宇宙墓場のステーション?
流彗星号改がたどり着いた先の宇宙ステーションには大小様々な宇宙船、それも小型の貿易宇宙船から軍用の軽巡洋艦まで係留されていた。どの船も係留用のアームで動かない様に固定されている。
メインスクリーンに映し出された宇宙ステーションの外観用を見たリランドが口笛を吹く。
「まるで宇宙船の博覧会だな。こんなに数多くの……それも雑多な宇宙船が集まるのは主要星系のステーションぐらいだぞ。」
リランドの言葉を受けてサバーブが同意する様に頷く。
「確かに……だが少し静かすぎる……連宋、係留されている船のエネルギー反応は?」
端末を操作していた連宋は首を横に振った。
「無いね。係留されている宇宙船からエネルギーの反応は観測できない。生体反応も検知できなかった……。」
「無人の宇宙船か……」
連宋の報告通りどの船からもエネルギーの反応は無く動いている様子は全くなかった。
メインスクリーンを前にサバーブは腕を組むと難しい顔をした。
「これだけの数の船が係留されているのなら何らかの反応があっても良いはず。それなのに全く反応が無いとは……嫌な予感しかしないな。だが事態を変える為には進むしか無い。」
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流彗星号がステーションに近づくと係留用のアームが伸び流彗星号改を固定する。その後、何度か軽い振動が伝わると流彗星号改の動きが完全に止まった。
どうやらステーションのボーディングブリッジとエアロックが接続された様だ。
流彗星号の停止を受けてサバーブは連宋の方へ顔を向けた。
「連宋、流彗星号改のカーゴベイから出る事は出来るか?」
端末を見ていた連宋は首を横に振る。
「無理だね。ステーションのアームに上下からガッチリ押さえられている。」
「となるとエアロックからしか出る事が出来ないか……。」
少し考え込むサバーブにリランドが声をかける。
「サバーブ、エアロックからだと機動強化防護服は持って行けないぞ……どうする?」
「仕方が無い、強化防護服を着用しよう。宇宙服より強化防護服の方がましだ。」
強化防護服は装甲がある分、宇宙服よりも柔軟性に欠ける。しかし、状況が判らない場所へ行く時に装甲の無い宇宙服を着用する選択肢は無かった。
サバーブは薄いとは言え装甲がある強化防護服の方がましであると考えたのだ。
「しかしカーゴベイのハッチを押さえられるとは……。異星人の係留装置の規格と俺たちの規格が違うからだろうか?」
「だがリランド、エアロックは正常に接続されている。」
「それが判らない所だな。シルビィ、理由は答える事が出来るか?」
リランドは流彗星号改のメインモニターに向かって声を掛けた。
「……その質問に対する答えは禁則事項に抵触します。よって答える事が出来ません。」
流彗星号改のAIであるシルビィの返答を聞くとサバーブとリランドは大きく溜息を吐いた。
「やはり何か理由があるのか……。」
「サバーブ、何にせよステーションを探索するほかは無い様だな。」
「……鬼が出るか蛇が出るか……神のみぞ知ると言った所だな。」
サバーブはそう答えると両手を広げると肩をすくめた。
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流彗星号改のエアロックが開くと宇宙ステーションから風が軽く吹く。
「どうやらステーションに空気が充満している様だな。連宋、機体組成は?」
「窒素78酸素21……典型的な標準空気だね。空気中の微生物の類いも検知されていない。」
「そうか……だがもう少しこのままで進もう。」
サバーブ達は流彗星号改のエアロックから宇宙ステーション内にゆっくりと進んで行く。
宇宙ステーションのボーディングブリッジは所々に何に使うか判らない装置の様な物がある。だが不思議な事に概ねの形状はサバーブ達が日頃使っているボーディングブリッジと変わらない様に思えた。
ボーディングブリッジを抜けると大きく開けた区画に出る。
椅子が横一直線に何列も並んでおり、その前にはボーディングブリッジに繋がる通路があるのが見える。
そして椅子の後ろ側には人が行き交う様な通路が設けられ、その後ろには皿に置くに向かう入り口らしい物が見えた。
サバーブは周囲をゆっくり見廻すとリランドと連宋に声を掛ける。
「どうやらここはターミナルの様だ。連宋、微生物、特に最近の類いは検知できるか?」
「……無いね。どうやらここは無菌室の様だ。強化防護服のバイザーを開けても問題は無い様だよ。」
連宋の言葉にリランドは喜びの声を上げた。
「そうか!それは助かる。機動強化防護服に慣れてしまうと強化防護服は少し窮屈で……うっ!この臭いは!?」
リランドは開けたバイザーを急いで締める。
「どうしたリランド?臭いがどうしたのだ?」
「……ああ、昔嗅いだ事のある臭いがしてな……この先からだな。」
リランドが指さすその先には係留されている宇宙船に繋がるボーディングブリッジの入り口が見えた。
サバーブ達三人はその入り口に向かって慎重に歩いて行く。
リランドが入り口の脇から中を覗くとボーディングブリッジが奥に伸びており宇宙船の一つに接続されているのが見える。
「ボーディングブリッジ内に不審物は無いな……ちょっと待て、その奥のエアロックに何かあるぞ!」
三人がゆっくりとエアロックに近づく。エアロックの内部は赤黒くペンキを塗られた様になっており床に黒く焼け焦げた塊が見えた。
リランドは船のエアロック近くに取り付けられた船体番号の記載されたプレートを一瞥すると黒い塊に近づいた。
「船体番号は”EXGP-15A2-DAG0”……この辺りも焼け焦げている。死体は完全に炭化しているな。状態から見て荷電粒子砲だろう。この奥も似た様な物だ……ん、何だ?これは?」
金属の箱を炭化した手らしい物が握りしめている。箱は既に開封されており中の物は握りしめている物と同じ様に炭化している様だ。
「……保存用の食料パックか?中身も炭化しているか……パックの形状からすると五年前の物だな。」
保存用の食料パックは急激な環境変化に耐える事が出来る様に強固な構造になっている。(それでも荷電粒子砲の影響を免れる事は出来ない様だ。)
その為、製作年月が一目でわかる様にパックの形状の一部を変えていた。
リランドはそのパックの一部の形状から造られた年代を推測したのである。
話を聞いて連宋が何にでも対処できる様に構えを取りリランドの方へ顔を向けた。
「五年前……と言う事はリランド……。」
「ああ,おそらく食料を巡っての争いだな……この状況から考えて生存者はいないだろう。」