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『戦争の天才』は地球から優秀な人材を召喚する!

 練兵場に入ると、剣と剣がぶつかる甲高い音と銃を発砲した時に鳴る特有の乾いた音とが入り混じっていた。

 兵士はしっかりと訓練にいそしんでいるらしい。

 中に入ってから少し歩いていると、青木少尉が一対一で兵士と白兵戦の訓練をしていた。

 動きはかなり機敏で技術もそこそこ。

 私よりもおそらく強いだろう。

 彼女の戦闘が終わるのを待った後、私は彼女に話しかけた。


「青木少尉、少しいいだろうか?」


 私がそう聞くと、彼女は不思議そうに私を見た。


「どうかしました?」


 私は彼女に事の次第を伝えた。

 地球から優秀な人間を召喚すること、この世界は日本語を使っているので、できれば日本人がいいということ、すでに亡くなった人でなければ召喚できない事を伝えた。

 できれば近代兵器を扱う都合上近代の将校が望ましい。

 戦国時代の優秀な将軍を召喚したところで兵器も武器も理解しきれるかわからないからだ。


 それを踏まえたうえで私は彼女にどんな人がいいか質問した。


「うーん。近代で優秀な日本の将校ですか.... 」


 もしかして、そもそも知らなかっただろうか。

 確かに青木少尉からしたら80年以上も前のことだ。

 私も生まれてくる80年前の将校はそう知らない。


「確か作戦の神様って呼ばれた人がいましたよね?」


 青木少尉はそう言った。


 作戦の神様。

 前世の日本陸軍でそう呼ばれた人間は一人しかいない。

 (つじ) 正之(まさゆき)だ。

 

「辻の事だろう?」


「ああそうです!その人です」


 どうやら当たっていたらしい。

 ただ、私としては、奴はあまり好ましくない。

 彼はノモンハン事件やマレー作戦、ガ島の戦いを指揮し、日本陸軍に貢献した。

 特にマレーの快進撃、シンガポール攻略は異常とも言える速度で達成し、人は彼を作戦の神様と称した。

 が、彼はそんな名誉と同じくらいの不名誉がある。

 まず、日本がバターン半島を攻略した時、たくさんの米兵が捕虜になった。

 ここまではいいのだが、あろうことか辻は大本営からの命令だと嘘をつき、その米兵を射殺したのだ。

 当然、捕虜は射殺してもいいなんて言う国際法は存在しない。


 また、シンガポールを占領した際、奴は当時反日的だった華僑を一般人を、虐殺したのだ。

 その際奴は「私はシンガポールの人口を半分にしようと思っている」と言っていたそうだ。


 更に戦後、GHQによって戦犯指定されると、あろうことか奴は国外に逃亡したのだ。

 そして数年たって戦犯から解除されると、奴はのこのこと日本に帰ってきた。

 

 と、以上のことから、私は奴を信用できないし、部下としても置きたくはない。

 それにそもそも、陸軍の指揮官は私で事足りている。

 私が欲しいのは海軍将校と航空機技術者なのだ。


「すまない、言い忘れていた。私が欲しいのは海軍将校と航空技術者なのだよ」


「そうなんですか。やっぱり海軍は航空主兵論ですか?」


「そうだな。航空主兵論が望ましい」


「じゃあやっぱあの人ですかね.... 」


 おそらく海軍の方は思いついたのだろう。

 私も適任と思われる人が一人いる。

 

 彼女は少し間を置いたあと、こう話した。


高野(たかの) 五十六(いそろく)


 やはりか。

 前世は根っからの航空主兵論者で、当時太平洋でも最強と謳われた真珠湾の要塞を奇襲し大打撃を与え、当時としてはあり得ない戦果を挙げた軍人だ。

 前線指揮官として優秀な将校は他にもいるが、対局を俯瞰するという面においては彼よりも秀でている者はそういないだろう。

 その後もミッドウェー海戦までは快進撃を続けたものの、1943年4月18日に前線視察のために航空機で移動中、ブーゲンビル島上空で米軍に奇襲され戦死した。


 彼は国民から愛され、部下にも慕われていた。

 死後は国葬され、皆が彼の死を悲しんだ。


「次は航空技術者だな」


「やっぱり堀越(ほりこし) 達郎(たつろう)ですかね?」


「そうだな。私も彼が適任だと思う」


 堀越 達郎は前世、九十六式艦戦や零銭などの傑作機を作った人だ。

 特に零銭は革新的で、搭乗時は米軍機相手に一方的な戦果を挙げた。

 その後も航空機設計を続け、戦後日本初となる旅客機の設計も行った。


 召喚する人も決まったので、我々はさっそくハベルゼンがいるという部屋に入った。

 入ってすぐ目についたのは、大きな魔方陣。

 魔方陣の四方には魔力石が置いてあり、魔方陣は紫色に光っている。

 私が召喚されたのもこの部屋だったな。


「陛下、準備が整いました」


 ハベルゼンが私にそう言った。


「これは、どうすればいいのだ?」


 どうやって召喚するのだろうか。

 意図した人物を召喚できるとは聞いたが、どうやって指定するのだろうか。


「陛下は近くの魔力石に手を置いて、召喚したい人物を思い浮かべてください。そうすると召喚されますので」


 私は言われた通りに近くの魔力石に手を置き、2人のことを思い浮かべた。

 思い浮かべてすぐ、魔方陣が強く光り始めた。

 その光はだんだんと強くなって、ついにはまぶしさのあまり、目を閉じてしまった。


 少しして目を開けると、そこには全裸の男が2人いた。

 片方は60代くらいの男、もう片方は20代くらいの男だった。


「ここはどこだ?」


 60代くらいの男が話しだした。


「俺は米軍機の機銃で死んだはずだ。となるとここは、死後の世界か?」


 おそらく彼が高野だろう。

 高野は辺りを見渡し、私を見るとあからさまに驚いた。


「貴様、さては石原か!?」


「そうだ私は石原 孝雄だ」


 それから私は彼らに服を渡し、この世界の事と、なぜ召喚されたのかを説明した。

 この世界は魔法がある事、個人の能力が高いこと、中世のような見た目だが少し違うこと、凶暴な動物、『魔物』が多くいることなどだ。

 彼らは半信半疑だったが、とりあえずは納得したようだった。


「それで、俺に何の用だ?」


 高野がやや不機嫌になりながらそう聞いた。

 前世、陸軍と海軍は仲が悪かった。

 だからだろう。


「君達の力を借りたい」


「それはどういうことでしょう?」


 20代くらいの男が話た。

 おそらく彼が堀越だ。

 ここにきて堀越が初めて話した。


「高野君が持っている海軍の知識、堀越殿が持っているその航空機の知識がどうしても必要なんだ」


「それはなぜですか?」


「この世界で航空機を作ろうと思っても、私にはその知識がない。だから協力してほしいんだ」


 私がそう答えると、堀越はなるほど、といった顔で私を見た。


「断る!」


 当然高野がそう言った。


「なぜ俺が協力しなくてはいけないのだ。俺は帝国軍人だ。そこで得たものを他で使うわけにはいかない。ましてや貴様が国王など、ロクな国ではないだろう」


 高野は怒っていた。

 おそらく、私にいい印象が無いからだろう。

 彼から見た私は満州事変を起こした張本人であり、日本が戦争へ突き進むことになった原因の一つだ。

 彼は真珠湾攻撃を立案したが、最後まで戦争に反対した男でもあった。

 だからこそ、私に協力したくないのであろう。

 だが、ここで食い下がってはだめだ。


「高野の言うことはもっともだ。

 満州事変のせいで日本はおかしくなったと言われても反論はできない。

 だが、私は世界の恒久平和のために満州事変を起こしたのだ。

 あれを発端に世界は平和になると思っていたのだ。

 ただ、それは間違いだった。

 私の意図は誰にも理解されず、ただただ、陸軍が暴走するだけになってしまった。

 私は結局その後何をするわけでもなく、死んだ。

 そして、その後この世界に転生した。

 転生後、この世界を色々見たが、人々は必死に生きている。

 不自由だからこそ、彼らは必死に生きている。

 そんな彼らを守る事こそ、国王として転生した私の使命だと思った。

 だが、力がなくては人々は守れない。

 この世界の外交は力がすべてであり、まさに弱肉強食だ。

 だからこそ、そんな人々を守るために私は2人の力を借りたいのだ。

 前世満州のように攻めるのではなく、守る事で平和を作る。

 そのためにどうかお願いだ。力を貸してはくれないだろうか」


 私はそういって頭を下げた。

 少しの沈黙の後、高野が口を開いた。


「そんなことを言われて、断ってしまったら、帝国海軍軍人の名が廃ってしまうじゃないか」


「私は協力しますよ。この世界の魔法を使った航空機を作ってみたいですし」


 その言葉を聞いた瞬間私は安堵した。


「ただし、条件がある」


 高野が真面目な顔でそう言った。


「まず、前世のように陸軍と海軍でくだらない言い争いをするのは無しだ。軍隊とは合理的でなければならない。次に、貴様は海軍のことに関してあまり深く口を出すな。俺が最強の艦隊を作る。最後に、意味のない侵略戦争をするな。それをした瞬間、私は貴様に向けて主砲をぶっ放す」


「わかった、絶対に守るとしよう」


 こうして、一時はどうなる事かと思ったが、無事協力を得られた。


 数日後、高野は海軍軍令部総長兼海軍大臣になった。

 また有事の際には司令長官もやると言っていた。

 この国の艦艇はほぼほぼがガレオン船で、一部が外輪式の蒸気船なので、まずは近代化体と意気込んでいた。

 堀越は航空機開発局の局長になった。

 就任初日から、航空機に関する様々な知識を提供してくれたので、航空機開発局の職員たちは歓喜していた。

 どうやら研究が飛躍的に向上したらしい。

 試作機ができるのも近いとか。


 と、こんな感じで無事地球から優秀な人材を召喚することに成功した。

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