表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/97

お飾り王妃、味方を得る


 王妃の間に軟禁されてどれくらいの時が過ぎただろうか?


 窓際に置かれた重厚感漂うソファに座り、ぼんやりと外を眺める。もちろん、本当に軟禁されている訳ではない。王城内の庭園を散歩することも、礼拝堂で祈りを捧げることも、希望すれば王妃の間から出ることは可能だ。しかし、一歩でも王妃の間を出れば、必ず二名の護衛騎士がつく。そして、レオン陛下の息のかかった王妃専属侍女が、ぴたりと寄り添う。まるで、私の一挙手一投足を監視するかのように。


 これが王妃に付き従う者の本来の形なのだろうが、侍女ティナに扮し、王城内を自由に歩き回っていた私にとっては、監視されているのと同じだ。

 王妃の間に軟禁されているのと変わらない。


 これじゃ、誰からも捨て置かれていた、お飾り王妃の時の方がマシね。


 お飾り王妃の時は、見向きもされなかった代わりに、自分の味方はいた。ルアンナに、王妃付きの侍女のみんな。大きなテーブルに積まれた手紙の山を前に、和気あいあいと『お悩み相談』を受けていた時が、遠い昔のように思われる。


「ルアンナは元気にしているのかしら?」


 ポツリとつぶやいた言葉が、静寂に包まれた部屋にこだまし、消えていく。


 ルアンナの行方がわからなくなってから、出来うる限り彼女の動向を探ろうとした。しかし、いくら探ってもルアンナの動向を掴むことは出来なかった。まるで、緘口令(かんこうれい)が敷かれているかのように。『己の行いのせいで、ルアンナが酷い扱いを受けていたら』と、それだけが気がかりでならない。


 そんな事を考えていた私の耳に、扉をノックする音が聴こえる。


「王妃さま、ご紹介したい者がおりますので、入室してもよろしいでしょうか?」


 紹介したい人? 珍しいこともあるのね……


 扉越しに聴こえた侍女頭サリーの声に、疑問が浮かぶ。


 王妃の間に軟禁状態になってからというもの、王妃付きの侍女も、護衛の騎士も名前すら分からない状態なのだ。何度か、私から名前を聞いたこともある。しかし、皆一様に『名など存在しない者ゆえ……』と言い、答えてはくれなかった。しかも、ある程度の期間が過ぎると、侍女も護衛騎士も総入れ替えとなる。


 そんな事が続けば、嫌でも悟ってしまう。

 陛下は、私に味方を作らせないようにしている。


 味方を作ることで、勝手な行動をされても困ると、レオン陛下が考えているのは明白だ。だから、名前を知っているのは侍女頭のサリーだけ。


 そんな状態が続いていたのに、紹介したい者がいるとは、いったいどういうこと?


 まぁ、陛下に何かしらの思惑があるのは確かね。どちらにしろ、私の味方ではない。


「……どうぞ、お入りになって」


 半ばあきらめの境地で、扉の外で待機するサリーに声をかける。そして、サリーに続き、入室してきた人物を見て、驚きに、声をあげそうになった。


 嘘でしょ!? なんで……、エルサ……


「初めまして、王妃さま。この度、王妃さま付き専属侍女の任に付きましたエルサと申します」


 目の前で、完璧なカーテシーをとり挨拶を述べる赤髪の女を見つめ、驚きから手に持った紅茶のカップを落としそうになる。


 なんで、なんで!? エルサが王城にいるのよ?

 しかも、専属侍女って、どういうことなの?


 頭の中を疑問符が回るが、今はそんな瑣末なことを気にしている場合ではない。王妃の間に軟禁されてから初めて訪れた千載一遇のチャンス。逃す手はない。


 どのような経緯で、エルサが王妃付きの侍女として現れることになったかは、追々、本人から聞き出せばいい。今は、エルサと私の関係が、侍女頭サリーに勘づかれないように振る舞うことが優先だ。


 レオン陛下に忠実な臣下サリーは、エルサと私が知り合いだとわかれば、すぐにでも陛下に報告するだろう。そうなれば、せっかく見えた一筋の光すら絶たれてしまう。それだけは、絶対に阻止しなければならない。


 震え出しそうな手を必死に抑え、紅茶のカップをソーサーに戻すと、エルサへと向かい笑みを浮かべる。


「――――、サリー、私の専属侍女と言ったわね?」


「はい、王妃さま。今後は、こちらの者が、王妃さまの身の回りのお世話をさせていただきます」


「そう……、名はエルサと言ったかしら? よろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願い致します、王妃さま」


 そう言って、再度、頭を下げるエルサを見つめ考える。エルサは、私に向かって『初めまして』と言った。つまりは、私が教会で出会ったティナだと、気づいていない可能性がある。それともう一つ、王妃ティアナとシスターに化けたティナが同一人物だとわかった上で、潜入してきている可能性の二つが考えられる。


……あの笑みは、気づいているわね


 侍女服の裾を持ち綺麗な礼をとるエルサが、ほんの一瞬見せた悪戯な笑みを見て、私は確信する。


 エルサは、タッカー様の配下だったわね。


 メイシン公爵家の力を使えば、秘密裏に配下の一人を王妃の間にねじ込むことも可能か。つまりは、エルサは何らかの目的を持って、王妃の間に現れたと見て間違いない。


 彼女を動かしているのは、タッカー様なのか、それともメイシン公爵夫人なのか……

 どちらにしろ、今の状況を打破する鍵となる。


 私は、適当な理由をつけ侍女頭サリーを王妃の間から追い出しエルサと二人きりになると、おもむろに切り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ