『戦争の天才』は料理をする!
ちょうど今、私たちは依頼を受けた。
このパーティー2回目の依頼はヘビーモスという猪に似たモンスターの討伐だ。
場所は王都より南西に位置する森だ。早速私たちは準備を終え、王都を後にした。
今回は徒歩での移動だ。
おそらく1週間も移動すればつく距離だろう。
基本的に私たちは移動する時には他愛もない会話をしている。
「そう言えば、クロードってずっと農夫だったの?」
エメが質問した。
「ああそうだな、狩りをすることもあったが、基本的には農業をしていたよ」
「その剣技は誰かから教えてもらったの?」
エメの質問にエルベルトはほんの少し動揺した。
「クロードの剣は狩りというより戦闘向きだと思うんだよね」
そうなのか。
私は剣の事はさっぱりだから分からないのだが。
「私にも師匠がいてね。その人は元騎士だったんだ。だからじゃないかな」
そう言うとエメは納得した。
「エメは誰から習ったんだ?」
エルベルトがエメに質問する。
「私は独学。いろんな人の剣を見て覚えた」
「独学であれほどなのか.... もしかしたら、かなり才能があるかもしれないな」
エルベルトはそう言って感心していた。
こんな他愛もない会話をしているうちに夜になった。
私たちは適当なところに露営することにした。
天幕をはり、簡易的な調理台を作る。
「今日は私が作ろう」
私は皆のそう言った。
「何を作るの?」
エメは目を輝かせて私に聞いてくる。
「できるまでのお楽しみだ」
私がこう言ったのには訳がある。
実は、フェアンベルゼン王国を出るとき、私はハベルゼンからある物を受け取っていた。
それは味噌と醤油だ。
この世界に来てから7年。
日本食を全く食べおらず、少し恋しくなった。
なので、ハベルゼンに言って作ってもらったのだ。
この世界に大豆がなかったので、似たような豆で代用したのだが、意外にも、似たような味になった。
さぁ、早速作っていこう。
まずは簡単なものから。
まず、葉野菜をゆでる。
いい感じに茹で上がったら、一口大に切って、積み上げる。
後は食べる直前に醤油をかければおひたしの完成だ。
次は味噌汁だ。
まず、乾燥された魚からだしを取る。
この魚はリナックという魚で、前世の鰺に似た味と見た目をしている。
本当は煮干しや鰹ぶしを使いたかったが、無いのでこれで代用する。
このだしは後でも使うので、多めにとり、一部を他に移しておく。
次に、大根に似たコルという野菜や、椎茸に似たシレラスというキノコを入れて煮込む。
最後に味噌を適量入れ、沸騰する直前まで火にかけたら完成だ。
そして今回の主食はハベルゼンに作ってもらったうどんだ。
本来は米が欲しかったのだが、この世界で米の生産は一部しかされておらず、入手困難らしい。
なので、たくさんとれる小麦で作ることができるうどんになった。
正直、味噌汁を作ってうどんというのはいかがなものかとも思うが、和食をとりあえず沢山食べたいので仕方がない。
まず、さっきのだしに醤油、水、砂糖を混ぜ、つゆを作る。
今まで、甘未は貴重だったが、フェアンベルゼン王国は貿易が盛んになってきたので、いくらかは市場に出回るようになった。
高いが、全く手が届かないというわけでもない。
なので、フェアンベルゼン王国を出る際、少し買っておいたのだ。
後は鍋に湯を沸かしうどんを茹でて、それを水でしめればざるうどんの完成だ。
「さぁ、できたぞ」
「なにこれ?」
「なんですかこれ?」
「なに.... これ.... 」
「なんだこれは?」
私の料理を見た瞬間、全員が唖然とした。
「茶色く濁ったスープに、生の野菜と謎の白い何か.... これ食べられるんですか?」
フェシリテが私にそう言った。
「勿論だ。私の生まれたところの郷土料理だ。おいしいぞ」
全員、その言葉を疑いながらも席についた。
「私のとこでは食べる前に『いただきます』と言うんだ」
「神に感謝するのではないんですか?」
「ああ、この食材を作ってくれた農家や食材そのものに対する敬意をこめて『いただきます』だ」
「食材に感謝するというのは何とも不思議なものですね」
確かに、前世でもこんな考えをしているのは日本くらいかもしれないな。
私はそう思いながら、全員のおひたしに醤油をかけた。
「いただきます」
全員がそう言って、恐る恐る、食事を口にした。
次の瞬間、全員の顔が変わった。
「このスープ、すごくおいしいです!」
フェシリテがそう言った
「食べたこともない、すごく複雑な味です」
確かに、この世界のスープと比べたら、複雑な味かもしれないな。
「この野菜はシンプルな味だが、うまいぞ!」
エルベルトはそう言っておひたしを平らげた。
ただ、ほか二人はあまりいい顔をしていなかった。
「なんか、この白いの味が無いね.... 」
「この黒いスープ.... 少し味が濃い.... 」
エメとマルテはそう言って苦い表情をした。
なるほど、バラバラに食べたのか。
「それはその白いのに、黒い液体をつけて食べるのだよ」
私はそう言いながら、お手本を見せてうどんを食べた。
我ながら、少ない材料でよくできたと思う。
そこそこおいしい。
私が食べたのを見て、2人も真似をして食べた。
口に入れてすぐ、2人の表情がよくなった。
「おいしいね!これ!」
「おいしい.... 」
2人は口をそろえてそう言った。
皆、口に合ったようで何よりだ。
それから、料理は一瞬で亡くなった。
「不思議な料理でしたけど、とても美味しかったです」
「これからはゼンガーにつくてもらいましょ!」
エメはそう言った。
勘弁してくれ。
私は料理が得意な方ではない。
しかも、現状、材料がないため、このくらいしか和食は作れない。
本当は肉じゃがとか、味噌煮とかも作りたいが、材料がどうやっても手に入らないので無理なのだ。
こうして、私たちは食事に満足した中で眠りについた。




