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レオン陛下視点


 違和感に気づいた。ティアナは何処へ行った?


 側妃候補となったアリシアのフォローへ入った僅かな時間に何があった?


 他の貴族共は全く気づいていないが、あそこで扇子を広げ座っている女は、ティアナではない。上手く化けてはいるが、長年ティアナを遠目で見続けている俺の目は騙せない。


 ティアナは何処だ?

 まさか、何かトラブルに巻き込まれたのか?


 焦りが体を支配し、小刻みに手が震え出す。


「陛下、どうされました?」


「イレギュラーが起きた。アリシア、すまんがこの場を離れる」


「分かりました」


 王妃の振りをする女の元へと歩み寄り、手を掴む。突然の王の登場に周りが騒つくが、知った事ではない。今は、この女の正体を暴く事の方が先決だ。


「ティアナ、話がある。来てもらおう」


「レオン陛下、お待ちく……」


 逃げられないように手首を握り歩き出す。


「アルバートついて来い!」


 その一言で長年の友は全てを理解したようだ。絶妙な距離感で王妃に化けた女が下手な行動を起こさないよう監視につく。





「失礼しますよ。王妃様に化けた間者さん」


 王の間へと入ると同時に、背後に控えていたアルバートが得体の知れない女を拘束する。


「キャァァァ!! なっ、何をなさるのです!」


「暴れない暴れない。大人しくしていた方が身のためですよ。目の前の御方、ティアナ様が絡むと容赦ありませんから。死にたくないでしょ。今直ぐには……」


「ひっ!!」


 アルバートのあからさまな脅しに暴れようともがいていた女の動きが止まる。


「そうそう。良く出来ました」


 大人しくなった女を膝まづかせると、手早く後ろ手に拘束する。相変わらずの手際の良さだ。


「それで、陛下。この女、どうしますか?こちらで尋問しましょうか?」


「いや、いい。一刻を争うのでな」


「はいはい、分かりましたよ。ただ、無茶はダメですよ。いくらティアナ様の事とはいえ、間者にも人権はありますからね」


「そんなものどうでもいい」


「あぁぁ、ダメだ。完全にキレてやがる。間者さんには申し訳ないけど、あきらめて」


 天を仰いだアルバートの言葉に、膝まづいた女の顔が見る見ると青くなっていく。


 ティアナに手を出した時点で、この女の人生は詰んだのだ。あとは、こちら側がどう扱おうが結果は同じ。さっさと、ティアナの居場所を吐かせねば、彼女の命が危険に晒される。


「おおおお、お待ちください! レオン陛下!! どうかお願いです。わたくしの話を聞いてください」


「ほぉ〜さっさとティアナの居場所を吐いてくれるのか? なら、少しは楽に死ねるぞ」


「ひぃぃぃ! 陛下、お待ちを。わ、わたくしは、ティアナ様付きの侍女でございます」


「そうか王妃付きの侍女であったか。主人を裏切るとは、侍女の風上にも置けぬな。お前を始末した暁には、王妃付き侍女の見直しも行うとしよう」


「ち、違います。王妃様付きの侍女の見直しは大いにやって頂いて結構ですが、あっ違うのです。わたくしはティアナ様を裏切っている訳ではありません」


「この後に及んで保身に走るか」


 言い訳を続けようとする女へとゆっくり近づき剣を抜く。


「どうやら、死にたいようだな。死ぬ前に、ティアナの居場所だけ吐け。そしたら、一発で殺してやる」


「ひっ! ひぃぃぃぃ!!!!」


 剣の切っ先を女の喉元へと当て、恐怖で見開かれた瞳を見下ろし笑みを浮かべる。


「ティアナ様のバカァァァ!!!! 死んだら、枕元に化けて出てやるんだからぁ!  機密文書保管庫ですぅぅぅ」


……機密文書保管庫? なぜ、そんなところに?


「嘘を言っているのか? あんな場所に、ティアナを隠す意味が読めん」


 喉元に突き付けていた剣の切っ先を下ろす。


「隠してなどいません! ティアナ様、自ら行かれたのです。わたくしをご自分の身代わりに仕立てて」


「――――、はっ? どういう事だ」


「ですから、ティアナ様の命令でわたくしは王妃の格好をさせられて、お茶会へと。完全なる被害者でございます」


 目の前の女が言っている事が真実であるとするなら、本人の意志でお茶会を抜け出し、機密文書保管庫へ忍び込んだ事になる。しかも、わざわざ身代わりまで仕立てて、抜け出すなど余程の事情がない限りまずしない。


「ティアナは、いったい何をやっているんだ?」


 機密文書保管庫なんて名ばかりで、中に保管してある物は、流出した所で何ら問題がない文書ばかりだ。そんな事、王妃であるティアナなら知っているであろう。だったら、何故そんな場所にティアナは危険を犯してまで向かったのだ。


――――、まさか、密会……


 ティアナは誰と会っている? 男か……


「おいっ!! 女! 知っている事を全部吐け」


 

 そして、俺はある事実を知った。



 流行る気持ちを抑え全速力で廊下を駆け抜ける。


「陛下、マズいですね。警備の騎士が少な過ぎる。お茶会に投入し過ぎました」


「そうだな」


 並走するアルバートも嫌な予感をヒシヒシと感じているようだ。


 例の侍女ティナと王妃ティアナが同一人物だったなんて、誰が想像出来ただろうか。


 機密文書保管庫でティアナが何をしているかは、すでに二の次になっていた。


 ルドラが茶会から姿を消したのも確認している。  


 もし万が一、王妃がお茶会を抜け出し機密文書保管庫へ向かった事をルドラが知ったなら、警備が手薄の今が最大のチャンスとなる。


 ティアナの命が危ない。


 アリシアから忠告を受けていたのに……


「アルバート、急ぐぞ!」


「はっ!」

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