6 私の魔法。
騎士団の訓練場には、砦から少し離れた場所に小さいながら休憩所があった。
立ち合い人の人達が用意してくれたのか、クッキーとお茶が用意されている。そこには一人の女性騎士が待っていた。
あれ?見たことある人だ。
「彼女はルーファリア、私は部下の一人だ。この試験の後は彼女に色々案内させるつもりで呼んでおいた」
アスペリナさんの部下と言う事は、騎士に成っていると言う事。
どう見ても私より五歳程度上くらいに見える。
学園卒業したばかりの騎士なのかなとは思うけど・・・。
「あっ」
「あっ?」
「あっ、す、すみません!私、パルミアといいます」
「ルーファリアです。隊長が学園にも入れずに騎士候補を連れて来るというので、どんな女性かと思っていたのですが。すみません、正直、驚いています」
隊長・・・アスペリナさんか。
「あ、いえ、仕方がない事です」
騎士や兵士育成の為の学園の目的は、過酷な戦いで死なない為にあるので、それを無視して騎士になる事は、かなりの危険を伴う事。
騎士団上位の者が推奨で素人を騎士にするのは、褒められる話しではないし。異例な事だからそう思われても仕方がない。
しかも、騎士育成の学園は年齢基準が無いとは言っても、最低年齢は決まっている。
私は達していないのだから。
ルーファリアさんが言うのももっともな事。
このルーファリアさんはサブヒロインの一人。
余り嫌な印象は与えたくないけど。
ルーファリアさんは、ディーくんの学園での野外訓練イベントで、ディーくんを助けてくれる青の聖騎士。
戦闘では突撃のスキルで一直線上の魔物に大ダメージを与える事が出来るが、サブヒロイン中で最年長の為。人気はたしか今一つだった。
しばしの休憩。
クッキー美味しい。
「え、それじゃ、隊長の言っていた。魔王に脅える村娘ってパルミアさんの事だったんですか!」
「そうだよ。それでアスペリナ様が聖騎士に成った最初の仕事として与えられた任務が、長い年月で形骸化していた組織の再編だったのは知っているだろう」
「俺らも協力しているが大変だぜ」
「山脈に接する国々との交渉もあるし、なかなか済まない事案も多くてね」
と、言う事は再編は未だ終わっていないと?
「元々、教会本部でも問題しはされていたんだ。でも、今やらなくても良いだろうと先送り状態だっただけ。私が聖騎士に襲名され教皇プレーニア様との雑談でその話をしたらいい機会だと言われ。押し付けられただけね」
休憩しながら雑談していると、私とアスペリナさんとの話になり。話題ないし当然の流れだけど。
教皇プレーニア様、信徒が怯えています。教会は、信徒の不安を解消する義務と責任があると言って、国にも働きかけて聖都周辺の組織改革を実行したらしい。
そりゃあ忙しくって、アスペリナさん村には来ないよね。まぁ、聖騎士に成ったら元々来れないか。
「無駄と言った声もあった。現在も再編途中だけど、おかげで今回の襲撃に対処出来てプレーニア様の発言力も大きく増した。国も王も聖都の発言を無視できなくなった。再編も順調に行くだろうね」
そう言ってアスペリナさんはお茶を一口。
よく聞くと、聖都の騎士や兵士は一応は国の所属だが、色々な決定権は聖都側にあり。
山脈一帯の土地は、聖都が領主の様な役目を持って運営しているらしい。ただ、長年徐々にその辺も曖昧化していたので、国の所属ながら教会が直接選ぶ聖騎士に成ったアスペリナさんを使って再編に乗り出したらしい。
プレーニア様、切れ者感が半端ないのですけど。
「でも、おかげで自分死なずに生き残れましたし、損害も軽微でした。パルミアさんのお陰ですね!」
いや、何故そうなりますか?
「いえ、私は魔王の話を聞いて不安に成っただけです。魔王が住んでいたのが、直ぐそこに見える山脈でなければ不安に成ったかどうか」
私は自分の村が山脈に続く道の先であることを強調する。
実際、村は聖都よりも標高が八百メートルは高い。
山脈の最高標高は六千メートル。
東西に七百キロ。
南北に百キロ。
その何処に魔王がいたのかは隠されているが、一般的には聖都が睨む一帯に魔王は居たと言われている。
それでも百キロ近くの範囲があるのだけどね。
「まぁ、信徒からの不安を理由に再編しているからな。パルミアさんのお陰であることは確かだ。我も大変だがやりがいのある仕事が出来て、しかも、仲間の生命も大勢助かったのだ。礼の一つも言うべきだろうな」
「そうですよね」
ガーさん言葉にルーファリアさんが頷く。まさかのお礼の事態に、私は困惑しどうにか話題を変えようとして、襲撃時の話を振った。
そこで出たのはアスペリナさんとルーファリアさんの危機。
ルーファリさんが言う生き残れましたしとは言葉通りだったらしい。
ただ、それも再編によって部隊に駆け付ける余裕があり。
二人とも窮地脱したらしい。そう言えば、ゲームでルーファリアさんが
、自分には尊敬する人がいたが襲撃によって自分のミスで大怪我をさせ引退させてしまった人がいると会話で出ていた事を思い出した。
そうかアスペリナさんの事だったのね
これだけ重要な地位にいるのに、ゲームではいなかった理由がわかった。
意外な形でシナリオ変えていたようです。
休憩が終わり。
いよいよ魔法の試験。
ルーファリアさんも着いてきた。
「さて、こんなに遅れて自己紹介とは、私は魔術師隊を率います。トムリと申します。まず、例の魔法を見せて下さい!見せるのです!見せてぇぇぇ!!」
最初は冷静に話し始めていたトムリさんだったが、最後の方で声が高音でせめて来た。
「トムリ様、落ち着いて下さい!」
ルーファリアさんに押さえられている。
うん、マッドな人だったか。それにしても兵士であるバグロイさんと同じ様な服装って魔術師としては違和感あるね。
「わざわざ魔術師って敵に教える必要ないでしょう。それに魔術師でも剣の訓練はしますよ」
突然元に戻って、真っ当な意見を述べるトムリさん。
豹変凄い。
でも、確かに魔術師です接近戦は無理です何て敵に教える必要ない。
サブヒロインの魔術師はいかにもって服装だったけれどね。
「コレも再編の一つだね。完全に兵士と同じではないけれど。トムリ様の意見を元に兵士の鎧に近づけたの。従来は魔術師って服装だったのよ。兵士の鎧は予備も多いから作り直すのは予算的にも難しくないし、でも、まぁ、まともに剣が振るえるのはトムリ様はじめ魔術師で十数人程度かな」
それって騎士じゃないのかな。
「残念。其処までの剣の腕は無いのよ。せいぜい五級程度、それでも接近戦でただ殺られるだけは防げるから」
心を読まれました。そうなのですね。
と言うことは、あのサブヒロインも衣装チェンジになるのかな。
「それよりも、パルミアさんの魔法の確認を開始しましょう」
トムリさんはいい加減魔法を見せろと迫って来るので、予定通りに魔力を高め。
私は昨日教会で見せた様に空に上がる。
ルーファリアさんがビックリしていた。ガーさんやバグロイさんもアスペリナさんから聞いてはいた筈だ。それでも人が空に舞う姿は半信半疑だった感じ。
トムリさんは興奮の為か顔が真っ赤で、此方を見ている。
「ど、どのような魔法を使っているんだね!?」
イベントボスなので飛べるかなと思ったら飛べましたは流石に言えない。
「魔力で身体を包んで、空気よりも自分を軽くするような意識を持っています」
感覚的に私は自分の身体を魔力を覆い。体重を空気よりも軽くする。
言葉にするのは簡単、でも、実際どの様な魔法の働があるのか良く分からない。
「魔力で身体を覆うと飛べるのですか?」
「そんな簡単な話しではない。魔力で身体を覆って飛べるなら、既に飛行魔法は完成している。魔力自体は浮くことが知られているが、人を包んで浮くかと言えば浮かん!それにそのくらいなら、過去から長い間何度も試されている」
私の言葉に、トムリさんはズイッと近づいて来る。
「分析させて貰うよ。ふむ、感じられる魔法からすると、風と地の魔法か?風は分かるが地は何だ?」
トムリさんは私が何か言う前に、既に検証に入っている。
「魔法って分析出来るですね」
「いや、私の直感だ。魔力の消費も高いか。他の魔法も絡んでいるだと、だが、何だ?」
直感っかい!合っているのそれ?
血走った目で見つめてられ怖い。
「トムリ様、長年研究しているから、普通は出来ないわよ。トムリ様、パルミアさんは昨日教会の例の魔法陣を発現させています。ヒントに成りますか?」
「聖魔法か!だとすれば、普通の魔術師では使用不可能と言うことか?」
地と言う事は反重力みたいな魔法なのかな?
無意識に使っている?
昨日、プレーニア様と食事している時に少し教えてもらった話しでは、ここ世界の魔法は基本的な火や水、風等の魔法は生活魔法として威力は無くとも誰でも使用出来る。ただし、聖と邪と呼ばれる二種類の特殊な魔法がある。
例え王族や貴族でも使えないのは勿論、基本は血筋にも影響しない。
その聖魔法を使えるのが聖女と呼ばれる女性達。聖魔法は何故か女性しか使え無い。
教会では生命を育む事が出来るのは女性だからと説明している。
一方の邪魔法を使用するのが魔物や魔王であり。
腐敗や破滅をもたらす。
一夜にして数百キロが砂漠化したとの伝承さえあるらしい。
「だが、聖女が空を飛んだとは聞いたことがない。それに聖魔法に身体を浮かすような魔法はない筈。ふむ、パルミアさん最後にどのくらい飛べるか見せてくれ」
トムリさんに言われ、私は上空に飛ぶ。
思うように自由に飛んで、ゆっくりと舞い降りた。
「スカートで飛ぶのは止めた方が良いな」
トムリさんの一言であった。
私は悲鳴を上げ座り込む。
お、お約束をしてしまった。
アスペリナさんの飛行魔法は終了との言葉で、私は顔を真っ赤にしながら立ち上がる。
アスペリナさんから、飛行魔法は使用は禁止しないが、誰かに教える事は禁止された。もしも、使用出来る者が現れソレが悪人だった場合。犯罪に使用出来るからというのが理由。
当然かな。
「パルミアさん、魔力は大丈夫」
「はい」
「それなら攻撃魔法を見せて」
「まて、彼女にアスペリナ様は攻撃魔法を教えたのか?」
アスペリナさんの言葉に、ガーさんが驚く。
「教えていないわよ。それ普通に違法行為だから。彼女、生活魔法を工夫して攻撃魔法に作り変えてしまったの」
「嘘だろう。マジかよ」
アスペリナさんの言葉に、集まっていた人達は一様に驚く。
すみません。
ゲーム知識とイベントボスとしての能力を振るに使用しました。
「確かに生活魔法から攻撃魔法は発展したが、それが本当なら大変な事になるぞ」
「まずは見せてくれ。的はそこら辺の杭でよい」
私は手を前に出す。
「爆炎」
最初は魔物を倒した爆発系の魔法。
魔法の威力は込める魔力でそこ効果が変わってくるが、ただの炎と爆発する炎では威力が違うが両方共に火の魔法の括りには成る。
放たれた魔力は杭にぶつかり爆発を起こす。
一撃で小さいながらクレーターを作った。
私はそのまま二撃三撃。約十発ほど連続で叩き込む。次に、周囲に魔力の玉をやはり十個程作り。土煙が収まらないが、そのまま叩き込み。激しい雷の放電が土煙を弾き飛ばす。
「氷柱」
土煙が薄まった場所に最後やはり十余の氷柱をブチ込んだ。
「こんな感じです」
コレを考えたアスペリナさん以外、皆様驚かれております。見ればアスペリナさん、悪戯が成功した笑顔でおります。
「パルミアさん、魔力は大丈夫?」
「はい、あと同じ事を十回繰り返しても大丈夫ですよ」
「・・・マジですか」
ルーファリアさんがようやく口を開いた。
「こりゃ、学園なんぞに入れておく場合じゃ確かにねぇな」
「アスペリナ様、何処でこんな娘捕まえて来るんですか」
アスペリナさん以外、皆様頭を抱えている。
「私もビビったわよ。だから、プレーニア様に報告して特例を使うことにしたの」
村を出て聖都に着く間に、寄り道してアスペリナさんには攻撃魔法を見せた。その時、アスペリナさんも引き攣った表情をしていたけどね。
私も自分で頭抱えたし。
「特例は確か三十年ぶりですが認めます。彼女は学園ではなく騎士として教育して行くべきです」
「俺も認める。こんなの学園に置けるか、死人が出るわ」
「独学でコレですか?まいった。認めるのが最善だな」
「隊長、彼女は騎士として教育していくのですよね。魔術師ではなく」
「そのつもりよ。魔術師ではなく騎士になる事で今後の対魔王戦での作戦が大きく変わるからね」
魔術師は多くの場合、後方からの支援援護。
突撃して前線に行くのは騎士や兵士。
アスペリナさんの考える私の使い方は、騎士の方が良いらしい。
私の魔法のお披露目は済。
特例での騎士団への入団が認められました。
あと、私の教育はバグロイさんとトムリさんがマンツーマンで行うことも決まった。
私の魔法はゲーム由来の独学が多く、威力は馬鹿でかいが戦場などを考慮するとキチンと魔法を習った方が良いし、棒術も一対多で戦える様にするとの事。
時間に成り解散。
私の訓練と教育時間は追って連絡するとの事で、アスペリナさんは報告の為にガーさんと教会へ。
私はルーファリアさんと街に向かう事に成った。
ルーファリアさんが街を案内しながら、必要な物の買い出しに向かいます。