お飾り王妃、嘘をつく
レオ様から渡された正妃候補に関する資料をパラパラとめくる。しかし、お目当ての情報は載っていなかった。
アンドレ様の父親はいったい誰なのか?
戸籍上は、アンドレ様の父親はバレンシア公爵となっている。ただそれを鵜呑みにする程、公爵家の内情は綺麗ではない。
「ねぇ、レオ様。バレンシア公爵は、誰を次期当主に決めると思う?」
「は?バレンシア公爵家の次期当主か? まぁ、順当に行けば、ルドラで間違いないのではないか」
「普通に考えればそうよね。ただ、レオ様も知っていると思うけど、ルドラ様はオリビア様の連れ子よ。公爵との血の繋がりはないのよ。それを後妻のミーシャ様が知らないとは考えられない。だって、ミーシャ様は前妻のオリビア様の妹よ。知っていて当然よね」
「そうだな」
「そんな状態で、公爵がルドラ様を次期当主に決めたらどうなると思う?」
「後妻が許さないだろうな。下手したら、公爵とルドラには血の繋がりがない事を暴露するかもしれん」
「でしょ。ただ、未だに次期当主を決めていない時点で、バレンシア公爵は、アンドレに継がせる気もないと思うのよね」
「確かにな」
「それで、アリシア様を陛下に嫁がせようとしている。公爵はいったい誰にバレンシア公爵家を継がせるつもりなのかしらね? まさか、誰にも継がせる気がないとか。まさかねぇ……」
そんな事をすれば、バレンシア公爵家は跡継ぎ無しとして、爵位返上の上、取り潰しとなる。そうならないために、貴族家は跡継ぎとなり得る血の繋がりのある子を残そうと躍起になるのに。
バレンシア公爵は、本当に公爵家が取り潰しになっても良いと考えているのだろうか?
知り得た情報からでは、公爵の真意までは分からない。
「レオ様、陛下であればバレンシア公爵と内々の話をするのは可能よね? だって呼び出せばいいだけなのだから」
「……ティナ、何をさせる気だ?」
何かに気づいたレオ様が一歩下がる。野生の感と言うやつだ。
「ねぇ、レオ様。今の現状を考えると、バレンシア公爵は、誰も跡継ぎに選ばないと思うのよ」
「はぁ、まぁ、そうかもしれんが」
「でも、そうなると公爵家はお取り潰しになるじゃない。公爵家ほどの地位を持つ貴族家の当主が自分の代で家を取り潰す決断を簡単にするとは思えないのよ。でも、未だに跡継ぎを決めていない。公爵は何を考えているのかしらね?」
一歩近づき、口元に笑みを浮かべ上目遣いで見つめれば、案の定すごい勢いで視線を逸らされる。ただ、僅かに染まった頬が、ただ動揺しているだけだと知らせていた。
あとひと押し……
「わたくし……、バレンシア公爵の真意を知りたいの」
額に手を当てたレオ様が深いため息をこぼす。
「つまりは、陛下を使いバレンシア公爵の真意を聞き出せと言っているのか?」
「えぇ。レオ様、お願い」
この最後の『お願い』が何故か、レオ様こと陛下に的面に効くと最近気づいたのだ。上目遣いで、甘える様に言えば、さらに効果的だ。
チョロい、チョロすぎる。
こんな単純な手に簡単に引っかかる陛下で、この国は本当に大丈夫かと本気で心配にもなるが、使える手は何でも使うに越した事はない。
「レオ様、ダメですの?」
「はぁぁ、わかったわかった。陛下には上手く言っておく。ただ、この貸しは高いからな!」
「えぇ、もちろん。アリシア様の問題が解決したら、何でも一つお願いを聞いてあげるわ」
「言質は取ったからな! 忘れるなよ」
その時には、わたくしは王宮から居ないと思いますけど……
そんな想いを胸に秘め、背を向け部屋を出て行く彼を見送った。




