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『戦争の天才』は表彰される!

 農号作戦成功から1週間、あれからブルーレギオンは壊滅した。

 まず、軍が討伐軍を編成してすぐ、敵の拠点は制圧された。

 それから一応、残党勢力を警戒して軍が駐屯していたが、残党勢力が襲撃してくる様子がなかったので、今日で軍と我々は王都に帰還することにした。

 

 本来の依頼でもあったガルムの討伐はすでに済ませてある。

 昨日フィストが近くを斥候していたところたまたま発見したので、そのまま討伐した。


 盗賊を相手にした後だったので、非常に簡単に倒すことができた。

 

「ほら!いくわよ!」


 エメが私の手を強引につかんで、馬車に乗せた。

 この馬車は軍が手配してくれたものだ。

 荷馬車ではなく人が乗るための馬車なので座席があり、乗り心地がいい。


「すごーい!ふかふかだよフェシリテ!」


「こら、飛び跳ねないの」


 エメがはしゃぎまわり、フェシリテがそれを静止させる。


 なぜ、我々がそんないい馬車に乗っているのか。

 それは表彰されるからだ。

 村を勇敢に導き、勝利したということで、王都の知事から表彰されるらしい。

 

 少しして馬車が走り出した。

 窓を見ると、村人がこちらに手を振っているのが見える。

 私たちはそれを見て、手を振り返す。


 ただの簡単な依頼のはずが、まさかこんなことになるとは。

 そんな思い出の村ともお別れだ。




―――




 王都についた。

 王都の真ん中には城があるがその近くに知事の建物がある。

 私たちはそこに入った。


 中の応接室に案内された。


「今知事がいらっしゃいますので、少々お待ちください」


 メイドがそう言いながら、私たちにお茶を出した。

 お茶と言っても緑茶ではなく紅茶だ。

 そして、机には様々なお茶菓子が置かれている。


「これ、食べていいのよね」


 エメが目を輝かせてそう言うと、すぐに食べ始めた。


「おいしそう.... 」


 マルテもそう言ってドーナツを頬張る。

 一般庶民にはなかなか手を出せないお菓子だ。

 無理もない。

 ただ、フェシリテだけは何も食べず、姿勢よく座っていた。


「フェシリテは食べないのか?」


 私はそう質問する。


「ええ、私は大丈夫です」


 フェシリテはそう返した。

 甘いものが苦手なのだろうか。


 気づけば、お菓子はすべてなくなっていた。


「おかわり!」


 エメが元気よくそう言った。


「こら!はしたない真似をするんじゃありません」 


 フェシリテがエメに注意する。


「構いませんよ。今お持ちしますね」


 メイドは平然とそう言って、部屋を出た。

 確かに、あ茶菓子のおかわりは聞いたことがない。

 が、エメならしょうがない。


 そうしていると、メイド一緒に一人の男が一緒に部屋に入ってきた。


「どうもこんにちは。私が知事のセヴェランです」


 どうやらやってきたのは知事だったようだ。

 

「私たちは冒険者、フィストです」


 フェシリテは立ち上がり、優雅に礼をしてそう言った。

 

「まず、あの村を防衛してくれてありがとう。感謝する」


 そう言うと知事は頭を下げた。

 どんな人かと警戒していたが、いい人そうだ。


「それと、君たちの中に優れた軍師がいたと報告されたのだが.... 」


「ゼンガーの事ですか?」


 フェシリテはそう質問した。


「今回の作戦を立案したのは彼です」


「そうかそうか。それでなんだがね、会わせたい人がいるんだ」


 誰なのだろうか。

 私に心当たりはない。


「ヴィクトワール王国陸軍参謀総長 ルヴォア・エリック大将だ」


 どこかで聞いたことのある名前だ。

 誰だったか....


「優秀な助手を探しているらしくてね。ぜひ君を候補にしたいということだ。今、お呼びしてくるよ」


 そういって知事は部屋をでた。

 ふと周りを見ると、他の皆は暗い顔をしていた。

 おそらく、私がパーティーを抜けて助手になると思っているのだろう。

 

「大丈夫だ。私は助手になんかはならない。私はフィストのメンバーだ」


 そう言うと、皆ホッとしたような顔をした。


「いいのですか?ルヴォア・エリック様は名だたる名将。その人に仕えることができるんですよ?お金は今よりも比べ物にならないほど稼げますし、地位や名誉だって.... 」


 フェシリテがそう言った。

 私の将来を案じてそう言ったのだろう。

 優しい子だ。


「ルヴォア・エリック様がどれだけすごいかは知らないが、私はこのパーティーをここで抜ける気はない」


 私はそう断言した。

 いずれは抜けなければならない。

 だが、今ではないのだ。


 扉の向こうから話声が聞こえてきた。

 おそらく、ルヴォア・エリック大将が来たのだろう。


「入るぞ」


 その言葉とともに現れたのは50代くらいで黒髪に白髪が混ざっている男。

 私は彼を見た瞬間思い出した。

 先の附微戦争での指揮官で、私に民の事をよろしくといった者だ。

 自分の命より民を思うその心は正しく武将というにふさわしかった。


「エリック様、ぜひ、彼を助手にしてください。私の治めるところからエリック様の助手がでたとなれば、我々も鼻が高いというものです」


 知事は必死にごまをすっていた。

 彼も大変だな。


 ただ、エリックは私を見るや否や青ざめていた。

 せっかくだ、自己紹介しておこう。 


「私は冒険者のゼンガーと申します」


「わ、私はルヴォア・エリック.... です.... 」


 明らかに動揺しているな。

 当然か。


「エリック様には及びませんが、彼もまた優秀です。ぜひ助手に」


 知事がそう言った。


「はは.... 私には及ばないか.... 」


 エリックはさらに青ざめた。

 せっかくだ、少し遊ぼう。


「そうですね.... 私のような非才の身に、エリック様の類まれなる先見の明を理解することはできませんが、精一杯やらせていただけたらと思っています」


 思わず顔がにやけてしまう。

 

「とりあえず.... 場所を変えよう.... 」


 エリックはそう言って部屋を移した。

 エルベルトもせっかくなのでついていくことにした。

 

 部屋に入ってすぐ、エリックが頭を床にこすりつけて謝罪した。


「大変申し訳ございませんでした!」


 それをみて、知事はわけがわからなそうだった。


「どうしたのですか?エリック様」


「馬鹿者!この方はフェアンベルゼン王国国王、石原孝雄陛下だぞ!」


 それを聞いて、知事が青ざめた。


「大変申し訳ございませんでした!」


 知事が急いで謝罪した。


「石原も人が悪いな」


「意外と楽しかったもんでな」


 エルベルトと私はそう言って笑った。


「私は気にしていないから大丈夫だよ。少しいたずらをしただけだ」


「いえ... そういうわけには.... 」


 エリックはそう言って頭を上げようとしない。


「それと、彼が分かるか?」


 私はエリックにエルベルトを指さしながら聞いた。

 少し、悩んだ末、驚いた顔をした。

 どうやら、思い当たる節があったようだ。


「エルベルト・クラッソ陛下ですか?」


「自己紹介が遅れた、クライスト公国国王、エルベルト・クラッソだ。まぁ、今は国王かどうか怪しいのだがな」


 そう言ってエルベルトは苦笑いをした。


「どうして二人の国王陛下が冒険者などになられたのですか?ましてやエルベルト陛下に至っては逃亡中の身では.... 」


 エリックが質問してきた。

 気づけば頭は上がっていた。


「民衆の生活が知りたかったからだ」


「危険ではないのですか?」


「民衆が危険なことをしているのに、国王がそれをやらないのはおかしな話だろう?」


「おっしゃる通りです。失言でした」


 それから、私はフェアンベルゼン王国の現状を聞いた。

 各地で銃や大砲、機関銃などの製造が始まり、更にフェアンベルゼン王国の援助などもあって、充足率は50%を超えたようだった。

 更に鉄道建設は24時間交代制で作業することにより、かなりの速度で進んでいるらしい。

 勿論、造船、工業、農業の分野でも問題なく近代化しているようだった。


「では、そろそろ行くよ。仲間が待っているんだ」


「どうかお気をつけて、それと、出る際には弾薬を渡しておくよう、部下に言っておきます」


 先の戦闘でかなり消費したから、弾薬を補給できるのはありがたい。

 

 こうして私たちは元の応接室に戻った。

 

 エメはまだ、お茶菓子を頬張っていった。


「さぁ、帰ろうか。報奨金も出るみたいだから今日はパーッと飲もう」


「うん!」

「そうですね!」

「そうだね!」

「そうだな!」

 

 全員が元気よく返事した。

 私はこのパーティーに入ってまだ間もないが、このパーティーに入ってよかったと思った。

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