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◇10

「はぁ……」



 そうため息を一つ吐きつつ、私はソファーに静かに座った。


 団長様は一体、何を考えているのだろう。


 あの日置いていった懐中時計は、どういう事なのだろう。


 聞きたい事が沢山ありすぎて、混乱してしまう。



「はぁ……」



 最近、ため息ばかりだ。ずっと団長様に振り回されっぱなしで、ずっと頭の中は団長様の事ばかりだ。


 怖い悪魔の近衛騎士団団長。そのはずなのに、何故か私の目の前にいる団長様は悪魔のような恐ろしい人に見えなくて……むしろ……



『テレシア』



 もっと、名前を呼んでほしい。


 そう、思ってしまう。


 名前を呼んでと団長様は言うけれど、恥ずかしい。ただ呼ぶだけ、本人から言われてるんだから怒られない。それは分かっている。けど、そうじゃなくて……


 やばい、また顔が熱くなってきた。



「……懐中時計、いつ返そう……」



 機会を伺っていても、団長様に振り回されて結局忘れてしまう。今日だっていきなり団長様に屋敷に連れてかれて、懐中時計どころではなかった。だから今女子寮の私の部屋にある。


 どうしよう……この後団長様が帰ってきた時、私、何て言ったらいいんだろう。あの時の微笑んだ顔は、一体何と言っていたのだろう。


 はぁ、とため息をつきつつ、座ってるソファーの背もたれに体を預けた。このドレスはスカートだから本当に慣れない。早く脱ぎたいなぁ。


 と、思っていたその時。



「あれ、いたんだ」


「えっ」



 この部屋のドアが、開いてしまった。鍵はちゃんと閉めたはず。それなのに、どうして。


 入ってきたのは若い男性。淡い緑色の紳士服に、シルバーの仮面を付けている。髪は赤い短髪。赤い髪って中々いないけど……誰だろう。


 その男性は、こんばんはと入ってきた。そして、私の目の前にあるソファーに座ってきた。



「君、疲れちゃったのか。ここには初めて?」


「……」



 鍵はちゃんと閉めたのに、どうしてこの人は入ってきたのだろう。団長様に、誰も入れてはいけないと言われてしまっていたのに、これはどうしたら……とりあえず、頷いておこう。



「そっか。これは普通のパーティーと違うからね」



 ここから出た方がいい? でも任務が完了した時団長様がここに来て私がいないと分かれば探す羽目になってしまう。私としても、ここを出て会場に戻るのはちょっと気が引ける。パーティー自体慣れていないから、任務中の今何かやらかすのは避けたい。


 はぁ、どうしたらいいんだろう。



「君、一人で来たの?」



 その質問に頭を横に振った。



「パートナーがいるのか。ふぅん、君をここに押し込めて自分はどこかに行ってしまうようなパートナーって事だね」


「っ!?」



 そういうわけじゃない。でも、団長様がどうして私をここに待機させたのかという理由が言えないから否定が出来ない。一人で来た、とでも言った方が良かっただろうか。でも今更だ。


 けれど、知らず知らずに目の前に座っていたはずの男性が私の隣に座ってきていた。



「君を置いてけぼりにする男なんだ、そんな男より僕と楽しい事をしない?」


「……」



 楽しい事……とは、どういう事? ただ話をするって事? それとも、お酒を飲むって話? 分からない。けど……男性は私に近づき、私の仮面に触れた。これは外してはいけないというルールがあるはず。それなのに、これを外そうとしてる?



「……結構です」


「そう言わずにさ。実は僕も一人でさ、寂しかったんだ。だから、同じく寂しくしていたんだからちょうどいいでしょ?」


「いえ、一人で大丈夫です」


「そんな寂しい事言わないでよ」



 自分の仮面をしっかり持って、彼から離れてソファーから立った。この人、一体どういうつもりなの。



「ざーんねん」



 もしかして、こういうの慣れてる? そんな感じがする。けど……どうしたらいいだろうか。早くこの人から離れたいところだけれど、ここにいないと団長様が困ってしまう。


 どうしよう、どうしよう。そう思うと焦りが出てしまう。自分は一応騎士団員なんだから、と思っていてもどうしていいか分からない。


 ソファーに座っていた男性は、立ち上がり私の方に近づいてきて。それに合わせて私も下がった。



「そんなに嫌?」


「……」



 けれど、気が付いた。部屋の外からする足音に。


 この足音は、もしかして……



「別に置いてかれたわけじゃないわ。私が疲れてしまったからここで休んでいただけよ。彼はお酒が好きだから私が会場に行かせたの。ただそれだけよ」


「ふぅん」


「だから、彼を悪く言うのはやめて」


「……彼っていうのは……」



 そう言って、男性は扉に向かって指を差した。ガチャガチャと扉を開けようとする音が聞こえてくる。鍵がかかってるんだ。


 早く開けてあげなきゃ。そう思って向かおうとするけれど……腕を掴まれた。睨みつけても、にっこりと視線を向けてきて。けれどこうしちゃいられない。すぐに私は腕を回して男性の腕を外し、扉の方に急いだ。鍵をすぐに開けると……いた。


 迷わず、私は団長様の腕に抱き着いた。そして、男性を睨みつけた。



「……悪い、遅くなったな」



 早く行こうか、とその部屋を後にしたのだ。


 ちらり、と男性の方を見た時に口角が上がっていたのは……無視した。それよりも……



「何があったのかはあとで聞く。帰ろう」


「は、はい……」



 団長様に言われたことをちゃんと出来なかった。それが、一番悔しく思ってしまう。


 でも、あの男性はどうして鍵のかかったあの部屋に入れたんだろう。鍵を持っていた? じゃあ、どうしてその鍵を持っていたのだろう。もしかして、この仮面パーティーの主催者? 関係者とかだろうか?

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