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2/13

◇2


 今日の私には見周りも警備もない。だから今日は雑用の日だ。


 二日酔いの頭を労りつつ、団長に頼まれた資料の片付けの為何冊もある本を持ち倉庫に向かっていた。


 私の職場であるここ王城にはいくつもの建物がある。騎士団が主に使っているこちらの棟から、今向かっている倉庫まではさして遠くはない。けれど、そこに辿り着くまでに階段などがあるからこんなに何冊もある本を持ちつつだと結構体力がいる。


 でも、他にも力仕事はいくつもある。騎士団で使用する武具の整理や手入れ、備品運びなどもある。こんな資料運びなど、それに比べればどうって事ないのだ。


 さっさとこれを終わらせよう。そう思いつつ辿り着いた倉庫に入り明かりをつけた。中には私の身長よりも高い棚がいくつも並んでいる。棚と棚の間に入り、正しい位置を探した。



「えーっと、これは……」



 けれど、私は気付かなかった。私の後に、誰かが倉庫に入ってきていたことを。


 知らず知らずに、私の背後に並んでいた人物が、私の頭の横から手を伸ばし、目の前の棚に手を置いた。それまで全く気が付かず、体が硬直してしまって。


 全く、気が付かなかった。私は一応騎士の端くれだけど、気配とかは一般人よりは感じ取れる。それなのに……



「朝の鍛錬には間に合ったか?」



 低めのトーンの声が、腕側とは逆の耳元でそう囁いた。何となく、聞いたことのある声だ。朝の鍛錬。ギリギリだった事を知っていて、間に合ったかどうかの結果を知らない人物。


 しかも、この手の袖。めくられている部分は赤い生地で、腕の部分は白。金色の刺繍が施されている。これはまさしく、近衛騎士団の制服。しかも、この金色のカフスボタン。これは……うちの団長にも付いている。そう、騎士団のトップたる団長様が付けるもの。



「間に合い、ました……」


「そうか、それは良かった。私のせいでお叱りを受けてしまうのは心苦しかったのでね」


「……」



 まさかの……今朝の、私のベッドにいた方なのでは……?



「あぁ、今君の部屋の窓が開いてるんだ。流石に女子寮の玄関から堂々と出るのはまずかったのでね。だから後で戸締りをしてくれ」


「か、しこ、まりました……」


「あぁ」



 まごう事なく、私の部屋にいた人物である。でも、まさか、この方って……いやいやいや、まっさかぁ……


 けど、これは……ヤバい。非常にヤバい。この状況を打開するにはどうしたら……そう思っていたのに、首に何かふにっと柔らかい感触があって。そこは、確かさっき先輩に虫刺されって言われた部分。ま、さか……



「今夜もそちらに行ってもいいか」


「……」



 こ、今夜も……今夜も、この人来ちゃうの……!? わ、私の部屋に……!?



「楽しみにしてる」



 と、次はリップ音を鳴らしつつ頬にキスをされ、私の背後から離れていった。


 気が抜けたのと、力が抜けたのとでゆっくりとしゃがみ込んでしまって。



「……」



 ……はは、笑えない。


 私、殺される? 殺されるのか?


 とりあえず……早く部屋に行って鍵閉めてこよう、そうしよう、うん。



「どうした、テレシア。そんなげっそりして」


「……二日酔いちょっと辛いです」


「あ〜分かる分かる。無理すんなよ」


「ありがとうございます」



 うん。色々と悪夢がきてもう私どうしたらいいか分からん。助けて、誰か。


 けれど……本当に殺されるのではないかと悟ってしまったのだ。



「ではよろしく頼むよ、第()騎士団員達」



 そんな一言で、青い制服を着た騎士団員が帰っていった。



「はぁ!?」


「はぁ、あの野郎……さっさと持ってくればいいものを……わざとか」


「やってくれるな。第二も第三も一緒だろーが!」



 まさかの、仕事が回ってきてしまったのだ。なにこれ、タワーになってる資料。今日終わる? 数字の羅列? これ。はぁ、数字の計算なんて私苦手なんですけど……


 騎士団の中で、第二騎士団とウチ第三騎士団は結構仲が悪い。向こうはだいぶ見下してくるのだ。この王城での騎士団は4つ。第一、第二、第三騎士団があり、その上に近衛騎士団がある。


 近衛騎士団はだいぶ格上であるだけで、他の3つはバランス良く配置されているだけ。数字の上下はないのだ。それは向こうも分かってるはずなのに。はぁ、本当にやめてほしい。


 しかも、これを持ってきたのはうちの団長が席を外してる時。いつもそうだ。



「これ、いつ終わるんだ?」


「今日は帰れないよな」


「はぁ、何してくれてるんだよ」



 まぁ、徹夜になるのはざらにあるけれど……一つ思い出した。



『今夜もそちらに行ってもいいか』



 という言葉を。


 ……いや、私はただの下っ端。相手はお偉いエリート軍団の騎士団長。どうせ私がいなかったら何も思わず帰るに決まってる。



「ほらテレシア、お前はこっちな」


「はいっ!」


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