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『戦争の天才』はモンスターを討伐する!

 目的の森に着いた。

 道中、特にモンスターに襲われることもなく、ここまで無傷で来ることができた。


 とりあえず、前衛が私とエメとエルベルトで、後衛がフェシリテとマルテだ。

 森を歩いていて思うが、非常に静かだ。

 風の音と木々が揺れる音はするものの、それ以外の音は一切しない。

 まるでこの森には自分たちしかいないかのように錯覚してしまう。


「あ!見てみて!川があるよ」


 エメはそう言って少し遠くを指さした。

 パッと見、川があるようには見えなかったが、よく見てみると、川があった。

 微かにだが、水の音も聞こえる。


「よく見えるな.... 」


「昔から目はよかったから!」


 エメは誇らしげにそう言った。

 

 私たちは水浴びをすることにした。

 王都を出てからは濡れた布で体をふく程度しかできなかったのでありがたい。

 欲を言えば日本人なので湯につかりたいが、それは厳しい。

 この世界では暖かい湯につかるということが貴族以上にならないと基本的にできない。

 

 私たちは男女順番で入ることにした。

 我々男子は後になったので、とりあえず近くを散策することにした。


「クロードさんは.... 奥さんとかっているんですか?」


 散策中、マルテがエルベルトにそう聞いた。

 寡黙なマルテがそんなことをエルベルトに聞くなんて珍しい。


「私にはいないよ。縁談はいくつかあったが、結局合わなくてね」


 エルベルトはクライスト公国の国王、後継者はどうするつもりだったのだろうか。

 

「ゼンガーさんはいるんですか?」


 私か。

 私は前世も今もいない。

 縁談はいくらかあったが、結局自分に合う人がいなかったので結婚はしなかった。

 ただ、とある事情で養子縁組の子供はいた。


「私もいないよ」


「2人は結婚したいとは思わないんですか?」


 それを聞いてエルベルトは微苦笑で返答した。


「確かにできたらいいが、今はもうあきらめてるよ。70を過ぎたらもう絶望的だろう」


「私はしたいとは思っているよ。私は『まだ若い』ので、気楽に探すとするよ」


 私はエルベルトを見ながらそう言った。


「そうこうしているうちに私みたいになるぞ」


 そう言って2人で笑った。


 と、そんな談笑をしていると、少し先に何かがいた。

 それは生き物で、真っ白い毛をしていて、猪を大きくしたような見た目をしている。

 せっかくなので腕慣らしといこう。


「あれを撃ってもいいか」


 私は2人に許可を取る。


「ああ、構わないよ」


 エルベルトに許可をもらったので早速私は銃を構える。

 エルベルトは剣を抜き、マルテも杖を構える。


 私は奴の頭に照準をする。

 

 そして引き金を引いた。


 その弾はモンスターに命中した。 

 だが、それを食らってもなお、生きており、こちらに向かって走り出した。


 私は急いで装填をして、再度照準し、もう一発頭に撃ち込んだ。


 その一発は致命傷となり、モンスターは倒れた。

 

 私たちは少し待った後、確実に死んだのを確かめてから、近づいた。

 純白の毛皮は美しく、汚れ一つない。

 おそらく、少し前に水でも浴びていたのだろう。

 にしても、このモンスターは何だろうか。


「これは何て言うモンスターなんだ?」


 私が二人にそう聞くと、マルテが答えた。


「これは多分.... ヘビーモス」


 なんだと。

 それは今から倒そうとしていたモンスターではないか。

 だがおかしい、ヘビーモスは猪に似たモンスターで、色は茶色なはずだ。


「かなり珍しいけど、時々白いヘビーモスがいるらしい。僕も初めて見た.... 」


 突然変異だろうか。

 もしかしたら前世のホワイトタイガーなどと同じことなのかもしれない。


 とりあえず、私たちは毛皮を剥ぎ、川に戻った。

 2人にさっきの事を説明した。


「じゃあこれで依頼達成ってこと?」


 エメはがそう聞いた。


「そうなりますね。しかも白い毛皮は高く売れると聞きます」


 フェシリテがそう言った。


「えー、私も戦いたかった」


 エメが残念そうにそう話す。


「冒険者は命あっての物種、わざわざ危険な場所に長居する必要はありません。帰りますよ」


 フェシリテがそう言って、エメをなだめた。

 こうして無事、なんともあっさりだったが、依頼を達成し終えた。



---



 こうして我々は王都に戻り、依頼の達成をギルドに報告した。

 白い毛皮は高値で売れ、いい収入となった。

 こうして我々が建物を出た時後ろから誰かが話しかけてきた。


「君たちはフィストだよね」


 後ろを振り返ると、そこにいたのは1人の男と、5人の女。

 冒険者パーティー、『神の使徒』だ。

 男は華奢な体をしていて、女の方も特段戦闘ができそうな感じもしない。

 が、中級冒険者なのだから、不思議なパーティーだ。


「確か、エメと言ったっけ?どう?ぜひ俺たちのパーティーに入らないか?」


 奴は突拍子もなくそう言った。

 たしかあの男の名前は健介と言ったか。


「ありがたいけど、私はこのパーティーが好きだから、ごめんなさい」


 エメは即答だった。


「そんなパーティーよりこっちの方が、君をもっと輝かせられるよ」


 その言葉を聞いて、エメは少し不機嫌そうな顔をした。


「そうよ、健介様はすごいから、きっとあなたもすぐ入りたくなるわ」


「あなたはまだ健介様のすごさを知らないから入りたいと思わないのね」


 どうやら、その健介とやらは余程すごい人らしい。


「それなら、ゼンガーだって負けてないわよ!」


 エメは急に私を引き合いに引き合いだしてきた。

 それを聞いた健介は私の方を見る。

 そして少し見つめた後、不思議そうな顔をした。


「その人の名前は何て言うんだい?」


 健介はエメにそう聞く。


「ゼンガーよ!ゼンガー・ヴィーラント」


 奴はそれを聞いて、更に不思議そうな顔をした。


「じゃあ、そっちの人の名前は?」


 そう言って今度はエルベルトの方を指さした。


「彼はクロード・レオポルドよ」


 奴はそれを聞いて少し黙った後、急に明るい顔をした。


「その2人と、少し話をしたい」


 そう言って健介は強引に私とエルベルトを裏路地に連れ込んだ。


「こんにちは、石原孝雄さん、エルベルト・クラッソさん」


 奴は開口一番にそう言った。

 これには既視感がある。


「スキルか」


「正解」


「2人は国王でしょ?しかもエルベルトさんは現在亡命中、これバレたらやばいよね」


 健介はそう言いながら嫌な笑みを浮かべた。


「僕はエメさんが好きなんだ。だからパーティーに引き入れる協力をしてよ。そしたらこのことは誰にも言わない。いい取引でしょ?」


「なにが取引だ。こんなのただの脅しだろう」


「どっちでもいいよ、でやってくれる?くれない?」


 どうする。

 私はバレても何とかなるが、エルベルトがバレるのは避けたい。

 

「少し考える猶予をくれ」


「僕は優しいからね、いいよ」


 健介はそれだけを言うと、裏路地を去った。


「なぁ、エルベルト。正直、あの3人に正体を隠し通すのはもう無理なんじゃないか」


「そうだな。それにあの3人なら話しても大丈夫だと思う」


 こんな状況なってしまっては隠し通すのは不可能だ。

 我々が言わなくても、いずれ健介が言うだろう。

 なら早めに伝えた方がいい。

 もしかしたら、それを言ったら、もうこのパーティーにはいられないだろうか。

 今まで通りの関係で入られないだろうか。

 私はこのパーティーが好きだ。

 常に元気で、皆優しいこのパーティーが好きだ。

 そんなパーティーと別れるのは寂しいものがある。


 私たちは一度戻った後、3人を人気のないところに案内した。


「どうしたの急に.... ?」


 エメが心配そうにこちらを見る。


「皆に言っておかなければならないことがある」


 全員に緊張が走るのが分かる。


「実は、私の本名は石原孝雄なんだ」


 そして続けざまにエルベルトも告白する。


「私の本名はエルベルト・クラッソだ」

 

 それを聞いて、全員が驚いた顔をした。

 と思ったが、エメはぽかんとしていた。


「そうなんだ。それだけ?」


 ほか二人が驚いているのに対して、エメは特に驚いていない。

 まさか、最初から予想していたのだろうか。


「ねぇエメ、その人がだれだか分ってる?」


「フェシリテがエメに聞く」


「だから、石原孝雄と、エルベルト・クラッソなんでしょ?ちゃんと覚えたわよ」


「あのね、石原孝雄っていうのはフェアンベルゼン王国の国王で、エルベルト・クラッソっていうのは、クライスト公国の国王なのよ」


「え?2人は国王だったの?」


 どうやら理解していなかっただけだった。

 ようやく理解したエメは少しの間無言になった。


 この後、私たちはどうなるのだろうか。

 このパーティーにいられるのだろうか。

 いられたとしても、今まで通りにいくかもわからない。


「それで、どうかしたの?」


 エメは不思議そうにそう言った。


「嫌じゃないのか?」


「どうして?国王だろうと何だろうと、同じパーティーでしょ?私は2人が何だろうと気にしないよ」


 それを聞いて、エルベルトは笑った。


「実は私は薄々気づいてたんです」


 フェシリテがそう言った。


「国王だったのは予想外でしたけど、二人はおそらく高貴な身分だなと」


 私は極力隠してたんだが、いったいどこにそんな要素があっただろうか。


「だってお二人、同郷なのに、ゼンガー、いえ石原さんの料理を見て、エルベルトさんが驚いていたじゃないですか」


 確かに、言われてみればおかしな話か。

 同郷なら、私の日本食を見ても驚かないはずだ。


「それに、表彰されて知事の建物に入った時も、2人は矢鱈冷静でしたから。普通、あんな豪勢な建物見たらいろんなものに目移りしますよ。あと、所作も貴族みたいでしたし」


 どうやら、かなり怪しまれていたらしい。


「僕は全く分からなかった.... 」


 マルテはそう言って少し落ち込んだ。

 落ち込む必要はないと思うのだが....


「とにかく、これからもよろしくね!」


 エメはそう言ってにっこりと笑った。


「ああ、よろしく頼む」


 どうやらパーティーにいられなくなるというのはは杞憂に終わったらしい。

 本当に良かった。


 となれば次は、健介をどうするかだ。

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