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お飾り王妃、核心に迫る


「バレンシア公爵夫人、私の顔でしたら、おわかりになりますか?」


 黒のヘッドドレスと一緒に、かぶっていたカツラを脱いだ私を見て、ミーシャ様の瞳が見開かれる。


 お飾りと言われていようとも、アルザス王国の王妃である。高位貴族であれば、王妃の顔くらいは認識しているだろう。


 嫌味も込めて放った言葉に、一瞬ミーシャ様が狼狽える。しかし、次の瞬間には綺麗なカーテシーをとり、私へと頭を下げる彼女を見つめ、やはりミーシャ様は社交界で噂されているような、浅慮で、傲慢な毒婦ではないと感じる。


 慎重に事を運ばねば、最悪の事態を招きかねない。緊張感から、喉がゴクリっと鳴る。


「大変失礼致しました。王妃殿下とは、つゆ知らず無礼な態度を取りましたこと、お詫び申し上げます。しかし、なぜ今夜の夜会に王妃殿下が? 今夜は側妃となるアリシアの披露目の夜会。王妃殿下が参加なさると王城からの伝令はなかったはずだわ。私の見落としかしら? しかも、変装までなさって」


 嫌味には、嫌味で応戦するという宣戦布告かしら。流石、腐っても公爵夫人といったところね。

 おばさまと張り合っていただけのことはあるわ。

 まわりくどいのは面倒ね。


 私はミーシャ様を無視し、彼女の前を横切るとソファへと歩み寄り、この部屋の主人の許可を得ず、勝手に座る。そして、そんな私の態度を唖然と見つめ固まっているミーシャ様へと、向かいの席へと座るように声をかけた。


「ミーシャ様、回りくどい言い方は嫌なの。お互いに忙しい身の上。無駄な言葉の応酬はナシにしましょう」


「それは、対等に話しましょうと言っているようにも聞こえますが」


「その通りよ。この場で交わされる会話は、すべて不敬には問わない。対等な立場で話したいの、ミーシャ様、あなたと」


「わたくしと? 大妃殿下、おかしなことをおっしゃるのね。わたくしには、王妃殿下と話すことなどありませんわ。まさか、自分が陛下から愛されいないからって、アリシアの輿入れに異議でも唱えるおつもり?」


 側妃候補の披露目の夜会に正妃が乗り込んでくれば、難癖をつけ輿入れを邪魔しに来たと考えるのが妥当だろう。ミーシャ様も、まさか自分がターゲットだなんて思ってもいない。だからこそ、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべていられる。まさしく傲慢で、愚かな毒婦を演じていられるのだ。


 さて、毒婦の仮面が外れても、今と同じように強気な態度をとっていられるかしら? 見ものね。


「私はアリシア様の輿入れに異議を唱えるつもりはないわ。アリシア様が輿入れし、側妃として陛下を支え、その結果、アルザス王国がより良くなればよいとさえ思っていますわ」


「それはもう、陛下に愛されているアリシアですもの。アリシアが側妃となれば陛下もお喜びになるわ。二人で築く治世は、素晴らしいものになるでしょう。今の治世とは違って」


「そうね。お飾りと呼ばれる王妃よりも、アリシア様が側妃として陛下の隣に立つ方が、アルザス王国にとっても明るい未来なのでしょう。ただ――、それをアリシア様は望んでいるのかしら? 陛下の側妃となることをアリシア様は望んでいると、ミーシャ様はお考えで?」


「そ、そんなの当たり前じゃない。全女貴族のトップに立てる。望んだところで、手に入る地位ではないわ。しかも、陛下からの愛が己に向けられているのよ。それを拒否する女なんて、いないわ」


「アリシア様が別の男性を愛していてもですか?」


「えっ!? ……、そんなこと、あり得ないわ。言いがかりはやめて!!」


 ミーシャ様は気づいている。

 アリシア様の想い人が誰かを。


 彼女がとった一瞬の狼狽が、それを物語っていた。


「ミーシャ様、気づいていますよね。アリシア様とルドラ様が兄妹以上の関係だということを」


「やめてちょうだい!! いくら側妃となるアリシアが憎いからって、そんな言いがかり、ひどいわ」


 視線をそらし、自分の身体を抱きしめた両手が震えている。そんなミーシャ様の様子を見れば、私が言った事が真実だとわかる。


 やはり、アリシア様とルドラ様は恋仲。

 

 ずっと不思議に思っていたのだ。

 なぜ、アリシア様だけが、幼き頃、陛下の遊び相手として王城に行っていたのか?と。


 当時、まだ王太子だったレオン陛下の妃候補としてアリシア様が王城に出仕していたことは、簡単に想像できる。アリシア様は、バレンシア公爵家の一人娘なのだ。ティアナというイレギュラーが現れるまでは、王太子の筆頭妃候補だったのだから、当然幼い頃から王城で妃教育を受けている。しかし、ルドラ様やアンドレ様が幼き頃に王城に出仕していた記録はなかった。

 野心家のミーシャ様であれば、ルドラ様はともかく、アンドレ様を王城に出仕させないなんて本来であれば考えられない。しかし、アンドレ様が出仕したという記録もなければ、陛下の口からアンドレア様の名を聞いたこともない。アリシア様と陛下が幼き頃、親しき間柄であったにも関わらず。


 ルドラ様とアンドレ様を王城へと出仕させないように手を回していた者がいる。もちろんバレンシア公爵ではない。子供に関心のなかったバレンシア公爵が、王城への出仕に口を出すとは考えにくい。

 では、誰が?と考えた時、その権限があるのは公爵夫人であるミーシャ様のみ。


 息子の将来の出世を考えれば、王族と懇意にしておくことは己の権力を盤石なものにするためにも必要。ミーシャ様が野心家であれば、なおさらアンドレ様を陛下の側へと送り込みたいだろう。しかし、ミーシャ様はそうはしなかった。


 まるで、アリシア様を息子二人から引き離すかのように、王城へと追いやった。


 その真意は――――


 きっと、知っている。

 ミーシャ様は『バレンシア公爵家の闇』を知っていたからこそ、息子達二人とアリシア様を引き離そうとしたのだ。

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