『戦争の天才』は異世界転生する!
私の名前は石原 孝雄。
1889年に日本の福島県で生まれた。
何の変哲もない、ただの農村で生まれたのだ。
容姿も特段良いわけでもなく、家庭が特別裕福なわけでもなかった。
ただ、私には勉学の才があった。
自分でいうのもなんだが、勉強はできる方だし、頭も回る方だった。
そんな私は陸軍士官学校に入学した。
当時の超難関学校だったが、私は1発で合格することができた。
入学後は問題児とみられることもあったが、成績は常に優秀なので退学させられることもなかった。
そして当然、卒業後私は陸軍の士官になった。
そこからは順風満帆の生活と言っても良い。
私は、連隊長や師団長、はては関東軍作戦主任参謀にまで上り詰めた。
私はそこで、関東軍作戦主任参謀の時、一世一代の大勝負をした。
『満州事変』だ。
詳しい内容は割愛するが、私は満州で、中華民国軍と戦をした。
戦力差は20倍以上。
本国からの応援もあるかはわからない。
そんな戦いだった。
ただ、我々は勝った。
戦いは必ずしも数では決まらない。
私はこの事を誇りに思うし、この時が軍人人生の有頂天だったとも思う。
国民は私を『戦争の天才』と呼び、多くの人から称賛された。
『陸軍最高の頭脳』なんて呼ばれ方もした。
ただ、この時が人生の『有頂天』だった。
私は時の首相に好かれなかった。
私が英雄視されるのをよく思わなかったのか、私は予備役にさせられてしまった。
亜米利加との戦争が始まってからも、私が呼ばれることはなかった。
亜米利加との戦争が終わってから、証人として呼ばれることはあったが、戦犯としてではなかった。
戦争が終わってから私は、残りの余生を穏やかに過ごそうと田舎に引っ越した。
そこで、田んぼを耕し、畑を耕した。
かつての英雄とは思えないほど、質素で地味だった。
勿論、それを苦痛とは思わないし、むしろ望んだ生活とさえ思った。
ただ、やはり、軍人としてもっと活躍したかったとも思う。
そして今死んだ。
1972年、享年83歳でこの世を去った。
他人事みたいにいうが、なかなか面白い人生だった思う。
未練がないと言えば嘘になるが、満足のいく人生だった。
さぁ、思い出にふけってばかりはいられない。
私はこれから会うべき人がいる。
釈迦牟尼仏だ。
私は死後、釈迦牟尼仏に会って成仏しろと教えられた。
ただ、会う方法までは教わらなかった。
模索するしかない。
そんなふうに考えていると、どこからか音が聞こえた。
人の声だ。
ただ、何を言ってるかはわからない。
大勢の人の声が聞こえ、それが入り混じってるからだ。
そんな中、一人の男の声が、他の声黙らせた。
「ようこそ、お待ちしておりました」
そういう男の声はやたら若い。
十代か二十代のような声だ。
これが釈迦牟尼仏の声なのだろうか。
釈迦牟尼仏声は意外と若々しいものなのか。
私はゆっくり目を開けた。
そして、目の前にひろがっている光景に驚いた。
私の前には大勢の人が一列に並んでいて、その列の前方に男が一人、膝をついている。
全員、身なりは昔の欧羅巴のような、そんな格好をしている。
辺りを見渡すと、私は石造りの建物の中にいて、私の真下には謎の紋様が光っている。
「貴方が、釈迦牟尼仏様ですか?」
私の方に向かって膝をついている男に問いかける。
すると、困ったような顔をしながら
「いえ、私はハベルゼンと申します。ヘルマン・ハベルゼンです」
見た目だけじゃなく、名前も欧羅巴人みたいだ。
「混乱されてても無理はありません。貴方は我々が召喚したのです」
彼は何を言っているのだろうか。
召喚?とは何なのだろうか。
それに彼は釈迦牟尼仏じゃないなら、ここはどこなのだろうか。
「ここはどこなんだ?」
私が口からそう漏らすと、彼は待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。
「貴方は死後、ここに、この国に、転生してきたのです」
転生?
輪廻転生のことだろうか。
聞いたことは勿論あるが、こんなにも早く、しかもこんな形のものだとは聞いたことがない。
「まぁ、立ち話もなんですし部屋を変えましょう」
そう言って彼は私を案内しようと立ち上がり、そのまま私の方に歩いてくる。
私も彼の方に近づこうと歩き出す。
その時、私は転んでしまった。
普段なら何もないところでころぶことなんてないが、この理解不能な現状に動揺してるからだろうか。
私は思い切り膝を強打し、擦りむいてしまった。
それをみたハベルゼンは私の膝に手を当てて、
「すぐに治療いたします」
と言った。
「いや、このくらいの傷、数日あれば治るから大丈夫だ」
「いえ、すぐ済みますので」
ハルベルゼンはそう言って聞かなかったので、私は彼に任せることにした。
ところで治療とは、何をするのだろうか。
せいぜい絆創膏を貼る程度だと思うが....
そもそも、擦り傷程度で『治療』とは、大袈裟だ。
『治癒』
私がそんな事を思っていると、ハベルゼンいきなりそう唱えた。
次の瞬間、あたりに緑色の光が現れ、私の傷に触れると、一瞬にして傷を治してしまった。
「今のは何だ!?」
私は声を荒げながらハベルゼンに問う。
「なに、と言われましても....ただの治癒魔法ですが....もしかして、なにか気に触ることでもありましたか?」
ハベルゼンは不思議そうに答えた。
「その治癒魔法?とは、なんだ?!」
「魔法の一種ですが、ご存知ないのですか?」
ハベルゼンはまた不思議そうにそう返す。
理解が追いつかない。
魔法とは、科学が未発達の時代において信じられてきた、非現実的なもののはずだ。
現実世界ではありえない。
たが、私は実際に目にした。
そして体験した。
「とりあえず、部屋を変えましょう。ここでは話しづらいですし」
混乱する私をよそにそう言うハベルゼンの提案に従い、部屋を変えた。
今更だが、私は何も着ていなかった。
裸だった。
そのためか、部屋に入ると着替えが用意されていた。
私は慣れない服の着替えに戸惑いつつ、なんとか用意されたものを着衣して、席に座った。
ハベルゼンも私と向き合って座った。
そして、説明が始まった。
「まず、あなたは我々によって召喚されました」
開始一行で意味がわからない。
「その、『召喚』とはなんなのだ?」
私はハベルゼンに問う。
「召喚とは、貴方の元いた世界とは別の世界に呼び出すことです」
「つまり、ここは地球ではないのか?」
「その地球....?が何かはわかりませんが、おそらく違うかと思います」
いっている言葉の内容は理解できた。
だが、それを納得することができない。
そこで私は一つ、ハルベルゼンに問いかけてみた。
「それじゃあ、ギリシャ、ビザンツ帝国、キリスト教、プロテスタント、カトリック、大英帝国、亜米利加合衆国、日本、清、ローマ、仏蘭西、この中で聞いたことのある単語はないか?」
私は何となく地球の、主に欧米の誰もが知っている言葉を並べてみた。
「すみません。一つも聞いたことがないです」
ハベルゼンは申し訳なさそうにそう答えた。
私は、その答えを聞いた時に確信した。
この世界は地球ではない。
いわば異世界に、輪廻とは言えないが転生したのだ。
私は、それから今までの常識を捨て、ハベルゼンの話を聞いた。
そして、数多くのことを理解した。
まず、私は地球で天寿を全うした後、この中世、又は近世欧羅巴のような世界に転生した。
鏡を見たが、なぜか見た目も10代後半、または20代前半に若返っていた。
そして、この世界には魔法がある。
治癒魔法の他に、火炎魔法や氷魔法、風魔法なんかがあるらしい。
魔法は初級、中級、上級、超級、神級でわけられており、扱いが簡単なもの、要するに初級魔法なら基本的に誰でも使えるそうだ。
中級もほとんどのものが使えるが、中には使えない人もいるらしい。
上級以上は才能がなければ使えないらしく、超級や神級はほとんどのものが使えないそうだ。
次に、この国についてだ。
この国は『フェアンベルゼン王国』というらしい。
西は平原、かつ温暖な気候で小麦がよく穫れ、東は山がちで厳しい冬が続き、夏もそう暑くならないため、芋しか穫れないそうだ。
そのため、西はパンを、東は芋を主食にしているらしい。
ちなみに小麦を見せてもらったが、前世と全く同じ見た目だった。
芋もそのままジャガイモだった。
最後に一番重要な、なぜ、私が此処に召喚されたか、だが、それは『国王として国を治めてほしいから』だそうだ。
普通に考えればあり得ない話だが、この国の前の国王が、妻を一人しか娶らず、子宝にも恵まれなかったせいで、跡取りがいなかったらしい。
そうなれば普通、王家の血を引くものが次の国王になるが、その国王は遺書に『異世界より傑物を召喚し、国を治めさせよ』と、書いていたそうで、それで私が召喚されたそうだ。
そんなものを無視してもいいのではないか、とも思ったが、この世界には亡くなったものは神様になり皆を見ている、という氏神信仰的な思想があるらしく、そのため、故人のいいつけは守るらしい。
余談だが、氏神進行の他にアニミズム的なこともこの世界では信じられている。
それと、文化の事だと、この世界では何故か、日本語が使われ、平仮名、片仮名、漢字が使われている。
色々調べたが、日本語ではなくカルテ語、と呼ばれているくらいで、他は前世と全く一緒だった。
何とも不思議である。
そのため、この国の名前も、漢字で『附菴米流全王国』と表記されることもあるらしい。
前世にも言えたことだが、なんとも当て字っぽい。
ハベルゼンが一通りこの世界についての説明を終えると、椅子から立ち上がり、真剣な眼差しでこちらを向く。
「どうか、この国を治めてはいただけないでしょうか」
そう言ってハベルゼンは深々と頭を下げた。
ただ、私にこの国を治める義理はない。
正直、この世界のことについて、頭で理解していても心が納得していない。
ただ、国家運営は面白そうだとも思う。
前世ではできなかった色々なことができる。
それにそもそも、私は死んだのだ。
基本的に死んだらもう、生を謳歌することはできない。
ただ、今の私はそれができている。
そう思うと、これは生を謳歌するための義務であり、責務なのではとも思う。
そう考え、私の腹は決まった。
「わかった。私が国を治めよう」
そういうとハベルゼンは明るい顔をして頭を上げ、こっちを向く。
「それと、国を治めるにあたって絶対的にやりたい事がある」
私がそういうと、ハベルゼンは不思議そうにこっちを向く。
私がやりたいこと、それは....
「産業革命を筆頭に様々な改革を行い、近代的国家にする!」
この作品は、よくある異世界の中世ヨーロッパ風の世界に産業革命をもたらしてみよう!あと近代化して他国と戦争しよう!という作品です。できればなるべくリアルに書くつもりです。(ファンタジー世界にリアルって矛盾してる気も....)魔法×近代の戦術が見所の作品となっています。