆に私は発破をかける。
「絶対、生きてね!」
エメはそう言って、この場を後にした。
ほかの二人もそれを見てこの場を後にする。
さぁ、これでこの場には私とレッドドラゴンしかいなくなった。
「もっとも、魔法なんてないのだがな」
私がここでレッドドラゴンと戦闘すればいくらか時間は稼げる。
その間に3人は逃げられるだろう。
私は再度、刀を構え奴と対峙する。
そして奴に斬りかかる。
当然、その刃は敵を貫いたりはせず、奴は私を一蹴する。
私は吹き飛ばされ、木に激突する。
全身が痛い。
肋骨に加え、左腕も折れた。
口と鼻からも血を出し、まさしく瀕死だ。
「老兵から先に死ぬのが順序というものだ」
私はそう口遊みながら、気合で立ち上がる。
全身が痛い。
刀は右腕でしかつかめず、もう振る事すら怪しい。
視界はぼやけてもう敵の細部は見えない。
意識もぼんやりしてきた。
頭にあるのは敵を食い止める、ただそれだけだ。
「来い!私は帝国軍人だ!大切な仲間のために華々しく散れるなら本望!」
私はそう叫んで自分を鼓舞する。
そして、ふらつきながら、再度敵に斬りかかる。
が、刀を敵に当てた瞬間、刀を落としてしまった。
もう、力がなかった。
奴は、また私を蹴り飛ばした。
もう、受け身も取れない。
私は地面に激突した。
体を動かそうと思っても指の一本も動かない。
よく見ると、右腕がなくなっていた。
おそらく千切れたのだろう。
なんだか、寒気がしてきた。
ああ、恐らく私は死ぬのだろう。
最後に大切な見方を守るために死ぬんだ。
これ以上に誇らしいことがあるだろうか。
レッドドラゴンはゆっくりこっちに近づいてきた。
そのまま私を食べろ。
そうすればさらに時間が稼げる。
全く、いい人生だった。
「火弾」
「氷弾」
私の真上を、魔法が通過した。
「この馬鹿!」
視界がぼやけて誰かはわからないが、聞きなじみのある声だ。
こっちに近づいてきている。
普段は元気いっぱいな声で、聞いているこっちも元気になる。
が今はそうではなかった。
「嘘だったのね!」
怒っている。
よくは見えないが怒っている。
そう、エメの声だ。
「治癒」
もう一人の声がした。
落ち着いていて、気品がある。
これもまた聞いたことのある声だ。
「一人で勝手に死のうとしないでください!私たちはパーティーでしょう!」
この声も怒っている。
フェシリテの声だ。
「僕たちを頼ってよ!」
また新しい声が聞こえる。
おとなしい声だ。
だが、今は荒々しい。
「一人で勝手に死なないで!」
この声もまた怒っている。
マルテの声だ。
ああ、結局皆戻ってきてしまったのか。
「馬鹿、早く逃げろ.... 」
私は声を絞りだす。
「馬鹿はどっちよ!勝手に嘘ついて、あんたはいいかもしれないけど、私たちが嫌なのよ!もう二度とこんなことしないで!私たち、仲間でしょ!死ぬときは一緒よ!」
この言葉を聞いた瞬間、涙がこぼれてきた。
自分が何に泣いているのかはわからない。
が、間違いなく何かがこみあげてきて、今泣いた。
エメが剣を構え、マルテが杖を構える。
フェシリテは私に魔法をかけてくれている。
「やれるだけの事はやってから死ぬわよ!」
エメが元気いっぱいにそう言った。
それに呼応したのかレッドドラゴンも咆哮をあげる。
「大丈夫かぁぁぁぁぁぁ!」
いきなりどこからか声がした。
そして次の瞬間、ドラゴンが真っ二つになった。
何が起きたのか、私にはわからなかった。
「大丈夫か石原!?、そこ変わってくれ」
そう言って治癒をかけてくれているフェシリテといれかわる。
誰かが私の頭の上に手をかざした。
「超級治癒」
次の瞬間、私の体から、痛みが消えた。
傷がふさがり、無くなった右腕さえ生えてきた。
「エルベルトか」
視界が戻ると、そこにはエルベルトがいた。
「大丈夫か?」
「ああ、それよりどうしてここにいるんだ?」
「腹痛が収まったので、せっかくだから行こうと思ってな、走ってきたら、ちょうどドラゴンの咆哮が聞こえたので急いできたんだ」
馬車で半日の距離を走ってきたのか。
しかも私たちが傷一つつけられなかったレッドドラゴンを一撃で....
つくづく桁違いの強さだ。
私は立ち上がれるまでに回復した。
エルベルトはそれから、皆を治療して回った。
エルベルトは剣士なのに、魔法も使えるのだから尊敬する。
「どうもこんにちは!盗賊です!」
いきなり私たちの後ろから声がした。
後ろを振り返ると人が数人いた。
全身黒色の服で、顔も隠れている。
「今回は人をさらいたいと思います」
そう言って一人がいきなりエメの目の前に現れた。
本当に一瞬だった。
瞬間移動と思うほどに早かった。
そしてエメにナイフを突き立てる。
「動いたらこの人を殺す」
突然の展開に理解が追いつかない。
一体、何がどうなっているんだ。




