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『戦争の天才』は敵首都を攻略する!

「陛下!リノ・バステル公爵が謀叛です!」


 クライスト公国国王エルベルトクラッソの部下が、勢いよく扉を開けてそう言った。

 ただ、エルベルトはその知らせを聞いても焦ることなく部下に命令する。


「わかった。亡命と演説の準備を始めてくれ」


 それを聞いて部下は小走りに部屋を去っていった。

 そして数分後、再度部下が急ぎ足でエルベルトの部屋を訪れる。


「亡命、演説の準備が完了しました」


 その時エルベルトは全身に黒色の防具を身に着け帯刀しており、完全武装状態だった。

 そしてその状態で、急ぎ足で城を出て馬車に乗り込む。

 馬車に乗り込むと鎧を脱ぎ、剣とともに二重底になっている床に隠した。

 馬車は一般人になりすますため装飾のない質素なものだ。

 護衛はおらず、馬車は一台のみ。 


 エルベルトが着席すると、馬車は走り出した。


「陛下、演説を開始してもよろしいですか? 」


「ああ、よろしく頼む」


 部下の質問にエルベルトはそう返した。

 それを聞いて部下はスクロールの上に魔力石を置く。

 スクロールは紫色にひかり始める。

 

 これは拡声のスクロールといい、『拡声(ラウンドスピーカー)』魔法よりも強力なものだ。

 範囲は自由に指定可能で最大で20000㎞まで一定の音量で声を届けることができる。

 

 エルベルトは一呼吸すると、スクロールにむけて話し始めた。


「私はクライスト公国国王エルベルト・クラッソだ。

 私はつい先ほどリノ・バステル公爵に謀反を起こされた。

 リノ・バステル公爵は挙兵し、現在公都に向かってきている。

 本来であれば私も挙兵し、戦うのが筋だろう。

 だが、奴は他の有力な貴族も仲間にしたため戦力は圧倒的で、私では到底勝ち目はない。

 私はそんな勝ち目のない戦をして、国民に無駄な犠牲を出させたくはない。

 なので、今は亡命しようと思う。

 亡命先で力をつけて、必ず奴を打ち倒す。

 私はこれを国民の皆さんと約束しよう。

 おそらくリノ・バステル公爵の政治はろくでもないだろう。

 ただ、私が力をつけるその日まで、どうか耐えてほしい。

 『忍耐と寛容』これをどうか行ってほしい。

 もう一度言うが、私は必ず戻ってくる。

 なのでその日まで、耐えてほしい」


‐‐‐



 アルザス要塞を出発してから一週間。

 ちょうど今、敵首都より50000(メートル)の距離に到着した。

 我々の目の前には敵の首都がある。

 敵はすでに籠城戦の構えを取っており、対魔法結界をはって、城壁には兵士たちを並べている。

 東西南北に4つの門があるが、そのすべての門が封鎖され、誰も出入りができない状況だ。

 敵の城は都市の中央部に位置しており、城壁からの距離は3000(メートル)程度。

 諜報部の報告によると敵の兵力は騎士3万程度らしい。

 敵は自国の全勢力をかき集めて籠城するらしい。

 

 我々はさらに進軍して、城塞から1500(メートル)の東の門に陣地を構える。

 八式七五粍曲射砲を5門並べて、敵の城に向けて照準をつける。

 そしてさらに兵士を7000人ずつに分けて北、南、西の門の1500(メートル)手前に配置する。

 東門は曲射砲もあるため9000人を配置する。

 これで準備は整った。

 

「ハベルゼン拡声(ラウンドスピーカー)を頼めるか?」

 

「わかりました」


 そう言ってハベルゼンは私に拡声(ラウンドスピーカー)をかけてくれた。

 今更ではあるが、私は魔法が使えない。

 前世に魔法なんてなかったのでそのせいだと思っていたが、青木少尉使えるらしいので、なぜかはわからない。

 なので、こうしてハベルゼンに魔法をかけてもらっているのだ。

 

 話は逸れてしまったが、私は敵首都の住民に向けて呼びかけを開始する。 


「ヴィクトワール王国国民の諸君。我々はこれよりこの街の中央にある城に対して攻撃を行う。ただ、諸君らの住居に攻撃してしまう可能性もあるので、城より西側に避難してもらいたい」


 私は避難勧告を出した。

 これより曲射砲で攻撃を開始するが、そのすべてが城に命中するとも限らない。

 おそらく何発かは一般市民の住居に当たるだろう。

 私は一般人に無差別砲撃するような人道をわきまえていない軍人ではないので、しっかりと警告をしておく。

 尤も、それを市民が聞き入れるかは別問題だが。

 

 それと、着弾観測用の櫓を土魔法で作るように命じた。

 この世界の魔法とは便利なもので魔法の扱いが上手なものはただの土の壁を作るのみならず、様々な形を形成することができる。

 そして強度もかなり高いため、最高で25(メートル)程度の櫓を作ることができる。


 それから30分程度で櫓が完成した。

 私は櫓に上がって敵の首都を見下ろす。

 そろそろ攻撃してもいい頃合いだろう。

 

 私は砲兵に斉射を命じる。

 命令を受け、轟音とともに撃ちだされたその弾は城塞の壁を越え、山なりの弾道で落下していく。

 少しして着弾すると信管が作動して砲弾は勢いよく爆発した。

 撃ちだされた砲弾は5発中2発が城に命中し、残り三発は民家に命中した。

 その威力はすさまじく、城の一部は欠損し内部が露呈し、民家は近所の家ごと粉々だった。


 すぐに再装填し照準を修正して、もう一度砲撃する。

 次は3発が城に命中した。


 敵の城塞にいる兵士たちは動揺しているように見えた。

 当然だ。

 籠城戦の要であるはずの自分たちは何もできず、ただ城が砲撃されているのを見るしかないのだから。


 2回目の砲撃以降は10分に一回程度の間隔で敵に砲撃した。

 というのもこれより早い間隔で打ち込むとすぐに弾切れを起こしてしまうからだ。

 持ってきた砲弾は510発なのでそう多くはない。

 もし撃ち切ってしまったら、ほかの攻城兵器を持ってきていない我々は撤退するしかない。

 

 ここで肝心なのは『この攻撃は降伏するまで終わらない』と敵に思わせることだ。

 何時間も無抵抗で砲撃にさらされれば敵にとっては厄介なことこの上ない。

 

 敵は籠城をしているため、もし曲射砲を潰そうと兵を送り込むとしたら門を開ける必要があり、それは籠城の失敗を意味する。

 そもそも敵と自軍の数が同じなのに攻勢を仕掛けるのは愚策である。

 なので敵を閉じ込めるという理由で、我々は城壁を砲撃したりはしない。

 

 敵からしたら砲撃は厄介で曲射砲を潰す必要がある。

 が、そのためには籠城を解かなければいけない。

 しかも籠城を解いたとしても勝てるかどうかはわからない。

 なら、籠城するしかない。

 が、それでは砲撃がやむことはない。


 というジレンマに陥るのだ。

 こうして2時間くらいが経過した。

 住宅街のところどころに穴ができており、城は半壊。

 中には煙が上がっているところもある。

 

 そんな中で私は敵指揮官に向けて拡声(ラウンドスピーカー)で呼びかける。

 

「敵指揮官似告ぐ。我々はこれ以上罪なき市民に攻撃をしたくはない。諸君らが無条件降伏をするなら、我々は即刻砲撃をやめ、破壊した場所を直すと誓おう」


 無条件降伏は絶対条件だ。

 それ以外は認めない。

 

 少しして、敵の指揮官から返事が来た。


「我々はまだ負けてはいない! なので断固として降伏はしない!」


 どうやら降伏の意思はないようだ。

 なら、砲撃を再開するのみだ。

 

 それから、我々はさらに発射間隔を狭めて5分に一回発射するようにした。

 3時間程度が過ぎただろうか。

 城はすでに半壊しており、城下町に砲撃によってできた穴が増えた。


 計5時間に及ぶ砲撃。

 それは敵の精神を蝕むには十分な時間だろう。

 私は再度、今度は市民に向けて呼びかけをする。


「ヴィクトワール王国市民に告ぐ。諸君らがもし、国王に向けて降伏を促すよう声をあげてくれるなら、声をあげている間は攻撃をしないと誓おう」


 おそらく市民は勝敗に関係なくこの戦が終わることを望んでいるはずだ。

 市民にとってはこの戦は勝とうが負けようが利益はない。

 そして今、利益は無いのに命の危険に晒されている。

 しかも要求をのまなければ先ほどのように砲撃の間隔をまた狭められるかもしれない。

 となれば声をあげることだろう。


 私の思惑は的中し、街からはぽつぽつと声が聞こえ始めた。

 

「早く降伏して!」

「俺らは死にたくない!」

「お前らのせいでこうなったんだ!」


 懇願、嘆き、怒り、その声は様々だ。

 その声はだんだんと大きくなり、都市は降伏ムードになっていく。


「貴様ら! 降伏を口にしたり私の悪口を言う者は皆死刑だ!」


 その声はアルノーだった。

 おそらくあちらも拡声(ラウンドスピーカー)で市民に呼び掛けているのだろう。

 アルノーの発言を聞いた市民たちの声量は小さくなった。

 皆戸惑っているのだろう。


 だが、それは対策済みだ。

 私は再度市民に呼び掛ける。


「ヴィクトワール王国市民に告ぐ。我々が勝てばアルノーが言った死刑をすべて取り消そう。さらにこの国をあの無能に変わって発展させ、皆の生活を豊かにさせると誓おう。もしヴィクトワール王国が勝てば諸君らに利益は無いが、我々が勝てば諸君らには多大な利益があることを約束する。なので安心して胸を張ってアルノーに向けて声をあげてほしい」


 私がそういい終わると、市民たちはまた声をあげ始めた。

 降伏を促す発言を言った手前、引くに引けないのもあるだろう。

 しかもヴィクトワール王国が勝っても自分たちに利益はない。

 となればどっちにつくかは明白だ。


 それから15分市民たちは声をあげ続けた。

 一部では暴徒と化している者もいる。

 

 そしてついに、その時は訪れた。


「我々ヴィクトワール王国はフェアンベルゼン王国に対して無条件降伏をする」


 敵の将兵が拡声(ラウンドスピーカー)を通じてそう言った。

 その言葉を聞いた瞬間、至る所から歓声が起こった。

 ついに終わったのだ。

 圧倒的不利かと思われたこの戦争は、我々の大勝利に終わった。

 

 少しして、門が開いた。

 ヴィクトワール王国の使者が来て、我々を城まで案内してくれた。

 城は半壊していて、中に入ると所々には砲撃を食らったのか体の一部が欠損している死体もある。

 少し進むと、粗雑な応接室に案内された。

 本来もっといい部屋もあったのだろうが砲撃によって吹き飛ばされたのだろう。

 私たちは案内された席に座った。

 むかいの席には50代くらいで黒髪に白髪が混ざっている男が座っている。

 おそらく彼が今回の指揮官だろう。

 確か名前はルヴォア・エリック。

 優秀な将校であり、数々の戦を勝利に導いてきた実績もある。

 そして民衆からも好かれていると聞く。

 

 私が彼のほうを向くと、彼は話し始めた。


「今回の作戦に関しまして総指揮を執っていたのは私です。この戦争に負けた以上、この戦争のすべての戦争責任を負うつもりです。私は如何なる極刑に処されても応じる覚悟です。しかしながら、この王都には罪なき30万の国民がおり、中には家や店を無くしたものも多くいます。住むに家無く、商うに店無き姿は深憂に耐えんものがあります。どうか、貴殿のご配慮をもって、市民たちの衣食住にご高配を賜りますようお願いを申し上げます」


 そう言って、彼は立ち上がり深々と礼をした。

 一分程度の礼だったが、私にはその時間が永遠にも感じられた。

 顔あげると彼は私の方をじっと見た。

 その目は真っ直ぐに私を見つめている。

 覚悟の決めた人間がするいい目だ。

 

 となれば私も先ほどの頼みに答えなければならない。


「貴殿の言い分はよくわかった。この市民、ひいてはヴィクトワール王国国民が豊かになるように精一杯努力すると誓おう。勿論、今回の戦で家や店を失った者の修理費も保証することを約束しよう」


 私がそう言うと、彼は安堵の表情を浮かべた。

 おそらく彼は市民の生活を大切に思う、いい指揮官だろう。

 そんな有能な人間を処刑するほど私は愚かではない。

 それにそもそも、今回の戦争責任はアルノーただ一人にあると思っている。

 他の人間を処罰する気はない。

 となれば、その旨を彼に伝えなくてはな。


「それと、今回の戦争責任はアルノーただ一人にあると思っている。よってそれ以外を裁くつもりはない」

 

 私がそう言うと、彼はただ、「ありがとうございます」とだけ言った。

 

 そんな中、もう一人が私の元に来た。

 アルノーだ。

 アルノーは部屋入ってすぐ、命乞いを始めた。


「私はエリックに勧められたから戦争をしたのだ。この責任はエリックにある。だからどうか、私を見逃してほしい。勿論、金は沢山やる。欲しい額を言ってくれ、必ず払う。他にも欲しいものがあるならぜひ渡そう」


 奴は半泣きで私に縋りついた。

 エリックとはえらい違いだ。


「いい奴隷はいるか?」


 私は彼に質問した。

 その質問に対して奴は明るい表情で答え始めた。


「勿論だ。私が常に買っているところの品揃えは豊富だ。どんなのが好みだ?必ず手配させよう」


 奴は饒舌にそう話した。

 助かったとでも思ったのだろうか。

 せっかくだ、少し奴の人間性を見るとしよう。

 返答次第によっては生かさなくもない。


「ではアルノー、貴様は今奴隷をどのくらい持っているんだ?」


「ざっと100はいる。もし、めぼしいものがあるなら持っていっても構わないぞ」


「もし、気にいるのがなければ、そこら辺の市民を誘拐しても構わないか?」


「ああ!勿論。いくらでも誘拐してくれ!」


 奴は本物のクズだった。

 国王としてではなく、人としてのクズだ。

 自分が助かるためならその責任を他者に押し付けて、他人の人生がどうなろうと知った事ではないと見向きもしない。

 そんな人間だ。


「アルノー、最後に一つ質問に答えてくれ」


「なんだ?」


「少し前、東の港町の奴隷商が潰された事件を知っているか?」


「ああ、勿論。それがどうしたんだ?」


「犯人は私なんだよ。私は奴隷というものが大嫌いでな。それを黙認し、さらには加担している貴様を許す事はできない。連れて行け!」


 私がそう言うと、アルノーは無様な泣顔を晒しながら、兵士たちによって連れ去られて行った。

 奴は死刑だ。

 今回の戦争責任の全てを追ってもらう。

 奴の家族は流罪でいいだろう。

 他の将校に関してはとりあえず裁かないでおく。


 こうして、フェアンヴェルゼン王国対ヴィクトワール王国の戦争、通称『附微戦争』は幕を閉じた。

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