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◇8

 任務で向かう事となっている仮面パーティーの会場となるお屋敷は、首都から少し外れたところにあった。そのお屋敷の持ち主とは違った人物が主催しているのだとか。仮面を付けているのだから、身分などは明かさずにただパーティーを楽しむ。それがこのパーティーの趣旨だそうだ。


 ……それで、さ。


 何で私、知らない家のお風呂に入れられちゃってるんだろう。



「マーフィス卿、行くぞ」



 なんて事を早朝に近衛騎士団団長様に言われ、馬車に突っ込まれ、そしてロドリエス侯爵家、団長様の屋敷に誘拐されてしまったのだ。


 何が何だか分からず……



「やれ」


「かしこまりました!」



 出てきたメイド達の言いなりとなってこうなった。ちなみに言うと、めっちゃいいお風呂。実家の屋敷よりもめっちゃいいお風呂。まぁ、上位貴族である侯爵家と違ってうちは下位貴族の中でも一番下の貴族だし当たり前か。


 そもそも、こんな大きな屋敷にお邪魔した事すらなかった。だからどうしたらいいか全く分からない。ただ大人しく言われる事を聞いていればいいのだろうか。


 これから私は任務だ。近衛騎士団に同行するあの任務。だからこれから仮面パーティーに参加するのだけれど……あぁ、ただの騎士にしか見えないからちゃんと女性に見える様に何とかしろという事か。


 お風呂に入れられてるって事は、私土臭いって事? すみませんね、生まれてこの方デビュタントに出ただけで他はずっと剣を握ってきたものですから。縁談にだって制服で行ったやつだし。


 ご令嬢と違って鍛えているから筋肉も付いてるし、野外が多いから肌も焼けてるし。とはいえ、四六時中長袖だから顔だけだけれど。でも、手だってボロボロだ。まぁ、ご令嬢にあるまじきことではあるが、そんな道を選んだのは私だ。だから問題ない。


 なんて思いつつ、貰った紅茶を頂き、マッサージまでしてもらいと何とも極楽な時間を過ごさせてもらってしまった。途中で転寝をして爆睡したのは団長様の秘密にしてもらったが。


 そして……



「……マジか」


「お客様は細くて背が高くいらっしゃいますからね」


「騎士でいるのが勿体ないくらいですわ!」



 大きな鏡の前には、信じられないくらいのちゃんとしたご令嬢が立っていた。そう、ちゃんとしたご令嬢。数日前に近衛騎士団持ちで購入してもらったドレスもちゃんと着せてもらったけど……私もちゃんとご令嬢になれたのね。そこが一番の驚くところだ。


 団長様が選んでくださったこのドレス。青のドレスに、金色の刺繍が施されている。スカートは、白い生地に、青い生地が何枚も重なっている。手はボロボロでタコだらけだけど手袋を用意してくださったから隠せている。


 こんなドレス、きっと重いだろうな、って思っていたけれどそれほどではなかった。肩は出ているけれどちゃんと肩紐が付いているから、もし走ったりしても大丈夫だと思う。


 ……とても綺麗な、ドレスだ。私、こんなの着ていいのかな。騎士の道を歩いている、私が。


 任務だから地味なものだと思っていたのに、こんなドレスを着ることになるとは思わなかった。



「……剣、は……駄目か」



 なんて事を呟きつつ鏡の前で後ろを見たりしていたら、部屋に入ってきた人物が一人。そう、この屋敷の主である団長様だった。私と目が合った瞬間、口を少し開けて目を見開いていた。


 けれど、少し微笑み私の元へ近づいてきた。そして、両手を取られてしまった。



「これにしてよかった。よく似合ってる」



 よく似合ってる、だなんて……そんな事を言われた事があるのは両親くらいだ。王宮騎士団に入れて制服を着た時に言われたくらい。


 でも、顔が熱くなってしまった。きっと手袋ごしでも今握られてる手も熱くなってしまってる。



「……これでは剣を持てません」



 何も言えなくなり、咄嗟にそう言ってしまった。



「だがナイフくらいは隠せる」


「……」



 こんなの、普通の令嬢だったら言わない。


 本当に、私は普通の令嬢とは違う。残念な女、と言われても何も言えない。



「普段の騎士団の制服もよく似合ってるが、ドレス姿もいいものだな。今日のテレシアも綺麗だ」


「っ!?」



 こんな事言われたら、期待してしまいますよ……リアム。



「……そろそろ、向かいましょう」


「あぁ。だが一つ忘れものだ」



 そう言いつつ、懐から何かを取り出した団長様。私を鏡の方に向かせて後ろに立つと……



「これで完璧だ」



 私の首元に、キラキラ光るネックレスが付けられた。とても綺麗な、スカイブルーの宝石の付いた、ネックレス。


 まるで、団長様の瞳のような、綺麗な宝石。


 つい、一緒に映る団長様を鏡ごしに見つめてしまった。何か言いたくても言えなくて。でもそんな私の心境を汲み取ったのかまた少し微笑んできた。



「さぁ、行こうか、レディ」


「あっ……」



 そう言って手を引かれてしまった。レディ、だなんて……いろいろと、狂うな……


 というか……え、私のパートナーって団長様なの!? なんて言う私の心の叫びに気が付いた団長様は……目を光らせていたような、ないような。


 もう何も言えなくなってしまい、大人しく団長様と一緒に馬車に乗る事となってしまった。


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