4 本編の布石。聖都へ
村に戻った私達は、聖都の襲撃の話を聞いた。
イベント通りにシナリオは進んだみたいで、周囲の村を守るために混乱する聖都から追撃部隊が出ているらしい。
普通なら、聖都の守りを固める為に、周囲の村は見捨てられそうだが、そこは違うようで守りを固めながらも周囲の村も助ける為に行動している。
この村の次の村やその先の小さな街にさえ兵士を早馬で向かわせたらしい。
女性騎士がこの村に来たのは、彼女が一騎当千の力を持ち。この村が聖都から比較的近く、襲撃を受ける恐れが高かったかららしい。
一先ず数日は、彼女と連れて来た兵士と滞在するとの話。
彼女達は、公民館的な寄合所に泊まり。食事は村長が準備する。
一方の私とディーくんは無事を喜んで貰えたけど、怒られも当然した。
そこは女性騎士、名はアスペリナさんが魔物の襲撃がされなかったのは、私の頑張りによるものと擁護してくれたが火に油だった。
それともう一つ。
私は噂で、男達の慰み者にされたと広まってしまった。
噂は、噂でしかないけど。
コレを払拭するのは、小さなコミニティの村では相当苦労する。
現に、私の嫁話は消えたみたい。
ならば、私の次の行動をどうするか。
一先ず本編開始迄は時間がある。
魔王側のジャブみたいな行動は本編まで何回かあるみたいだけど、ディーくんが聖都にある聖騎士団の養成所機関に入学する迄は大きなイベントは存在しない。
この間の本来の私は、魔王の手の者達の慰み者として生きており。
魔王の手下として当場するのは、本編開始していくつかのイベント後。
つまり、そこに私の代わりがいるのかどうかが知りたい。
あるとすれば私以外の三人の悪堕ちの彼女達の誰か。
ディーくんは主人公なので、トラウマを一先ず回避したとして私が関わる必要は無くなった。
ので、放っておくことにします。
「お母さん、少し出てくるね」
「え、ちょ、ちょっと」
弟のポムくんと遊んでいる母親に出かける事を伝え、家を出る。
父は村の警戒のため当番制で出かけている。
私は、家を出てアスペリナさんのいる寄合所へ向かう。
途中、村の人に出会うが何か腫れ物でも扱うような感じに少し居心地が悪い。ただ、コレは使えそうと思う。
「はい、どうぞ」
寄合所に着いて、ドアをノックして寄合所に入る。
「パルちゃん?」
「アスペリナさん、少しお話してイイですか?」
良いタイミング。
寄合所にはアスペリナさんと派遣の兵士だけ。村の人はいない。
「話、いいけど。どうしたのかしら」
「私を聖都に連れて行ってくれませんか!」
私は最初から本題を切り出す。
アスペリナさんは当然驚いて理由を聞いて来るが、私は噂の事やその噂で両親や弟に迷惑がかかる事を伝え。
お願いしますと頭を下げる。
アスペリナさんは渋い顔になる。
噂は、アスペリナさんが違うと払拭しようとしてくれたけど、上手く払拭出来なかった。
アスペリナさんはどうしたものかと考え、両親の承諾を聞いて来るけどそんなモノは当然無い。
次の手。
「それに私は戦えます」
ディーくんが人質に成った時、冷静に考えればディーくんが大怪我をさせられたかも知れなかったのに私は男を挑発した。
全ては、私が人を殺す事を躊躇ったのが原因。
「私は戦えると思っていたけど、人を殺す事に躊躇してしまいました。だから、噂は自業自得で仕方がないけれど、ならばこそ鍛えて私の様な人を助けたいんです」
次は決意を伝える。
魔物を倒したのは私。
アスペリナさんもソレは知っている。
戦力は欲しい筈。
「うーん、適齢期で学園に入学とかは駄目?」
「それでは遅いんです。この村では結婚適齢期でもあるので」
騎士の養成所である通称学園の入学適齢期は、村では結婚が出来る最初の年齢に差し掛かる。
「あー、早いよね。この辺って」
聖都という三十万もの人がいる大都市から一日しか離れていないのにも関わらず。村の女性の結婚は早い。
軽く十歳は違う。
昔、疫病が流行った時の風習が拭いきっていないらし。だから、村の女性は時折、こんな村ヤダと聖都に出て行く人もいる。
「今度は人を殺せます」
躊躇すれば被害が出る。ならば、私は今度こそ決意しなければいけない。
アスペリナさんは、私が戦える事を知っている。
アスペリナさんからも剣の手解きをしてもらったのだから、当然。
「うーん」
うーんはアスペリナさんのクセなのだろうか?
「アスペリナさん、少し良いですか。外に」
もう一押し、もしくは最後の手。
アスペリナさんを連れて外に出るとお父さんがいた。巡回中なのだろうか、横には他の村人がいる。
「パル、何をしているんだい?」
「お父さん」
困った。まさか、早々に見つかるとは。
「あのね。お父さん」
「パル」
お父さんは、私の言葉を止め。
「アスペリナ様と・・・パル、君が決めることに僕は反対はしない。でも、お母さんとはキチンと話すんだ」
お父さんも私の噂は聞いているはず。そして、アスペリナさんを見てどうやら私が何をしようとしているのか気がついたみたい。
本当に、お父さんは感が良い。
そして、お母さんと話しなさいと言ってくれる。
気がきき私を大事にしてくれるお父さん。
家事しない事に怒りながら、色々教えてくれるお母さん。
少し甘えん坊の弟。
そんな日常が私がこの世界をゲームと認識しない理由。
では、何故にゲームと同じ事が発生するのか。
色々考えたけど、私には理解不能と判断した。ただ、ゲームの知識がこの世界の人達、特に身近な人達の為に使えるならば使いまくるだけ。
お母さんとは話すと伝え、アスペリナさんを連れて森に向かう。
人の視線が無い場所に来て、アスペリナさんに向き合う。
「攻撃魔法とかは村の人達が聞いたら驚くから、コレで」
本当は大型の攻撃魔法を見せるのが良いのだろうけれど、それだと村がパニックに成るので私は浮いて見せた。
アスペリナさんは当然何が起こるのかは分かっていない。ただ、私がアスペリナさんの説得に何をするのかは気がついている。
「え?!」
流石のアスペリナさんも驚きの声をあげた。
イベントボスである私は、ゲーム序盤で浮いて当場するので、飛べるんじゃないかなと思って試したら飛べました。
この世界に飛行魔法は存在しない。
飛べるのは、虫や鳥。飛行能力を持つ魔物くらいだ。
「役に立つと思います」
呆然と浮いた私を見ているアスペリナさんにアピール。
アスペリナさんは顔を引き攣らせながらも、頭を下げうーんと唸った。
「パル、本気なのね」
「うん、お母さんゴメンナサイ」
お父さんに言われた通り。私はお母さんにアスペリナさん達に着いて聖都に行くことを伝える。
「申し訳ない。私がもっと彼女について被害が無かった事を村に伝えきれたら良かったのだが」
私の噂は別にアスペリナさんの責任では無い。
一緒に来ていた村人のゴンザさんが口下手のが原因何だし、もっと突き詰めれば私の行動が最大の原因なのだから。
お母さんも私の噂は知っている。
これ以上は、私がいる事で迷惑はかけたく無い。
ディーくんの両親も危険な行為に、ディーくんを巻き込んだ事を凄く怒っていたし。
両親がその事でディーくんの両親に謝っているのも知っている。
私が消える事で、噂も下火になるし。ディーくんの両親も村から追放と成れば、これ以上は文句は言い難い筈。
元々、ディーくんの両親と家の両親は仲が良かったのだから。
お母さんは何も言わずに突然抱きしめて来た。
愛されているなと感じる。
そう言えばゲームでは、私の両親の話しは書かれていなかったけど、連れ去られた後どうなっていたのだろうか?
村の襲撃で生命を落としたのだろうか?それは知らないけど、私の両親と弟は無事に生きている。
ディーくんのトラウマは気にしていたけど。両親の事は考えていなかった。
今は、この大事な家族を守りたいと思う。
いつの間にかピッタリと屈いて来ていた弟のポムくんも一緒に、この温もりを感じていたかった。
アスペリナさん達が出立する日。
私も村を出る。
数人の常時滞在の兵士達が村に来たので、アスペリナさん達の仕事は一先ず終わりだ。
アスペリナさん達の見送りには、村長とかは来ていたけど。
当然、私には無い。
少し寂しいが、複雑な顔の村長をみる限り。コレが正解なのだろう。
「それでは」
アスペリナさんの馬の後ろに乗せてもらい私は村を出た。
次なるイベントは、ディーくんが学園に入学してから。
それまでに、更に力をつけておかないとね。
三年後に向けて、今は、やれるだけの事はしておく。
村を出るのは、その一歩目だ。